第2話、デストロイヤー転生!【鬼ヶ島の時雨ちゃん編】(その1)
※今回も前回に引き続いての、本格的な本編開始の第1章に先駆けての、いわゆる【お試し版】ですが、いきなりのエキセントリック極まる『超展開』となっておりますので、よろしければご参考までに御一読を。
なお、いかにも『旧日本軍賛美』&『アメリカ軍sage』な作風になっておりますが、作者にはけしてイデオロギー的な偏見なぞありませんので、どうぞ誤解の無きように。
あくまでも娯楽作品として、「旧日本軍がどこかの遺跡なんかで、先史文明のオーパーツであるところの、軍艦擬人化美少女のプロトタイプを発見したりしたら、面白いんじゃないか?」という発想を基に作成しただけですので、悪しからず。
──鬼や魔族やオークはいるが、魔法などといったおとぎ話的な超常現象は存在しない、多種族型機械文明世界、皇紀2604年夏期。
全部で五つの大陸で構成されているこの世界は、長らく最大勢力である北方民族『白きオーク』によって支配されていたが、エイジア大陸の東方海上に浮かぶ弓状列島である、『鬼人族』からなる神聖帝国『旭光』が反旗を翻し、エイジア大陸東部から南部にかけて広く分布している、同じく黄色い肌を持つ『ヒューマン族』を解放しようと戦端を開いたものの、ただでさえ大国揃いのオークどもは、本来は敵対種族である『紅いシロクマ族』とも手を結び、全力をもって『鬼人族』やその亜種である『ヒューマン族』を一方的に劣等種族と決めつけて、ガリア大陸やアメリゴ大陸に存在する本国から大軍を派遣してきて、圧倒的な兵力と物量とによって東エイジア中を蹂躙して、少数精鋭の旭光や各植民地の反乱軍を圧倒し、人類史上初の画期的な『大解放戦争』も、虚しく失敗に終わろうとしていた。
──これはそんな最中の、東南エイジアのあるちっぽけな小島において起こった、歴史上最大の転換点の物語である。
「探せ!」
「絶対に、逃がすんじゃないぞ!」
「この島の旭光人は、全員殺せ!」
「──そうだ、ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「──ジップを、殺せ!」
「「「あの黄色い鬼子を、一匹残らず、殺し尽くすのだ!」」」
──薄暗い洞窟の中で、いつまでも木霊する、野太い大型獣人族の怒号。
それこそは、彼らがすぐ後方までに迫りつつあることの証しであったが、逃げ続ける我々のほうは、もはや気力体力共に限界を迎えようとしていた。
「……もういい、村長、俺を奴等に突き出せ。そうすれば、おまえたちの命だけは助かるかも知れぬ。この島で生き残っている旭光人は、もはや俺一人だ。奴等アメリゴ軍の白オークどもは、俺を探し出すまでは、おまえたち島民からなるゲリラ狩りをやめることはないだろう」
そのように、今や息も絶え絶えとなっている、島の先住民族勢力の責任者に申し出れば、途端に血相を変えてまくし立ててくる。
「何をおっしゃるのです、オニヅカ隊長殿! あなた様が我々に銃を与え、反乱部隊を組織し、戦闘訓練をしてくださったお陰で、やっとあの憎き侵略者である白オーク共と、互角に闘えるようになったのです! そんな大恩人を、自分たちの命乞いのために、敵に渡したりできるものですか⁉」
「しかしこのままでは、我々帝国兵どころか、島民全員が殺されてしまうぞ! おまえたちも見ただろう? オークと言えば、別の種族の男どもは皆殺しにして、女は犯し尽くそうとする、残虐非道な種族なんだぞ⁉」
「大丈夫です! まだ望みはあります! 隊長さえ『守り神様』のところに赴かれれば、きっと奇跡が起こります!」
「……この島に、最初のヒューマン族が流れ着く前から眠り続けている、『守り神様』だったっけ? 悪いが、とても信じられないのだが。それに、おまえたちの神に俺が会ったところで、事態が好転するとは思えぬが?」
「違うんです、その神様はおそらくは、隊長殿の御国から、お越しになったかと思われるのです!」
「……………………………は? この島において、下手すれば数千年も眠り続けている神様が、旭光縁の神だと?」
「とにかく、一目ご覧になれば、おわかりになります! もうすぐ神域の玄室にたどり着きますので、ご自身の目でお確かめください!」
──そんなこんなの間にも、ひたすら走り続けているうちに、気温がどんどんと下がってくる。
まるで超大型軍艦の冷凍庫の中にでもいるかのごとき、肌に突き刺すような冷気をくぐり抜け、ついに洞窟の最奥部に到達した。
「──なっ⁉」
その光景を目の当たりにするや、俺──神聖帝国陸軍特務大尉、ケンジ=オニヅカは、完全に言葉を失ってしまった。
それも、当然であろう。
何せ、まるで『氷室』かと見紛うような、冷え冷えとした広大な石造りの穴蔵の至る所には、文字通りに氷柱のごとき特大の氷の柱が、縦横無尽に張り巡らされていたのだから。
──そしてその中心部の巨大な氷の塊の中には、とても信じられないものが、閉じ込められていたのである。
年の頃は、十四、五歳ほどであろうか。
艶めく長い黒髪以外は何もまとっていない、いまだ凹凸が乏しく華奢な肢体は、雪のように純白に透き通っており、人形そのものの端整な小顔の中の双眸は、固く閉じられているものの、まるで今にも目覚めを迎えんとするように、健やかな表情をたたえていた。
──そして、『彼女』を包み込む『氷の繭』の表面には、多数の漢字やひらがなやカタカナ──つまりは、我が『神聖帝国文字』が、次々に浮かんでは消えていたのだ。
「……これは、一体」
「これこそが、我が島における、『守り神様』なのでございます」
「は?…………お、おい、村長、何を馬鹿なことを言っているんだ? まさかこの子が、この洞窟の中で、千年以上も眠り続けていたとでも言うつもりなのか⁉」
「はい、少なくとも、私が物心ついて以来およそ五十年間、まったく変わらぬお姿でいらっしゃいます」
「な、何だと? だったら、この氷の表面で点滅している文字は、一体何なんだ? どういった仕組みになっているんだよ⁉」
現在、帝国本土で研究されている『てれびじょん』でも、こんな芸当はできないはずだぞ⁉
「……わかりません、丁度旭光の方々がこの島に進駐してこられて以来、これらの文字が浮かび上がるようになったのですが、今でこそこれが神聖帝国文字ということは承知していますが、隊長殿から教練の一環として帝国文字をお教えいただくまで、我々には民族独自の文字を持つことすら赦されなかったのですから、これが意味のある記号であることすら理解できなかったのでございます」
……どういうことなんだ、一体。
どうして何千年も、こんな南方の小島の洞窟に閉じ込められていた氷に、神聖帝国文字が記されたりするのだ?
まさか本当に、この氷の中の少女は、神様かどうかはともかくとして、我が帝国と、何らかの関わり合いがあるとでも言うのか?
……確かに、顔つきや肌の色は、このエイジア東南部の種族よりも、我ら旭光人に近いようだが、鬼人族の最大の特徴である、二本の角は見当たらないんだよな。
そのように、俺が胸中であれこれと、思案にふけっていた、
──まさに、その刹那。
すぐ目の前の氷の柱の中で、少女の両目が見開かれたのであった。
『──遺伝子情報を解析、ほぼ「日本人」と同一と判断。よって、「提督」と認定する』
……………………………へ?
その時、分厚い氷に阻まれているはずなのに、確かに俺は、『彼女』の真珠のような小ぶりの唇から漏れ出た、機械音声のような無機質な声音を、耳にしたのであった。
「……お、おまえ、生きているのか?」
そうつぶやきながら、更に俺が近づこうとしたところ。
「……くくく、やっと見つけたぞ? この穢らわしい、黄色い鬼子めが!」
氷室の入り口から、のそりと姿を現す、五、六匹ほどの巨体。
全身真っ白な筋肉質の体躯の上に乗っている、鋭い牙も猛々しい、猪の頭。
その青くギラつく双眸は、まさしく獲物を目の前にした、肉食獣そのものであった。
「……白き、オーク」
そうそれは、この東南エイジアを支配する侵略国家、ブリトン連合王国やエスカルゴ共和国にオレンジ王国等にとっての、頼れる同盟国、アメリゴ合衆国軍のお出ましであった。