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第40話 公爵令嬢は熱を出す

2019年9月18日、改稿。

 


 夕食を食べさせて貰い。

 アリスティアのもふもふな専属侍女たちに、皇太子の私室についている風呂で洗われ、さっぱりほかほかになったアリスティアは、さっさとベッドに入って毛布を被った。先に寝てしまえば、羞恥まみれの時間を過ごさなくていいだろう、と思ったのだが。

 竜王が来て、すばやく抱き締められて、彼女の試みはあえなく失敗した。

 諦めが肝心らしい、とアリスティアは遠い目をして思った。




 翌朝、またも美麗な顔を間近で見たアリスティアは、心臓の強化はできるのかしら?などと考えた。目を開けたら美青年の顔が目の前にある、なんてシチュエーションは、妄想だから許されるのだ、と声を大にして言いたいアリスティアである。心臓の鍛錬をしてるつもりはないのだ。


 そんな、やくたいもない事を考えていたアリスティアは、その美青年の瞼が上がって彼女の視線を捉えたあと、嬉しそうに細められ、流れるように額に口づけられた事を悟った瞬間、うっかり真っ赤になってしまった。


 不覚である。


 だってもの凄い美青年が、自分(アリスティア)を好きだという感情を隠しもせずに額に口づけるのだ。恥ずかしすぎて、身の置きどころがなくなる。


 なぜこんなにも、とは思わずにいられない。

 多分、それが"半身"なんだろう、というのはわかっているけれども。


 わかっていても感情が追いつかないのだ。

 知識なんかは使えても、感情や気持ちなどは、多分、体に引き摺られて幼いままなのだろう。相手からの好意を感じても、絆されるとか、好きになるとかではなく、単なる安心感、この人なら絶対に大丈夫、というものなのだから。保護者に対するようなもので。恋愛感情ではないと、絶対に言える。

 だからこそ、戸惑う。こんなのでいいのか、と。




✩✩✩✩✩



「ねえ、マリア」


「なんでしょう、アリスティア様?」


「マリアは恋をした事があるかしら?」


 アリスティアが問うと、竜人のマリアの瞳が縦に割れた。これは竜人が動揺した時の特徴らしいから、マリアが動揺した事になるのかしら、とアリスティアは鏡越しに見た現象について考えていた。


「あ、あ、アリスティア様はまだ八歳でございますわよね!?」


「そうよ。でもわたくし、愛だの恋だのはまだ知らないから、どのようなものかと思ったの」


「なんだか安心しましたわ。まだまだ幼いアリスティア様が、ついに竜王陛下に恋愛感情を持たれたのかと……」


 なぜだろう。半身なら受け入れるんじゃなかったのか。

 と、訝しむ。


 実は専属侍女たちと専属護衛たちが、アリスティアと竜王の様子を見つつ萌えているのを彼女は知らなかった。主に愛玩動物的位置付けで。

 それを知ったらアリスティアは多分、落ち込むだろう。


「アリスティア様。恋愛はするものではなく、落ちるもの、ですわよ。よく、恋に落ちる、といいますでしょ」


 兎族のアイラが、そんな事を教えてくれる。

 手はアリスティアの髪を軽く結っている。


「でも突然どうなさったのですか?」


 犬族侍女のクレアが問う。


「うーん。わたくしがルーカス様に愛されているのは感じるのですけれど。わたくしがルーカス様に感じるのは、保護者に対するもののような気がして。感情がルーカス様のそれに追いつかないのですわ」


「アリスティア様は随分と難しく考えていらっしゃいますのね」


「でもマリア。ルーカス様が惜しみない愛情を注いでくれてるのに、わたくしがこんなのでいいのかしら? と思ってしまうのよ」


「アリスティア様。半身に対する愛情は、別に平等でなくても良いのですよ。獣人の場合はあまり年齢差はありませんけれど、竜人の場合は、その寿命の長さから半身との年齢差がとても大きい場合があるそうですわ」


 アイラが、ハーフアップに結い終わった髪を、そっと下ろしながら教えてくれる。


「竜人の場合ですと、雄が五百歳、半身の雌が十歳、という例がありましたわ。その時の雄は、半身に対して惜しみない愛情を注ぎつつ、百年近く大事に育ててましたのよ」


 竜人のマリアが、何かを思い出すようにそう言った。


「ですから、アリスティア様が気になさる事は何もありませんのよ」


 マリアがそう結論付ける。

 竜人のマリアがそう言うのなら、確かに気にしなくてもいいのだろうけど。それにしても気の遠くなる長さだ。


 自分は人間で、ましてや元日本人だからか、その辺(感情の食い違い)がとても気になるのだ。相手に申し訳ない、と思ってしまうのは、日本人的メンタルなんだろうと思う。


 でも、まだ時間はあるから、この気持ちが育つ可能性も無きにしもあらず。今は様子を見るしかないのかもしれない。

 アリスティアはむりやり、そう思う事にした。





 毎回恒例となりつつある、朝食をあーんで食べさせて貰った後、アリスティアとルーカスは、皇太子執務室に行った。アリスティアは相変わらずルーカスの腕の中にいる。


 さすがにダメだろう、と降ろすように頼んだのだが、アリスティアの足だと時間がかかると言われて渋々抱っこされる事になった。


 執務室に入ったら、エルナードとクリストファーの二人が駆け寄ってきて、ルーカスの腕からアリスティアを剥ぎ取った。


 エルナードの腕に収まってからめちゃくちゃエルナードに撫でられて、せっかくアイラが結ってくれたハーフアップが崩れてしまった。満足したエルナードの腕から、次はクリストファーの腕に抱えられ、やっぱりめちゃくちゃ撫でられた。


 ちなみにダリアからは、髪を結う前にめちゃくちゃ撫でられている。

 崩れた髪型をどうするのか悩んでいたら、専属護衛のカテリーナが直してくれた。有能である。

 髪型を整え直したアリスティアを、ルーカスが受け取って、ソファに降ろした。


 午前中は勉強がある。

 ルーカスは、覚醒したからなのか、帝王教育は終了となり、執務に重点を置くようになっている。

 脇でアリスティアは、勉強に励むのだ。今でははっきりわかる、妃教育。


 不満がある訳ではないけれど、対人間恐怖症があるアリスティアが、皇妃になれるとは思えない。次代の皇妃を育てるべきでは、と考えてしまう、八歳児である。イヤな八歳児だ、とアリスティアは苦笑した。


 今日の勉強は、と準備しようとしたアリスティアだったが、ルーカスの言葉で、準備どころではなくなった。


「エルナード、クリストファー。ティアと婚約が調った。今日から離宮に住む」

 

 そうルーカスが宣言した途端、エルナードとクリストファーが騒ぎ出したのだ。大迷惑である。


「アリスー! もうお嫁に行っちゃうの!?」


「兄様。お嫁に行くわけではありませんわ。単に一緒に住むというだけですわよ」


「アリス、それ、絶対に他の人に言っちゃだめだよ?」


「失礼な。言いませんわよ。同棲してると思われて──あらやだ。同棲ですわね?」


「アリス! おとーさんは許しませんよ!」


「エル兄様を父様と思った事はありませんわよ」


「アリス、同衾はだめだぞ!」


「いい加減、私に構ってないで仕事なさいませ! わたくしも勉強がありますのよ! 邪魔をしないでくださいませ!」


 アリスティアがキレたら、兄二人は渋々仕事に戻った。

 手間のかかる兄である。





 午前中の勉強が終わり、昼食をいつもの如くルーカスに食べさせて貰い、キレかかった兄たちを宥め、午後にはみんなで政務案を話し合い。


 お茶の時間が終わったら、なんだか疲れたアリスティアである。

 だるくてソファにぐったりともたれていたら、ルーカスが気がついて抱き上げた。


「ルーカスさまの手がつめたくて気持ちいいです」


 ぼんやりとして、だるいまま、思った事を素直に言葉にしたら、ルーカスの眉が顰められた。


「ティア。熱がある」


「うーん。ねつですか?」


 そういえば、頭痛がする気がする、とアリスティアはぼんやりとしたまま考える。


「転移する。ダリア、カテリーナ、ユージェニア。近くに」


「御意」


「殿下、僕たちも」


 エルナードが近くに来る。


「勝手にしろ」


「僕は残ってますね」


 クロノスはそこまでアリスティアに思い入れがないから、残って仕事をする事を選んだ。


「やれる分だけ仕分けしておけ」


「御意」


 そう言うと、ルーカスは総勢七名で転移した。場所は離宮である。


 離宮の玄関ホールに転移で現れた主人に、執事が慌てて駆け寄って来たが、腕の中でぐったりとしているアリスティアを見たら、すぐに使用人たちに寝室の準備を言いつけた。


「医師は竜の国から呼べ。転移できる者に迎えに行かせろ」


 ルーカスが指示する。


「御意。食欲がなくてもアリスティア様が食べられる様に、パン粥を作りますか?」


「そうだな。そうしてくれ。このまま寝室に連れて行く。洗面器とタオルを用意しろ」


「御意。すぐに用意致します」


「でん──竜王陛下。アリスが医師に拒絶反応を起こしたら……」


「心配要らん。医師は竜の国から竜人の医師を呼ぶ。ティアは竜人と獣人には拒絶反応を示さなかった」


「それなら安心かな」


「ティアの熱が下がらないうちは安心は出来ぬ」


 言いながらも離宮の中を歩き、寝室に続く部屋の前についた。

 執事がドアを開け、中に入る。

 ルーカスが続いて入り、エルナードたちも続く。


 寝室に続くドアを執事が開けると、ルーカスはすぐに入って、ベッドにアリスティアを寝かせた。エルナードたちも続いて入って来そうになったが、執事がそれを止めていた。


「ティアの専属侍女たちを連れてくるから待っていろ」


「はい」


 熱でぼんやりとしたまま、アリスティアは答えた。

 そんなアリスティアの頭を優しく撫でると、ルーカスは皇宮の皇太子の私室で待っている侍女たちの元に転移した。


「ティアが熱を出した。転移する」


「御意」


 侍女たちは顔色をなくしたが、余計な事は言わず、すぐにそばに集まる。

 三人が集まったあと、すぐに離宮の寝室に直接転移した。


 ベッドの脇にあるサイドテーブルに、洗面器とタオルが用意されていた。

 洗面器の中に、氷水を満たした。


「これでタオルを濡らし、頭を冷やしてやってくれ」


「畏まりました」


 侍女たちがテキパキと仕事に取り掛かる。

 椅子を引っ張ってきてベッド脇に座ろうとしたのだが。


「るーかすさま、こわい」


 ぼんやりながらも、恐怖の色を浮かべたアリスティアに、ルーカスは直ぐにベッドに入ってアリスティアを抱きしめた。


「大丈夫だ、ティア。(ワレ)が守る」


 そう囁くと、安心したようにアリスティアは目を瞑った。


 三十分後、竜の国から転移で医師が訪れた。

 すぐさまアリスティアの診察を行う。


「ふむ、心配なさらずとも良いですな。体には悪いところはございませぬ」


「だが、この様に熱が出ておるではないか」


「おそらくは、ストレスによる発熱かと存じます」


 医師の言葉に、竜王は瞠目する。

 ストレス発散は定期的にさせていたはずだが、と考えたが。


「恐れながら、陛下」


 アリスティアの診察を見守っていた侍女たちが、顔を見合わせながら頷き合ったあと、意を決した様に、竜人侍女のマリアが口を開いた。


「申してみよ」


「アリスティア様は陛下の愛情に対して、何やら引け目を感じていたご様子でした」


 そう言って、今朝のやり取りを報告する。


「まだ感情が追いつかない、と、そう申していたのか。難しく考え過ぎだな」


「はい。そう、進言させていただいたのですが」


「おそらくは、ティアも転生している故だな。異世界にて十九年の人生を過ごしたようだしな」


「まあ。アリスティア様も転生体でしたか」


「ただ、(ワレ)が視た中では、前世でも恋愛経験は無かったようだ。ふむ。マリア。報告大儀である」


「勿体なきお言葉」


「医師よ。名をなんと申す」


「は。アルドリク・シュナイダーと申します」


「シュナイダー子爵家の者か」


「は」


「アルドリク・シュナイダー。そなた、明日から我が妃付きにする」


「ありがたき幸せ」


「おそらくだが、我が妃はある程度の医療知識も持っておろう」


「アリスティア様が、転生体であらせられる、という話からですか? アリスティア様は、転生前は、医務官であらせられたのでしょうか?」


「いいや? ティアは、ただの学生だったようだぞ」


「学生、ですか?」


「勉強をするのが仕事の、最低六歳から最高二十四歳までの子供だな。ああ、二十歳以上は大人らしいが」


「では、医学生で?」


「いや? 文学を専攻していたらしいな」


「は!? 文学ですか!?」


「ティアの持っている医療知識は、おそらくは異世界の常識レベルらしいが。もしその知識が、こちらより進んだものなら、吸収せよ、アルドリク」


「は。心得ましてございます」

 

 アルドリクは深く頭を下げた。

 彼にとっては、医療知識が増える事が、何よりの魅力である。是非もなかった。

  

どういう展開に持っていこうか悩んでいます。

とりあえず、アリスティアは考えすぎて負荷が脳にかかり過ぎた為に発熱してしまいました。



ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

 

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