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第53話 竜の国の晩餐会

2019年9月21日改稿。

❍アリスティア視点に固定。

❍人称を三人称に変更。

❍多少の加筆修正を行う。 


 

 

 晩餐会の準備が出来た、と侍従が呼びに来たので、アリスティアはルーカスと手を繋いで晩餐会場になっている小広間に入って行った。

 装いは、可愛いからそのままで、と言われて軍服のままであったが、みんなが笑顔で迎えてくれたからきっとおかしくはないのだろう、とアリスティアは安心する。

 皇王と父親と、ディートリヒと双子の兄たちと、クロノスが席についていた。

 ルーカスに連れられて上座の、斜め前の席に座ろうとしたら、有無を言わさず膝抱っこされた。文句を言う暇もなく膝抱きされた為、アリスティアはびっくりしてルーカスを見上げたのだが、ダメだよ、と柔らかい笑顔で告げられた。

 それがなんだか、春の陽射しの様な、ほわほわと心の中が暖かくなる様な笑顔で、爽やかな新緑の様ないい匂いもして来て、絶対大丈夫だと思えて、まあいいか、とアリスティアは抱っこされたままになっていた。

 父親とディートリヒが、驚いた顔で見ているが、そんなに変なのだろうか、と訝しむ。

 でもエルナードとクリストファーとクロノスが、呆れた様な顔をしてるから、多分いつも通りの筈だ、と納得する。

 そんな中でルーカスが挨拶し始めた。


(みな)、今日はよくぞ集まってくれた。近衛師団の閲兵式も、(ワレ)が行うのは数千年ぶり。だが、そんな空白も感じさせぬのだから、数千年間、我が甥カイルの元、弛まぬ訓練を続けていたのが窺える。近衛師団長、大儀である」


 ルーカスの言葉に、近衛師団長らしき美青年が──なぜ竜人は美青年ばかりなのだろうか?やはり異世界は遺伝子の確率がおかしい、とアリスティアは呆れた──勿体なきお言葉、と感激したように頭を下げた。

 ルーカスの挨拶は続く。


「我が半身も今日の閲兵式を楽しんでいたようだ。素晴らしい統率を我が半身に見せられて、(ワレ)も鼻が高い。ティア、(みな)に言葉をかけてやれ」

「ルーカス様、相変わらずの無茶振りですわ」


 いきなり振られても困る、と困惑するが。

 賽は投げられたのだ、やるしかない、と腹を括る。


「ルーカス竜王陛下よりご紹介に預かりました、陛下の半身の、フォルスター皇国バークランド公爵が長女、アリスティア・クラリス・セラ・バークランドでございます。フォルスター皇国皇太子ルーカス殿下の婚約者でもありますから、どちらに転んでも、ルーカス様からは逃げられませんわね?」


 アリスティアはちょっと小首を傾げて冗談を言ってみた。それを聞いた招待客が温かい笑い声を上げる。


「本日見せて頂いた、近衛師団の行進や陣形展開、変形の際の、統率の取れた動きの美しさに感動いたしましたわ。また、竜化の際の一糸乱れぬ様も実に見事でしたわ。更に、上空でルーカス様の速度に置いて行かれず、追随できる飛行能力も素晴らしいと思いますわ。これからも竜の国と民を守るために頑張ってくださいませ」


 竜王(ルーカス)の腕の中から、彼女はぺこりと頭を下げた。

 その様子に、近衛師団長と隊長格らしき美青年たちが、顔を赤くしていた。何か変な事を言ってしまったのだろうかと不安になってアリスティアがルーカスを見上げたら、困った様な笑顔で、「あれは感動しているのだ。ティアは本当に、息をするように人心掌握する」と言われた。

 感動してたのか、と納得する。でも感動させるような事は言ってないのに、とも思う。


半身(アリスティア)様のお言葉、大変有り難く。我らも今後とも、国の為、民の為に益々精進していく所存。我らの忠誠は、竜王陛下とアリスティア様にございますれば」


 その言葉に、アリスティアはギョッとした。


(待って、待って待って待って!)


 アリスティアは狼狽えていた。

 

(私はたかが公爵家の娘に過ぎないし、忠誠を誓われるほどこの国に滞在していない)


 驚いた事でアリスティアの心臓がバクバクと早鐘を打っている。

 助けて欲しくて彼女はルーカスを見上げた。


「我が半身アリスティアは、忠誠を誓われる事に慣れておらぬ。本格的なものは、我らが竜の国に入る数十年後まで預けておいてくれ」


 ルーカスはそう言って窘めてくれた。


(うん、王女でも皇女でもない、たかが公爵家の娘には、ハードな試練ですよ、忠誠を誓われるなんて)


 ホッとしたら涙が浮かんできた。


(ここで泣いたら子供みたいで恥ずかしい。あ。私はまだ子供か。八歳だし。

 でも妃教育では人前でみだりに感情を表してはいけないと教育されてるから──うん、我慢しよう)


 アリスティアは、ぐ、とお腹に力を込めて瞬きを繰り返した。なんとか涙が引っ込み、ホッと息を吐く。

 途中でルーカスに気が付かれて、指で涙を拭われたが、それは子供だからセーフだと思うことにした。

 そのあとは、自己紹介に移った。

 近衛師団長はアロイス・イーゼンブルク伯爵、近衛師団第一連隊長はノルベルト・ヘッセン子爵、第二連隊長はリーンハルト・ヴィルヘルム侯爵、第三連隊長はラファエル・フュルステンベルク侯爵、と続いた。

 アリスティアは途中から名前が覚え切れなくなり、後で竜王(ルーカス)にもう一度教えて貰おうと思った。

 フォルスター皇国側から、皇王陛下、父親、ディートリヒ、双子、クロノスと続いて、クロノスのところでまた不穏な空気になりかけたが、ルーカスが自分の配下にしたと言ったら雰囲気が元に戻った。

 晩餐会は、まだ続くらしい。

 膝抱っこされた時に覚悟を決めたアリスティアだったが。


( や っ ぱ り 給 餌 が あ っ た ! )


 最近のエルゼ宮では行われなかったからすっかり油断していたアリスティアだったが、久々にルーカスから口に食事を運ばれるのは恥ずかし過ぎた。顔がさっきから熱いのも気のせいでは無い筈だ。

 竜の国側からは、温かい微笑みで見られていて、フォルスター皇国側、主に皇王と父親とディートリヒが唖然として見ている。


「皇王陛下、ルーカス様を止めてくださいまし?」


 無茶ぶりと知りつつ困った様な顔で、振ってみたのだが。


「アリスティア嬢、何事にも無理なものはあると言うもの。許せ」


 予想通り逃げられた。


「ティア? 他の(オス)に今は声をかけて欲しくないぞ?」


 久々に寒気のする笑顔が向けられた。

 こっちの笑顔が引き攣る。


「る、ルーカス様! その笑顔は寒気がするからダメです! もっと心を広く持って欲しいですわ! というか、わたくしが声をおかけした方は、貴方の今生の、父君であらせられますわよ! さすがにわたくし、あそこまで年上の方は守備範囲外ですわ!」


 慌ててしまって、アリスティアはつい本音がダダ漏れになってしまった。ルーカスがびっくりしている。

 

(しまった。不敬過ぎる。どうしよう)


 アリスティアが真っ青になって涙目になっていたら、頭上からくつくつという笑い声が聞こえた。


「ティアは、本当に辛辣だ。そうだな、ティアは()()は好みではないか」

「こ、好みとかそんな問題ではありませんわ。考えるのも不敬に値しますから。というか、わたくし、ルーカス様の婚約者ですのよ? 他の方とどうこうなろうとは全く考えませんわ」

「良い。(ワレ)が悪かった。許せ。あまりにもティアが可愛いからな。つい箍が外れたようだ」


 困った様な笑顔で言われれば、アリスティアも強く詰る事は出来ない。


「仕方ありませんわね。許して差し上げますわ」


 アリスティアがちょっとツンとして言ってみたら。


「ティアに許して貰えたなら重畳。さて、まだデザートが残っておるよ。ほら、口を開けて?」


 もう終わりだと思っていたのに、まさかのデザートが残っていた。一口サイズのケーキを載せたスプーンでアリスティアの唇を突くから、思わず口を開いてしまった。そこにすかさずスプーンを入れられる。

 ケーキの色がこげ茶だったからもしかしてと思ったら、アリスティアの思った通り、それはチョコケーキだった。ナッツもふんだんに入っている。

 彼女がもぐもぐと咀嚼すると、ナッツの歯ごたえがちょうどいいし、チョコレートスポンジへのアクセントになっている。


「美味しいですわ」


 アリスティアは嬉しくなって、ルーカスを見上げて伝えたら、ルーカスも嬉しそうに微笑み返してくれた。


「まだあるからね」


 そう言って、また一口大のケーキを口に運ぶ。

 またパクッと食べて咀嚼する。飲み込むとすかさず次を差し出す。もぐもぐと咀嚼する様子をじっと優しい目で見ていたルーカスだったが、アリスティアがもうこれ以上は要らないかな?と思った時点でデザートスプーンは置いてくれた。


「よく食べたね」


 そう言って、アリスティアの頭を撫でてくれる。その手が優しくて、なんだか嬉しくて彼女はルーカスの胸にもたれかかった。

 少し喉が渇いたかな、と思ったらハーブ水が出て来た。びっくりしてルーカスを見上げたら。


「ティアがそろそろハーブ水を飲みたくなる頃だから、持ってこさせた」


 アリスティアの事をよく見ている、と感心してしまう。

 よく冷えたハーブ水は、彼女の喉を潤してくれて、爽やかで美味しかった。

 ひと息つく。

 そこから歓談になって、ルーカスのアリスティア自慢が炸裂した。学校設立の件で、非常に知識が深い、と言われれば嬉しいのだが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 色々と質問もされ、それに淀みなく答えて行ったら、驚いた竜人や獣人の貴族から父親がどんな教育を施したのかと聞かれて戸惑っていた。


「わたくし、三歳から妃教育を受けていたようですわ。妃教育とは知らずに、勉強すればするほど覚えるのが楽しくて、どこまで覚えるのかと夢中で勉強していましたら、こうなってましたの」

「ティアは、私と初めて会った時に、私が軽く威圧したのにそれを受けても泣き出さず、逃げもせず、しっかり淑女の挨拶を返し、カーテシーを披露して見せたからな。

 だから興味を持ち、いずれ皇太子妃にしようと企んでいたのだよ。まだ覚醒前だったが、竜の本能で半身だと気がついていたのかもしれん」


 と、ルーカスが悪びれもせずに笑顔で言うものだから、アリスティアはなんだか力が抜けてしまった。


「陛下はその時何歳にお成りでしたか?」


 竜人が興味津々に聞いている。


(ワレ)が十三歳だったな。半身(ティア)は三歳で、年齢差は十歳。人間では割と大きな年の差である」

「おお! わずか十三歳で半身様を見つけられたとは、竜王陛下は類稀なる幸運の持ち主。年齢差十歳など、竜族では差とも言えないでしょう。過去には四九〇歳差の半身を持った竜族もおりましたからな」

「左様。幼竜の段階で半身を見つけられたのは僥倖と言えますな。我らとしても、陛下の幸せを願っておりますゆえ、幼竜の段階で半身を見つけられた事はめでたき事」

「更には半身(アリスティア)様には政務能力もあるとか。これ程喜ばしい事は有りませんな」

「左様ですなぁ。竜王陛下の半身様が、陛下の執務を手伝えるとなれば、陛下のやる気も天井知らずでございましょうなぁ」

「半身様は、幼いのに賢くていらっしゃいますからな。我が国の子供たちの手本となりましょう」


 べた褒めされたアリスティアは、恥ずかしくてルーカスの胸板に顔を埋めた。彼女には耳まで赤くなっている自覚があった。

 ルーカスが、ぽんぽんと宥めるように頭を撫でてくれる。


(みな)がティアを褒めてくれるのは嬉しいが、我が半身は褒められ慣れておらぬゆえ、べた褒めはやめてやれ。恥ずかしがって、ほら、この様にな」


 今度は背中をあやす様にぽんぽんと撫でる。


「うぅ、恥ずかしくて死にそうですわ」

「アリスは努力家だからねぇ」

禁欲的(ストイック)なまでに勉強に打ち込むから、逆に心配になるくらいだよね」

「だからとピクニックに連れ出せば、精霊王たちに好かれ、加護を受けるとか、予想できないよね」

「僕たちも、精霊からアリスを護れる力を授かったから、結果的には良好だけどね」

「魔術に関する事は更に熱心を通り越した何かが宿ってるよね」

「まさかアリスが魔術書を読むだけで特級魔術を発動出来る様になってるなんて、これも予想外過ぎるよね。僕たちのアリスはどこまで人間の範疇を外れれば気が済むのかな?」

「兄様たち、うるさいですわ。少しはそのお口を閉じる事を覚えなされませ。それからわたくしは、人間の範疇を外れた覚えはございませんわ!」

「いやいや、普通の人間なら、広範囲隕石落としステラリット・メテオリテを三〇発も連発できないって!」

「そうだよアリス。宮廷魔術師筆頭でも、三発が限度なのに。どれだけ魔力量が増えるのさ」

「わかりませんわ。また増えた気がするので、多分、今なら三十二発撃てますわ。後の事を考えなければ三十四発かしら?」

「待って、待ってアリス! 増加魔力量がおかしい!」

「なんで宮廷魔術師筆頭一人分くらいの魔力が増えてるのさ!?」

「ふむ。ティアが悪夢に苛まれぬように、(ワレ)が毎晩添い寝しておる故かな? 接触での魔力譲渡が行われてるやも知れぬ」

「何そのお手軽魔力増加方法!」

「じゃあ何!? アリスは無限大に魔力増加するの!?」

「さすがに無限大とは行かぬだろうが、ティアの魔力の容量がまだ見えなくてな。(ワレ)に引きずられて増大してるのは間違いないが、元々の器も大きかったとみえる」

「つまりはアリス可愛い最強?」

「エルナード、お前は本当に心底、妹至上主義(シスコン)だな!?」

「褒められても何も出ません!」

「褒めておらぬわ。呆れておる」

「ルーカス様だってアリス至上主義なんだから、僕たちの事は言えないと思う」

「当然ではないか。ティアは(ワレ)の半身なのだからな。半身(ティア)至上主義だ!」

「竜王陛下も兄様たちも、そろそろ馬鹿発言をおやめなさいませ! 恥ずかしくて死にそうですわ! 特に兄様たちはいい年して妹至上主義(シスコン)である事を恥となさいませ!」

「安定の辛辣なアリス!」

「これでこそ、僕たちのアリスだよね!」

「兄様たちは、わたくしの話を聞く気はありませんの!? だから恋人もできず、婚約もできないのですわ」

「わお、毒舌!」

「辛辣さを超えて毒舌とか、新しい境地に行きそうだよ」

「そんな境地は捨てておしまいなさいな。このままでは貴族の義務である、血を繋ぐ事ができませんわよ!」

「え? アリスがいるのに結婚なんてする訳ないだろう?」

「僕たち、アリスが一番なんだから、二番目に甘んじてくれるような女性(ヒト)じゃないと無理だし、そんな女性(ヒト)いるわけ無いからね。だから結婚なんてしないよ」

「兄様たちは馬鹿ですか馬鹿ですねわかりましたわ海岸に行きましょうそしていっぺんシネ!」

「ティア、落ち着け。メテオリテは禁止」


 目が据わり始めたアリスティアを、竜王(ルーカス)が止める。一応、ではあるが。


「メテオリテじゃなければいいんですの!?」

「エルナードとクリストファーは、中級までなら相殺できるから、使うのは中級までかな」


 まさかの中級指定である。


「ちょ! ルーカス様!? そこは止めるところでしょう!?」

「アリスの中級は上級超えた威力があるじゃないですか! 止めてくださいよ!」


 双子たちは必死に言い募る。しかし、にこにこ笑顔の竜王(ルーカス)には通じない。


「中級で(ごく)局地展開すれば、被害は押さえられますわね」

「ちょ、アリス待った待った! ごめん、僕たちが悪かったから!」

「位相結界張っての(ごく)局地展開とか中級でも死ねるから!」

「問答無用!」

「ティアが楽しそうだ」


 くつくつと笑う竜王に、双子が悲鳴を上げる。


「「僕たちが楽しくない!」」

「たまにはティアのお仕置きを受けてみろ」


 無情な竜王(ルーカス)の楽しそうな言葉が響いた。



 

ここまで読んで下さりありがとうございます!


 

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