第3話
「おはよウサギ」
まるで握手会場のように俺の前に並ぶ女の子達。
一人ずつの自己紹介だけでも骨が折れそうだ。
「まずは私からね」
赤い髪の女の子が俺の前に歩み出る。そして俺を抱きしめた。
「私は【心臓】。私の心音が聞こえる?」
「お、おはよウサギ........!!」
柔らかい!とても柔らかい!そして暖かい。心臓の心臓の音は嘘みたいに早い。
「これはあなたの心臓の音よ.....ふふ」
そう言うと心臓は俺の体を離し、次の子へと変わった。
次の子は茶髪で目をキラキラさせている。
俺の手を握り、握手をする。
「私は【肝臓】!よろしくな!」
曇り一つ無い笑顔でそう言った。そして俺の腕を掴んだままぶんぶんと振り始めた。
「私恋愛とかよくわかんないけど一緒に頑張ろうな!」
「お、おはよウサギ」
「はいはい、次は私よ」
肝臓をほぼ強制的にどけて、少しサバサバした感じの黒髪の女の子が俺の前に出た。
「私は【肺臓】。あんまり恋愛とか興味無いけどあなたが死ぬと困るから。よろしくね」
「おはよウサギ........」
「次!次私!」
背の低い女の子がぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「私!【腎臓】!!よろしくね!!」
「おはよウサギ」
ちっちゃくひょこひょこと歩く姿はとても可愛らしい。
「おい、次は私だ」
金髪のその女の子は俺の前に出るや否や俺の肩をガシッと掴んだ。
そしてその子は自分のデコと俺のデコを引っ付くくらいの距離まで寄せた。
「私の名前は【胆嚢】だ。私と恋愛したかったら私に見合う漢になりな」
半ば突き飛ばすように俺を放し、胆嚢は去っていった。
「酷いことするなぁ........」
「おはよウサギ........」
「大丈夫?立てる?」
見た目がそっくりな二人の女の子に手を貸してもらう。
「じゃ、私から。私は【小腸】。よろしくね」
青い髪の女の子はそう言った。
「そんで隣にいるでかい私が【大腸】。恥ずかしいのか何なのかあんまり喋らないんだよね」
大腸は目を伏せながら頷いた。
「おはよウサギ」
「礼なんていいよ。さ、次の子が待ってるよ」
二人は手を振りながら俺から離れた。
「次は私!私は【胃】!一緒に美味しいものとか食べようね!ところでさっきからお腹ぺこぺこなんだけど食べる物ない?」
ピンクの髪の子はヨダレを垂らしながら俺の周りを回っている。
「おはよウサギ........?」
「食べないよ!健くんを食べたら私達死んじゃうもん!」
「そんな事は起きてはならないけどね〜.....」
黄色い髪の色をした子........と言うよりお姉さんがそう言う。
「私は【膀胱】。よろしくね〜....」
「おはよウサギ......」
「後は........あらあら〜出ておいで〜」
小さく縮こまった子が、膀胱の後ろから出てきた。
「........【三焦】です.......」
「おはよウサギ?」
「やっぱり知らないじゃないですか.......!」
「あらあら〜.....この子自分はマイナーだって落ち込んでるのよ....」
「おはよウサギ........」
「謝られても困ります.....自己紹介終わったんならもういいですか....?」
そう言うと三焦はそそそっと部屋の隅へと行ってしまった。
キョロキョロと小腸が周りを見渡している。
「そう言えば【脾臓】は?」
「...........あいつは全部の臓器の変わりをやるって言って残りました........」
「そっか。感謝しなきゃね」
つまり今、俺の体は脾臓のおかげで保たれているのか。少し、脾臓への好感度が上がった。
そう言えば俺の内蔵にしては性格がバラバラ過ぎやしないか?
「おはよウサギ........おはよウサギ?」
「それは時間が経って、【私達】と言う存在自体がしっかりと確立したから。だから私達全員性格も違うし、健くんへの印象も違う。健くんは私達とただ恋愛をすればいいの」
心臓は俺の耳元にコソリと囁いた。
「恋愛して、私達を体に戻さないと健くんは死んじゃうもんね。でも、それを他の子に言っちゃいけないよ。私は何でも知ってるからね。あ、そうそう【あの人】から伝言.......私達も学校に行けるようにしておいた。ってさ、楽しみね」
こうして俺は自分の臓器と恋愛しなければならなくなってしまった。
そんな一文を思い付き、この先の不安と期待を混じらせこう呟いた。
「おはよウサギ.....」