第1話
「おはよウサギ!」
俺の名前は挨拶沢 健普通の高校生だ。
俺には悩みがある。生まれた時から【おはよウサギ】としか喋れないのだ。文章や脳内では普通に喋れるのだが、言葉に出そうとすると【おはよウサギ】としか出ない。
今日も学校が終わるとそそくさと家に帰る。学校に友達はいない。当然だ。おはよウサギしか喋れない俺に見物人はいても友達は出来ない。
「よぉ!おはよウサギ野郎!」
「おはよウサギ」
「またな!おはよウサギ!」
「おはよウサギ」
他人に話しかけられおはよウサギと返す日々。もううんざりだった。昔俺の噂を聞いた不良に絡まれた時、無言だったせいで散々殴られた。だから話しかけられたらおはよウサギと返すようにしている。そのせいもあって見物人は増える一方だ。
「おはよウサギ」
「あら、おかえり。今日のご飯はハンバーグよ」
「おはよウサギ!」
家に帰ると母さんが明るい笑顔で迎えてくれた。俺の家族も俺が何を伝えたいかは分かっていないが、大体の身振り手振りで察してくれるらしい。家族と言うのは暖かい。
夕飯を食べ終わると、俺は自室に籠る。家族団欒で何か会話をするだとか、一緒にゲームをして遊ぶとかはない。俺がおはよウサギとしか喋れないからだ。
俺は自分の体が嫌いだ。おはよウサギしか喋れない俺が嫌いだ。
今日も布団に籠り、静かに涙を流す。
普通の高校生のように過ごしたい。恋愛とか、してみたい。
そんな願いを頭に浮かべながら、俺は眠りに落ちた。
「おはよウサギ......」
朝の挨拶にこの言葉は便利だ。ただの面白くない奴にしか思われない。
ベッドから起き上がる。部屋がいつもより狭く感じる。目を擦る。頭が冴えて来ると同時に現実が頭に飛び込んでくる。
「おはよウサギィィィィィィィィィィィィィィ!?!?!?!?」
部屋の中には見た事もない女の子が一、二、三........十人倒れていた。
「どうしたの朝から........何事よこれ!?」
「おはよウサギ!おはよウサギおはよウサギ!」
「あぁ、はいおはよう。じゃなくて!!落ち着きなさい健!」
「おはよウサギ!(特別意訳:落ち着くのは母さんだよ!)」
身振り手振りで説明する。
「知らない子........?でもなんでこんなに........」
「おはようウサギ........」
「んぅ.....」
女の子の中の一人が目を覚ます。
髪の赤いその子は俺を見るや否や、抱きついてきた。
「嫌わないでください........!」
「おはよ....ウサギ........?」
俺にぎゅっと抱きついたまま、その子は泣き出してしまった。
他の女の子達も次々と目を覚ますと、俺に抱きついて泣き始めてしまった。
俺はこの状況を理解できないまま、諦めを混じらせながらこう呟いた。
「おはよウサギ......」