表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/185

第35話 公爵令嬢は属国で提案する

2019年9月17日、改稿。  微修正。若干加筆。

2019年11月21日、改稿。  微修正。若干加筆。

 


 アリスティアは、ナイジェル帝国の宮殿に客間を用意してもらい、専属侍女に客間を整えて貰った。

 その客間は竜王と一緒で。

 その事で兄二人が物凄く駄々を捏ねた。

 結局、アリスティアが、竜王と一緒の方が安心できると言ったら撃沈して泣いていたが。


 晩餐は、アリスティアと竜王の客間で、全員で摂った。

 アリスティア、竜王、エルナード、クリストファー、ダリア、クロノス。

 不思議な事に、クロノスに対しては拒絶反応は出なかった。おそらく年齢が関係あるのだろう。クロノスは子供だからではないか。

 そう思ったが、それは口にはしなかった。


 晩餐を食べ終わり、侍女に手伝って貰って入浴を済ませる。

 兎族の耳が可愛くて悶えていたら、アイラが照れていた。アリスティアにはその様子も可愛すぎる程可愛く映った。

 犬族は、尻尾がモフモフで、触りたいと言ったら恥ずかしがられた。


 湯殿から出てから、余り匂いのしない香油で髪を梳かして貰い、その後、魔術で乾かした。

 竜人族は目が縦に裂けて素敵だ、と言ったら驚かれた。アリスティアとしては、竜王の金色の瞳を見てそう思っただけなのだが、竜族にとっては驚く事だったらしい。

 三人とも可愛いから、悶える事が多そうだと思いながら、竜王(ルーカス)が来るのを待ってた。


「ティア。待たせたな」


 そう言いながら、即座に膝抱っこで頭を撫でて来た。ルーカスに抱っこされるといい匂いがして安心するから嫌いではない。

 胸に頭を寄せてもたれかかる。

 この匂いに包まれていると、守られているのを感じるのだ。

 怖い事も思い出さなくて済む。


 アリスティアは未だに生きてていいのかと思ってしまう。しかし、ルーカスがいいと言うなら信じてみてもいいかもしれない、くらいには思えるようになって来た。

 撫でられているうちに眠くなってきた。

 とろとろしてるうちに、夢の中に入ったらしい。

 額に何か触れた気がした。





「ティア。まだ生きてていいのかと思っているのか。いいに決まっている。我の半身なのだぞ。そなたを我の愛で包んでしまいたいが、さすがに幼すぎるからな。大人になるまでは手出しはせぬよ」


 だからお休み、と竜王は愛しいアリスティアの額に口づけた。





✩✩✩✩✩



 翌朝。

 またアリスティアは竜王にがっちりホールドされて起きた。朝から美しく麗しい顔が目の前にあるのは心臓に悪すぎる。アリスティアの平凡な顔と比べるべくもない。男性なのに顔面偏差値が負けててアリスティアは泣きそうだった。

 腹が立ったので、えい、とばかりに頭突きしてみた。


「……ティア。なぜ頭突きされるのだ」


 竜王(ルーカス)が若干痛そうな顔で顎を撫でた。


「ルーカス様が麗しすぎるからですわ!」

「さすがに意味がわからないのだが」

「分からなくてもいいですわ! なんだか腹が立ったんですもの」

「今朝のティアの気分が、余り良くないのはわかった。だからと言って、頭突きで起こさないでくれ」

「知りませんわ!」


 竜王の顎にアリスティアの頭突きが決まり、アリスティアは額が痛かった。

 ルーカスもまだ顎を撫でている。


「ルーカス様、離してくださいませ!」


 ぷりぷりして言うと、今朝は素直に離してくれたので、ベッドから抜け出して着替えの魔術でドレスを着用した。

 アリスティアが椅子に座っていたら、ルーカスが来てすぐに膝抱きした。それがなんだかしっくり来てしまう。彼女は怒っていたのだが、怒り続けるのも馬鹿らしくてそのままもたれかかった。

 すぐに頭にすりすりされる。


「ティア、もう怒っていない?」

「ルーカス様、もう大丈夫ですわ。ごめんなさい」

「うん、ティアがどんなでも我はティアが愛しいのだ」

「幼女に愛しいとか、変態ですわ」

「変態なのは人間だからだろう? 竜は、半身の年齢は関係ないからな」


 くすくす笑って言われると、年齢の事なんかどうでもいい気がしてくる。


(でも流されちゃダメなのよ! まだまだ人間の国で生きなきゃならないんだから!)


 そう思い直そうとしても、竜王から惜しみない愛情を受けていると、些細な事に思えてしまうのだから、竜族の半身に対する愛情は半端なく深いのだろう。





 そのうちに、アリスティアの専属侍女が来た。侍女にヘアスタイルを調えて貰い、昨日と違うリボンで飾られて、心が浮き立つ。

 侍女達に朝食を客室に運んで貰い、膝抱っこのまま、また竜王に食べさせて貰った。アリスティアは食べさせて貰う事に慣れすぎていた。

 侍女たちが、竜王とアリスティアの様子を見て、後で萌えているのを知らなかった。


 朝食後、竜王に片腕で抱っこされて政務官室に行く。専属護衛のダリアとカテリーナとユージェニアがついてきた。

 政務官室に入ると、エルナードとクリストファーとクロノスが待っていた。

 エルナードとクリストファーは機嫌が悪い。

 アリスティアを撫で回せないからだ。アリスティアは、兄たちにそろそろ妹離れして欲しいと思っているのだが、それは妹至上主義(シスコン)の兄たちには無理な相談だった。


「竜王陛下、アリス成分が足りないから、アリスを撫で撫でさせてください!」

「アリス成分が足りなすぎて干上がりそうだよ!」

「兄様たちは、カエルかなんかですか! 干上がるなら勝手に干上がってくださいませ!」

「僕らのアリスが辛辣! でもいい!」

「わけが分かりませんわ!」

「竜の半身を撫でさせろとか、お前たちはどこまでも妹至上主義(シスコン)なのだな」


 呆れた竜王(ルーカス)の言葉にも、


「「当然!!」」


 とエルナードとクリストファーのほぼ同じ声が重なり、ハーモニーの様に答えた。


「威張らないでくださいませ!」

「アリス、おいで」

「兄様、ルーカス様と違っていい匂いがしないんですもの。行きたくありませんわ」

「なんだと! 竜王陛下! お願い! アリスを撫でたら仕事を頑張れる!」

「あまりにも見事な妹至上主義(シスコン)で、却ってどうでも良くなってきたな。ティア、少しだけ行っておいで」

「ルーカス様、ちゃんとそばにいてくださいませ?」

(ワレ)が愛しの半身を残してそばを離れる事などあり得ぬ」

「竜王陛下になってから、ルーカス殿下が開き直ってて寒すぎる」


とエルナードが言えば、


「我が愛しの、とか幼女趣味にも程があるだろう……」


とクリストファーも呆れた様に言った。


「竜族の半身は年齢は関係ないからな。醜聞など心底どうでもいい」

「うわー……考え方が人間から離れてるよ」

「本当に、殿下は人間をやめたんだな……」

「そんな事より、ティアを撫でたら仕事を頑張ってもらうぞ」

「頑張るから、もうちょっとアリスを撫でさせて!」

「次は僕だからね、エルナード」

「アリスティア様、私も撫でさせてくださいませ」

「ダリア姉様まで参戦して来た!」

「だってアリスティア様が可愛すぎるんですもの!」

「ダリア姉様、変な世界に入らないでくださいませ!」

「こんな可愛い妹が私も欲しかった!」

「これはダメなやつですわ! ルーカス様!」

「ダリアまで撫でれば、落ち着くだろうから、少し我慢せよ。後で(ワレ)が撫でてやるゆえ」

「絶対ですわよ!」


 涙目になるアリスティアだったが、なんとかダリアが撫で回すのまで耐えきった。





☆☆☆☆☆



「さて、昨日の問題を一つ一つ潰すぞ」

「(一)後宮の居座り問題、(二)ナイジェル帝国の国名問題、(三)皇后と寵妃の処遇、(四)後宮解体後の雇用問題。これが今の大きな問題です」


 エルナードが書類を見ながら問題点を上げた。


「(一)は後回しだ。(二)であるが、確かに帝国はないな。国名を変えた方がいいか。他国へ、わかりやすく帝国が属国になった事を示すならば」


 竜王が考えながら言う。


「竜王陛下。僕が言うのもなんですが、ナイジェル帝国は、父上のせいで周辺国からの印象は悪いと思います。父上は、周辺国を侵略してましたから。だから。国名を変更してしまう方がいいと思います」


 クロノスが、竜王を見ながら自分の意見を述べた。竜王が面白そうにクロノスを見る。


「ならば国名変更の線で考えよう。次に(三)であるが」

「竜王陛下。皇后は僕の母親です。だから、公爵になった僕が母を養えば、皇后の処遇問題は片付きます」

「ふむ。ならばそうしようか。下手にお茶会などに出さぬようにな」

「御意」

「クロノスには兄弟姉妹はいないのか?」


 竜王がふと、疑問に思った事を聞いてきた。


「はい、竜王陛下。同母の妹と異母弟がいます」

「ならばその者達もお前が養え。この国の公爵家だから、それなりの手当は出そう。更にはフォルスター皇国の皇太子補佐官の給与もそれなりに出されるぞ。ただし、今はまだ見習いだから、その分低いが」

「竜王陛下、ありがとうございます!」

「次に寵妃だが、修道院に入れよう。子がいれば、子はフォルスター皇国へ連れて行って教育を受けさせるべきだ。ここでは偏りすぎる」


 竜王が言う。


「修道院は、望まない者が入れば、そこはどこよりも安全になりますね。外から助け出す事は出来ないし、修道院という場所柄、逃げない様に監視させる事も可能だから」


 エルナードは考えながらそう言った。


「(四)だけど。大量解雇だと再雇用先はすぐには見つからない、と考えていると思う。だけど、能力や技能を見極めれば、再雇用先には困らないと思うんだ」


 クリストファーは、以前アリスティアが考えた、技術持ちや技術の習得を望む者たちの育成の事を考えながら喋っていた。


「ルーカス様。大量解雇の場合の再雇用先の件ですが」


 アリスティアが考えながら言う。


「申してみよ」

「この国にも学習所を作るのです。初等科は給食を出して、平民でも通えるようにします。

 この場合、読み書き算術は基本的にできる者がいればいいから、後宮に勤める者でも上級使用人までならそれができると思いますの。あと、給食、すなわち昼食の提供がありますから、後宮の食事を作っていた料理人達の行き先ができますわ。

 更に、初等科を卒業してそれ以上の学業を納めたい者が通う中等科、その後の高等科。そこまで作れば、後宮解体による失職者の再雇用どころか、新たな雇用が生まれますわ」


 アリスティアの提案に、竜王、エルナード、クリストファー、クロノスが驚く。

 特に年齢の近いクロノスの驚きは大きかった。


(この女の子は、深い知性があるだけでなく、国を、民をどう富ませるかをいつも考えているんだ)


 衝撃だった。自分より年齢の低い女の子だと思っていたのに、その頭の中にある知識は自分(クロノス)が追いつかないほど多い事が理解できたから。


「ティア。その案は、本国のフォルスター皇国でも採用だ。具体的な内容を書類にして提出せよ。いつまでに提出できる?」

「舐めないでくださいまし。本日の昼過ぎには提出できますわ」

「重畳。内容如何では、竜の国でも同様な仕組み(システム)が作れるかもしれんな」


 竜王は楽しそうに笑った。


「僕らのアリスは、一体その頭の中にどれだけの知識を詰め込んでいるのかな?」

「エルナード。僕は今日ほどアリスが誇らしい事はないよ。子どもたちの教育で、識字率と計算能力は高まるし、学びたい者は更に学べる仕組みだから貴族だけではなく平民からも能力の高い者が現れ、様々なところで活躍できる様になる。特別優秀な者は、国を動かす官僚になる事もできる」

「そうだね、クリストファー。もしアリスがそこまで考えているのなら──」

「当然ではありませんか。教育を施すのですから、優秀な者には国の為に役立って貰わねばなりませんわ」

「安定の辛辣なアリスだった!」

「国の中枢だけではありませんわ。後進を育てる役目の者も必要ですわよ?」

「ねえ、アリス。僕はお前がまだ八歳にしかなってない事が驚きだよ!」

「エル兄様。なんの為の妃教育でしたのかしら? 政治・経済・語学・文学・数学・魔術学・史学。三歳から五年間教育を受けているのですから、国の為に何をすべきか考えられない様では皇太子妃、或いは皇妃は務まりませんのよ」

「アリス、八歳で覚悟完了しなくていいんだからね!?」

「クリス兄様、煩いですわ。書類作成の邪魔になりますから静かにしてくださいまし」


 アリスティアの話した内容に、再度驚愕したクロノスだった。

 三歳から五年間、皇太子妃、或いは皇妃になる為の高レベルの教育を施された、国の頂点に立つ一族の一員となるべく育てられて来た少女。その少女を攫い、手籠めにしようとした父親の下衆さに吐き気がする。高い矜持もわかるような気がした。

 そして、その少女を溺愛するフォルスター皇国の皇太子。中身は竜王。正しく、少女は、アリスティアは竜の逆鱗だった。


「さて、(二)〜(四)までの問題は大体片付く見込みができた。残りは(一)だが。(ワレ)に考えがある。ティア、付き合え」

「もの凄く嫌な予感しかしませんわ!」

「拒否権はないぞ」

「無駄に楽しそうなところが更に嫌な予感がしますわ!」

「実際、楽しいからな。エルナード、後宮の内庭を押さえろ。クリストファー、この国の魔術師達を集めろ。クロノス、皇后に言って、後宮の女たちを内庭に集めろ。時間はお茶の時間頃だ」

「ますます嫌な予感しかしませんわ!」

「諦めろ、ティア。内庭に位相結界を張るなら、広範囲隕石落としステラリット・メテオリテを撃ち放題にしても構わんぞ」

「ちょ! 竜王陛下! 広範囲隕石落としステラリット・メテオリテはヤバすぎます!」

「あ。後宮の女たちを脅すつもりか!」

「クリストファー、正解だ」

広範囲隕石落としステラリット・メテオリテ撃ち放題ならやりますわ!」

「地獄の帝王がやる気を出した!」

「我が妃を地獄の帝王に例えるとは、エルナード、貴様よほど地獄を見たいらしいな?」

「違います気のせいですアリスは天使です!」

「よろしい。ああ、ダリア、カテリーナ、ユージェニア。一応、後宮の女どもからティアを護衛しろ。ダリア。場合によっては火の精霊の守護魔術を使え。カテリーナとユージェニアは魔法か魔術は使えるか?」

「はい、竜王陛下。私は風属性の魔術を使えます」


 カテリーナが答える。風属性の魔術でも、初級から特級まであるのだが。


「どのレベルまで使える?」

「はい、竜王陛下。上級までです」

「重畳。我が妃を何が何でも守れ」

「御意」

「ユージェニア。お前はどうだ?」

「はい、竜王陛下。私は身体強化に特化してます」

「なるほど。重畳。同じく我が妃を何が何でも守れ」

「御意」








 地獄の開幕まであと数時間。



 

アリスティアに広範囲隕石落としステラリット・メテオリテを撃たせちゃいけません(笑)

めちゃハイになります(;´∀`)




ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ