第43話 子供は子供らしく
書きたい場面は思い浮かぶのですが、どういう道筋でそこに至らせるかに悩みました。
この状態の竜王様はそんなに長い期間ではありません。
2019年9月18日改稿。
視点のブレを若干修正。
封印は成功した。
アリスティアに対する愛はそのままだが、穏やかな気持ちになる。
絶対的に囲いたい気持ちは少ない。
守り育てる為の、慈しみ、導く愛情。
ルーカスは、着替えて隣の部屋に向かった。
「ティア」
隣の部屋の鏡台に向かって、アリスティアが座っていた。
髪の毛は、マリアが結っている。複雑だ。男にはわからない。
「ルーカス様」
はにかむ様に笑っているその顔は、すごく可愛い。
この笑顔を曇らせたくない。
「熱は下がったが、今日はもう一度医師に診て貰うから、休んでいろ。政務は全力で熟してくる。寂しいだろうが、暫し待つが良い。専属護衛の他に、離宮にいる竜人たちも獣人たちも、人間よりよほど強いから守りは固いが。守護結界を張っておこう」
指を鳴らして、離宮全体に結界を張る。
アリスティアに害意のある者の侵入阻止と身体能力の低下。
魔術反射、ついでに物理攻撃反射。
アリスティアの守護者の身体能力向上。
「ルーカス様。わたくしより皇太子である御身をお守りくださいませ」
「我は大丈夫だ。地上最強だぞ?」
笑ってみせると、困った様な顔になる。
「ですが、何が起こるかわかりませんわ。わたくしもそうでしたもの」
笑顔が曇る。そんな顔をさせたくないのに。
手を伸ばして頭を撫でる。
「充分、気を付けよう。我の身の回りにも守護結界を張っておこう。ティアが安心するようにな」
指を鳴らすと、自分の身の回りに守護結界の発動を感じた。
結界の効果は、魔術反射、物理攻撃無効、状態異常無効。
本当は竜であるルーカスには守護結界は要らないのだ。竜王の皮膚は硬く、剣を弾く。攻撃魔術も通らない。状態異常ももの凄く効きづらい。というか、人間程度の魔力では効かないのだ。
しかし、アリスティアが心配するなら、その心配を取り除いてやる必要がある。その為なら、無駄な守護結界であろうとも、張っておいて損はない。
ルーカスは笑顔をアリスティアに向けた。
「これで満足出来たか?」
「凄いですわ、ルーカス様。魔術反射、物理攻撃無効、状態異常無効の三重結界ですわね。でも」
目を瞠り、効果を読み取り、感嘆の声を上げていたアリスティアだったが、その後少しだけ躊躇った後に、魔術効果を追加付与した。
追加された効果は、回復。完全回復ではないが、削れた体力の三割を回復してくれるのだから、手厚い。
「ありがたい、ティア」
また頭を撫でる。アリスティアは目を細めて嬉しそうに撫でられていた。
朝食を部屋に運ばせ、アリスティアに食べさせる。幸い、食欲は戻ったようで、食事を綺麗に平らげてくれた。
その後、執事長のバルタザールを呼んで、皇太子執務室に少し遅れる旨の伝言と、竜人医師のアルドリクを呼ぶ様に言いつける。
執事長のバルタザールは軽くお辞儀をして下がった。
暫くして、竜人医師のアルドリクが入室して来た。
「ティア。この男は竜人の医師、アルドリクだ。ティア付きの医師となる」
「アルドリク様、初めてお目にかかりますわ。竜王陛下の半身、フォルスター皇国のバークランド公爵が長女、アリスティア・クラリス・セラ・バークランドと申します。よろしくお願い致しますわ」
「勿体なきお言葉。私はアルドリク・シュナイダー。竜の国、シュナイダー子爵家三男でございます。この度、アリスティア様付きとなりましてございます。ご無礼がありましたらご容赦のほどを。
では早速ですが、アリスティア様の診察をさせていただきます」
竜の鱗が首に表れているアルドリクという壮年の医師の声は柔らかく、アリスティアの恐怖心は煽られなかった。
一通り診察したアルドリク。
「熱はもう下がったようですな。アリスティア様、今回の発熱はストレスが原因のようです。あまりストレスを溜めないようにお願いします。
竜王陛下、」
「ああ、この国では私は皇太子だ。だから、陛下呼びはやめるように」
「御意。皇太子殿下、アリスティア様の発育が、少々遅いようです。人間という点を差し引いても」
アルドリクの意見に、少し考えていると、横からアリスティアの声がした。
「シュナイダー先生、わたくしは平均より小さいかもしれませんが、基準値を超えていれば問題ないと思いますの。わたくしは基準値は超えていると思いますわ」
実際、アリスティアは確かに小さめではあるが、年齢に見合わない訳ではない。あくまで平均より小さい、という範囲内だ。
アルドリクは頷き、アリスティアに向き直った。
「アリスティア様。確かに仰る通りです。ですが、お体を丈夫にする為にも、健やかなる成長は必要です。食事・運動・睡眠を、バランス良く適度にお取りください」
「わかりましたわ、シュナイダー先生。あと、発熱ですが、知恵熱ではなくストレス性ですの?」
「その通りです。侍女殿が言っておりましたが、何かを思い悩んでいたそうですね。幼いのですから、あまり思い悩まれませんように。悩みは周りの頼れる大人に相談し、子供らしくある事が、健やかなる成長に必要なのですから」
子供らしく、と言われ、アリスティアは驚いていた。
今まで彼女の周囲は、アリスティアが聡いという点を考慮し、彼女を自分たちと同等の存在として扱ってきたし、彼女も同等の存在でいるべきだという雰囲気を感じ取り、自然、そうある様に律していた。
子供でいていいのか、とアリスティアは困惑した。
その困惑を、皇太子は読み取った。
「ティア。子供が子供でいて悪い事はない。子供なのだから周囲の大人にもっと甘えていいのだ。いや、むしろ、私たち大人が聡いティアに甘えていたのだろう。期待に応えてくれるティアに、もっと、もっとと期待を押し付けて。本来なら逆なのにな。ティア、わがままを言いたいなら、遠慮なく申せ。それくらい叶えられず、何が保護者か」
皇太子がアリスティアにふわりとした穏やかで包み込む様な笑みを向けると、彼女はほっとした様な表情をした。
「殿下。ありがとう存じます。あまり我慢しない様にしますわ」
「そうしてくれ。ああ、そなたの知識は、貸して貰わねばならぬが」
「それくらいなら大丈夫ですわ」
「ではティアの診察が終わったから、私は執務をこなして来るとしよう。アルドリク、ティアと少し話をしてやってくれ」
「御意」
竜王──皇太子は指を鳴らして転移して行った。
「アリスティア様。昨日、皇太子殿下から伺いましたが、貴女様は転生体だそうですね」
「転生体、などと。単なる転生者ですわ」
「殿下から、アリスティア様より医療知識の吸収を、と言われまして、その知識に興味が湧きました。これから医療知識の摺り合わせを行いたいのですが」
「殿下からその様に言われているのでしたら、わたくしに否やはございませんわ」
そうして、アルドリクはアリスティアに質問という形で医療知識の摺り合わせを行っていった。
人体構造、臓器、病気の種類とその治療法、防疫の必要性とやり方、などなど。
聞く範囲内ではこの様な専門的な知識は、幼い子供の頃から教えられるらしい。
異世界とは恐ろしい、とアルドリクは思った。
ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m





