表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/185

第73話 薬学野外授業の後始末

いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。

とても助かります!(*^^*)


2019年12月11日

☆で区切った以降の冒頭にアリスティア視点が入っていたので、エルナード視点に全面修正。

それにより冒頭から☆で区切るところまではアリスティア視点、区切ったあとはエルナード視点となりました。


 

 


 離宮の居間に転移したルーカスは、抱えたアリスティアが安心するように、「大丈夫、守る、安心していい」とずっと背中を柔らかく叩きながら言い聞かせていた。

 そのお陰か、アリスティアは徐々に落ち着きを取り戻していた。


「わたくし、また発作(フラッシュバック)を起こしてしまったのですね……」


 やがてポツリとアリスティアが呟いた。

 ルーカスは頭を優しく撫でて、柔らかい声で、


「ティアは気にせずとも良い」


 と語りかけた。


「ティアのトラウマが治っていない以上、追体験(フラッシュバック)はいつ起こってもおかしくないであろう? その際にティアが発動する魔術を抑えるのは私の役目だ」


 その金色の瞳に優しさと僅かの甘さを湛えてルーカスはアリスティアを見つめた。


「大事なティアを禍津神(デウム・デ・クラーデ)にする訳にはいかぬ故、ティアの魔術を阻害して抑え込める様に、私の魔力を込めた術式を魔道具(デバイス)としてクロノスに持たせて正解だった」


 だから心配する必要も落ち込む必要もない、とルーカスはアリスティアに告げる。

 そうは言われても、やはり周りに迷惑を掛けたと落ち込んでしまう。

 そんなアリスティアにルーカスは、


「そこまで気にするなら、離宮に閉じ込めてしまうぞ?」


 と、サラッと怖ろしい事を言ってきた。

 目が笑っていたので、冗談だったようだが。

 いや、冗談であって欲しい、とアリスティアはぶるっと身震いしながら密かに祈った。

 だから、慌てて「もう気にしませんわ!」と返事をしたのである。





☆☆☆☆



 翌日、アリスティアは補佐官の仕事でクロノスとエルンストに会った時、預かっていたハッシュ草を渡そうとした。

 しかし魔法の鞄デ・マジア・ラピデス・サクリを持ってきていないから明日にして欲しい、と言われてしまい、また保存庫ブクスム・レポーノに入れ直していた。

 二人には迷惑を掛けたと謝罪していたが、予め注意を受けていたにも拘らず、アリスティアに不用意に近づいたノアイユ先生が悪い、気にするな、と言われていた。

 更には、子供はそんな事を気にするな、とクロノスに言われた(アリスティア)は、クロノスも子供だ、と反論して喧嘩になりかけた。

 しかしそこに自分(エルナード)とクリストファーが、どちらも私たちに比べたら子供だ、と一言落とした為、喧嘩には発展しなかった。


「エル兄様、酷いですわ」


 アリスティアは嘆息しながら文句を言う。


「私たちにとってはアリスにはいつまでも子供でいて欲しいからね」

「アリスが大人になったらさすがに抱っこできないし」


 まあ、皇太子(ルーカス)殿下はアリスが大人になっても構わず抱っこしそうだけど。

 とは双子(自分たち)の共通の認識だ。

 なにせ竜王。人間の常識から外れているし、何より筋力が違う。あの筋肉量でどこにそんな力が、と思うほど強力(パワフル)


 近衛騎士団の訓練場にはアリスティアが作った的がある。(アリスティア)曰く、「地上で六番目に硬い炭化チタンで作った」人形(まと)である。確かに凄く硬くて、剣の方が負けてしまう。近衛騎士団では誰も切れない。なんの為の的かと妹に聞いたら、魔術の的だと言う。曰く、「融点は三一六〇度ですから、火炎系魔術でもそうそう融けませんわ」だそうである。融点が何の事か、炭化チタンとはチタンとどう違うのか、とかツッコミどころが多いが、とにかく魔術騎士(マギア・リッター)の為の訓練用の的として作ったそうだ。

 それだけ硬い筈の的を、先日近衛騎士団の視察で訪れた皇太子は、的の説明を受けた後、やおら剣を引き抜くと切りつけた、様に見えた。

 腕の動きが見えなかった。

 なのに、炭化チタンの人形(まと)は、首と体が泣き別れていた。


「ふむ。確かに相当硬いな。さすがティアだ」


 度肝を抜かれた。

 腕の動きが見えなかった事もそうだが、近衛騎士団員の誰もが切れなかったクソ硬い人形(まと)を、傷つけるレベルを通り越して切断してみせた腕力と技術力、そしてその剣の強靭さ。

 呆気にとられていたら、皇太子から、最近剣の腕が上がったからだと言われた。

 そんな訳あるか! と言うのがそこに居た全員の心の叫びだった。

 人間離れした腕力を見せた皇太子である。

 双子にとって皇太子(ルーカス)(あるじ)であり、口には出さないが最愛の妹(アリスティア)を任せられるほど信頼している男でもある。

 本当はアリスティアを高等科になど通わせたくなかった。だが、皇太子(ルーカス)がいつぞや言った通り、高位貴族が必ず通学する学園、としての位置付け(ステータス)は、「皇太子の婚約者」である妹、「皇族」であるエルンストが通学する事で付与される。だからアリスティアを飛び級させざるを得なかった。

 だが、トラウマを持っているアリスティアには、通学し、校内にいるだけでも危険がある。その為のバックアップ体制を整える必要があり、それがクロノスとカテリーナ、ユージェニアの同時入学で、だからこそ教師をつけて猛勉強させた。結果はクロノスしか残らなかったが。


 バックアップ体制はそれだけではない。

 皇太子の理事長就任と、双子の理事就任もその一環で、教師陣に「アリスティアは触れられそうになると成人に対して拒絶反応を起こし攻撃魔術を発動する」と注意したのもそれである。

 更には今回、クロノスに渡した魔道具(デバイス)

 あれは、皇太子がフォルスター臣民国に赴き、魔道具職人に作らせたものだ。必要な術式は皇太子(ルーカス)が作ったものだが。

 そこまでしなければならなかったのは、今回発動しかけた戦略級超広範囲(メテオライト)隕石雨(・シャワー)のせいだ。大陸全体が範囲内という、とんでも規模の魔術を使えるようになったせいである。いや、戦略的広範囲(ステラリット・)隕石落とし(メテオリテ)でも不味いが。そっちだって皇都が壊滅する規模なのだから。

 ただ、それは万が一、を考えての準備だった筈だ。まさか教師が注意事項を軽んじるとは考えていなかった。

 国のみならず、大陸全土を滅びの危機から救ったなど、クロノスは考えてもいまい。それほど、危機一髪の状況だった。

 そしてその状況になった原因の教師は、厳罰を与えて欲しいのが双子の希望だが。


「ティアの気持ちを考えたら、厳罰を与えるのは無しだ」


 双子と同様にアリスティア至上主義の皇太子(ルーカス)はそう言う。


「ティアなら、注意事項の軽視、と考える筈だ。ならば厳罰ではなくそれに見合った処罰にせねばならぬ」


 最近の皇太子(ルーカス)は、アリスティアならばどう考えるか、また、そうなった場合はどう動くかと考えているようだ。

 同じアリスティア至上主義でも方向性が違っている。

 皇太子(ルーカス)の場合は、アリスティアの心に沿った考え方をしているらしい。

 もちろん双子(じぶんたち)は、(アリスティア)に害を与える者は排除、見敵必殺サーチアンドデストロイ、である。

 方向性が違っていても、アリスティアの為ならば共存できる。


「大陸を危機に陥れた面も考慮に入れて、一週間の出勤停止、三ヶ月の減棒が落としどころか」

「一週間の出勤停止は軽くありませんか?」

「薬学教師が一人しかいないからな。それ以上の出勤停止は授業に影響が大き過ぎるのだ」

「うーん、魔法薬研究室に人材は居ませんか?」

「トビアス・ディルク・セル・ノアイユが、その魔法薬研究室からの招聘でな。アレが一番優秀だという」

「では他に人材がいないとなると、ノアイユ教師をやめさせるという訳にもいかないのか」

「そういう事だ。第一、やめさせたらティアが気に病む。ティアを悲しませたくはない。それ故、落としどころとしては、先程言った様に、一週間の出勤停止と三ヶ月の減棒、になる」


 そう言われてしまえば、双子には反対出来ようはずがない。

 渋々、処罰内容に同意した。


 

厨二病炸裂第二弾。

「デウム・デ・クラーデ」はラテン語で、災厄の神、という意味です。

禍津神は災厄を呼ぶ神様。

だから、禍津神にデウム・デ・クラーデとルビを振りました。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「過津神」となっていますが、「禍津神」では? 意味的に「禍(わざわい)」が正しいと思います。 ※「過津神」であとがきまで統一されていましたので誤字か判断できず、感想に書かせていただきま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ