第62話 学園始動②
いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。
大変助かります!
ブックマーク登録1200件超え、ありがとうございます(^^♪
教室に戻った──というかアリスティアとクロノスは初めて教室に入ったのだが──生徒達は、各々の机に座った。
空いている席は、教室の一番前の真ん中の席である。
まあアリスティアとしては、教師が触れて来なければ問題はないし、何かがあった場合はクロノスが対処すると言われている。
二人は教室の真ん中の席に並んで座った。
その二人を、教室中の生徒が注目している。
ルーカスのせいであるのは明らかだ。
壇上でこめかみにキスされたのだから。
ため息しか出ない。
アリスティアは、早く教師が来ないかと待っていた。
しかし、まだ教師が来ない。
このままだとまずい気がする。
「アリスティア・クラリス・セラ・バークランド!」
イヤな予感が大当たりした。
仕方なく、アリスティアは後ろを振り向いた。
「なんですの、エルンスト殿下?」
「貴様、皇族に対して態度が悪いぞ!」
「先程も言いました通り、この学園内に於いては生徒として通っているならば、皇族の権力は抑制される事になってますの。
二年前の教育要項精査会議においてそう決定されておりますわ。ですわよね、ナイジェル皇太子補佐官?」
「アリスティア様、私まで巻き込まないでください。仰る通り、『一生徒としてある場合、皇族といえどもその権力は抑制される』と第五回目の会議において決定されました」
「ちなみにこの決定の発案者は、皇太子殿下でいらっしゃいますわ」
「うぐっ」
「皇族だと仰るなら、皇族らしい行動をなされませ。今のエルンスト殿下は、単なる傲慢貴族と変わりありませんわ」
「アリスティア様、さすが辛辣ですね」
「なんだと! 貴様、度々の皇族への侮辱、不敬罪であるぞ!」
「エルンスト殿下、貴方は馬鹿ですか⁉ 先程わたくしが説明いたしましたわよね⁉ 学園に生徒として通うならば、皇族としての権力は抑制される、と」
「だが、侮辱罪にはなるはずだ!」
「馬鹿にされるような言動をしていると自覚なされませ! 食べて寝て排泄するだけの皇族は、敬う価値はありませんわ。敬われたければ、民の為の政策を立案施行なされませ」
「貴様、偉そうに! 子供のくせに!」
「まだお気づきになりませんの? この教育制度の発案はわたくしです。その為に、二年前に、教育要項精査会議に出席し、議論を交えながら初等科から高等科までの教育内容を決めましたのよ」
「アリスティア様、当時八歳でしたよね」
「ナイジェル補佐官、余計な事を言わないでくださいます?」
「余計な事ではありませんよ。だって、五歳で、"技術者職業斡旋・訓練計画"を立て、七歳で学校教育の基礎である"学習所"の立案をし、八歳で、"学校教育制度"の立案をし、九歳で"灌漑水路計画"を立案したじゃないですか」
「は⁉」
あちこちから息を飲む声が聞こえて来る。
エルンストも目を瞠り、信じられない、と言いたそうな顔をしている。
「嘘だろ⁉ 五歳でそんな立案できる訳がないだろ⁉」
「わたくし、あまり言いたくありませんが、三歳から皇太子妃教育を受けてますの。歴史、数学、文学、魔法学、魔術学、薬学、経済学、マナー、言語学三ヶ国語、文化史、政治学、ダンス。これを三歳からずっとですわ」
「アリスティア様、確か五歳で兵法書も読んでいたんですよね? あと魔術書の特級魔術編も」
「なぜクロノス様が知ってますの⁉」
「エルナード様とクリストファー様から自慢話で聞かされてました」
「あの妹至上主義馬鹿兄様たちですか!」
「で、言語学というか、外国語は現在五ヵ国語が専門用語を交えても話せるんですよね」
「そうですけど。なんでクロノス様がそんなにわたくしの事を詳しいのです?」
「皇太子殿下が嬉しそうに話してましたよ」
「え⁉」
「皇太子殿下は、本当にアリスティア様の事を大事にしてますからね。アリスティア様ができる事が増えたから自慢したいんでしょうね。『俺の嫁はこんなに凄いんだぞ!』って」
「ちょ! クロノス様⁉ ななな、何を仰られますの⁉」
「ほう、クロノス。良くわかったな」
「え⁉ ルーカス様⁉」
「皇太子殿下!」
横から聞こえて来たのは、本来なら有り得べからざる声で。びっくりして横を見上げると、ルーカスがニヤリと笑った顔でそこにいた。
「ルーカス様、いつから聞いていらっしゃいましたの⁉」
「最初からだな。エルンストが皇族に対して態度が悪いとティアに噛み付いていたから、少々懲らしめようかと思っていたが。聞いていたらティアがいつもの辛辣さでバッサリ切り捨てていたからな。暫く聞いていた」
「趣味が悪いですわ、ルーカス様。こっそり盗み聞きなど、皇太子殿下がなさる事ではありませんわよ?」
「ティアに昔教わった『盗聴術』の魔術を使ったがダメだったか?」
「あれを使いましたの⁉ というか、小首を傾げないでくださいませ! 可愛いではありませんか!」
「こうするとティアがいつも可愛いと言ってくれるからな」
「殿下、大の男が可愛いと言われるの、なんとも思わないんですか⁉」
「ティアが言うのは構わない」
「さすが、アリスティア様至上主義ですね。砂糖吐きそうです」
「当然だろう? ティアは私の半身なのだぞ」
「ですよねー。いつも言ってますもんね」
「話が逸れてますわ! いつの間に盗聴の魔術を使えるようになりましたの⁉ あれ、わたくしのオリジナル魔術ですのに!」
「ティアのそばで見てたからな。覚えていたよ」
「覚えていたって……」
「当然だろう? 我は竜王だぞ?」
「そういえば、魔術チートでしたわね……」
「ティアがそれを言うのか? ミュルヒェ宮廷魔術師筆頭に聞いたぞ。戦略級超広範囲隕石雨の残弾が二五発になったそうだな?大陸を二五回滅ぼせるとか、どこまでティアの魔力量は増えるのかな?」
「誰のせいですか……」
思わず小さく呟いてしまったが、しっかりルーカスには届いていた様で、面白そうに口角が上がっていた。
「は⁉ 兄上、それは本当ですか⁉」
そこに、驚愕の声が割り込む。
「大陸を二五回滅ぼせる事か?」
「そ、そうです!」
エルンストは食い気味に聞いた。
「ティアの戦略級超広範囲隕石雨は、大陸全土を範囲に納められるそうだからな。海で直径二〇キロメートルを、位相結界で囲っての戦略級超広範囲隕石雨撃ち放題をやったら、結界内の海が沸騰しておったわ」
皇太子は、そう言って楽しそうに笑った。
「戦略級超広範囲隕石雨の撃ち放題……」
エルンストは真っ青になった。
「もう! ルーカス様! わたくしの計画を邪魔しないでくださいませ!」
「何かしようとしていたのか?」
アリスティアがルーカスに文句を言うと、また首を傾げた。
「実力で黙らせる為に、このクラスの全員を強制連行してオーサの海岸に転移するつもりでしたのよ。そしていつかの魔術無双を披露するつもりだったのに! 戦略級超広範囲隕石雨三段撃ちを見せれば黙ると思っていましたのに、ルーカス様が先に脅かすから、連れて行く意味がなくなりましたわ!」
「なんだ、ティア。そんな事か」
皇太子がニコリと笑うと、教室内に押し殺した黄色い悲鳴があちこちから聞こえた。
「そんな事、ですか? 実力で黙らせた方が、後々簡単ですのに?」
「ああ、すまん、ティア。そういう意味ではない。それなら全生徒を連れて行けば良い、と思うてな。転移は我がやる。今なら二百人までなら余裕だぞ」
「でん、皇太子殿下、全生徒なんて無茶ですよ」
控えめに、クロノスが口を挟む。つい、殿下、と言いかけて、ここには殿下が二人だった、と気がついて慌てて言い換えた。
「二年前に、百十六人の大転移を行った時は、六カ国を転移した後だったからな。だから疲れたが、今日はまだ校庭から理事長室までしか転移しておらぬ。三クラスを対象範囲指定すれば、集まる必要もない」
「ああ、なるほど。範囲指定をすればいいのですわね。結界の範囲指定みたいな感じ?」
「そうだ。さすが、ティアは飲み込みが早い。さすが我が半身」
「抱っこはやめてくださいまし‼」
皇太子がアリスティアをヒョイ、と左腕に座らせた為に、また教室内に圧し殺した黄色い歓声が響く。
「なぜ?」
「恥ずかしいからです!」
アリスティアは抵抗を試みた。もちろん、その抵抗はあっさり破られる。
「慣れろ。竜は半身を囲う生き物だと申したではないか」
楽しそうに笑うルーカスに、アリスティアは頭を抱えたくなった。
「兄上、竜、とは」
「二年前、公表したであろう? 我は竜王の転生体だった、と。ああ、そなたは馬鹿なマネはしてくれるなよ? リオネラの二の舞にはしたくない」
その言葉で、エルンストは理解した。二年前、突然姉が廃皇女となりどこかへ消えた件に、目の前の兄、皇太子が関わっていると。
知らず、体が震えた。
逆らってはいけない。
「もう! 皇太子殿下! 弟君を脅かすのはおやめなさいませ!」
「エルンストはそなたを明らかに侮っていたではないか」
「その程度でわたくしが泣くとでも?」
「泣かぬな。むしろティアならば、相手を泣かす勢いで毒を吐くな」
くつくつと笑うルーカスが、目の前の少女には優しげな目を向ける事が信じられず、少女もまた兄を、竜王を恐れずに口をきく事に戸惑う。
「ああ、そう言えばティア。灌漑用水路の件だがな、とりあえず第四城郭内の分は予算が降りた」
「財務省の怠慢ですわね。昨年度の税収なら、第三城郭内の分までは予算を組めるはずですわ。灌漑用水路とはいえ、畑用だけではなく、大雨被害の軽減用ですわよ? 民が苦境に陥らずに済むというのに!」
教室内がギョッとした空気に覆われる。
エルンストは、目の前の少女が何を言っているのか理解できなかった。なぜこんな少女が、税収の事をわかっているのか。
「大雨被害なら、我が天候を操作すれば済む」
そこに落とされた、ルーカスの言葉に、教室内には驚愕で息を飲む微かな音が満ちた。
「皇太子殿下。アリスティア様はそういう事じゃない、と言いたそうな顔してますよ。皇太子殿下が天候操作で大雨の被害軽減に努めても、それは長期で考えると国の為には決してなりません。生活基盤を整えないと、国が、民の生活が良くならない。だって皇太子殿下は、永遠にこの国の守護をするつもりはないでしょ?」
「さすがだな、クロノス。帝王学を受けていただけはある」
「やめてください。むしろ皇太子殿下のおかげですからね」
「ティアのおかげだろう? ティアを負かす為に猛勉強してたではないか」
「でも次席だったんでしょ?」
「総合で五〇点差だな」
「妃教育と同程度の教育を受けて、たった二年で追いつかれるとか、自信をなくしますわ。わたくしの七年の努力は何だったのか、と思いますわよ」
「私は二歳も年下の一〇歳の女の子に負けてるのが悔しいですよ」
驚愕の事実が多すぎて、教室内は静寂に包まれる。
一〇歳、と言ったか。
ではこの少女は、自分よりも三歳も年下で、皇太子補佐官で、政策を立案し、民の為の政策を施せるのか。
「ティアはむしろ頑張り過ぎだ。普通、皇太子妃教育は、成人までかけて施されるのに、既に教える事はないどころか、外国語を五ヵ国語も習得する始末だ。普通はな、母国語を含めても三ヵ国語のみだ。ティアは母国語を除く五ヵ国語だからな?」
「だって楽しいんですもの。ギフトのお陰で、言葉を覚えるのが早いから」
「言語の祝福か。色々と合点の行く事があるのは事実だな」
「それよりも、先生が困ってますから、おろしてくださいませ、皇太子殿下?」
「仕方ないな。今日はもうすぐ終わりだろうから、少し待つか」
そう言うと、皇太子はアリスティアをやっとおろした。
「邪魔になってますから、教室の外に出てくださいませ、理事長?」
「後ろで待つ」
「 教 室 の 外 に 出 て く だ さ い ま せ 」
「ぐ。わかった、外で待つ」
皇太子は、渋々教室から出て行った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m





