第95話 イグラシア王国についての報告
いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。
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今日は、短いです。
2019年12月24日
視点をアリスティアに統一し、宰相アーノルド視点を削除、加筆修正。
フォルスター皇国へ帰還してから、皇太子は皇王と宰相を第四応接室に呼び出した。アリスティアと双子とクロノスがいた事には驚かなかった皇王と宰相だが、エルンストがその場に来た事は驚いたようだった。
ルーカスから、今は政務の手伝いをさせていると言われ、納得したようではあった。
全員が、ソファと、用意された補助椅子に座ると、おもむろに皇太子が口を開いた。
「さて、今日ここに呼んだ用件だが」
そう言うと皇太子は、人間から超常の存在へと気配をガラリと変えた。覇気は抑えめにしているが。
皇王と宰相、そして慣れていないエルンストが緊張したのが見て取れた。
「我は昨日、イグラシア王国を竜王として支配下に置いた」
竜王の言葉に、宰相が動揺する。
「宰相、我は、竜王として、と言ったぞ。フォルスター皇国の支配下には置いておらん。統治は竜の国から総督として、宰相府の政務官が派遣される。それまでの総督代理は、近衛師団第五連隊長ギュンター・テーリンクに任せている。王都は第五連隊が警戒に当たっている」
状況を細かく説明すると、宰相は安心したようだった。
「それならば宜しいのですが」
安心しているところに、竜王の声が続く。
「我が竜王としてイグラシア王国に君臨している間は、ティアも我、つまり新イグラシア王と同等の権力を持つ。イグラシアの貴族どもにそう申し渡した」
追撃の言葉に、宰相はピシリと固まり、次いでギギギという音が出そうなほどぎこちなくアリスティアを見た。見られた方は、平然としていたため、宰相は動揺してしまう。
「……アリスティアは、それで平気なのか?」
「父様、平気か平気ではないかと言われたら、多分、平気ではないですわ。でも、ルーカス様が統治するなら、民を蔑ろにする事はしないでしょうし、総督として来られる方も、竜王陛下の意向を無視する事はないと思いますの。
ですから、そういう意味なら平気ですわ。だってわたくしが表に出なくても政治も経済も回りますでしょう?」
アリスティアであっても表に出るのは遠慮したい。総督を置くという事は竜王が統治はするが、細かい事は総督に任せるという意味だと理解していた。
が、宰相は別の質問を投げてきた。
「公的行事やら神事・祭事などはどうする? 代理でも立てるのか?」
「そのための総督だ。我が直接統治する必要はないだろう。むしろ、直接統治してしまうと、人間が我の存在に依存するようになるから、代理を立てた方が良い。そしてその代理が総督で、その下に現地採用の政務官をつけて動かすほうが良いのだ。
公的行事や神事・祭事なども、総督が出席するか、可能なら副官あたりを代理に立てた方が良い。我ら竜族は、可能な限り人前には出ない方が良いのだ」
宰相の疑問に答えたのは皇太子だった。その答えに、宰相は腑に落ちていない顔をしていた。
「宰相。我が出るのはいい。竜王、という強さの象徴だからな。だが、竜族の事はなるべく秘匿しておきたい。万が一に備えてな」
「恐れながら竜王陛下。秘匿すると言いながら、近年は度々竜たちが姿を現していると思うのですが」
「スヴァイツ王国の件は我がやったが、今回のイグラシア王国の件は、我が甥のカイルがキレたせいだぞ? ティアと我が両方とも侮辱されたとな。我の専属護衛に細かく連絡を入れさせていたらしく筒抜けで、イグラシアの王女に脅迫されて学園祭の展示の案内をしているうちに、近衛師団竜軍五千頭は成層圏で待機しておったわ。獣人部隊二千人は竜の国で待機しておったがな」
「父様。竜軍五千頭は、人間でいうと十万人だそうですわ。獣人二千人が人間何人分かはまだ教えて貰っていませんけれど」
アリスティアの補足に、宰相は驚いて息を飲む。
「ティア、獣人は人間の身体能力の五倍は出せるぞ。だから二個連隊で一万人だな」
竜王はそう補足してくれた。
「それですと、ハルクト王国が三個師団三万人を用意できていたから、近衛師団十一万人はそれほどでもない??」
「ハルクトの時は、徴兵の農民兵もいたと思うぞ。対して竜の国の近衛師団は専任軍人で比ぶべくもない。同数の三万人程度の戦力だと、竜人の第一連隊と第二連隊の半分か。それで当たったら、我が近衛師団が圧倒するぞ」
竜王は苦笑してアリスティアに教えてくれた。
「話を戻す。今回、イグラシアを我が支配下に置いたのは、直接イグラシア王と話した結果、あの王家自体の性根が腐ってるのが判明したからだ。王と第三王女の二人が同様の考え方だったからな。
貴族どもの心の中を読んでも、王に対する忠誠心も無ければ、第三王女を嗜めもしない事を嫌悪したり、第三王女は全体的に貴族どもに嫌われておったな。性格の悪さで。
だから貴族側からは、王を退位させ、改易する事に反対する者は一人もいなかった。
あと、この事にはフォルスター皇国は関係ない事はちゃんと言っておいたからな。そこは心配せずとも良い」
第四応接室の中に、静寂が訪れる。
ルーカスの言葉に、宰相が明らかにホッとした顔を見せた。
十中八九、従属国が増えなかった事に対する安堵だろうとアリスティアは推測した。
イグラシア王国第三王女の件はひとまずこれで収束した。
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