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第48話 はしゃぐ竜王①

2019年9月19日改稿。

アリスティア視点、クロノス視点、ディートリヒ視点、ルーカス視点が混在していたのを、ルーカス視点に統一。

大幅加筆修正。


 

 


「ディートリヒ、ここまでで何か質問は?」

「ええと……内容が濃すぎて未だ全てを理解しておりません。しかし、質問を許されるのならお聞きしたい事がございます」

「よい、申してみよ」

「ありがたく。殿下は、アリスティアと今一緒に暮らしているのですか?」

「ティアの心の安寧の為にな。ティアは、トラウマ故か一人で眠る事ができぬ様になった。悪夢に苛まれて眠りが浅く、続かない。半身である我が腕の中でのみ、安心して眠れるようだ。故に添い寝しておるよ」

「殿下は、その……男としての衝動は……」

(ワレ)は幼竜故に(オス)の衝動はまだないな。ああ、人間の(オス)としての衝動か。今は人間としてより竜として在るから、人間の本能は限りなく薄い。ただ、竜の本性を封印しているからな。封印が解ける二十三歳、ティアが十三歳になったらどうかわからんが。一つ言えるのは、竜は半身の為なら百年程度は待てるぞ。心配しなくても、無体は働かん」


 皇太子(ルーカス)の答えにディートリヒは微妙そうな顔になった。

 おそらくルーカスの答えは彼の予想を裏切り、どう返していいのかわからないのだろう。

 ディートリヒは、更に皇太子(ルーカス)に質問を続ける。


「話の途中で、アリスティアが、四大精霊王の愛し子だと聞こえましたが……」

「正確には攫われた後で光の精霊王の加護も受けたから、精霊王五人の愛し子だな。四大精霊王の加護も受けている。だが、竜王の半身なのだ。精霊王たちの加護くらい当然ではある。精霊王たちは、竜王の配下になるのだからな」


 ディートリヒの目が見開かれる。

 彼にとっては驚愕する内容だと理解はできるが、ルーカスにとってはどうでも良い。

 だが、ディートリヒは目眩でも感じたのか、ソファの上で僅かに体の軸がブレた。

 倒れなかった事は褒めてもいいだろう、とルーカスは冷めた目でディートリヒを見る。


「アリスティアが特級魔術師だとの事ですが……」


 ディートリヒはまだ聞きたい事が多いらしく、質問を続けた。


「広範囲殲滅魔術のステラリット・メテオリテを、三十発は撃てるらしいぞ。あと、時空魔術の保存庫(ブクスム・レポーノ)が使える。中身の鮮度が変わらない。それから重力障壁グラヴィタス・オービチェイも使える。オリジナル魔術は数個、五歳時点で作ってたな」


「我が妹は才能に溢れ過ぎでしょう。ああ、前世があるからですか?」


 どこか疲れた様子でディートリヒは言葉を続ける。


「それはあるだろうな。想像力を補えるほど、映像や絵の表現に溢れる世界のようだった。その想像力が、魔術行使の際に役立っている。術式なんぞどこ吹く風、全て想像力で魔術を行使しているのがティアだ」


 ルーカスにとっても、アリスティアは規格外の存在だ。

 異世界から転生するなど、前世からの記憶や知識を掘り返しても聞いた事が無かった。転生の輪は、同一世界の中の理の筈なのだ。

 だがアリスティアは異世界から転生して来た。

 三歳の時点で魔力量が当時のルーカスを遥かに凌駕するほど膨大であった事は、今考えると竜王の半身として生まれたからだと理解できる。

 だが魔術の覚えの速さは予想外過ぎた。

 魔術書を読むだけで覚えるなど、竜族の常識からも外れている。

 五歳で魔術師の位階である第五位階に自力で上り詰めるなど、誰が予想できようか。

 やはり彼女の言う「想像力」が鍵なのだろうか。

 魔術を想像力だけで行使するなど、前代未聞だが、アリスティアはそれをあっさりと成して、そのコツをフォルスター皇国の宮廷魔術師達に伝授した。

 当時の自分はまだ覚醒の片鱗もなかった頃だから、今ここで後悔しても無意味ではあるのだが、覚醒さえしていれば人間に余計な知識を与えずに済んだ、と思ってしまっても仕方ないと言えよう。


「発想力が豊かだからなのだろうな。オリジナル魔術もポンポン作ってたぞ。竜を見たこともない時期に、竜の飛翔をイメージして飛翔魔術を作ったりな。これが、ほぼ竜の飛翔に近いから困る。重力を操るあたりが特にな」


 異世界人の想像力は、アリスティアの想像力を支える知識となってくれている。

 以前言っていた、異世界での「ファンタジー」の存在である竜族の生態は、驚くほどこの世界の竜族の生態と重なるのだ。

 そのお陰で竜の飛翔と遜色のない飛翔の魔術を作り上げたとなると、アリスティアがこの世界へ転生してくれた事に感謝するしかない。

 ルーカスは知らず、眠るアリスティアを慈しむように眺めていた。


「殿下は、アリスティアを愛しているのですか?」


 ディートリヒが聞いてくる。


「そう言っておろう? ああ、心配せずとも良い。人間の成人が幼子に対してそんな振る舞いをしたら体裁が悪い事くらい知っている。ティアがそれを良しとせぬ事もな。だから、婚約者という立場は都合が良い。『婚約者だから連れ歩く』『婚約者だから大事にする』と解釈して貰えるからな」


 ただ、と皇太子は続ける。


「流石に一緒に寝ているのはティアの評判に響くからな。これは内緒だぞ? ああ、(ワレ)の評判など心底どうでも良い。評判で政務がどうこうなる訳でもないからな。反乱なんぞ企んだところで(ワレ)独りの力で粉砕できるし、政変など企んだ端から潰せるからな」


 ルーカスはディートリヒに告げると、口の端を上げ、冷笑を浮かべた。

 ディートリヒは怯んだ様子を見せた。




✩✩✩✩✩



「そうだ。いい事を思いついたぞ!」

「殿下。もの凄く、ひたすら嫌な予感しかしませんが、何を思いついたのでしょうか?」


 エルナードが眉を顰めつつ皇太子(ルーカス)に、それは嫌そうに聞いてくる。


「なに、簡単な事だ。ティアに私のカッコいいところを見せたいからな。竜の国で、閲兵式を行おうと思ってな。そこに、ティアの血縁者を招けば、家族ぐるみの付き合いになるではないか」

「やっぱり嫌な予感が当たった! 殿下、それ拒否権ありますか!?」


 エルナードは抵抗を試みてくるが皇太子(ルーカス)はそれを許さない。


「何を言っておる。ある訳ないだろう?」


 拒否する権利など与えた事はない。なぜそんな事を、と首を傾げて聞き返したのだが。


「ダメだこの人。アリスの事が絡むと途端にポンコツになる!」


 クリストファーが見当違いの事を言い出した。だから答える。


「クリストファー。そこまで喜ばなくても良いぞ」

「誰も喜んでない! いや、アリスと一緒にいられるならいいのか!?」

「クリストファー、騙されるな! 殿下は、竜の国に行ったら絶対にアリスを抱えて離さない」

「「アリス成分が足りなくなるのが目に見えてるのに行きたくない!」」

「相変わらず息ピッタリだな。だが、そんなに喜んでくれると嬉しいぞ」

「「喜んでねぇー!!」」


 ルーカスとしては、双子はアリスティアが大事にする兄だから目をかけていたのだが、そんな竜王を恐れずに事ある毎にからかいを含みつつ絡んで来る双子の度胸の良さに、いつしか竜王の数少ない気に入りの人間となっていた。


「殿下、なぜそんなにポンコツになるんですか?」


 クロノスが発言した内容も、普通なら不敬の極みだろう。真面目なディートリヒが渋面を作ってクロノスを睨んでいる。

 だがルーカスにとってはどうでもいい事なのだ。


「なに、ティアにカッコいいところを見せられるなら、周りにポンコツとか残念美形とか思われても気にしないからな。カッコいい保護者なら、ティアももっと安心するだろう?」

「殿下は安定のアリスティア様至上主義ですね」


 クロノスが笑う。

 ルーカスは、当然とばかりに胸を張った。


「当然だな! ティアは(ワレ)の半身だからな!」

「殿下! アリスを独占するのは反対!」

「僕たちにも撫でさせて! アリス成分が足りな過ぎて干上がる!」

「ふふふ。私はアリスティア様を毎朝撫でてますわ♪」


 突然、ダリアがその中に参戦した。


「ダリアずるい!!」

「くそっ! 僕たちが女だったら!」

「エルナード様とクリストファー様が女性でも、妹至上主義(シスコン)は変わらなそうですね。残念美形ならぬ残念美人でしたでしょうけど」

「ちょ、クロノス! 君ね、随分と辛辣になったね!?」

「お二方を見ていると、どうしても辛辣にならざるを得ません。見目麗しいのですから、その美貌で情報収集でもなさればよろしいのに」

「なんでアリスと同じ事を言うのさ!」

「女性を誑かして、情報収集すれば、いい情報が手に入ると思うからです」

「十歳児の発想じゃない!」

「殿下から教えて貰ったんですが、ダメでしたか?」


 コテン、と首を傾げる姿は可愛いのだが。


「殿下ぁー! 子供に何てことを教えているんですか!」

「効率的な情報収集の方法だが?」

「そう言えば殿下はこんな人だったな。十歳の頃から……」


 うんざりしたように、皇太子(ルーカス)を睨めつけるエルナードの視線を、ルーカスは平然と受け流した。

 内心では豪胆さに称賛を送っていたのだが、そんな事は噯気(おくび)にも出さない。

 代わりにディートリヒに指示を出す。


「ディートリヒ、宰相に伝えよ。三日後の朝に皇太子執務室に来るようにと。もちろん、ディートリヒも来るのだぞ?」


 目を剥くディートリヒに、皇太子(ルーカス)は宣告する。

 

「拒否権はないぞ。ティアの血縁者だからな!」


 何やら頭痛でもし始めたのか、顔を顰め頭を片手で押さえたディートリヒが言葉少なに答えた。


「御意」

「エルナードとクリストファーも拒否権はないぞ。その代わり、朝、早く来たらティアを撫でてもいい」

「うぐっ! その鬼畜発言に負けてしまう! アリスを撫でられるなんて至福の一時(ひととき)だ!」

「殿下は僕たちを手のひらで転がすのが上手いよね! 転がされて上げるけど!」

「手駒を手のひらで転がさなくてどうすると言うのだ?」


 ルーカスが不思議に思って聞いてみると。


「手のひらで転がす相手は、味方や手駒じゃなくて敵側ですよ、殿下!」


 クロノスに突っ込まれた。


「しかしエルナードたちを動かすにはティアを目の前にぶら下げるしかないのだが?」

「殿下はなにげに鬼畜ですね。婚約者を餌にするんだから」

「餌として見せる相手は選んでいるぞ?」

「そういう事じゃない!」

「しかし、ティアが撫でられているのを我慢すれば、物事は上手く回るからな。後で私がティアを撫でてやれば、ティアの機嫌も直るしな」

「サラッと惚気ないでください。僕、まだ婚約者もいない身なんだから、羨まし過ぎます!」

「クロノスは、婚約者が欲しかったのか?」

「だからそういう事じゃないんだってば!」

「もしかして、ティアがいいのか?」

「そんな怖い事をするわけないじゃないですか!」

「ティアは優しいぞ?」

「知ってますけどアリスティア様はダメでしょう! 殿下の婚約者なんだから!」

「私の婚約者じゃなかったら狙ったのか?」

「どうしてそうなる狙いませんし近寄りません殿下が怖いから!」


 一息に言い切って、ぜーはーと息を乱すクロノスを見ていると、更にからかいたくなる。


「ふむ。ではクロノスはどんなタイプなら好みなんだ?」

「なぜ僕の好みの問題にすり替わっているんですか! 話がズレてる!」

「クロノスのせいだろう?」

「もう、それでいいです……」


 クロノスは脱力してしまった。

 からかい過ぎたか、とルーカスはクロノスの様子を見、いいタイミングだからアリスティアを起こそうと考えた。


「そろそろティアを起こすか」


 そう言って皇太子(ルーカス)はアリスティアの頭に手を置いた。

 すぐにアリスティアが起きる。


「ティア、起きたか?」

「ルーカス様? またわたくしを寝かせましたの?」

「ティアのトラウマに関する事だったからな。傷を広げたくない。だから寝かせた。すまぬな」

「ルーカス様がそう判断したなら、それは必要な事だったのでしょう。だから、謝罪は要りませんわ」

「それなら良い。あと、ティアに見せたいものがある。三日後に竜の国に向かう。皇太子補佐官全員と」

「え!? 僕も拒否権無し!?」

「ティアの専属護衛たちと、宰相とディートリヒが行く」

「何やらクロノス様が、拒否権無しとか言ってますが?」

「ティアに見せたいものがあると言ったではないか。それを見て喜ぶティアを、見せびらかしたいのだ。だから、同行者に拒否権はないぞ」

「ルーカス様! なぜそんな横暴をなさいますの!?」

「ティアが可愛いから?」


 そう言ってルーカスは首を傾げて見せた。

 この動作は半身(アリスティア)が喜ぶ事を既に知っている。


「くっ! 大の大人が小首を傾げないでくださいませ! 可愛いではありませんか!」


 想定どおり、アリスティアが顔を赤らめてルーカスを褒めてくれる。その言葉が(オス)に向ける様なものでなくとも、半身から受ける言葉というだけで竜の(オス)として喜ばしいものになるのだ。


「デレるティアも可愛いぞ」

「殿下、いちゃつかないでください。砂糖を吐きそうです」


 クロノスが文句を言って来るが、そんなものは己の半身の前では無視してもいい。半身に勝るものはないのだから。


「とりあえず、竜の国のカイルに連絡せねばな」


 そう言うと、皇太子(ルーカス)は指をパチンと鳴らした。

 途端に現れる、薄い半透明な映写膜。

 それを見てわくわくしているらしいアリスティアは、やはり可愛らしいとルーカスは思う。


「カイル」


 映写膜の中に映った前世での甥を呼ぶと、


『伯父上。どうなされました?』


 と返事が返ってきた。


「三日後に、近衛の閲兵式を行う。準備はできるか?」

『可能です。伯父上は、今回は閲兵するだけですか?』

「いや、ティアを伴って参加する」

『では竜王親政式として準備致しましょう。アリスティア様の軍服はどうなさいますか?』

「ドレス式で、スカートは短く、スカートの下にはスキニーパンツを。可愛く仕立てろ」

「……ルーカス様、無茶振りなさってませんか?」

『アリスティア様、無茶振りではございませんよ。竜王陛下の半身の為なら、竜の国では喜んで皆仕事しますから』

「重いですわ……」

「心配するな、ティア。最高に可愛く仕立ててくれるぞ。私もティアを乗せて飛べるのが楽しみだ」

「え? 乗せて飛ぶ?」

「今回、竜化するからな。竜の背に乗って長距離を飛ぶのは気持ちがいいぞ」

「楽しそうですわね! なんだかわたくしも楽しみになって来ましたわ」


 アリスティアの目が、煌めいている。

 その目がきれいだとルーカスは思う。

 閉じ込めてしまいたいとは、今は思わない。

 むしろこの子が自分の、竜王の半身なのだと自慢したいくらいだ。

 竜の本性に掛けた封印は、上手く独占欲を覆い隠した様だった。


『では陛下。近衛師団に連絡を入れておきます。ああ、そう言えば。ブラウとシュワルツはいかがいたしますか?』

「ふむ。あの二人は実力者だったな。閲兵式の間だけ、入れ替えるか」

『御意。二人にはこちらから連絡を入れて、交代の者をフォルスター臣民国に送っておきます』

「任せる」


 話を聞いていたディートリヒがギョッとする気配を感じた。そう言えば竜人の護衛を送った事は秘密にしてたな、とルーカスは思い出したが、今更誤魔化す事も出来ないため、あっさりと誤魔化す選択を放り捨てた。


「まだフォルスター臣民国では不穏な動きはないな?」

『まだございません。ですが、陛下がフォルスター皇国へお帰りあそばされた後から、何やら蠢いている貴族がいる様子。実害はまだないので、陛下の仰る通り放置しております。武器を集め始めたらすぐに潰すように、ブラウには伝えてあります』

「重畳。監視を怠るな。(ワレ)がせっかく手に入れた国なのだからな」

「ルーカス様。民には罪はありませんわよ」

「わかっておる、ティア。民には善政を施さねばな」

『アリスティア様は慈悲深くいらっしゃいますな』

「我の自慢の半身だ。皆に見せびらかして自慢したいくらいのな!」

『は? 伯父上?』

「なんでもない。では三日後に訪れる。ああ、一緒に十人ほど連れて行く」

『御意』


 ルーカスは薄い映写膜を消した。



 

ここまで読んで下さりありがとうございます!


 

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