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記憶のない僕らは  作者: 青山 立
第7章 人の記憶を読み取れる女性と博士
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(062) Area 15 Everybody hurts 人の気持ち

 --人の気持ち-- #カイ


 この日は朝食後、研究所の奥にあるシャワーに入って、その間に服は洗って高速乾燥してもらった。お風呂に入ってスッキリすると、気持ちも少しだけ軽くなって、これからのことをポジティブに考えられる気がした。シャワーに入っているうちに、リクはいなくなっていた。


 昼食後、博士にパソコンを借りて、DA2についての情報を集めた。やはり、DA3に情報規制が敷かれているのは間違いないようで、ここではDA3で手に入らなかったこの国の状況や歴史についても難なく調べることができた。僕はほぼ一日中パソコンの前にへばりついて、あらゆる情報を検索し続けた。


 夕方、どこからともなく帰ってきたリクに、タブレットの画面に写っている古いエリアに明日行ってみようと思っていること伝えると、リクは「わかった」とだけ言って定位置のソファーに沈み込むように倒れ込んだ。


「リク、大丈夫?」


 リクは僕の声に反応すらせず、もう寝息を立てている。


「いつものことだ」


 奥の部屋から出てきた神作博士が、冷めた珈琲の入ったカップを片手にソファーの脇に来ると、リクの寝顔を見て言った。




 博士はリクにブランケットを掛けると、キッチンで夕飯の準備を始めた。僕は、リクの眠っているソファーの隣にあった木の椅子に腰掛けると、特に何かを考えるということもなく、リクの寝顔を見つめていた。


「僕は、人の気持ちなんてわからなくて、騙されたり、裏切られたりしてばかりいるよ。記憶を読み取れるなんて、便利でいいね」


 気が付くと、眠るリクを横目に、僕は独り言を呟いていた。『騙されたり、裏切られたりしてばかりいるよ』と口にはしたけれど、一体いつ騙されたのか、いつ裏切られたのかわからない。そんな辛い記憶はないのにどうしてこんなこと言ったのだろう。


「……そう?」


 リクは天井を見上げながら、遠くを見るような目をしている。


「起きてたんですか?」


 僕は独り言のつもりで漏らした言葉を聞かれたことが恥ずかしくて、リクから目を細めた。さっきまで寝息が聞こえていたのに、いつの間に起きたんだろう。


「私、博士が思ってるほど寝つき良くないのよ」


「そうだったんですね」


「そんなことよりさ。わからなくっていいんじゃない?」


「え?」


「だからさ、人の気持ち……。わからなくてもいいと思うよ」


「そうかな……。僕は、わからずに傷つけたりしてるんじゃないかなって思うと、怖くて上手く喋れなくなるけど」


「傷つけたらダメなの?」


「ダメっていうか。そうすべきじゃないと思うから。もっと人の気持ちを理解したいんだ。ちゃんとわかっていたら、後悔しないように言葉をもっと選べるのにって……」


「人の気持ちなんて……。そんなこと先にわかったら、何も言えなくなるよ」


 そうリクが言った途端、僕は言葉を失った。リクの言葉に温かみはなく、だからと言って冷淡でもなく、ただひたすらに冷静だった。


 そうだ、リクはいままでどれだけの思いを、他人の負った傷を、心の痛みを見つめてきたのだろう。人の知られたくない記憶を読み取ってしまっても、知らないふりをして、悟られないように、傷つけないように言葉を選んで話をしてきたのかもしれない。そしてリク自身はずっと、人を傷つけるよりも先に傷ついてきたのかもしれない。


 僕はそう考えた時、知らないでいることの自由に気がついていなかったことに、恥ずかしさを覚えた。


「ごめんなさい」


「どうして謝るの?」


「ちゃんとリクの立場を考えてなかったから……」


「カイはさ、傷つきやすいんだね。それに優しすぎる」


 リクはベッドの上で膝を抱えて座っている。目線はその膝に固定されたようにじっと動かない。痛みを堪えたようなリクの表情を見続けることができず、僕は目を逸らした。

 そんな僕の様子に気がついたのかはわからないけれど、リクは「でも、カイのそいうとこ、嫌いじゃないよ」と言って立ち上がると、リュックを掴んで四階の自分のアパートに帰っていった。


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