第70話 コース選択
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精霊王たちの襲撃(アリスティアには襲撃にしか思えない)を受けたあと、ルーカスに言われてクロノスとエルンストを伴って教室に入り、いつもの机に座って待つこと一五分。
鐘の音とともに教師が教室に入って来てプリントを配った。
朝話していた、コース選択に関する希望調査票である。
教師の説明を聞くと、期限は三日あるらしいが、アリスティアの次の出席が仕事の都合で四日後になる為、提出期限は今日になる。
普通科コース、官僚コース、教育コース、商業コース、魔術師コース、騎士コース。
普通科コースは、仕事に就かない令嬢たちが対象のコースで、主に貴族家庭や裕福な商家での采配の振るい方や夫人としての社交界での振る舞い方を学ぶ。
官僚コースは、文字通り官僚を目指す為のコースで、官僚にはなれなくても貴族の領地経営の代理が出来る能力を育成する。
教育コースは、教師を育成するコース。卒業時から即戦力が求められる。今後増えていく同様の中等科・高等科の教師として期待される。
商業コースは、商会の経営や商人たちの取り纏め能力を育成する。
魔術師コースは、文字通り魔術師を育成する。魔術の簡易詠唱(詠唱破棄後の最終宣言ワードを簡易詠唱と規定した)の方法や、魔力の節約の仕方、オリジナル魔術の作り方など。
ぶっちゃけアリスティアが今まで積み重ねて来た方法の伝授である。
騎士コースは、騎士を目指す為のコース。物理攻撃のみならず、魔術を併用した"魔術騎士"の育成、乗馬訓練などを行う。
各コースの説明を見ると、やはり魔術コースは対象外だと弾く。
将来皇太子妃になるのなら、普通科コースでいいのだろうが、アリスティアは剣術をしてみたかった。だから、迷わず騎士コースに丸をつけたのだが。
「アリスティア様、騎士コースはダメだと言ったじゃないですか!」
「確かに言われましたけど、わたくし、剣術を学んでみたいのですわ」
「将来の皇太子妃、ひいては皇妃になるのにどうして剣術をやりたいんですか。アリスティア様、立場を舐めてます⁉」
「別に立場を舐めている訳ではありませんわ。でも、魔術は極めてしまったから、次は剣術かな? と」
「剣術も極めるつもりですか⁉」
「できれば?」
「却下です。おとなしく普通科コースにしてください」
「でも剣術を収めたら、護衛たちの動きがわかって逃げるのに邪魔にならないと思わない? それに、心配ならクロノス様も騎士コースにすれば問題は少なくなるのではなくて?」
「どんだけ必死なんですか……。ああ、もう! ルーカス様が許可したら、私も騎士コースにしますよ! エルンスト殿下も騎士コースですからね⁉」
「なぜ俺を巻き込む!」
「アリスティア様を騎士コースの狼どもから守るのに一人では手が足りません。間違いなくルーカス様からもエルンスト殿下も騎士コースにするように命令が出ますよ」
「あー。アリス嬢を溺愛してる兄上ならあり得る……」
「でしょ。ルーカス様、アリスティア様しか見てないから。なにせ、アリスティア様至上主義ですからね」
「妹至上主義の双子と同じか」
「双子以上ですよ。以前は、抱き上げて片時も離しませんでしたからね」
「は⁉ あの兄上が⁉」
「そうです。給餌は竜族の半身の雄の特権だと言って、絶対に兄弟である双子にも許しませんでしたし。お陰で私は、命の危機に晒されてましたからね。主に無自覚なアリスティア様のせいで」
「給餌ってなんだ?」
「食べ物を食べさせる事ですよ。ぶっちゃけ、あーん、ですね」
「は⁉ 兄上が、あーん、で食べさせていたのか⁉」
「毎回ね。膝抱っこで」
「クロノス様! さっきから何ですか! わたくしに恨みでもありますの⁉ 人の恥ずかしい話をバラすなんて紳士ではありませんわよ⁉」
「膝抱っこ……」
エルンストが呆然と呟いている。
「アリスティア様。恨みならありますよ。無自覚なアリスティア様のお陰で、毎回と言っていいほど命の危機に立たされていたんですからね⁉ ルーカス様の殺気を向けられる恐怖!」
「う……それはわたくしが悪いとは思いますが……」
「だから暴露話を甘受してくださいね?」
「ずるいですわよ⁉」
「聞きません。で、エルンスト殿下。膝抱っこしたアリスティア様の食べる姿をルーカス様がじっと見て、アリスティア様が満腹になった頃に察してスプーンを置くんですよ。そして、喉が渇いたのも察して、ハーブ水も用意する。ルーカス様、それくらい、アリスティア様を溺愛しているんですよ」
「聞いているだけで砂糖を吐きそうだ……」
「毎回見せつけられている私達も、砂糖を吐きそうでしたよ」
「……兄上には敵いそうにないな……」
「ん? 何ですか、エルンスト殿下? 聞こえませんでしたよ?」
「いや、なんでもない。で、アリス嬢はそれを受け入れていたのか?」
「アリスティア様はいつも恥ずかしがるんですが、ルーカス様が絶対にやめませんでしたから。渋々受け入れて、いつの間にかそれが普通になってたみたいですね。
ルーカス様はね、スプーンでアリスティア様の唇をちょんちょんと突くんですよ。そうすると、アリスティア様が口を開く。すかさず食べ物を入れて、次を用意する。その繰り返しでしたね」
「恥ずかしすぎて死にそうですわ!」
「大丈夫です、このくらいじゃ死にませんから」
「聞いてる俺も恥ずかしくなって来たんだが」
「溺愛エピソードならいくらでもありますよ」
「お前、意外と鬼畜だな⁉」
「どうとでも」
「……例えばどんな?」
「絶対抱っこ。首筋に顔を埋めてすりすりする。抱きしめて離さない。他の男が近寄ると威嚇する」
「なんで兄上はそんなにも溺愛する……」
「アリスティア様が半身だからです。永遠の伴侶、唯一無二、運命の相手、とも言ってましたね」
「あー。なんとなくわかった」
「アリスティア様を溺愛しているのはルーカス様だけではないですけどね。妹至上主義バカの兄二人も溺愛してますよ。ただ、ルーカス様の溺愛ぶりには敵いませんけどね。この三人は、アリスティア様に危険が及んだら、殺気を周囲にバラまきつつ武神の如く動くそうです」
「あー……。想像できてしまうな……」
「もし騎士コースに三人で入って、それでもアリスティア様に危険が及んだら、私とエルンスト殿下はルーカス様に絞め殺されますね」
「怖いことを言うな! さっきまでの砂糖を吐きそうなダダ甘い雰囲気はどこ行った!」
「事実ですよ。言ったじゃないですか。ルーカス様は、アリスティア様至上主義だって」
「アリス嬢、騎士コースはやめにしないか?」
「お断りですわ! ここまで恥ずかしい話をされた以上、絶対に騎士コースにしますわ!」
アリスティアは気がついていなかったが、この会話は教室中に聞こえており、みんな砂糖を吐きそうな甘々気分になっていた。
クロノスはそれを知った上でしれっと話していたが。
調査票を提出する前に、アリスティアが理事長室に転移し、騎士コースを受けたい事をルーカスに直訴し、クロノスとエルンストも一緒という条件で許可を取り付けた。
それを聞いたクロノスとエルンストは、渋い顔をしつつ諦めて騎士コースに丸をつけて提出した。
騎士コースが地獄のコースになった原因がアリスティアだと知った生徒たちが恐怖で戦慄するのはあとの話である。
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