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第59話 襲来、再び

2019年9月22日改稿。

❍冒頭のアリスティア視点はそのまま、☆で区切った後は、全面オスカー視点に変更。

❍混在していたアリスティア視点とルーカス視点を削除。

❍若干の加筆修正。

削除した部分が多いのに、300文字ほど増えました^^;

 

 

 竜化したルーカスに乗って、成層圏まで行って、この世界の星を見て。

 楽しくて、素晴らしい時間を過ごしたアリスティアは、ストレス発散した後という事もあり、発散が足りなかった分もすっかりストレス解消ができていた。

 楽しくて嬉しくて、やっぱり竜王(ルーカス)の首に抱きついたアリスティアだったが、ルーカスはなぜか慌てていた。

 それでも邪険にされる事もなく、楽しい時間を過ごした二人は、オーサの海岸でルーカスが竜化を解き、皇太子執務室に戻ったのだった。




☆☆☆☆☆



「……ルーカス様」

「なんだ、ティア?」

「……なぜこの方がいらっしゃいますの?」


 幼女──アリスティアが半眼になってヒューベリオンを見ているのを、オスカーはヒューベリオンの横で苦笑して見ていた。

 半眼になっている原因は横のヒューベリオンなのは間違いがない。

 彼は事もあろうに目の前の幼女が五歳の時に求婚するという暴挙をやらかし、彼女に嫌われていた。

 可愛い眉間に皺まで刻むほど関わりたくはないらしい、とオスカーは横をちらりと見ながら考える。横に座っている彼の上司であるヒューベリオン・キース・セル・フェザーは、困った様な笑顔を浮かべてアリスティアを見ていた。

 こいつは、とオスカーは少々呆れた。

 三年、忙しかったのもあるが、ヒューベリオンは皇都に出向いておらず、勿論アリスティアにも関わって来なかった。

 幼児の三年は大きい。どんな結果になるのか予想できてしまい、オスカーは腹を括る。

 

「上申書を持って来たからな。私情で撥ね付ける訳にも行くまい?」

「仰る事は尤もですけど。わたくし、具合が悪くなりそうですわ」

「姫、そう悲しい事を仰らないでください」

「わたくし、姫ではありませんわ!」


 ヒューベリオンが言うセリフが気持ち悪くて、オスカーの背筋に寒気が走った。

 こいつはこんな事を言う奴だったのか、と上司に対して見る目が変わってしまう。

 そんな事を考えていたら、突然、アリスティアの様子がおかしくなった。


「ティア、顔色が悪いぞ?」


 幼女の目が見開かれ、どこにも視線が定まっていない。


「あ…る、るー、かす、さま……」

「ティア!」


 異変を感じ取ったらしい皇太子が、即座に幼女を抱き上げた。

 オスカーは何が起こったのか、理解できない。


「ダリア、カテリーナ、ユージェニア。誰か転移できる者はいるか?」


 皇太子が尋ねたが、三人とも無理だという。


「仕方ない。このままでいよう」

「殿下。エルゼ宮へ連絡を入れては?」

「そうだな。エルナード、悪いが連絡に走ってくれるか? 執事に、寝室の用意と医師の手配、ティアの夕飯にパン粥とティアの好きな野菜たっぷりスープの用意を伝えてくれ」

「かしこまりました」


 執務室を出て行くエルナード。


「クリストファー。殺気は収めろ」

「しかし殿下。こいつのせいで、またアリスのトラウマが」

「収めろ、と言った。我が意に従え」

「っ! 御意」


 消える殺気。

 オスカーは今の幼女の兄クリストファーの言葉に疑問が湧く。


「殿下。質問の許可をいただきたく」

「ふむ。許す」

「先ほど、クリストファー殿が、アリスティア嬢のトラウマ、とか言ってましたが、どういう事ですか?」


 質問したオスカーの目を、皇太子の金色の瞳がじっと見つめてきた。


(なんか怖い雰囲気だな。これが、幼女趣味の面白い坊っちゃん殿下か? 別人みたいだぞ)


 暫く静寂が場を支配していた。


「お前たち、この場で聞いた事は秘密だ。それを約束できぬなら話すことはない」

「騎士の誇りにかけて、誓います」

「オレも騎士の誇りにかけて誓います」


 二人ともが秘密にする事を誓ったからだろう、皇太子はため息を吐いたあと、その口を開いた。


「ティアは、アリスティアは先月、ナイジェル帝国の手の者に攫われた。そこで、皇帝に無体を働かれかけ、心に傷を負った。成人の()()は、身内認定した者以外は全て拒絶対象だ」

「貴方がついていながらどうしてそんな事になっている!」


 ヒューベリオンが激昂して怒鳴った。


「騒ぐな。ティアが起きる」


 怒鳴られても怒りもせず、皇太子はアリスティアを大事そうに抱え直した。


「直前に竜王としての意識の封印解除が間に合い、(ワレ)がナイジェル帝国まで竜化して飛んでいった。ティアの気配がナイジェル帝国からしたからな。そして、ティアの助けを呼ぶ声で救出に間に合った」

「は? 封印解除? 竜化? 飛んでいった? ナイジェル帝国?」

「最後まで黙って聞け」


 皇太子は不快そうに言う。


「ティアを救出後、ティアの誘拐を企んだ者、実行した者は首を刎ね、ティアの世話を言いつけられたのに苛んだ侍女と皇帝は、嬲り殺した。処刑の光景は魔術で全ナイジェル帝国内に見せた。音声も拡散魔術で全ナイジェル帝国内に伝えた。その上で(ワレ)は、ナイジェル帝国の民と貴族どもに問うた。死か従属か、と。

 答えは、貴族どもと民全てが、従属を選んだ。だから(ワレ)は、ナイジェル帝国をフォルスター皇国の従属国とした。

 ナイジェル帝国など、竜王たる(ワレ)が滅ぼすのは簡単だがな。我が半身のティアは、罪なき民を殺す事は嫌がる。だから従属国とし、我が統治下に置いた」


 皇太子の金色の瞳が縦に裂けた。

 人間ではあり得ない光景に、息を呑む。


──今、皇太子はなんと言ったか。竜王。竜王と言ったか。そう言えば、数日前に、皇太子が竜王の転生体だったと公式発表があった。あれは冗談ではなく、本当の事を言っていたのか。


 オスカーは、混乱する頭の中を整理して、考えを纏めようとした。


「心に傷を負い、人間の成人を拒絶し、夜も一人で眠れぬティアを、人間の世界で暮らさせる為に(ワレ)は心を砕いた。

 (ワレ)の国から、竜人と獣人の使用人と専属侍女と専属護衛を雇い、医師すら拒絶するティアに竜人の医師を付け、夜に安心して眠れる様に添い寝している」


 添い寝、の部分でヒューベリオンが息を呑むのが横から聞こえた。


「もちろん、ティアの評判の為に、婚約という体裁も調えた。これは、皇王もティアの父親である宰相も承知している事だ。ティアは、生まれた時からそばにいた公爵家の侍女も拒絶したから、公爵家では暮らせなかった。一人で眠る事ができないのだから、放置すれば衰弱死していた」


 壮絶な内容に、驚愕するしかない。


「婚約は、アリスティア嬢が一〇歳になったら、ではなかったのですか!?」


 隣から悲鳴に似た声が聞こえた。

 おい、バカやめろ、と言いかけて口をつぐむ。

 目の前の皇太子──竜王から、尋常ではない覇気が吹き出したからだ。


「チャンスを与えたのに、この三年、何もして来なかったお前に、何かを言う権利があるのか? それに、ティアは、(ワレ)、竜王の半身。人間にわかりやすい言葉で言えば、運命の相手だ。半身同士、どうしようもなく惹かれる。状況が変わったのだ。ティアを死なせる訳にはいかなかった。ティアは、攫われ皇帝に無体を働かれかけ、どうしようもなく死を望んでいたからな。八歳の少女が、自決を決断したのだ。だが、魔力封じの魔道具を山ほどつけられ、皇帝からは従属の魔術をかけられ、体を自らの意思で動かせず、黙ってされるがままにならざるを得なかったのだ。ティアは、どうしようもなく心に傷を負ってしまった。

 だから、(ワレ)が離宮で囲い込み、護っている」


 金色の、縦に裂けた瞳孔は、強い光を放っている。


「離宮の守護結界は、ティアに害意のある者の侵入阻止と身体能力の低下。

 魔術(マギア・)反射(リフレクシオネム)、ついでに物理(イマゴ・)攻撃(コルポラーリス)反射(・インペトゥム)。ティアの守護者の身体能力向上を編み込んである。

 ティアが自分でかけた自己守護結界は、魔術(マギア・)無効(インヴァリドゥム)状態(エフェクトゥス・)異常(アブノルメス・)無効(スタトゥ・アクリアム)即死無効インスタント・デス・ディゼイブルド物理(ヴァレット・)攻撃(コルポラーリス・)無効(インペトゥム)

 状態(エフェクトゥス・)異常(アブノルメス・)無効(スタトゥ・アクリアム)の効果は、毒無効ヴェネヌム・イナクティヴァレ催眠無効イナクティヴァレ・ヒプノシス暗闇無効アクリアム・エ・テネブラエ麻痺ネルヴォルム・リゾルティオス無効(・イナクティヴァレ)だ」


 結界のえげつなさに、唸り声が出てしまう。

 王にでもかける様な結界だ。

 そこまでして守る意志が凄い。

 そこまでの守護結界があるのに、更に専属護衛が三名いるという。

 どれだけ溺愛しているのか。


 皇太子は幼女趣味なのは間違いないのか、とちらりと疑問が頭を掠める。

 だが、今の皇太子の雰囲気は、絶対覇者、誰もが跪かずにはいられない唯一の王者。そんな雰囲気だ。一国の皇太子ではない。

 アリスティアを抱く姿も、どこか子供を慈しみ守る、保護者然として見える。生涯をかけて愛する者という感じは受けない。これはなんだろうか。


(ワレ)は、ティアが拒絶したお前に、今後一切の接触を許すつもりはない。お前の雰囲気がトラウマに引っかかり、ティアがフラッシュバックしかけたのだからな」


 竜王は、ヒューベリオンの方を見てそう告げた。


「何か上申する事がある時は、今後はオスカー・ディゼル・セル・シュストベルクのみを寄越せ。これは要請ではない。命令だ」


 絶対覇者からの命令。

 竜王としての命令。

 理解、してしまった。

 今、この国で一番の権力があるのは皇太子──竜王だ。だが、その権力は全力でアリスティアを守る方に振り切れている。

 ならば取るべき態度は一つ。


「御意。お前もだ、ヒューベリオン」


 隣に促す。


「……御意」


 暫しの間が空いたが、なんとか頷かせる事に成功したようだ。ヒューベリオンが可哀想だとは思うが、確かに竜王に言われたように、この三年間、ヒューベリオンは何もしてこなかったのだから、文句を言う筋合いはないし、拒絶されたなら諦める事も大事だ。後で慰めなくては。と、オスカーは数秒の間で考えた。


「上申書は受け取る。だが、ティアがこの様子だからな。処理は明日になる。明日はオスカーのみ寄越せ。宮中に客室を用意させるから、今夜は泊まれ。クリストファー。客室を用意させろ」

「御意。準備します。アリスをよろしく、殿下」

「任せておけ。ダリア、カテリーナ、ユージェニア。転移するぞ」

「御意」


 そう言うと、皇太子──竜王は、アリスティアの専属護衛だという少女たちを伴ってその場から消えた。

 覇気が無くなって、漸く楽に息が出来るようになった。


「客室を用意しますから、暫くここで待っててください」


 アリスティアの兄だという男は、刺々しい雰囲気を隠しもせずに言い、執務室から出て行った。

 今日は衝撃的な話ばかりで、情報量が多すぎて処理しきれていない。今夜は宮中に泊まる事になるし、ゆっくり状況を精査しよう。

 オスカーは痛み始めた頭を指で押さえながら思いを馳せた。


 

ヒューベリオン(5歳児に求婚した変態)再び、でしたが、アリスティアに拒絶され、あろう事かトラウマを刺激し、ルーカス様に出入り禁止を喰らいました。

ヒューベリオンは辺境伯家の嫡子であり、皇都に来れる様な用事も殆どなく、アリスティアの恐怖心を取り去る努力もできなかったのです。

廃嫡になったお兄ちゃんを恨むしかないね。

お兄ちゃんが廃嫡になってなかったら、ヒューベリオンは次男としてもっと自由に動けてましたから。

つまり、最初から間違えたヒューベリオンには芽はなかったのです。



ここまで読んで下さりありがとうございます!

 

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