短編ストーリー
あるところにおじいさんがいた。
そのおじいさんは人間不信でここらの地域では有名だった。
近所の人がお土産にお菓子を持ってきても、毒や催眠剤が入っているのではないかと疑い食べようとはしなかった。
また、ある時は木こりを手伝って欲しいと頼まれたが手伝っているうちに他の仲間が金品を奪いに来るのではと疑い、手伝わなかった。
そうしているうちに、だんだんと孤立していった。
ある日、おじいさんは山の果実を取りに行った帰り道、
一匹の犬を見つけた。
その犬はひどく汚れていて、怪我もしていた。
おじいさんは犬にゆっくり近づき、採った果実を与えた。
けれども犬は食べなかった。
むしろ、体は震え警戒しているようだった。
だからおじいさんはそれ以上関わらないで家へと帰った。
翌日もまた果実を取り、帰ろうとするとそこには昨日の犬がいた。
相変わらず汚れているが昨日のよりは元気そうだった。
またおじいさんは果実を与えた。
今度はすぐに食べ始めた。
おじいさんは犬の頭を少しだけ撫でた。
四日ほど経った頃だろうか。
いつものように果実を与え終わると、犬が脚を引きずりながら付いてきた。
おじいさんは犬を抱っこして帰ることにした。
家に着くとさっそく脚の手当てをし始めた。
幸い、傷がそこまで深くなかったので安静にしていれば普通に歩けるようになるだろうと思った。
囲炉裏で鍋を作り一人で食べる。
電球が弱い光だから、囲炉裏付近しか明るく見ることはできない。
寂しい夕食だ。
いつも聞こえるのは、おいらの咀嚼音とグツグツと煮える鍋だけだった。
でも、これからは違う。
四つある座布団の二つが埋まっている。
一つはおいら。もう一つは新しい家族。
なんだか今日の鍋はいつもより美味しい気がした。