第42話 竜王の愛情と封印
2019年9月18日改稿。
微修正。
アリスティアが眠ったので、夕食は終了となった。
竜王は、エルナードとクリストファーに、執務室に転移すから、そこからいつも通りに帰るようにいい、パチンと指を鳴らして転移を行った。
それから寝室に入り、アリスティアを先にベッドに寝かせ、着替えの魔術で寝間着に着替えさせた。ついでに自分も寝間着に着替え、ベッドに入りアリスティアを抱き締めた。
隣の部屋からは、侍女たちが夕食の後片付けをしている気配がする。
先程の、アリスティアの前世の人格との話を思い出す。
高等学校で習う、現代国語、古典、漢文、数学、政治経済、生物、地学、物理、化学、外国語、哲学、倫理、美術、音楽、体育、女は家庭科、男は武道。
生物学を一つ取っても、この世界の医療従事者は彼女の知識に遠く及ばない。
だが、おそらく深すぎる知識はまだこの世界では受け入れられないだろう。
精査が必要だ。
その為にはやはり、アリスティアに"学習要項精査会議"に出て貰う必要がある。
その後は父親代わりとして構えば、問題ないはずだ。
そう考えてから、ふと、アリスティアの知識を"吸収"すればいいのでは?と気がついた。頭に手を置き、魔術を発動する。
「っ!」
膨大な知識が流れ込んでくる。
国語──文学を基本として、"漢字"、表現力などを習う。
古典──昔に廃れた読み方を習い、昔の文学を直接理解する──これはこの国でも使える。
漢文──"漢字"だけで書かれた文章を独特の読み方で読み解く。ややこしい。これは古文書のようだ。
数学──微分積分、二次関数、三角関数、図形。なんだこの複雑な内容は、と驚く。こんなのを異世界では習うのかと戦慄する。
政治経済、生物学、物理学、地学、化学、外国語、哲学、美術、音楽、体育。次々と流れてくる情報に、知らず、竜王の額に玉の様な汗が浮かぶ。
やがて、知識の流れは止まったが、竜王は珍しく疲れていた。
この知識量なら、アリスティアが融合時に一週間かかったのも頷ける。幼児にこれは確かに酷だ。
──ああ、だからこその"融合"なのか。
なんとなく納得した。
そのまま竜王は眠りに落ちた。
✩✩✩✩✩
腕の中で身じろぐ気配がして目が覚めると、アリスティアが自分を見つめていた。
嬉しくて、つい笑顔になりそうになったが、昨日の件を思い出して、"父親のような"笑顔を作る。
そして、額に軽いキス。
安易に引き受けたが、これはかなり忍耐力が試される。
「おはよう、ティア。熱は下がったか?」
アリスティアの額に手を当てて測ってみれば、熱はもう下がっていた。安心してため息が漏れる。
「ルーカス様。おはようございます」
アリスティアは、ルーカスの様子が変わった事に戸惑いを感じたようだった。
ならば取る手は一つ。
「ティア。昨日、マリアから聞いたのだが。我の注ぐ愛情に、そなたが気に病む必要はないのだ。竜の特性なのだからな。それよりも、気に病むなら過度な接触は控えておこう。その方が、ティアの心が休まるならな」
ルーカスが伝えると、アリスティアはそのすみれ色の瞳を瞠った。
「ルーカス様、良いのですか?」
「良いぞ。だが、数年は我がそなたの保護者としてそばにあろう。ティアは目を離すと何をするかわからんからな」
そうして穏やかに笑ってみせると、アリスティアはホッと安心したように微笑んだ。
竜としての本性が、半身としてアリスティアを囲いたいと猛るが、それを押し殺す。こんなのを毎回やるのはかなり耐久力を試される。
ならば、期間を決めた封印を、竜の本性にのみ施す。
アリスティアを守る為に。
竜王としての部分は残さなければならないから、かなり繊細な封印にする必要がある。だが、己の妃を守る為なら容易い。
アリスティアを腕から解放し、サイドテーブルに乗せたベルを鳴らして侍女を呼ぶと、着替えさせるように言いつけた。
アリスティアの専属侍女は、彼女を隣の部屋へ連れて行った。
その間に、自分は竜の本性のみに封印を試みる。
繊細に、緻密に。竜王の性格はそのままに。竜の本性のみ抑える様に。
術式を起動する。そこに書き込む条件を設定する。
期間は五年間。アリスティアが十三歳になったら解放しよう。
自分はその時二十三歳。まだまだ幼竜だが。人間ではいい大人だ。
その時から、ひたすら甘やかせばいい。
竜王は、くつくつと笑いながら。
難易度最凶級の封印を行った。
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