第51話 カイルの懸念、双子の本音
2019年9月21日改稿。
❍☆で区切った部分を、序盤:アリスティア視点、中盤:カイル視点、終盤:クロノス視点に統一。
❍削除と加筆で状況説明
また800文字ほど増加(*_*;
空中散歩を終え、人型のルーカスに抱えられて竜の国の宮殿前広場に戻った。
人型のまま、ふわりと広場に降りてきたら、まだ空中にいるにも関わらず、集まった民が沸き立った。
ルーカスと二人で手を振ると、熱狂的な出迎えとなった。
広場に着地すると、ルーカスはアリスティアも地面に降ろした。
アリスティアは、大股でキビキビと歩いて見せた。それがまた、可愛らしいと後に評判になったが、歩いていたアリスティアに駆け寄る姿があった。
何事かと警戒するが、駆け寄って来たのは女の子だった。
「アリスティア様。これ、貰ってください!」
女の子は花束を差し出した。
アリスティアがそれを素直に受け取ろうとしたら、横からヒョイと花束を奪われた。
見たら、ルーカスだった。
「ティア。簡単に受け取ってはいかん」
「ルーカス様こそ。御身は王ですわ。わたくしよりよほど、御身を大事になさいませんと。それに、こんな小さな女の子が差し出す花束に、何が仕込まれると言うのでしょう? わたくしでしたら大丈夫ですわ。魔術無効、状態異常無効、即死無効、物理攻撃無効の結界を張っていますもの」
アリスティアは、その結界効果の異常さには気がついていない。
だから、目の前の小さな少女がアリスティアを驚愕の表情で凝視しているのも、王が目の前に現れたからだと思っていた。
「ティア。サラッと即死無効の効果を追加してるが、それはいつ覚えた?」
「覚えた訳ではありませんわ。魔術書の特級魔術編にも載ってなかったので、作りましたの」
「相変わらずのとんでもない才能だな。ところで、状態異常無効は、効果はどんな感じだ?」
「毒無効・催眠無効・暗闇無効・麻痺無効、ですわね」
「ふむ、思ったとおりだ。催眠無効が追加されているな」
ルーカスがため息混じりに呻る。
アリスティアはなぜ呆れた様にため息を吐かれるのか、わからなかった。
「身を守る術は、日々研鑽し、開発しないといけませんもの。後でルーカス様にもわたくしの特製防御結界を張って差し上げますわね」
「ティアのその結界なら、無敵だな」
ルーカスが楽しそうに笑い、アリスティアはその笑顔で嬉しくなった。
「花束、ありがとう」
アリスティアは、女の子に声をかけた。
女の子は、みるみるうちに上気して薄っすらと赤くなった頬を両手で押さえ、悶え始めた。
それを横目で見つつ、ルーカスとアリスティアは宮殿の方へとまた歩き出す。
「ところでティア。さっきの娘だがな。あれはティアより年上だぞ?」
「……え!? 年上なんですの!?」
「獣人だからな」
どこか楽しそうに言うルーカスに、ティアは理不尽な怒りを感じた。
「ルーカス様は、やっぱり意地悪ですわ!」
人前なのに、ビシッと指さして宣言するアリスティアに、ルーカスは、
「人を指さしちゃいけません、と習わなかったか? お仕置きだ」
と言いつつ、ヒョイと抱き上げて来た。
「ルーカス様! これはお仕置きにはなりませんわ! ただの甘やかしですわよ! せっかく歩いていたんですから降ろしてくださいませ! まだ歩き足りないですわ!」
「歩きたいティアには、抱っこは充分お仕置きだろう? だから降ろさない」
「ルーカス様の意地悪!」
ルーカスとアリスティアの会話は、衆人環視の中で行われていた為に、人々に微笑ましく見守られていた。
楽しそうに笑う竜王は、転生前の前世からは珍しく、彼の前世を知る古参の竜人たちにとっては半身を再び得た竜王は幸せそうに見えた。
☆☆☆☆☆
宮殿前の広場の招待席では、カイルとアリスティアの家族と、フォルスター皇国皇王とクロノスが待っていた。
「伯父上、空の散歩とお聞きしましたが、お帰りになられて安堵いたしましたよ。伯父上は竜王なのですから、自重なさってください」
「帰るなり説教か? 許せ。ティアと二人で成層圏まで行っていた」
その言葉に、カイルはギョッとした。
「アリスティア様。呼吸は大丈夫でしたか?」
心配してアリスティアに聞いたのだが。
「呼吸? 大丈夫でしたわよ? 何かありますの?」
不思議そうに返される。
「伯父上、まさかアリスティア様は……」
「何を心配している。まだだ」
「しかし、成層圏だと酸素濃度が……」
「ああ、酸素濃度の事でしたの。大丈夫ですわよ。常に二十一パーセントを保つように結界内と地上を循環させてましたもの」
「ティア。なぜ二十一パーセントなのだ?」
「それが、人間が生活する上での最適な数値なのですわ。というか、地上は常に二十一パーセントに保たれてますわよ? 窒素が七十八パーセントですし」
カイルは驚きで目を見開いた。
「ティア。それも前世の知識か?」
「え? そうですわよ? たしか小学校五年生の理科で習ったはずですわ」
竜王が半身に尋ねるのをカイルは黙って聞いていた。
アリスティアは小首を傾げて答えている。
「我も、ティアの知識を転写したから知ってはいるが、それを即座に引っ張り出せるのは、やはりティアが優秀だからだな」
竜王が褒めるとアリスティアは照れていた。頬を薄っすらと赤く染め恥ずかしがる様は、竜王でなくとも庇護欲が刺激される。
だが、アリスティアは竜王の半身である上に、竜ならまだまだ幼竜、やっと自力で翔べる様になったくらいなのだ。
ところが竜王の半身は人間だというのに魔術で軽々と翔び、竜王を怖れる事なく慕っている様子を見せている。
これはカイルには嬉しい事だった。
この半身様なら。
魔術技能に秀でていると聞くこの方なら。
カイルはアリスティアに竜王を真実、支えて欲しいと願った。
その半身は、竜王に褒められたのがよほど恥ずかしかったらしい。
この世界の住人なら、教育環境が整えば自分並に知識が蓄えられると思う、と顔を赤らめながら竜王に訴えていた。
「ティア。環境を整えただけでは無理なのだ。学習意欲があって、初めて知識は蓄えられる」
竜王が半身に、そう言い聞かせている。
言われたアリスティアは、何事かを考え込む様に視線が定まらなくなった。
思考の海に沈みかけたアリスティアに声をかけたのは、彼女の双子の兄たちだった。
「でん──竜王陛下! 約束を覚えてますよね!? アリスを撫でさせてくれるって!」
「こんな可愛いアリスは見た事ないから、早く撫でたい!」
「お前たちは、本っ当に、清々しいほどの妹至上主義だな。竜王の半身にそんな事を言うのはお前たちくらいだぞ?」
「「アリスは半身の前に僕たちの妹だ!」」
「竜王にそこまで言えるのは、お前たちくらいだろうよ。よい、約束したからな。ティア、少しだけ撫でさせてやれ」
くつくつと笑いながら、竜王はアリスティアをエルナードに渡す。
「仕方ありませんわね。ルーカス様。でも後で撫で直しを要求しますわ!」
「ティアが望むならいくらでも」
微笑んでアリスティアたちを見守る竜王を、カイル他、竜人たちは驚愕と恐怖の目で見た。
半身を囲い、他の雄に見せないし近づけない竜の雄の本性を知っているのだ。それからすると、竜王の取った行動は異常だった。兄弟とは言え、半身を他の雄に任せたのだから。
そう言えば、半身を「見せびらかしたい」とも言っていた、既にあの時から異常だったのだ、とカイルは漸く気がついた。
竜が半身を囲って護るのは、何も溺愛する為だけではない。半身を危険から遠ざける意味もある。
竜の雄は半身が亡くなると食事も摂れなくなり、衰弱して死に至る。
それを避ける為の本能とも言えるのが、竜の本性なのだ。
実際、ルーカスの転生前の竜王であるジークベルトは半身を亡くしており、深い悲しみから食事も摂れなくなった。政務は義務感からこなしていたが、カイルは甥として、竜王に休んで少しでも食事をする様に諫言していた。だがやはり衰弱して亡くなってしまったのだ。
亡くなる前の竜王から、カイルは譲位を伝えられたが、それは即座に拒否した。カイルもそれなりに強かったが、竜王ほどの強さはなく、竜の国をカイルが纏め上げられるとは思えなかった。だから伝えた。
「陛下が転生して来るまでは竜王代理になります」と。
臥榻に横たわった竜王は目を瞠り、それから弱々しく「好きにしろ」と答え、それから数時間後に亡くなった。
それをまた繰り返すのか。
「陛下」
カイルはやや強く声をかけた。
「なんだ?」
「半身様の事でございます」
「半身がどうかしたか?」
微笑ましそうに半身を見る竜王への違和感が更に大きくなる。
「他の雄に半身を任せるなど異常でございます。陛下、恐れながら。封印なさいましたね?」
「バレたか」
「バレないとでも思っておりましたか?」
「ティアからお願いされたのだ」
「は?」
「正確には、ティアの前世の人格部分だがな。『アリスティアは、精神がまだ幼いままなの。恋愛なんてまだまだで、竜王様の愛情を受けても、異性愛というより、父性愛として受け止めているわ。
竜族は、半身の年齢が幼ければ育てるんでしょ? その我慢強さで、アリスティアを育てて欲しいのよ。数年待てば、精神は育つわ。異性に向ける愛情はそれからで、それまでは父性愛でお願いしたいのよ。兄弟愛は間に合っているから』と言われたのだ。半身にお願いされたら叶えざるを得ないだろう?
だが、我の本性はかなり強くてな。囲ってドロドロに愛したい、他の雄から遠ざけて腕の中に閉じ込めたい、自分だけに依存させたい、可愛らしい瞳に自分以外を映さないで欲しい、という狂気とも言えるほどの愛情だった。それは決して父性愛にはなり得ぬ。だから、そういう竜の本性の部分だけに期間限定の封印を施した。五年経てば解けるが、竜の本能は残し、本性は封印せねばならぬ。難易度最凶級だったぞ」
どこか楽しげに話す竜王だったが、その内容は壮絶と言えるもので、カイルは竜王に危機感を抱いた。
「半身様からのお願いなら、確かに仕方がありません。然しながら陛下。半身を失った竜の雄は、衰弱死します。今の陛下は、他の雄を牽制する事もできません。ですので、近衛から二名、警護につけさせてください」
竜の雄が他の雄を牽制するのは、半身が弱点だとわかり切っているからだ。敵対する側が弱点を狙わない訳はない。その敵対者が、竜人や獣人以外の種族である人間なら必ず弱点を狙う。
だから現在の竜王の状態は危険以外の何物でもなかった。
カイルとてこの国の竜王代理をしているが、宰相でもある。
国政を取り仕切る責任のある立場だ。
エッケハルデン公爵家は、竜王家に後継がいない場合に一時的に竜王位を預かる立場でもある。
だからこそ、カイルには半身がいない。
竜王に半身が見つかった為に、嫡子であるカイルは半身を探す事を禁じられた。
それを恨んだ事はない。
伴侶とは仲睦まじく、子として五男二女を設けている。
今生の竜王、ルーカスと初めて相見えた時には驚いた。
人間に転生していたのだから。
だがそんな事は噯気にも出さずに対応出来たと自負している。
その竜王は、愛する半身の家族をここに招待した。
竜王の判断であるならばカイルに否やはないが、こと、竜王の身の安全になると話は違って来る。
竜王の転生に数千年かかっているのだ。
だが、カイルが焦燥する傍らで、竜王は呑気に言葉を紡ぐ。
「エルナードとクリストファーなら大丈夫だぞ? あれらは妹至上主義なだけで、我に対する害意はない。ああ、クロノスも安全だ。アレは我が竜王だと理解しているからな。半身に関わって死にたくないとすら思っているぞ」
「そう言う事ではありません」
カイルは溜息を吐く。
竜の本性を封じてしまったせいで危機感が薄くなっている竜王は、今の状態が異常なのだと理解していない。どうにかして悲劇を回避しなければ、と考える。
「アリスティア様の警護は三名でよろしいでしょうが、陛下の警護が薄すぎる様に思いますので、竜王としての警護をつけさせていただきます。人間の、皇太子の警護ではなく」
強い口調で奏上すれば、竜王は拒否しない。
「好きにせよ」
思った通り、竜王はカイルの奏上を受け入れた。ならばあとは人員の手配だけ。
近衛師団長と人員の選抜をしなければ、とカイルは宮殿に向かった。
☆☆☆☆☆
客間に通され、そこで晩餐まで休むよう言われたアリスティアの家族とクロノスだったが、はっきり言って、家族ではないクロノスが、この中に混ざって休める訳がない。
家族がのんびりとアリスティアの事を話しているのを聞いているしかなかった。
「父上、なぜディートリヒ兄上にアリスの事を全く話さなかったのですか?」
「なぜそれを……」
「三日前に、殿下が全て話して聞かせる羽目になった時に。
アリスがトラウマで、他人の接触に対して恐慌状態になる事はご存知でしょう?
教育要項精査会議に参加する為に、僕たちも参加させられたんですよ。お陰でバークランド家の兄妹が揃い踏み。それはいいんですがね」
「ディートリヒ兄上が、アリスの事情を知らないから近づいて来たんです。恐らく抱き締めに。そこを、殿下に止められましてね。事情は後で話す、となったのです」
エルナードとクリストファーが話している。二人とも、いつもに比べて表情が固い気がした。
「会議の後、殿下はアリスを抱え、全員で皇太子執務室に転移しました。そこで、トラウマに関する話でアリスの心がまた傷つかない様にと、アリスを眠らせたんです。無詠唱で。まあ、殿下は竜王でもあるから、無詠唱でも驚きませんが」
エルナードは、やはりいつもに比べて真面目だ。
「殿下がディートリヒ兄上に、アリスの魔力暴走の件を聞いたところ、知らなかった事が判明し、殿下は、アリスとの出会いから話す羽目になりました。例の事件までは、殿下も楽しそうに話していましたよ。ですが、例の事件を話し始めた殿下は、怒りで竜王としての面が強く出ました」
淡々と話すクリストファーは、いつもの妹至上主義ではない。
いつもは妹がそばにいるからあんな残念な感じになるのだろうか?という疑問が湧く。
「救出の後の、攫った魔術師と攫う事を指示した男と、アリスの髪の毛を掴んで引き摺り回した侍女、更に幼いアリスに無体を働こうとした皇帝への処刑の事を、淡々と話す殿下は、間違いなく竜王でしたね。いつもは僕たちが怖れないようにと、人間の『皇太子』であるようにいてくれる殿下なんですがね。あの事件は、殿下の──竜王様の心にも傷をつけてますね、確実に」
「さっきね、竜王代理のカイル殿と、ルーカス様が話しているのを、聞くともなしに聞いていたんですがね。竜の雄は、半身が亡くなると衰弱死するそうです。
つまり、アリスが自決していたら、皇太子殿下も竜王陛下も、この世から消えていた事になるんですよ。
僕たち、救出時にはそれを知らなかったんですが、アリスに殺して欲しいとお願いされてもその望みを叶えなくて良かったと、心から思いますよ」
「ルーカス殿下は、僕たちの主ですからね。死んで欲しくない。
でもね。ルーカス殿下は、アリスの転生前の人格から、暫くは父性愛で育ててくれ、とお願いされてましてね。
僕は普通に、慈しむだけだと思っていたんですが。
あろうことか、竜王様は、自分の竜の本性に封印をしたそうです。本能と竜王部分は残さなきゃならないから、難易度最凶級だった、と笑っていました」
「そこまでする殿下の──竜王陛下のアリスへの愛は、僕たちじゃ敵わない。そしてカイル殿がそんな竜王陛下の様子に危機感を持ったみたいで、警護に竜人の近衛をつけると言っていました。だから父上。それを受け入れてください。
多分、竜王陛下が害されたら、アリスも壊れる。
アリスは、ルーカス殿下の無償の愛を受け入れ、信頼し、依存している。まだ保護者への愛だけど」
「多分、アリスは気がついていないけど、少しずつルーカス殿下に──竜王陛下に惹かれていますよ。まだ恋と呼べない小さなものだけど。だから、アリスが成人した頃には確実に、ルーカス様に恋しています。それが、竜族の半身、という事なんでしょうね」
「僕たちは、アリスを守ると決めました。僕たちの価値基準がアリスである事が歪んでいる自覚はあります。それでも、アリスの幸せを守る為なら、他からの評価なんてどうでもいいんですよ。ルーカス様と同じでね」
「そうそう。ルーカス様も、アリス至上主義だからね。アリスの評判が落ちる事には気を遣うけど、自分の評判はどうでもいい、と言い切っちゃうからね。そして、評判を粉砕する能力も持っています」
淡々と話す双子は、いつもと全く違う雰囲気で、いつものふざけた様子はなく、父親ですら戸惑っているようだった。
「……エルナード、クリストファー。アリスティアは、殿下に──竜王陛下に惹かれているのか?」
「閲兵式の時に、竜王陛下が竜化したあと、アリスに『来い』と声をかけていたでしょう? それに対してアリスは毛ほどの躊躇いも見せず、飛翔魔術で飛んで行って竜王陛下の首に跨った。そして、その背中に立って近衛師団に対して進軍開始を宣言しました。
アリスがそんな事を、自分からやる訳がない。確実に竜王陛下からの指示です。それを受け入れている時点で、アリスは竜王陛下を無条件で信じているんです。
それは、惹かれているからでもありますよ。まだ保護者への慕情ではありますが」
「竜王陛下が害されたら、アリスティアが壊れる、と言うのは……」
「持てる能力を全て使ってでも、害した相手に報復しますね。なにせ、大事な保護者を失う事になる訳ですから。
そしてアリスの報復には、広範囲隕石落としがあります。しかも、聞いた話しだと今は三十発撃てるそうです。他国に竜王陛下が害されたら、確実にその国は滅びますね」
「民を害する事を嫌うアリスが、そんな事をしたら、確実にアリスの心が壊れます。
そうならせない為にも、ルーカス殿下の警護に竜人の近衛は必要なんです。たとえルーカス殿下が強くても、塵ほどの油断も許されないのですよ。
アリスだってフォルスター皇国で最強だったのに攫われたのだから」
アーノルドは呻った。
おそらく言われた内容で、竜王の警護の重要性を理解したのだろう。
クロノスはそっと観察を続けた。
「父上。殿下に竜人の近衛をつける案ですが。
まずは、殿下が『竜王の転生体』である事を公表しましょう」
「は? それは機密ではないのか?」
「殿下は何も仰られません。つまりは公表して構わないという事。だから、『竜王の転生体』だという事実を公表するのです」
エルナードはそこで言葉を切り、宰相をじっと見た。だが、宰相は何を言いたいのかわかっていないようだった。
エルナードがため息を吐きつつ言葉を紡ぐ。
「『竜王の転生体』であって、『竜王』ではないという欺瞞情報ですよ。
そして、竜人が『竜王の転生体』である殿下を見つけて、覚醒するまでの警護を申し出てきた。だからフォルスター皇国の近衛の入隊試験を受けさせ、それに合格したから近衛に配属になった。そして希望通り、『竜王の転生体』である皇太子殿下の専属警護に配属になった──これが僕の案です。近衛の試験は、竜人であれば問題なく合格するでしょうからね。
そして、できれば殿下の移動は全て竜人が竜化して、その背に殿下を乗せて行く、という形にしたい。馬車での移動で、殿下への襲撃の芽が可能性としてでも残る事を潰したい」
「なるほど。よくできてると思う」
「あと、父上。ディートリヒ兄上を次期宰相としているなら、情報の共有をお願いしますよ。今回発覚した、ディートリヒ兄上への情報の遮断は、ちょっと酷いものがありますから。
皇太子殿下の事と、現在皇太子殿下の婚約者であるアリスの事は、共有すべき情報です」
エルナードに諭されて、宰相アーノルドは項垂れてしまった。確かにエルナードの言うとおりだ。情報は、共有すべき人間には隠してはならないのだ。隠した場合、仲間内で齟齬が出てしまう。これは宰相の落ち度だった。
「わかった。戻ったら早速、情報の共有をする」
「お願いしますよ、父上」
エルナードがため息を吐きつつ、そう締めくくった。
クロノスは、宰相一家のちぐはぐさを横目で見つつ、それでも自分よりはマシな事が羨ましかった。
双子の本音はこうなんです。
アリスが可愛すぎるから、普段は残念な感じになるだけで、ちゃんと自覚してるし、ダメな部分の線引きもできるのです。
変態だけじゃない、皇太子の側近は有能じゃないと務まらないのです。
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