第61話 学園始動①
あっさり2年が過ぎました。
アリスティアは一〇歳になった。
この二年の間に、変わった事がいくつかある。
まず、身長が伸び、平均より高くなった。体重は平均だから、スラッとしている、という表現がピッタリになった。
それから先日、アリスティアの肩書の一つが、特級魔術師から戦略的魔術師に変わった。
改変魔術の戦略級超広範囲隕石雨をストレス発散の為に、海岸で撃ち捲っていたのがバレて、ミュルヒェ宮廷魔術師筆頭から「特級魔術師の範疇を超えてるから」と言われ、名付けられた。
もう一つの肩書も、皇太子補佐官見習いから皇太子補佐官に変わった。
「ティアは政策立案能力が充分あるからな」
とは皇太子の言である。
能力が認められたのは素直に嬉しかった。
アリスティアが補佐官見習いから補佐官にランクアップしたのと同時に、クロノスも見習いから補佐官にランクアップした。
「私もやっと一人前か」
とクロノスは淡々と言っていた。
そのクロノスも、この二年で身長が伸び、アリスティアよりも頭一つ分高くなり、中性的だった容貌は、誰が見ても少年と言える顔つきになった。声変わりも始まっており、かすれ声になっていて、非常に喋りにくそうだ。十二歳になって反抗期に入ったのか、やたらと周りに反発している。すぐに口で潰されるが。
反抗期ではあっても、皇太子の言うことは素直に聞く。そして、皇太子に言われて、何やら二年前から教師を付けられて猛勉強をしていた。時折、アリスティアと一緒に、ルーカスから勉強の進捗確認の為の質問を受けていた。
皇太子と、エルナード、クリストファーは、揃って二〇歳になった。
ルーカスは時々、竜の国の近衛師団の訓練に参加しており、そのお陰なのか、しなやかな筋肉が全身に付き、以前よりも逞しくなった。
エルナードとクリストファーは、こちらも時々、近衛騎士団の訓練に参加している。皇太子の側近として剣の腕も磨き、有事の際は皇太子を庇いつつ闘う必要がある。
立派な建前である。
なんと言ってもルーカスは竜王なのだ。地上最強の存在である。その上、竜の国で鍛錬し、剣の腕も上達し、魔術は指を鳴らすだけで発動するチートぶりである。
竜人の専属護衛もついているが、竜王という存在は竜の中で最強なので、護衛よりも強い。それでも専属護衛は必要だからと、つけられている。
エルナードとクリストファーも、以前より筋肉がついてきており、逞しくなっている。剣の腕もこの二年で相当伸びたようだし、顔つきもなんだか精悍になっているようだ。
もっとも、いくら顔つきが精悍になっても、相変わらずの妹至上主義である。逞しさ、精悍さを全て行動が台無しにしている。残念美形は変わらずだった。
「クロノス、ティア」
ある日、ルーカスにより二人が呼ばれた。
また勉強の進捗確認かと思って素直に返事をしたら、そうではなかった。
「二人とも、一ヶ月後に開学する国立クラリス学園高等科への通学が決まった」
「え⁉ クラリス学園⁉ その名前で確定ですの⁉ というか、なぜ高等科ですの⁉」
告げられた内容に驚愕のアリスティアである。
「学園名は、アリス学園との二択だっただろう?」
「どちらも却下して、皇都名を付け」
「教師陣に質問調査を取った結果だ」
「アリスティア様だけならともかく、私も高等科に通学ってどうしてですか?」
クロノスがかすれ声で不思議そうに尋ねた。
「まずはティアの通学理由だが、はっきり言ってティアは既に高等科すら飛び級出来る学力がある。妃教育を受けているからな」
「でしたらわざわざ通学しなくても」
「理由はな、高等科は高位貴族の子息子女が必ず通う学園、という社会的地位確立の為だ。ティアは『皇太子の婚約者』であるからな。一期生として通って貰わねばならぬ。私が推進している施策だからな」
「アリスティア様の通学理由はわかりましたが、私の通学理由にはなり得ませんよね?」
クロノスが小首を傾げて聞く。
「ティアの護衛だ」
「は⁉」
「ティアは、将来の皇太子妃だ。誰か信頼出来る者がごく近くで護衛できる様に一緒に通わねばならんが、私もエルナードもクリストファーもダリアも、対象年齢より過ぎている。カテリーナとユージェニアにも教師を付けて勉強させていたが、先日行った試験で合格したのはティアとクロノスだけだった」
「あの時の試験が選抜試験だったんですか⁉」
「そうだ。クラスは二人一緒にしたからな。クロノスには、ティアの護衛をして貰う。護衛というより虫除けだがな」
「虫除け?」
「先程も言ったように、ティアは将来の皇太子妃だ。取り入って気に入られよう、あわよくば取り立てて貰おう、として近づく輩は多いからな。
あと、もう一つ問題があるが、入学後にならんと問題かどうか判断がつかぬ。
だからクロノスにはティアの近くにいて警戒して貰わねばならん」
「それは命令ですか?」
「不服か?」
「……不服という訳では……」
「不服そうだな。では言い換える。クロノス・タイラ・ナイジェル。皇太子ルーカス・ネイザー・ヴァルナー・セル・フォルスターが命ずる。アリスティア・クラリス・セラ・バークランドのクラリス学園内での護衛をせよ」
「っ! 御意!」
皇太子名を以ての命令に、クロノスは即座に跪いた。
「ティアとクロノスは飛び級だが、二人とも試験結果は上々でな。ティアが首席、クロノスが次席だったぞ。二人とも、よく頑張ったな。」
皇太子は柔らかく微笑み、アリスティアの頭を撫でた。
「ありがとう存じます、ルーカス様。褒めてもらえて嬉しいですわ」
アリスティアも素直に気持ちを表す。
「ありがとうございます、殿下」
クロノスはあまり嬉しそうにはしていないが、耳はほんのり色づいているから、本当は嬉しい事がアリスティアにはわかった。
「今日は仕立て屋が採寸に来る。二人とも、執務よりそちらを優先していいぞ」
「わかりましたわ」
☆☆☆☆
学園入学の準備に日々が過ぎていき、あっと言う間に入学式の日がやってきた。
それは麗らかな春の日で、アリスティアは日本との共通点を不思議に思った。
女子の制服は、グレーのブレザー、下には白いブラウス。リボンタイは学年別になっており、一年生は臙脂色。二年生はスカイブルー、三年生はエメラルドグリーンに決まっていた。
スカートは膝下丈のタータンチェックで、グリーン地に黒くチェックが入っている。脚には白い膝上丈のロングソックス。淑女は素足を見せてはいけないからだ。
男子の制服は、グレーのブレザー、水色のワイシャツ。タイのカラーと、タータンチェックのトラウザーズの色合いは女子と同じ。
その制服を着たアリスティアとクロノスは、クラリス学園高等科の校庭で目立ちまくっていた。
主に、皇太子と双子の兄達のせいである。
「ルーカス様。なぜ一緒に登校なさいますの?」
「我がこの学園の理事長だからな」
「聞いてませんわよ⁉」
「今言ったからな。ティア、今日は新入生代表で挨拶だ。ティアなら大丈夫だ、気負わずに行け」
「直前で言わないでくださいまし……」
なぜ直前になって無茶振りするのか、小一時間問い詰めたい。いや、直前と言ってもまだ一時間くらいあるから、余裕はあるのだけれど。
どう挨拶しようか頭をフル回転させているのに。
「アリス、変な奴に絡まれたらお兄様に言いなさい。潰して上げますからね」とエルナード。
「アリス、クロノスを盾にしていいからな?」とクリストファー。
「なにサラッと鬼畜発言してるんですか、クリストファー様!」
「だってクロノスはアリスの警護役だろう? だったら盾にならんでどうするんだ?」
「アリスに絡む変態は、盾ではなくて矛になって攻撃していいですからね」
「エルナード様はエルナード様で随分と外道ですね」
「一番の変態は、妹至上主義の兄様たちではありませんか! いい加減、すりすりするのはやめてくださいませ。ルーカス様、撫で直しを要求しますわ!」
「ティアが望むならいくらでも。お前ら、いい加減、ティアから離れろ」
「安定の辛辣なアリスに、お兄様は嬉しいですよ。しかし殿下の横暴!」
「アリスの塩対応は私達の活力とは言え、殿下にいいところを持って行かれるのは癪だな」
「ティアがお前らの過剰な愛を嫌がっているとなぜわからぬ。ティア、おいで。髪が乱れてるから、理事長室で整えてからだな。侍女たちを呼ぼう」
「癪ですが、アリスが髪を整えている間は、私達が理事長室の前で見張りをしておきますよ」
「もの凄く癪だけど、アリスの晴れ舞台の為だからな。もの凄く癪だが」
「重畳」
そうルーカスが発言し、指をパチンと鳴らすといきなり理事長室に転移した。
「エルナード、クリストファー。外で見張りを頼む。お前もだ、クロノス」
「「「御意」」」
おとなしく三人は出て行った。
ルーカスは再度指を鳴らす。パチンと音がすると、アリスティアの専属侍女のマリアが現れた。
「すまんが、ティアの髪が兄達のせいで乱れた。整えてやってくれ」
「かしこまりましたわ。アリスティア様、椅子にお座りくださいませ」
マリアが理事長の椅子に促す。
理事長はルーカスだと言うなら座っても大丈夫だろうと、遠慮なく座った。
テキパキとマリアが髪を結い直す。
複雑な編込みヘアが出来上がる。
今日つけていたコームを刺し直すと、髪の毛が華やいだ雰囲気になった。
「ふむ。今日も可愛いぞ、ティア」
ルーカスが近づいて来て、こめかみに軽くキスを落とす。
「ありがとうございますわ、ルーカス様」
「マリア、大儀だった。エルゼ宮に転移させる」
「勿体無いお言葉。御意にございます」
そう言って、竜人侍女のマリアが深く頭を垂れた。
パチン、と指の音が響くとマリアの姿は消えていた。
そして、外で控えていたエルナードたち三人が呼ばれる。
「講堂前まで行くぞ」
「わかりましたわ」
パチン。またも響く指の音。
アリスティアはルーカスたちとともに講堂の前に転移していた。
たまたま居合わせた生徒たちが驚く。
「失礼いたしましたわ」
カーテシーをしようとしてルーカスに止められる。
「ティア、略式で良い」
「ですがルーカス殿下」
「ここは学園。いちいち正式礼をしていたら時間がなくなるぞ?」
「確かにそうですわね。では」
納得したアリスティアは、軽く会釈した。角度は三〇度。
居合わせて驚愕していた生徒たちも、呆然としていたが、アリスティアの会釈を受けて、慌てて同様に会釈してきた。
「ではティア。首席の挨拶の時にな」
「わたくしが挨拶するだけですわよ? ルーカス殿下は聞いているだけですわよね?」
「まあ、そうだが」
何やら濁される。
それでも、問い詰める時間もないので、疑問に思いつつ講堂に入ると、クロノスがクラスの場所を教えてきた。
「クロノス様、ありがとうございますわ」
「予め位置は確認しておきましたからね。それよりアリスティア様。同じクラスに、第二皇子のエルンスト殿下がいらっしゃいます」
「エルンスト殿下が?」
「はい。ですからお気をつけて」
何を気をつけるのだろう?
アリスティアは更なる疑問を抱えつつ、クラスの列の最前列まで進んだ。首席の挨拶があるなら、最前列に居ておかないといけない。
「子供がなぜここにいる?」
最前列に並ぼうとした時。
クロノスの注意の意味がわかった。
「第二皇子殿下、これから式典が始まりますので、ご挨拶は後ほど。ご無礼をお許しくださいませ。質問への答えは、わたくしが飛び級で入学したからですわ」
「飛び級?」
「はい」
「兄上の権力を使ってか?」
この一言で理解した。
エルンスト第二皇子は、どうしてもアリスティアを貶めたいのだと。
「今は時間がありませんから、その様な些事は後になさいませ」
つい苛ついて、ピシャリと切り捨ててしまった。エルンスト第二皇子が怯む気配がした。その隙に最前列、エルンスト第二皇子の前に出る。クロノスも隣に立つ。
目の前にある、壇上に目を向ける。
やがて、入学式が始まった。
壇上では、来賓の挨拶が続いている。壇上の奥には椅子が持ち込まれ、そこに皇太子ルーカス、宰相の父アーノルド、二年前に新たに組織された教育を司る礼部省長官ビスマルク他、数人が座っていた。
そして、皇太子ルーカスの順番が来た。
式台の後ろに、ルーカスが立つ。
講堂に広がるため息の音。おそらくは女子生徒のものか。
「我はこのクラリス学園の理事長になる、ルーカス・ネイザー・ヴァルナー・セル・フォルスター。皇太子だ」
拡声魔術により、挨拶は講堂中に聞こえる。
「クラリス学園への入学、おめでとう。三年間、よく学び、人脈を広げよ。貴族は社交界に、平民は社会に出た後に、ここで築いた人脈が糧となる。我からは以上だ。
続いて、アリスティア・クラリス・セラ・バークランド、壇上へ。生徒を代表して首席の挨拶をせよ」
名前を呼ばれて、アリスティアは列から出る。壇の横に向かって歩き、階段を登る。
講堂内に微かなざわめきが広がっていた。
まっすぐ演台に向かう。ルーカスが微笑みながらアリスティアを見ていた。
演台の後ろに立つ。
拡声魔術を無詠唱で発動する。
「ご紹介に預かりました、アリスティア・クラリス・セラ・バークランドでございます。この度、首席挨拶を申し付けられました。わたくしたち、入学した生徒は、この学び舎で充分に学び、卒業の暁には国のお役に立てるよう、精進いたします」
ルーカスに向き直り、最敬礼をする。
アリスティアがゆっくりと顔を上げると。
いきなり肩を抱えられた。
驚愕する。
「アリスティア・クラリス・セラ・バークランドは、我が婚約者。この教育制度の発案者でもあり、皇太子補佐官だ」
講堂内に驚愕の空気が広がる。
「彼女を侮る事は、皇太子を侮る事と同義」
覇気が広がる。
同時に、生徒の動揺も広がる。
突然の事に、来賓は戸惑っていた。
「皇太子殿下! 覇気は収め……むぐっ」
小さく注意しようとしたが、途中で口を手で塞がれる。
「アリスティアは、真実、実力で首席になった。なんの誤魔化しも行ってはおらぬ」
その金色の瞳はまっすぐに、弟の第二皇子に向いていた。
「飛び級した者はもう一人いる。私は才能のある者が好きだ。努力する者が好きだ。飛び級した者達は、努力してその地位を手に入れた。努力する者を侮る事、苛む事は許さぬ。心得よ」
皇太子はそのまま全体をその金色の目で睥睨する。
跪いていないという事は、覇気はそれほど強くないと言うことか。
しかし、全体的に驚愕の色が強い。
「今日の入学式はこれで終了とする。教室に帰って良い」
そう言うと、ルーカスはアリスティアの肩から手を離した。
講堂内は、生徒が教室に戻る為に、平民クラスから流れていく。
ルーカスはまだ残っている高位貴族クラスの列を、苛烈な目で見ていた。
「ルーカス様。なぜあの様な事を。わたくしがルーカス様の婚約者である事と、皇太子補佐官である事は、話す必要はございませんわ」
アリスティアがそう言うと、ルーカスは視線をアリスティアに戻した。
「いや、エルンストがティアを侮り蔑もうとしていたからな」
「兄弟喧嘩をここでしなくとも」
「エルンストの派閥ごと黙らせる必要があった。とは言え、彼奴には将来、我の跡を継いで皇王になって貰わねばならぬ。最初だけ叩き、三年で性格の矯正をせねばならぬのだ。頭が痛いがな。なぜこの皇族は性格が悪い者が多いのだ」
ため息を吐くルーカスとは珍しい。
まじまじと見てしまう。
「性格の矯正などできますかしら?」
「できるか、ではなく、やって貰わねばならんのだよ。ティア、任せる」
「え⁉ わたくしが、ですか⁉」
「ティアならできる。さあ、もう列に戻れ」
そう無責任に言い、ルーカスはこめかみに軽くキスした。
途端に、抑えた感じではあるが、黄色い悲鳴が漏れ聞こえた。まだ残っている、下位貴族クラスと高位貴族クラスの女生徒だろうか。
「ななな、何をなさいますの、ルーカス殿下⁉ 大勢が見ておりましてよ⁉」
「婚約者にキスするのはおかしくあるまい?」
そう言って、ニヤリと笑い、そのまま踵を返し、壇上の来賓席に向かう。
取り残されたアリスティアは、動揺でバクバク言っている心臓を抑え、クラスの列に向かって戻る羽目になった。
「アリスティア様、お帰りなさい。ルーカス殿下、初日から飛ばしてましたね」
「あの方は人間の常識を蹴飛ばすから」
半目になってそう言うと。
「それ、アリスティア様が言います? 戦略的魔術師のアリスティア様が」
呆れた様にクロノスに返された。
「アリスティア様、この前また魔力量が増えて、戦略級超広範囲隕石雨の残弾が、ニ五発になったんでしょ? 戦略的広範囲隕石落としだと、確か残弾五〇発?」
周囲がギョッとする気配がした。
「ミュルヒェ宮廷魔術師筆頭にバラしたのはクロノス様ですわね? お陰で戦略的魔術師なんて変な呼び名をつけられましたわ」
「宮廷魔術師筆頭の三〇倍以上の魔力量になったアリスティア様が悪いですね」
「仕方ありませんでしょう⁉ 気がついたら増えてたんですもの!」
「その有り余る魔力を使って、学園に結界を張ってくださいよ」
「とうに張ってありますわよ。
魔術反射、
物理攻撃反射、
呪詛無効、
即死無効、
状態異常無効
の五重結界ですわ。
状態異常無効の効果は、
毒無効、
催眠無効、
暗闇無効
麻痺無効
ですわ」
「アリスティア様の結界は、相変わらずえげつないですね。それ、皇王陛下にもかけて差し上げてもいいと思いますが?」
「皇王陛下にも皇妃殿下にも、ついでに皇太子殿下とエル兄様とクリス兄様とクロノス様と、ダリアとカテリーナとユージェニアと、皇太子殿下の専属護衛の二名と自分にもかけてますわ」
「え⁉ 十二名にかけてるの⁉ その上更に学園にもかけたの⁉」
「かけましたわ。今の学園なら、特級魔術も反射しますわよ?」
「えげつない……。というか、陛下と皇妃殿下へはいつかけたのさ⁉」
「一ヶ月前の晩に、寝る前に。会わなくても結界くらいかけられますわ」
「アリスティア様、それ、筆頭魔術師でも無理ですからね⁉」
「そうですの?」
簡単なのに、と言ったらクロノスが半眼になった。
「ちょっと待て、アリスティア・クラリス・セラ・バークランド。貴様、戦略的魔術師だと⁉ そんな名称など聞いた事がないぞ⁉」
「先日、ミュルヒェ宮廷魔術師筆頭から付けられたばかりですから」
「その筆頭魔術師の魔力量の三〇倍だと⁉」
「多分、四〇倍はあると思いますわ」
「お前、人間か⁉」
「エルンスト殿下。貴方も大概失礼ですわね。わたくし、人間をやめた覚えもやめる予定もありませんわよ?」
「アリスティア様!」
「クロノス様、ご心配なさらず。実力で黙らせよ、とルーカス殿下に言われましたの」
「あー。なるほど。地獄の開幕か」
「ええ。後で、クラスごとオーサの海岸にご招待、ですわ」
「アリスティア様の魔力量なら、三〇人の転移も平気なんですね」
「わたくしなんかまだまだですわよ? ルーカス殿下は百十六人の大転移をした事がありますもの」
「あー、あの時ね。ルーカス殿下も大概、人間離れしてますもんね」
「そりゃねぇ」
つい遠い目をしてしまう。
人間をやめてるとか、竜だとか、竜王だとか、わざわざ公言するような事でもない。
「貴様、俺を無視するな!」
「エルンスト殿下。煩いですわよ」
アリスティアの言い方に、周囲がギョッとする。
「今は、エルンスト殿下も一学生ですわ。集団行動を学ばれる機会ですわよ。皇子殿下でも学生のうちは学内での権力を抑制されますの。速やかに規律ある行動をお願い致しますわ」
「生意気な!」
「生意気で結構です。わたくしは、教育要項精査会議で決めた事を守るし守らせる事が肝要と心得ますので」
冷ややかにアリスティアが告げる。
「今は、教室に戻る時間ですわよ」
慌てて、エルンスト第二皇子が歩きだす。
それに続きながら、アリスティアはため息を吐いた。面倒を押し付けられた、と。
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