第68話 エルンストとアリスティアとルーカスと
いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。
とても助かります!(*^^*)
エルンスト・クラウス・イザーク・セル・フォルスター第二皇子の教育は、アデリアがやらかした日から始まった。
更に追加で政務も叩き込まれる事になった。
エルンストは想像以上の過酷さにすぐに音を上げたが、兄は許してくれず、泣きながら勉強と政務をこなすしか無かった。
ちなみにアリスティアの呼び方問題は、エルンストがアリス嬢、と呼ぶ事で解決した。
毎日、放課後になると兄がアリスティアを迎えに来て、そのついでにクロノスとエルンストも転移で皇太子執務室まで連れて来て貰える。
最初こそ便利で喜んだエルンストだったが、すぐに考えを改めた。
学園での勉強が終わると直に執務室に転移し、即座に兄からの指定の勉強が始まる。
この勉強と言うのがかなり難しく、今までの皇子教育が如何に甘かったのか、理解させられた。
エルンストが勉強で、教師の質問に答えられないと、アリスティアが的確に答える。そしてたまにクロノスまで的確に答えてみせた。矜持がどうこう言っている場合ではない、と愕然とし、その後は必死になって勉強した。
アリスティアは学園での勉強の殆どが既に学習した内容だったため、最低限の出席で許された。
驚く事に、クロノスもそうだった。
「なぜクロノスが答えられる。」
そう聞いたらさも当然とばかりにアリスティアに呆れた様に言われたのが、
「クロノス様はナイジェル帝国の元皇太子殿下でいらっしゃいますわ。帝王学を学んでいらっしゃいましたのよ?」
だった。
確かに従属国の件とアリスティアの事情を教えられた時に聞いてはいたが、従属国という事で侮っていたのは否めない。
「元皇太子と言っても、一〇歳までですよ。今はただの公爵で、フォルスター皇国皇太子補佐官でしかありませんから」
自分は一〇歳の時のクロノスより知識が足りないのだと言われた気がした。
クロノス本人にはそんな気はないだろうが、アリスティアが憐れむ様な目で見ているから彼女がそう思っているのは間違いないだろう。
彼女に馬鹿にされるのは癪に触る。
なにくそ、と気合を入れ、勉強に取り組んだ。
☆☆☆☆
「ティア。先月提出して貰った、"トレーディング・カード制作による娯楽の提供"の件だが、まずはわかり易く役者と歌い手の組合せで販売する事になった。人数も多く、展開し易いからな」
「あら。許可が下りるのが早いですわね?」
「予算が土木工事を行う灌漑用水路よりも遥かに少ないからな。許可し易いだろう」
「でしたら、娯楽本の出版商会に交渉して、娯楽本の登場人物の挿絵を増やし、次のトレーディング・カード展開に備えて貰うのも必要ですわ」
「ティアならそう言うと思って、既に手は回してある」
「早いですわね」
楽しそうに話す内容は、どこかのんびりしている。しかしその政策は、役者、歌い手、劇場とそこの従業員、販売店、印刷商会、製紙商会、絵師数人、木版技術者の収入増加に繋がる。更には、人気が上がれば印刷、製紙、木版技術者の雇用増加も見込める。
更に、シリーズを変えて展開すれば、そちらの関係各所の収入増加と雇用拡大に繋がる。
新しい娯楽に、貴族と富裕層は飛びつくと予想されていた。
「いずれは皇族と近衛騎士たちが対象になりますわ」
「面倒だが、皇族の義務だな。民に顔を周知させる事と、娯楽の提供による不満解消が主目的になるのだから」
「ええ。ですから、皇族の場合、正礼装、準礼装、略礼装、軍装、乗馬服のそれぞれでの絵姿を提供する事になります。婚礼の儀があれば、その姿も」
「本当に面倒だな。だが仕方あるまい」
ため息を吐く皇太子をぼうっと見ていたエルンストに、そのルーカスから、
「何を他人事のように見ている。皇族が対象なのだから、そなたも対象なのだぞ?」
と言われ、顔を蒼くしたエルンストに、
「まだまだ皇族としての自覚が足りぬ」
と呆れたように言われた。
更に二ヶ月後に準備万端整ったトレーディング・カードは、皇都のあちこちで販売された。
一〇枚一組で売り出されたそれは、最初こそ伸び悩んだが、ある夜会でどこぞの公爵夫人が、役者の絵姿が美麗だと褒めてから貴族間で爆発的に広がった。
「母様はやり過ぎですわ。夜会ごとに宣伝してくださらなくても……」
「それだけティアの事を心配しているという証左だろう? 娘と一緒に住めないから、せめて手がけた政策で手伝いたいと思っているのだろうよ。今までと違い、娯楽の品で、公爵夫人としても手伝いやすいからな」
ベッドの中で、アリスティアを胸に抱き、頭を撫でながら宥める。
アリスティアは困った様な顔でルーカスを見上げている。
アリスティアは一〇歳になった時に、一人で寝てみると言い出し、結果、悪夢で眠れなかった為に、またルーカスの添い寝が決定したのだ。それがアリスティアの心の中で色んな思いが渦巻く原因となっているのは知っていた。
「ティアはまだ子供なのだから、大人には甘えていいのだ。それが子供の特権だからな」
「でも、ルーカス様に迷惑ば」
「いつ私が迷惑だと言った? 私にとっては半身であるティアと一緒に住めるのは至福なのだ。だから、大人になるまでは甘えていい」
そう言ってルーカスはアリスティアの頭にキスを落とす。
相変わらずアリスティアからはいい匂いがする。この子を守らねば、という思いと、少しだけ独占したい思いがある。
アリスティアが入学式のあとの魔術ショーで見せた、自分に対するわずかの執着。
驚いた。
まだ一〇歳にしかならないアリスティアから執着されるとは思ってもみなかった。基本的に恥ずかしがり屋だから、他人がいる前であの様に言うのは珍しい。そう思い、注意深く見守っていたら、時折、女生徒に囲まれ、無碍にできなくて少し苛ついているのに、アリスティアがその場面を目撃し、悲しそうにしているのを見てしまった。
あれは本人が自覚しないまま自分に執着している証左だった。
だから、慎重に、自分の竜の雄の本性に掛けた封印を、ほんの僅かだけ、緩めた。
そして出てきたのが少しの独占欲。
今はこれでいい。
「そろそろお休み、ティア」
今度は額にキスを落とす。
顔を赤らめるが、文句は出てこない。
「お休みなさいませ、ルーカス様」
小さく返事を返し、自分の胸に顔を寄せるアリスティアに、湧き上がる愛情と喜び。
ああ、なんという幸福なのか。
半身が胸に甘えて来ているなんて!
竜王は、もう一度アリスティアの頭にキスを落とし、その金色の瞳を閉じた。
ルーカス様、少し変態度を滲ませました(笑)
ここまで読んでくださりありがとうございます。





