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第56話 竜王の警護問題

2019年9月22日改稿。

視点が、ルーカス、クロノス、アリスティア、誰でもない第三者とブレまくっていたので、前半はルーカス視点に、中盤はクロノス視点に、そして終盤に☆で区切りを入れて再度ルーカス視点に変更。

変更に伴い、視点者のものではない情景は削除、視点者の心情その他を加筆。



 

「ティアを起こす故、そなたらはこの部屋を出よ。朝から勢揃いしていると、ティアが不審に思うだろうからな」


 竜王(ルーカス)の言葉で、部屋に集められた面々は部屋を出ていった。

 竜王(ルーカス)は、着替えの魔術で寝間着に着替え、アリスティアを抱えてベッドに入り、掛布をかける。

 そして、アリスティアの頭に手を置くと、アリスティアがパチリと目を開けた。


「ティア。二度寝から起きたか?」


 優しく、その綺麗な銀髪を撫でてやる。


「ルーカス様。わたくし、二度寝してしまいましたの?」

「そうだよ。まだ少し起きるには早い時間だったからね。私もつられて二度寝してしまった」


 くつくつと笑ってみせる。

 アリスティアは少し不思議そうにしていたが、ルーカスのその笑いで納得したようだ。


「ルーカス様まで二度寝とは、珍しい事もあるものですわね?」


 可愛い声で、そう言ってくるアリスティアの頭を更に撫でると、目が細まり、満足そうな笑みを浮かべた。


「ティアがあまりにも気持ち良さそうに眠っていたからね。つい、つられてしまったのだよ」

「まあ。わたくしのせいですの?」

「いや? ティアは悪くないな。悪いのは、この陽気だろうよ」

「確かにこの国は、いつでも暖かいみたいですわね? 以前、訪れた時も同じような気温だった気がしますわ」

「竜の国は地上にあって地上にはないからな」

「え!? それはどういう……」

「竜の国は異界にある。人間には容易に踏み込めぬ様にしてあるのだ」

「衝撃的ですわ……」

「元来、竜の国は地上にあったのだがな。(ワレ)が数千年前に異界の中に隠したのだ。当時の世界情勢が不穏過ぎたが故にな」


 その辺の話はまた後で話してやろう、と言って、ルーカスはアリスティアを抱えたまま起き上がり、アリスティアをベッドから降ろした。

 アリスティアの専属侍女が、すかさず彼女を促し、隣の部屋に移って行った。

 ルーカスもゆっくりベッドから出ると、着替えの魔術で先ほど着ていた服に着替える。

 ソファに座り、魔術でストレートの紅茶を出すと、ゆっくりと飲んだ。

 二杯目を飲み干した後、隣の部屋に移動する。

 アリスティアは薄黄色のドレスを着て、頭には赤いリボンを編み込んで飾っていた。赤いリボンは、縁を金糸で縫い取られており、それが髪色の銀にも映えて、可愛さが増していた。


「ティア。相変わらず可愛いな」


 本心からの言葉が出てくる。


「ルーカス様、大げさですわよ?」

「大げさなものか。ティアは本当に可愛いのだから。こんなにも可愛いティアを、見せびらかして自慢したいよ」


 リボンが解けないように、ふんわり緩く撫でると、アリスティアはまた満足そうな笑みを浮かべた。


「わたくしを自慢しても、ルーカス様の評価になりませんのに、物好きですわね」


 そう言って、アリスティアはクスクス笑う。


「私の評価なぞどうでもいいからな。他人からの評価など、政務能力とは関係ない」

「確かにそうですけれども、人間の世界で暫く暮らすのでしたら評価や評判に気をつけてくださいませんと」

「ティアが心配するなら気をつけよう」


 そう言うと、ルーカスはアリスティアを抱き上げた。


「──ふむ。そこか」


 ルーカスは呟くと、アリスティアを片腕で抱き直し、指をパチンと鳴らした。

 次の瞬間には、目の前にソファに座った見慣れた面々がいた。





☆☆☆☆☆



 時刻はアリスティアが起こされる少し前。

 竜王の私室の、応接間から出た一行だったが、カイルがふと思い出したようにアーノルドに話しかけて来た。


「アーノルド殿。フォルスター皇国の宰相の貴方に頼みがあるのだが」

「何なりと。叶えられるものならば」

「竜王陛下の警護の事なのだ。現在は、フォルスター皇国皇太子には警護がついていないようだが如何か」

「いかにも。皇太子殿下が、つけたがらなくてそのままになっております」

「そうでしたか。では、話の続きは応接室で」

「承ります」


 一同は、暫く歩き、一つの部屋に入った。

 そこは、広い応接室だった。

 黒檀のテーブルに、黒革の五人くらいは座れそうな長いソファがテーブルの長辺の両脇に置かれていた。

 そこに座る様にカイルから促され、アーノルドたちはそこに腰掛けた。クロノスが余ったので立っていようとしたら反対側のソファに座る様に促され、仕方なくそこに浅く座った。


「さて、先程のお願いの続きなのですが」


 カイルは座った端から前触れもなく話し始める。


「フォルスター皇国の()()()殿()()なら、護衛をつけなくてもいいのかも知れませんが、()()()()となりますと、万が一があったら困るのです。──ですから、竜人の近衛から、陛下の専属護衛をつけさせていただきたい」


 途中で何か言いかけて、口を開いたり閉じたりしたものの、言うのをやめたように閉じ、少しあとにカイルはまた言葉を紡いだ。


「──そのご要望は受け入れましょう。ただし、竜人の専属護衛を皇太子殿下につける、というのは短絡的過ぎて我が国の近衛騎士たちが受け入れられません。矜持(プライド)もありますから。

 そこで、竜人の近衛兵の方には、我が国の近衛騎士団への入団試験を受けていただきます。竜人の身体能力ならば、問題なく入団できるでしょうし、殿下の専属護衛として配置できます。

 ただし、問題がいくつかあります。

 竜人と言うのを秘匿するか?

 皇太子殿下が竜王陛下である事を秘匿するか?

 どういう理由にするか?

 何度も理由を考えてみましたが、先の二点が引っ掛かりとなり、理由付けがうまくいかないのです」


 アーノルドはそう静かに言うと、口を閉ざした。目は真っ直ぐにカイルを見つめていた。

 





☆☆☆☆☆



「難しく考え過ぎだ」


 ルーカスはそこに割り込んだ。


「陛下!」


 カイルが反応する。

 竜王(ルーカス)は跪こうとするカイルを手で制し、言葉を紡いだ。


「宰相。(ワレ)が竜王だという事実は別に隠してはおらぬ。積極的に広めもしていないがな。だが、フォルスター臣民国ではフォルスター皇国皇太子は竜王だという事実は、知らぬ者はいない。だから、必要なら公表して構わない。

 竜人たちの件も、公表せずとも現場レベルでの擦り合わせがあればよかろう?」


 アリスティアを片腕に抱き、竜王(ルーカス)はなんでもない事の様にそう言った。


(ワレ)が、皇太子ルーカスが竜王、或いは竜王の転生体だと、その事実があれば、あとはどうとでもなる。

 竜の国は、別に公表したとしても人間に簡単に辿り着ける所に存在せんからな」

「陛下!」

「わかっておるよ、カイル。だから、竜の国の存在は秘匿だ。だが、竜族の(さと)があると思わせるレベルであっても、理由付けは上手く行く。全てを公表する必要はないが、全てを秘匿する必要もない。どうしても必要な事だけのみ公表すればよいのだ。

 難しく考える必要などないだろう?」


 竜王(ルーカス)は、言い終えるとニッと笑った。まるでいたずらを仕掛ける子供のように。


「ルーカス様は、気楽でいらっしゃいますわ」

(ワレ)が気を揉むのはティアの事だけだからな」

「わたくしの事を構い過ぎですわよ?」

「自分が庇護した幼子を、構わずしてどうすると言うのだ? 健やかな成長を願うならば、愛情を注ぎ、構い倒すくらいはするであろう?」

「構い倒すのはやりすぎです!」

「可愛いからつい、構い倒してしまうのだ。許せよ?」


 竜王(ルーカス)が、腕の中の存在を見ながらコテンと首を傾げる。


「だから小首を傾げないでくださいませ! 犯罪レベルで美しい顔でやられると、可愛いと思ってしまうではありませんか!」


 アリスティアがルーカスの想定通りの言葉を紡ぐ。


 「最近のティアは素直にデレてくれるな。相変わらず毒舌なところはあるが」


 竜王(ルーカス)は嬉しくて思わずアリスティアの頭に自分の顔を擦り付けそうになったが、それを意思の力で抑え、極上の蕩けた笑顔を向けるだけに留めた。


「デレてなど、おりませんわ! むー、ルーカス様の意地悪!」


 アリスティアはむくれてしまった。

 その様も可愛く思うのだから、たちが悪いとルーカスは思う。

 ふと、ルーカスがクロノスを見遣ると、彼はアリスティアをぼんやりと眺めているが、その視線に何かが引っかかり、


「クロノス。ティアはやらんぞ?」


 と牽制してみた。


「なっ! ばっ! 命が惜しいから要りませんというか近くに寄りませんから小首を傾げないで命ダイジ!」

「クロノス様。あまりにも手酷い拒絶をされると、嫌われているのかと思ってしまいますわ」

「ちょ! アリスティア様まで勘弁シテ別に嫌ってないけど僕死にたくない!」

「むー」

「ティア、許してやれ。クロノスは分を弁えておるだけだ」


 竜王(ルーカス)は笑いながらアリスティアを撫でた。


「少し話が横にそれたが、(ワレ)の警護に関しては、先程言った内容で上手く行くだろう。破綻しそうになっても、(ワレ)が力技でねじ伏せる」

「ルーカス様。力技でねじ伏せるのは最終手段になさってくださいませ」


 アリスティアが溜息を吐きながら言うので、もちろん、と竜王(ルーカス)は極上の笑顔で己の半身に答えた。アリスティアがその笑顔に弱いと知った上での行動だった。



 

ここまで読んで下さりありがとうございます!



 

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