第2話
とりあえず全員リビングに集まらせる。
こんなに大人数の女の子が家にいるのは初めてなので、少し緊張する。
「おはよウサギ....おはよウサギ......?」
って言っても分からないよな。
そう思い俺はペンと紙を取り出した。
「私達は........」
「おはよウサギ.....!?」
「あ、はい........待ちます」
今、俺の言葉が通じたのか?
「おはよウサギ........?」
「はい.....分かります」
「おはよウサギ........」
他人と会話出来ている嬉しさが頭のてっぺんからつま先までビリリと走る。歓喜のあまり涙が出そうだ。
「おはよウサギ、おはよウサギ?」
「あ、はい。私達は.......信じてもらえないかも知れませんけど、健くん。あなたの臓器なの」
「........????????」
女の子達一人一人を順に見ていく。髪の色や雰囲気が独特だが、どう見ても人間の女の子だ。
試しに自分のお腹を押してみる。するとズブズブと体の中に手が埋まっていく。お腹から背骨が触れるなんて思わなかった。手を引き抜く。
「おはよウサギ、おはよウサギ?」
「私達、健くんがいつも一人で悲しんでる事知ってたから........なんとかしてあげなきゃって思って」
「だから私達話し合ったの!」
「私達が健くんの心の支えになれないかって!」
「そしたら昨日の夜........」
「何かが私達に体をくれたの」
「お、おはよウサギ........おはよウサギ!?」
訳が分からない。でも俺の内蔵が無いのは間違いない。信じるしか無さそうだ。
「女の子の体を手に入れたから、私健くんの願いを叶えようと思うの........!」
「私も!」
「私も叶える!」
女の子達は次々に手を上げる。
願い?そんなのあったか?朝から色々起こりすぎて思いつかない。
「おはよウサギ?」
「昨日の夜、健くん彼女が欲しいって言ってたでしょ!?だから私が彼女になるの!」
「抜け駆けは卑怯だよ!私が彼女になるの!」
「健くんが死んじゃったら私達も死んじゃうから........だから私は健くんの彼女になって救ってあげるの」
「おはよウサギ........」
俺は自体の理解が追いつかず、脳がオーバーヒートを起こしてしまったようで。
そのままバタリと倒れてしまった。
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夢を、見た。
人型のモヤが、俺の目の前にいる。
__あなたの、内蔵達の、願いを聞いた。
___でも、このままだと、あなたは、死ぬ。
____あの子達と、恋愛を、しなさい。
_____自分を、好きになりなさい。
______そうすれば内蔵達は、体の中に、戻るはず。
_行きなさい。私は、あなたを、見ています。
人型のモヤが遠くへ飛んでいく。
やがて闇が俺の体を包み込んだ。
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「........おはよウサギ」
目が覚める。自室のベッドの上だった。頭の上の時計を見ると、昼の十二時を刺していた。
さっきまでの事が全部夢であれば良かったのだが、階下から聞こえる女の子達の賑やかな声が現実である。
コンコン
と部屋の扉がノックされる。
ドアノブが捻られ、お粥を持った母さんが部屋に入って来た。
「起きてたのね」
「おはよウサギ」
「えぇ、おはよう。お粥食べれそう?」
実はお粥は苦手なのだが、病気や体調の悪い時等に作ってきてくれる。そんな愛の詰まったものを断る程、俺も終わってはいない。
俺はお粥の椀を受け取り、食べた。
「私も何が起きてるか分からないけど、健が一番大変よね........」
「おはよウサギ........」
「あの子達、話を聞いたらあなたと恋愛したい子ばかりね」
「おはよウサギ」
「あなたにモテ期が来たみたいで私も嬉しいわ........」
「おはよウサギ........///」
母さんは俺に背を向け、顔を拭った。思えば俺は母さんに迷惑ばかり掛けている。でもそんな俺を母さんは見捨てなかった。
「あ、そうだ!あの子達行くとこが無いなら家に住んでもらいましょう!」
「おはよウサギ!?」
「正気よ!だってあの子達は健の内蔵なんでしょ?じゃあきっと大丈夫よ!」
「おはよウサギ........」
「そうと決まったらあの子達に話して来なきゃ!健も元気になったら来るのよ」
母さんはルンルンで部屋を出ていった。こういう所が母さんらしい。
俺はお粥を食べ終わると、椀を持ってリビングへと下りた。
「健くん!」
俺に気づくや否や女の子達は駆け寄って来た。
口々に俺を心配する声や、俺に謝る声が聞こえてくる。
俺はそれら全てを手で制し、こう言った。
「おはよウサギ」