第76話 成層圏のデート(ルーカス視点)
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アリスティアがキレてルーカスを説教した日、ルーカスはアリスティアを抱えて人型のまま成層圏まで行った。すぐ後ろに専属護衛たちがついて来ているのは知っていたが、アリスティアとの時間を邪魔しなければ彼が護衛たちに特に言う事はない。
アリスティアは飛び上がった時こそ文句を言っていたが、どんどん上昇し、雲を突き抜けると黙り込んだ。
ちらっと腕の中の存在に目を向けると、期待に満ちた目で上空を見つめていた。アリスティアは成層圏でこの惑星を眺めるのが好きで、連れて行くといつも喜んでくれる。
成層圏は、言わば自分たちのデート・スポットなのだ。アリスティアにはデートという意識はないだろうが。
ルーカスは、アリスティアには保護者として接しているが、だからと言って彼女に意識して貰う努力を放棄するつもりはなかった。喜ぶ顔が見たいという気持ちにも嘘は無いが、割合としては少ない。
だからこそアリスティアを成層圏に初めて連れて行った日の彼女の涙には衝撃を受けた。泣かせたい訳ではない、しかし、これ程までに綺麗な涙があるのかと思った。
謝ったら、感動して涙が出てきたのだと言われて納得した。感動するとあんな綺麗な涙になるのか、と。
感極まって黒竜の首に抱きつくアリスティアも可愛いかった。
首に抱き着かれると、アリスティアからいい匂いがして来て理性と封印が弾け飛びそうになるから耐えるのが大変なのだが、アリスティアにやめろと言いたくないので理性を総動員して耐えている。
今日は人型のまま飛んで来たが、それは何かの意図があっての事ではなく、今日は腕でしっかりとアリスティアを抱き止めて置きたかった。
竜王である自分を畏れる事もなく、間違いだと思う事をいつも叱ってくれる半身は、竜王にとっては貴重な存在である。竜王を畏れないのは彼女が半身である為で、威圧や覇気、殺気など、一度受けると効かなくなるという理由があったとしても。
(ティアが怒るのは我のせいであるからな。少し接触行為が過ぎた。そこに、我が矛盾した行動を取ったせいだ)
だから機嫌を直して欲しくて成層圏まで連れて来た。
成層圏下部では気温が低すぎるから、成層圏の最上部、高度五〇キロメートルが定位置になる。この位置で気温は零度まで上がり、結界での気温調節が効くからだ。成層圏最下部だとマイナス八〇度で、人間のアリスティアには結界を張っても辛すぎる。それに最上部ならこの星が綺麗に見える。
竜王は腕の中のアリスティアを見て満足した。目を輝かせ、忘れずにいようと懸命に惑星全体を目に収めている姿は、微笑ましく愛らしい。
「ティア。いつも滞空して見ているが、今日はこの惑星の周囲を周ってみるか?」
ふと、そんな事を聞いてみた。
「……速度はどれくらいですの?」
「心配しなくても秒速三〇万キロメートルは出さないぞ。せいぜい音速だな」
「音速⁉ 秒速三四〇メートルを、せいぜいと言わないでくださいまし。それに……えーと……地球と同じ大きさと仮定すると、この星を一周するのに三四時間もかかってしまいますわ」
「なぜそんなに時間をかける必要がある? 第一〇音速で進めば四時間くらいで済むのに」
「マッハ一〇とか、衝撃波が心配になりますわ!」
「心配性だな、ティアは。衝撃波はこの位置からは地上には届かんよ。なにせ高度五〇キロメートルであるからな」
「は⁉ 五〇キロメートル⁉ そんなに高かったですの⁉」
「ここまで上がらないと、ティアが凍えてしまうからな。この辺で気温は零度だ」
「成層圏って、高度が高くなるほど温度が高くなる、でしたかしら?」
「さすがティアだな。そう、この辺の高度だと成層圏界面という」
「結界で温度調整もしてくださってましたのね」
「当然だ。ティアを寒がらせる様な真似を我がする筈もあるまい?」
「確かに、ルーカス様なら至れり尽くせりですわね」
呆れた様にくすくすと笑うアリスティアを、改めて後ろから抱きかかえる。結界は二人を覆うように展開しており、気温は二〇度を保つ様にしている。
アリスティアの頭に顎を乗せて、この星──数千年前に、女神の名に因みイリスと名付けられた──を見る。
「で、どうする?」
「今日はやめておきますわ。その代わり、一日中休みにできた時には人工衛星よろしく惑星を周ってみたいですわ」
アリスティアの答えを聞き、なるべく休日の公務を纏めてしまい、一日中休める日を作ろうと決めた。
「では楽しみにしていよう。そういえば、次の安息日はティアの初の視察であったな。我も一緒の」
「ええ。孤児院の視察ですから、大丈夫だとは思いますが……」
「不安がる事はないぞ。我も一緒なのだから、何かあればすぐに対処できる」
「わかりましたわ。頼りにさせていただきますわ」
そこで会話が途切れたが、心地よい静寂であり、竜王は心が満たされるのを感じていた。
この子を護らなければ。
この子に悲しい思いをさせたくない。
この子を……独り占めしたい。
アリスティアから漂う甘くていい匂いを胸いっぱい吸い込み、愛しさと少しの独占欲が湧き上がるのを、竜王は自覚しつつ、アリスティアの頭に顔を擦り付けた。
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