第60話 公爵令嬢のイタズラ
2019年9月23日改稿。
❍体裁を整え、一人称から三人称に変更。
❍増加文字数が100くらいで収まった!(^^♪
❍ルーカス視点➞☆で区切ったあとアリスティア視点➞☆で区切ったあとルーカス視点➞☆で区切ったあとアリスティア視点、と変わります。
エルゼ宮に転移し、寝室にアリスティアを連れて行って寝間着に着替えさせ、枕をたくさんベットヘッドボードに並べて寝かせたあと、自分もベッドに入りアリスティアを抱き締める。
アリスティアは無意識ながらルーカスにしがみつき、"安心"を求めていた。
背中を撫でて、落ち着かせる。
暫くそうしていたら、医師のアルドリクが連れてこられた。
「アルドリク、ティアがまたフラッシュバックを起こしかけた。異変を感じて即座に魔術で眠らせた」
「原因はおわかりですか?」
「ティアが五歳の時に求婚した男が、上申書を携えて皇太子執務室に来た。求婚自体は、ティアが当時即座に断っていたがな。今回、戸惑っているティアを、ティアが嫌がっていた言い方で、また口説きかけた。その後、ティアの様子がおかしくなった。それが誘因となった可能性が大きい。もちろん、その男は出入り禁止を言い渡した」
「なるほど。仕事であれば、確かに私情で排斥もできませんな。その結果のフラッシュバック引き起こしですか。では診察を行いましょう」
竜王はアリスティアを離そうとしたが、アリスティアがしがみついて離れなかったので、そのままでの診察になった。
診察は、肉体的な診察もあるが、魔術的なものもある。その結果。
「殿下。眠らせたのはちとまずかったかもしれませぬ」
「なんだと?」
「悪夢に入りかけているか、既に入っているかです。心音が異常に早いですね。更に冷や汗が出ております。できれば早く起こして差し上げた方がよろしいでしょう」
「よかれと思ったのだが、この方法はまずかったか」
そう言いながら、ルーカスはアリスティアの頭に手を乗せて、眠りを覚ました。
「ティア」
アリスティアの目が開く。その目は不安の色が濃い。
「あ。ルーカス、さま」
「まだ良く目覚めていないかな? 夢は見たか?」
「ゆめ……薄暗い部屋で……大きいベッドで……あれは……男のひとが……怖かった……」
目に涙が溜まる。それを拭ってやり、ルーカスは優しく言い聞かせる。
「大丈夫。ティアのそばにはいつでも我がいる。大丈夫。この次こそ必ず守る。大丈夫。そばにいるから」
「ルーカスさま」
ぽろぽろと涙を零しながら、アリスティアがしがみついて来た。それを優しく抱き締める。ぽんぽんと背中を優しくあやすように叩く。
心音が聞こえる位置に、アリスティアの頭を寄せ、音を聞かせるように包んだ。
「アルドリク。この前の薬草茶だが、定期的に飲めないのか?」
「あまり飲みすぎるのも効果が高すぎて毒になり得るのです。なので、一日三杯までが限度ですな。食後に飲むのが一番でしょう」
「なるほど。ではティアには一日三杯まで飲ませよう」
「無くなりそうなら仰ってください。用意しますので」
「ああ。その時は頼む」
「勿体無いお言葉」
アルドリクは、ベッド脇を辞して帰って行った。
ルーカスは、まだ怖がって泣いているアリスティアを宥めながら、優しく抱きしめて心音を聞かせ続けていた。こんな様子を見ていると、やはりまだ子供なのだと、守らねばならぬと思わされる。貴族や皇族は、基本的に幼い子供でも夜は私室で一人で寝かされる。本当に幼いうちは、乳母が寝るまでそばにいるが、添い寝などしないものだ。だからなのか、添い寝当初のアリスティアは戸惑っていたのだが、一人で寝ると悪夢に苛まれて眠る事ができない以上、安心出来るルーカスの腕の中で眠る事をいつしか受け入れていた。
ルーカスの落着いた心音を聞いていたアリスティアは、いつの間にか眠ったようだった。
☆☆☆☆☆
アリスティアが起きた時、ルーカスはアリスティアを抱きしめて眠っていた。
心臓に近い胸に頭を押し当てられていたので、ちょっとびっくりしたけれど、聞こえてくるトクン、トクン、という緩やかな音は、非常に落ち着くリズムで、うっかりまた寝てしまいそうだった。
それでもルーカスの心音を聞いていると、安心感が更に増してくるのだから、魔性の心音である。
アリスティアは、ルーカスの胸から頭を離し、ルーカスの顔を見上げた。
いつ見ても綺麗な顔である。
まつ毛も長く、髪色と同じ黒で、眉毛は細く弧を描いている。
綺麗だけど男性的な顔立ちなので、女装はきっと似合わないだろう。などと、変な事を考えていたが、ずっと見てても目を覚ます事がなく、おや?と思い始めた。
そっと腕を伸ばし、目にかかりそうに落ちて来ている前髪をそっとどけてみるも、まだ起きないのだから、珍しく熟睡しているらしい。
どうしようかしら、と考えるのだが、ルーカスの腕はしっかりアリスティアを抱きしめているために、その腕の中から逃れる事はできない。
ふと、いたずらしたくなり、指で高い鼻筋を辿ってみる。そっと撫でてもまだ起きない。
次に、そっと、閉じている瞼を撫でてみた。けれどもまだ起きない。どこまで深く寝ているのだろう、と思うが、こんなチャンスは滅多にないのだから、少しくらいいたずらしても構わないだろう、とばかりに、次は薄い唇を指でなぞってみた。でもまだ起きない。なんだか楽しくなってきた。
次は──ほっぺかな、と頬に掌を当てて「綺麗よね、いつ見ても」などと呟きながら撫で始めたら。
突然、自分の手が大きな手にすっぽりと包まれて、心臓がドキン!と跳ねた。
「ひゃうっ!」
驚きすぎて、変な上ずった悲鳴が出て来た。
と同時に、皇太子の瞼が開き、金色の瞳が現れ、自分を呆れた様に見つめた。
「おはよう、ティア。さっきから何をしているのかな?」
「さささ、さっきから、って、いつから起きていましたの!?」
驚きすぎて噛んでしまう。
一体、本当にいつから起きていたのだろうか。冷や汗が出てくる。心臓がドキドキと早く鼓動しており。
頬に当てている掌はルーカスに囚われていて、誤魔化しようがない。
「ティアが、私の瞼を撫でた時から、かな」
「そそそ、それってほぼ最初の方ではありませんか! なぜすぐに目を開けてくださいませんでしたの⁉」
「ティア。私が、我が先に質問をしていたのだが? 何を、していたのかな?」
ルーカスが笑みを深くし、視線に少しだけ威圧を込めてきた。そして一人称の変化。
「る、ルーカス様のお顔が、あまりにも綺麗で──少々、イタズラを、してみたく、なったのですわ」
短く区切る様になってしまったのは、ルーカスの視線に込められた少々の威圧のせいではなく、その深い笑みで見つめられる事が居たたまれないせいである。
そしてアリスティアがイタズラを吐かされたと同時に。
ルーカスがアリスティアの手を覆っていた手で掴んで離し、それを口元に持って行き、掌にそっと口付けた。
あまりの事に体が固まる。
悲鳴すら出る暇がなかった。
けれども、甘くていい匂いがして。
くらりと頭が痺れて。
「お返しだ、ティア。これでおあいこだな」
そう言って、ルーカスは目を細め、アリスティアの手を離した。
その瞬間に、匂いは爽やかなものに変わり、安心感に包まれた。
途端にフリーズが解ける。
「ルーカス様の意地悪!」
それでも衝撃から涙目になってしまう。
ルーカスはくつくつと笑っていた。
☆☆☆☆
何かが顔に当たる気配がして、眠りの海から急激に意識が浮上した。
感じたのは危険なものではなく、小さな指。
その指はそっと、躊躇うように瞼を撫でている。
アリスティアだというのは意識が急速浮上した瞬間にわかっていた。ただ、何が目的かわからなくて、そのまましたいようにさせていたのだが。
次に触れて来たのはルーカスの唇だった。ゆっくりなぞっている。
ドキリとした。
体の奥底に熱が灯る。
甘くていい匂いが漂う。
なぜ、と思う。
まだティアは、恋とか愛とか情動とかを理解していない。それなのに何故だ?
上唇から今度は下唇に指が移る。
どうしようもなく、煽られる。
おそらく何も考えずに行われているこの行動が、雄を煽るものだとは理解していないだろう。
パキリ、と何かに皹が入るような音が聞こえた、気がした。
唇から指が離れてホッとしたのも束の間、次は小さな掌が頬に当てられた。その掌はゆっくりと撫でる。
「綺麗よね、いつ見ても」
そんな言葉を吐いているが。
これ以上煽らないでくれ、と願う。
しかし、体の奥底に灯る熱が大きくなり始める。
危険だ。これはまずい。
頭の中はそんな言葉が渦巻くが、熱は急速に大きくなり始め──封印に大きく皹が入った瞬間、焦って再封印を施した。
ルーカスはアリスティアの手を己の手で覆い、逃さないように力を入れた。
「ひゃうっ!」
上ずった可愛い悲鳴が漏れたのを聞き、ゆっくりと目を開けた。
先程から何をしているのかと問えば。
質問に質問ではぐらかす。
一度目は答えたけれど、二度目に答える義理はない。
もう一度、何をしているのかと威圧を込めた目で問えば。
「る、ルーカス様のお顔が、あまりにも綺麗で──少々、イタズラを、してみたく、なったのですわ」
なぜか変に区切る言い方で理由を告げられた。
理由を聞いて密かにため息を吐く。
だから、お仕置きとして、アリスティアの手を口元まで持って行き、そっとその掌に口付けた。
アリスティアは見事に固まった。
掌への口付けは、懇願。自分のものになって欲しい、と言う意味がある。
そんな意味などアリスティアは知らないだろうが、ルーカスにはそれでも良かった。
「お返しだ、ティア。これでおあいこだな」
そう言って目を細めて笑うとやっと動き出し。
みるみるうちに涙目になり。
「ルーカス様の意地悪!」
そう叫んでむくれてしまった。
それさえ可愛くて、くつくつと笑っていた。
危なかった、と冷や汗が出る。
まさか本性に施した封印が解けかけるほど、情動が大きくなるとは思わなかった。
半身からの煽りのせいだろう。
問題は、彼女はあの一連の行動を煽っているとは思ってもいない事だろう。
ため息が出る。
あのままだと封印が解けて、雄の本能のままに行動してしまいかねなかった。
それほど、彼女からの柔らかな触り方はどうしようもなく煽られた。
細い指が躊躇いがちに瞼に触れる。ジリジリした刺激が心地よかった。
細い指がそっと唇をなぞる。ピリピリした刺激にもっと触れてほしいと思った。
小さな掌が大胆に頬に触れて撫でる。温かなぬくもりには離れて欲しくなかった。
すべてに煽られ、体の奥底に熱が溜まっていった。
何度目かわからないため息が出る。
アリスティアには、むやみに顔に触れてはいけないと教えなければ。
ため息を吐きつつ、ルーカスは、この後すぐに行動せねばと思うのだった。
☆☆☆☆
ルーカスの意地悪にむくれていたアリスティアだったが。
「ティア。いくらイタズラしたくなったからと言って、雄の顔や首にやたらに触れてはいけないのだよ。
ティアは前世での人生経験があるから理解できるだろうが、雄の、男の顔に、特に唇に触れるというのは誘っているのと同じ事だ。雄の本能が煽られて情欲の衝動に駆られ、襲われても仕方ない行動なのだから気をつけねばならないぞ」
こんこんと説明兼説教されると、確かに自分が悪かったのだと理解できて。
そして同時に、何という事をしてしまったのかと羞恥に震えた。後悔先に立たずである。
ごめんなさい、と謝ったら、ルーカスは優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
ルーカスはいつも優しい。
昔はもっと激しかったけれど、最近はずっと優しくて、安心出来る。寝る時に腕に抱えられるとぐっすり眠れる。イヤな夢も見ないから、ルーカスがいないと眠れない。
やっぱりダメ人間になってる気がするアリスティアだった。
つい出来心でイタズラしちゃったアリスティアです。
ルーカス様がヤバい事になってましたが、アリスティアは気がついてません。
前世の知識があるのに、体に精神が引きずられてしまって、そっち方面が疎くなってます。
ここまで読んで下さりありがとうございます!





