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第92話 王女の言動のツケ

いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。

とても助かります!(*^^*)


 

 


「さて、イグラシア王国第三王女。話し合おうか」


 皇太子(ルーカス)は獰猛に嗤った。


「は、話し合いって……さっきの映像の場所はイグラシアの王都ロンディアだわ! そこで陸軍を壊滅させておいて話し合い⁉ 脅しでしょう!」


 エステファニア王女が大声を上げる。


「ふむ。まだわからぬか。その前に、説明が面倒だから、直通させて貰うぞ」


 そう言うと、皇太子(ルーカス)は右手を上げた。その動きでまた大きな映写盤が表れる。

 画面が二分割されていて、左側には豪奢なローブを纏い、王冠を被った中年の太った男がおり、右側には皇王が映っていた。二人とも戸惑っている。


「さて、少しだけ説明しよう。イグラシア王国第三王女は、我が国へ留学の為に来たと言った。イグラシア王、それは間違いはないか?」

『貴様は誰だ! 余をイグラシア王と知ってのその尊大な態度、無礼にも程があるぞ!』

「ほう。失礼した。では名乗らせて貰おう。(ワレ)はフォルスター皇国皇太子、ルーカス・ネイザー・ヴァルナー・セル・フォルスター。これが今生の我が身分。だが、竜王でもある」

『フォルスター皇国皇太子だと⁉ フォルスター皇国はイグラシア王国に敵対するというのか!』

「親子揃ってこれか」


 竜王(ルーカス)が呆れたように言う。


「敵対するかしないかで言えば、敵対してもフォルスター皇国には何ら不利益にもならんから、勝手にしろ、としか言えないな。

 さて、イグラシア王。答えよ! 第三王女は留学のためにフォルスター皇国に来た事で間違いはないか?」

『間違いはない。書状も持たせた』


「書状などこちらには届いておらぬ。今日、いきなり学園祭を行っていたクラリス学園高等科に現れ、我が婚約者を愚弄し、(ワレ)にイグラシアの経済的優位性をバックに案内(あない)を強要した。これは対等な関係を築いていたはずの両国間の友好関係に(ひび)を入れる行為だ。

 更に、竜人たちが、竜王である(ワレ)とその半身である我が婚約者を愚弄されたと怒り、今回の仕儀に至った。

 近衛師団第五連隊長ギュンター・テーリンク、おるか」

『は! イグラシア王城前で待機中!』

「第五連隊の突入準備をせよ」

『御意』

「さて、イグラシア王国では、友好関係にある国を愚弄し脅して言う事を聞かせるのが対等な関係だと教えているのか?」

『そのような訳では……』

「ほう? しかし第三王女は明らかに経済的優位性を盾に、(ワレ)を脅して来たぞ? 更には我が婚約者を愚弄した。それが正しい行為だとでも?」

『うぐっ』

「さて、父上。私はかなり今回の事が頭に来ております。どうか一切を私にお任せくださいますよう」

『あ、ああ。任せよう……そなたの好きにするがいい』

「ありがとうございます。

 さてさて、皇王陛下からの許可も得た事だし、少しお互いの国の対比をしようか。

 フォルスター皇国には、現在四ヶ国の従属国がある。元ナイジェル帝国、現フォルスター臣民国、タマラ共和国、ベルズ国、ノーラン王国だ。四ヶ国が従属国になったのは三年前。政務官を派遣して国の運営を任せたところ、どの国も経済が回復し、飛躍的に伸びた。このおかげで四ヶ国と我がフォルスター皇国の合算の経済力は、低く見積もってもイグラシア王国の二倍」


 画面の向こう側で、イグラシア王が驚愕している様子が見えた。


「更に言うと、今後、精霊王たちの加護の一切を失ったイグラシア王国は、各種資源の算出が下がり、坂を転がり落ちるように経済は悪化する」


 そこで一旦区切り、言われた意味がイグラシア王の頭に染み込んだ頃合いを見計らって、また口を開いた。


「それに、(ワレ)は竜王。我が婚約者は竜王の半身である。その半身と(ワレ)を愚弄された竜族が、イグラシア王国を許せぬと決起した。

 竜族の国の宰相は、近衛師団全軍を動かし、イグラシア王国を滅ぼそうとしていた。それを止めたのが、我が婚約者だ。ここまでの話を理解したか」


 竜王(ルーカス)が問いかけると、暫くしてイグラシア王が(うめ)くように答えた。

『理解したが……単に愚弄しただけで、なぜ滅ぼす事になる』

「竜族は誇り高い。更には忠誠心が高い。目の前で竜王とその半身を愚弄された竜族が、その怒りを我慢せねばならず、それが余計その怒りを助長した」

『目の前で……?』

「第三王女だ。我が婚約者を無視し、挨拶もさせず、挙げ句の果てに、ちんちくりん、と吐き捨てた。即座に殺そうかと思ったが、それを止めたのも我が婚約者だ」

『エステファニアが……』

「さて、それでは話し合おうか? (ワレ)は第三王女など、既に殺したいくらい嫌悪している。だから留学は断る。大体、なぜ留学の手続きが終わる前にこちらに来ている。それと、婚約者でもない男に飛びつくようなふしだらな面も、王女としての資質に疑問を持つ点だ。更に、名前呼びを許していないのに勝手に呼び出す軽薄さ」

『飛びつく……』

「一体、どういう教育を施せば、あのような軽薄なバカが出来上がる? 甚だ疑問だ。(ワレ)が知っている淑女は、皇妃教育を三歳から一日八時間受けていて、マナーも国を治める能力も充分に備え、自分より国益を優先させる思考と行動を取る最高の淑女だ。だからこそ、王女であるのに軽薄でふしだらな第三王女が醜悪で、吐き気を催す。早々に引き取ってくれ。我が国では不必要だ」

『だ、だが、イグラシア王国からの鉱山資源の輸入がなければ、そちらの産業に大打撃ではないか⁉』


 竜王(ルーカス)は呆れたように大きなため息をひとつ吐いた。


「聞いていなかったか? フォルスター皇国には、従属国が四ヶ国ある。鉱山資源など、四ヶ国もあれば何処からでも調達できる。別にイグラシア王国に頼らずとも賄う事は可能だ。

 はっきり言わせて貰うが、友好国を下に見て自らの望みを果たすよう強要するような国とは国交を断絶しても問題ないと考えている。それが、第三王女と僅かに交流して得た結論だ。答えよ、イグラシア王。王女を大人しくすぐに引き取るか、国交断絶して強制送還されるか、今すぐ選べ。王女を大人しく今すぐ引き取るなら国交断絶はしないでおいてやる」

『…………エステファニアを引き取る。留学も取りやめる』

「重畳。そうそう、我が国(フォルスター皇国)の高位貴族は、我が婚約者の味方になり、第三王女を敵視しておったぞ。留学取りやめで良かったな、イグラシア王? 留学を強行していたら、我が国(フォルスター皇国)では非常に肩身の狭い思いをしていただろうな」

『………………』

「では、そこでそのまま見ているが良い」


 そう言うと竜王(ルーカス)はエステファニア第三王女に向き合う。


「イグラシア王国第三王女。話し合おうか? まずは我が婚約者に謝罪をして貰おう」


 竜王(ルーカス)がそう言うと、エステファニア王女は悔しそうにその瞳に怒りを表した。


「ルーカスで」

「貴様には我が名を許してはおらぬ! 不愉快だ!」


 竜王(ルーカス)が途中で遮り、ピシャリと断ち切る。


「……フォルスター皇国皇太子殿下、申し訳」

「貴様はとことん、頭が悪いとみえる。(ワレ)は我が婚約者に謝罪をと言ったのに、なぜ(ワレ)に謝罪しようとする? やり直せ」

「……バークランド公爵令嬢、も、申し訳……なかったわ」

「それが謝罪する態度か! やりなおせ!」

「……バークランド公爵令嬢、申し訳……ございません、でした」


 竜王(ルーカス)が苛立ち始めた。金色の瞳には剣呑な光が宿っている。これはまずい、とアリスティアは介入する事にした。


「ルーカス様、イグラシア王国第三王女は、今まで誰にも矯正されて来なかったのですから、これでも精一杯だと思いますわ。わたくしも、いろいろと思う事はありますけれど、あまり完璧を求めても仕方がないかと存じます。

 ですから、彼女に早急に国にお帰りになっていただく為にも、さっさと済ませてしまいましょう?」


 そう言ってアリスティアはにこりと微笑んだ。


「ティアがそう言うなら仕方あるまい」


 竜王(ルーカス)はため息を吐いて了承した。





☆☆☆☆



 一度、落ち着かせようという事で、校舎の応接室に護衛たちと侍女を伴わせて招待した。もちろん、何かあったら即座に魔術で対応できる事を示し、王女をソファに座らせる。

 半透明の映写盤はそのサイズを小さくして、まだ傍らに出ていた。

 侍女はこちらが言葉を知らないと思って王女に母国語で話しかけ始めた。


「──エステファニアさま、──フォルスター皇国────ルーカス───竜王──」


 所々で、単語が聞こえてくる。アリスティアはその会話に耳をそばだてていた。


「──フォルスター皇国──皇太子──精霊王が──婚約者を──大事にして──私は何も悪くないのに!」


 会話が段々と聞き取れる様になってきたのを感じ、内心喜ぶ。しかし顔には出さない。


「姫さま、本当に国にお帰りになられるつもりですか? あれだけ国王陛下にお願いされたのに」

「仕方ないじゃないの! お父様が決めてしまったんですもの! 私には何もできないわ!」

「はぁ……姫さまは相変わらずですね。その辺は私ともう一人の腹心にまかせてくださいと申し上げたでしょう?」


 会話が苦もなく理解できた。まだ聞いているかどうかを一度確認した方がいいだろうか。

 ルーカスをちらりと見やれば、ルーカスは小さく首を横に振り、エステファニア王女に()()()()話しかけた。


「イグラシア王国第三王女。そろそろそちらの話し合いは済んだだろうか?」

「え……あ、いいえ、まだです」


 アリスティアは頭を抱えたくなった。普通、そこは肯定するところだろう。本当にこの王女は常識がない、と内心毒づく。


「そうか。ではもう少し話し合うといい」


 ルーカスも少し呆れたように言った。


「ありがとう、ございます」


 エステファニア王女はぎこちなく言うと、侍女に向き直った。


「ねえ、マルシア。わたくし、共通語はあまり得意ではないのだけど」

「姫さま、ですから勉強は大事だと申したではありませんか」

「煩いわね! そんな事より、さっきの話だけど」


 素直に元の話に戻るのか、と驚く。もちろん顔には出さないが。


「わたくし、まだ戻りたくないのに、なぜ戻らなければならないのかしらね」

「それは姫さまの言動のせいですわ」

「なぜよ⁉ わたくしは、イグラシア王国の王女らしい振る舞いをしたはずよ!」


 あれが王女らしい振る舞いかと驚愕した。しかし、よく考えると、一般的な王女ではなく、『イグラシア王国の王女らしい振る舞い』なら納得できる。


「あのですね、姫さま。その『イグラシア王国の王女らしい振る舞い』という態度が誤解を呼ぶのですわ。姫さまはなぜあんな尊大な態度をなさいますの?」

「だって、それがイグラシアの王女らしい振る舞いだと思うんだもの」


 エステファニア王女はむうっと唇を尖らせた。

 もしかしてこの王女の今までの態度は作られたものなのか、という疑問がアリスティアの中で膨らむ。


「尊大な態度は、相手の反発心と嫌悪感を誘うんです! それに、フォルスター皇国の皇太子殿下には婚約者がおられると言われた時に、姫さまはその婚約者に向かって、あろう事かちんちくりんと言われたではありませんか! その時のフォルスター皇国皇太子殿下から漏れた殺気を、姫さまはお気づきになられなかったのですか⁉」

「殺気?」

「ええ、殺気ですわ。今にも姫さまを殺さんばかりの殺気が、フォルスター皇国皇太子殿下から漏れておりました。そして」


 マルシアがそこで区切って、一言一言、言い含めるように話しだした。


「おそらく、姫さまが放ったその一言が、フォルスター皇国皇太子殿下と、フォルスター皇国の高位貴族の敵対心を呼んだのだと思われます。でなければ、ダンス・パーティーの会場での、友好国の王女へのあそこまでの敵意は、本来ならあり得ません。

 それに、フォルスター皇国の皇太子殿下は、竜王陛下でもあらせられる、と仰られました。そのせいで、先程の映像になります」

「どういう事?」

「王都ロンディアの制圧ですわ。姫さまは、竜王陛下の婚約者を貶めた事になり、それが竜族の、いえ、竜王陛下の逆鱗に触れた事になります。先程、竜王陛下が仰っていた事をお忘れですか?

 竜族の国はイグラシア王国と敵対す、精霊王は加護の一切を引き上げる、と。

 実際、精霊王たちが現れて、愛し子を貶めたから動かざるを得ない、と言い、水、火、土、風、光の加護の一切を引き上げた、と仰られましたわ」


 そしてマルシアは大きなため息を吐くと、厳しい目をエステファニア王女に向けた。


「姫さま。姫さまの言動のツケで、イグラシア王国は、竜族の侵攻を受けたのです。そして、国王陛下の間違った対処で、示威行動だけだった筈の竜族は、ロンディアの制圧を行いました。

 姫さま。現実を見てください。政略結婚の相手はフォルスター皇国皇太子でなければイヤだとダダをこねて、留学の手配も済んでいないフォルスター皇国に乗り込み、姫さまが思うように行動された結果が、イグラシア王国の滅亡への序章だったのですよ」

「滅亡……」


 エステファニア王女は、本当に事態の深刻さを理解していないようだ。今も、どこか遠い国の話として聞いている節が見られる。


「これでは政略結婚の相手などこの国では見つかりません。諦めて帰国なさるのが宜しいと存じますわ。尤も、帰国しても政略結婚の相手を探して貰えるか、わかりませんが」

「え⁉ どういう……意味……」

「国王陛下が、イグラシア王国を滅亡に導いた王女を、国内の貴族には降嫁させられないと判断し、フォルスター皇国以外の外国の王族を探す可能性もありますが、おそらく各国の密偵がこの情報を持ち帰ると思うので、どの国も断って来るでしょう。となれば、良くて生涯の幽閉、悪くて処刑、ですわ」

「処刑⁉」


 エステファニア王女の顔色が、また白くなった。


「もちろん、姫さまを止められなかったわたくしに、一切の責任がございますから、姫さまを処刑されるような事には致しません。ですが、確実に処刑から逃れるには、姫さまが、フォルスター皇国皇太子殿下の婚約者へ、跪拝(きはい)して誠心誠意の謝罪をし、反省した事を伝え、精霊王への執り成しをお願いするしか無いと存じます」

「跪拝⁉ わたくしが⁉」

「姫さま! まだおわかりになりませんの⁉ 姫さまの矜持など、ここでは何一つ、役に立ちません。そんな矜持など捨てて、何がイグラシア王国の為になるかを考えられませ!」

「マルシア……」


 ここまでかな、とアリスティアは皇太子(ルーカス)の袖を引き、目配せをした。

 皇太子(ルーカス)はそれに小さく頷いてから、声を出した。


「さて、共通語は苦手なようだから、イグラシア語に切り替えようか」


 皇太子(ルーカス)がイグラシア語でそう言うと、明らかに向こう側全員がギョッとしていた。それはそうだろう。わからないと思って、目の前で話していた内容の一切が相手に筒抜けだったのだから、動揺しない方がおかしい。

 だからアリスティアもそれに参戦する。最初から手加減する気はないのだから。


「わたくしも、イグラシア語は知りませんでしたが、今の会話で覚えましたわ」

「なんだティア。また外国語を覚えたのか。今で何ヶ国語になる?」

「………………」


 つい、目が泳いでしまう。


「……十二カ国語ですわ」

「ティアのギフトは凄まじいな。言語の祝福は、知らない言語も会話を少し聞くだけでその言語を覚えさせるのか」


 皇太子(ルーカス)が楽しそうに言うが、目の前の侍女──マルシアと言ったか──と王女は驚愕して真っ白になっている。


「わたくしの習得言語数などどうでもいいですわ。今はイグラシア王国王女の今後の事ですわよ」


 軌道修正を試みる。


「まあそうだな。王女は漸く自分の仕出かした事を理解出来たと見える。自国内ではあの様な態度でも誰も咎めなかったのだろうが、他国で取る態度ではない」

()してや、婚約者のいる男性に色目を使い、纏わりつき、飛びつくなど淑女としても言語道断ですわ。商売女と(そし)られても文句を言えない行動ですわよ」

「ティアは相変わらず辛辣だな。だが商売女の意味をわかって使っているのか?」


 苦笑しつつ、心配そうに聞いてくる皇太子(ルーカス)に、肩を竦めて答えた。


「わたくしの知識量をルーカス様もご存知でしょう? もちろん、理解して使っていますわ」

「むう……ティアの知識量は把握しているが……十一歳という現状の年齢を考えると、(いささ)か心配でな」

「心配しすぎです、ルーカス様。大丈夫ですわ」

「そうか。話を戻そう。王女、貴様は我が婚約者を最初から無視した。まずはそこが減点五。次に我が婚約者を貶める発言をした。減点三百。敵意をぶつけた。減点三百。我が名を断っているのに勝手に呼んだ。減点二十。婚約者でもないのに我が腕に絡んだ。減点二十。(ワレ)に案内させた。減点二十。ダンス・パーティー会場で、傍らに婚約者を連れている(ワレ)に抱きつこうとした。減点百。


 既に減点は七百を超えているぞ?」


 エステファニア王女はぶるぶると震えている。皇太子(ルーカス)が全く笑顔を見せず、無表情で絶対零度の視線を向けているからだろう。


(ワレ)は竜王」


 そう言うと、人間から超常の存在へと気配をガラリと変えた。覇気が溢れる。絶対的な王者。誰もが跪かずにはいられない絶対強者。その気配のまま告げる。


「竜王に喧嘩を売ったのだ。それ相応の代償は必要になる。それが、加護の一切の引き上げ」


 目の前のイグラシア王国王女一行は、気配に当てられ、王女以外が跪いた。

 王女の態度に、竜王(ルーカス)は眉間に皺を寄せる。

 アリスティアはそっとため息を吐いた。


「わたくし、イグラシアの王女に謝罪されても許す気にはなれませんでしたわ。でも」


 そう言って、初めての威圧を試みる。王女を圧倒する様に。魔力も乗せてみる。

 初めてだからか、随分と荒い威圧になったが、竜王(ルーカス)は面白そうにこちらを見た。


「民には罪は有りません。民が困る様な事はしたくありません。ですから、わたくしからの要求はひとつ。

 イグラシア王国のバルガス王朝の改易ですわ」


 アリスティアが言った途端に、静寂が応接室に訪れた。

 暫くして、竜王(ルーカス)が大声で笑い始めた。


「良いぞ、ティア! さすがティアだ! 民を慈しむ心と、敵対者に容赦のないところは実に我が好み! やはりティアは我が半身だ!」


 だがな、と竜王(ルーカス)は続ける。


「些か甘いと言わざるを得ん。イグラシア王は、黙って改易に応じるような男ではないぞ? どうするつもりだ?」

「そんなもの、力ずくに決まっているではありませんか。王が簡単に応じるなどと、わたくしも思ってはいませんわ。だから、力ずくで譲位して頂きますわ」

「譲位させると言うが、誰を上に据えるつもりだ?」


 その言葉に、アリスティアは竜王(ルーカス)をじとっと睨んだ。


「……まさか、(ワレ)か?」

「竜たちで示威行動し、抵抗を封じておいて今更ですの?」


 そこで言語を竜族のものに変える。


[竜の国の公爵家には、嫡男以外の男子がおりますでしょう? その方たちの誰かに、統治の総督を任せると良いと思いますわ。最初の登場は、わかり易く竜体で空から現れて、天井をぶち破ってもいいかもしれませんわね]


 アリスティアの竜語に、竜王(ルーカス)は目を剥いた。


[ティアが竜語まで話せるとは知らなかったぞ。しかし、天井をぶち破るとは、些か乱暴ではないか?]

[でも、インパクトはありますでしょう? 竜が人に変じるのもインパクトが大きいのです。でしたら、それを組み合わせてしまえば、あちらの抵抗を封じる事ができると考えましたの]

[なるほど。一理あるな]

[ルーカス様なら、民を蔑ろにしない国政を行いますでしょう? 別に永遠に統治しろとは申しませんわ。王に相応しき人物が現れたら、その人物に譲位なされば宜しいのではなくて?]


 アリスティアがそう言うと、竜王(ルーカス)は楽しそうにくつくつと笑った。


「あい解った。(ワレ)が竜王として統治に乗り出そう。

 ギュンター・テーリンク第五連隊長、突入せよ!」

『応! 第五連隊突入!』


 すぐさま(いら)えがあった。


「な、何を」


 王女が動揺していた。


「何を、と仰られますか? イグラシア王国王女の、フォルスター皇国での言動のツケを払っていただくのですわ。現国王陛下は改易後には蟄居していただきます」

「勝手に」

「貴女が口を挟む事ではありません。貴女の言動が招いた事態ですわ。ルーカス様」

「マティアス、イザーク。こ奴らを捕縛しておけ。行くぞ、ティア」


 そう言うと、竜王(ルーカス)は転移で校舎外に出た。

 そして竜化した。漆黒の黒竜が竜翼を一羽ばたきさせて五〇メートルくらい上に浮かび上がる。


「来い、ティア!」


 呼ばれたアリスティアは、飛翔術(フライト・マギア)で飛び上がり、竜王(ルーカス)の首に跨がろうとして、背中に座らされた。


「スカートの中を下から覗かれたくはないだろう?」


 と言われ、赤面した。今まで気が付かなかったのが恥ずかしい。

 しかし、アリスティアの羞恥など関係ないとばかりに竜王(ルーカス)は上昇し、ずっと待機していた第一・第二両連隊を引き連れて、海の向こう、イグラシア王国王都を目指して飛んだ。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます!


 

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