第34話 公爵令嬢は属国に行く
いくらか修正点が見つかったので、6/7修正。
2019年9月17日、改稿。
微修正と微加筆。
専属侍女三人と専属護衛をニ人引き連れて、アリスティアと竜王は再びナイジェル帝国を訪れた。
直接政務官室に転移したのであるから、エルナードとクリストファーとダリアはともかく、ナイジェル公爵クロノスがもの凄く驚いていた。
「エルナード、クリストファー。我が代理、大儀である」
「思ったよりも早かったですね。クロノスに仕事教えましたよ」
ルーカスが声をかけるとエルナードは平然と答えた。
「ふむ。できそうか?」
「大丈夫です。叩き込みましたから」
「そうか。では少し時間をよこせ。紹介しておかねばならぬしな」
「殿下が竜王に覚醒してから、余計に偉そうになりましたね」
「実際、竜王は偉いからな。地上の覇者だ。やろうと思えば、地上の国々を平らげて支配する事も可能だ」
「思った以上にやばかった!」
「クリストファー。茶番はそこまでにしろ」
ルーカスは呆れた目でクリストファーを注意する。
「すみません、殿下」
注意されたクリストファーは、けろっとした調子で謝罪の言葉を口にした。
それにじろりと視線をやるが、クリストファーは思ったよりも平然と受け流した。
竜王は内心、感心していた。
だがそんな様子は外へは出さず、何事もなかった様に言葉を続けた。
「今回、竜の国で、ティアの専属侍女三名と専属護衛二名を選んだ。他に、離宮の用意が整ったら連れて行く使用人三〇名も選んだが、そちらは竜の国の宮殿に待機を命じている」
「殿下、待ってください。離宮とは?」
「ティアにもつい昨日話したが、ティアは身内認定した以外の人間に拒絶反応を示す。それだと公爵家では暮らせない。だから、ティアと我の婚約を交わし、離宮を用意させ、そこでティアを住まわせ、我も一緒に暮らすことにした」
「殿下!? うちのアリスをどうしてくれるんですか!?」
「一緒に暮らすなんて不埒過ぎる!」
「我は無体を働く気はないぞ? 育つまで待つ」
「当然です!」
「アリスに無体を働いたら、いくら竜王でも僕たちが許さないからね!」
「そなたらは、清々しいほどの妹至上主義だな」
「「アリス至上主義の殿下に言われたくない!」」
「当然だな。ティアは我の、竜王の半身。永遠の伴侶なのだから」
「うわー! 殿下が開き直った!」
「エルナード、アリスの様子を見たら、僕らに勝ち目はないよ」
「兄様たち、相変わらず妹馬鹿ですわね」
アリスティアは半眼で双子の兄達を見ていた。その可愛い口から毒が漏れた。
「アリスが辛辣!」
「でもアリス可愛い!」
「ルーカス様、話が滞りますから、さっさと進めてくださいまし。この馬鹿兄たちは放置でいいですわ」
「アリスが辛辣過ぎて辛い」
アリスティアがルーカスに続ける様に言うと、クリストファーの嘆きを無視してルーカスが言葉を続けた。
「専属侍女だが、竜人と兎族と犬族の三人だ。エルナード、クリストファー、ダリア、クロノス、自己紹介しろ」
ルーカスの命令に、さっきまで嘆いていた様子をきれいに消し、エルナードが口を開いた。
「エルナード・フォルト・セル・バークランド。フォルスター皇国バークランド公爵家の次男だ。アリスティアの兄でもある。ルーカス皇太子殿下の筆頭補佐官だ。風の精霊と守護契約をしており、アリスを守護する事が生きがい」
「クリストファー・ティノ・セル・バークランド。同じく公爵家の三男。アリスティアの兄で、ルーカス皇太子殿下の補佐官。土の精霊と守護契約をしていて、同じくアリスを守護するのが生きがい」
続いてクリストファーが自己紹介をする。
クリストファーの自己紹介に続き、ダリアが自己紹介した。人間の中で唯一の女性と言うことで、侍女たちと獣人の専属護衛達が好意的な目で見ている。
「ダリア・スレイシア・セラ・レシオ。フォルスター皇国の侯爵家の次女で、近衛騎士。アリスティア様の専属護衛です。火の精霊王より要請され、火の精霊と守護契約を結びアリスティア様の守護をしております」
そして最後にクロノスが自己紹介をした。
「クロノス・タイラ・ナイジェル。ナイジェル帝国の公爵家当主です。フォルスター皇国皇太子殿下の補佐官見習いになったばかりです」
次々と自己紹介をしていく面々に、侍女達の視線が流れていく。
「この者たちが、我が妃アリスティアの周囲にいる者たちだ。覚えて置くように」
竜王が、竜人と獣人たちに告げると、かしこまりました、との答えが帰ってきた。
「お前たちも自己紹介しろ」
竜王が竜人と獣人たちに言うと、一人ひとり、自己紹介を始めた。
「竜人で、アリスティア様の専属侍女になりました、竜の国のサラモア伯爵家次女、マリア・サラモアですわ」
「同じく専属侍女になりました、兎族獣人の、竜の国のスバル子爵家の三女、アイラ・スバルですわ」
「同じく専属侍女になりました、犬族獣人の、竜の国のバゼル伯爵家三女、クレア・バゼルですわ」
「アリスティア様の専属護衛になりました、狼族獣人の、竜の国ワイト男爵家次女、カテリーナ・ワイトです」
「同じく専属護衛になりました、虎族獣人の、竜の国ティゲル子爵家三女、ユージェニア・ティゲルです」
獣人を見て、皇太子の補佐官側はわかりやすく興奮していた。
「獣人て可愛いね! アリス好みだよ」
「アリスが選んだんだから、アリス好みの可愛い娘なのは当たり前じゃないか!」
「僕、竜人や獣人って初めて見ました! みんな可愛いですね!」
「お前ら、落ち着け。ティアが選んだのだからティア好みは当然だ」
「みんな変態ですわ! いい加減になさいませ!」
アリスティアが怒ったら、エルナードもクリストファーもクロノスも竜王も、等しく黙り込んだ。
「クロノス様はともかく、エル兄様もクリス兄様も、ルーク兄様も、どうして大人の態度が取れませんの!? そこ! そこで一人悶えているダリア姉様も同罪ですわ! いい年した大人なのだから、きちんとした態度を取られませ!」
「ティアが可愛い」
「ルーク兄様! 貴方が一番ダメダメですわよ! 皇太子殿下として、真面目になされませ!」
「我は、今は竜王なのだが」
「竜王だろうが、皇太子殿下だろうが、どちらも変わりません! きちんとした態度で、民の為に仕事なさいませ! 民が安心して暮らせる国を作るのが、国を守り導く皇族や貴族の義務でしてよ!」
「アリスに説教された。嬉しい!」
「アリスの説教、プライスレス!」
「そこの馬鹿兄たち! 顔だけはいいのだから、その顔を利用して民から情報を収集してきたらどうです!?」
「アリスが辛辣!」
「アリスを撫でたい! 殿下! いや、竜王陛下! アリスを撫でさせて!」
「お前ら、とことん、妹至上主義だな!?」
「「当然!」」
双子とアリスティアと竜王のやり取りに、竜人と獣人たちは目を丸くし。
竜王陛下が楽しそうだから、いいか、と黙って見ていた。
「それで、殿下、じゃなかった、竜王陛下。今の時点での問題点がいくつか」
「ふむ。申せ」
「まずは、後宮の問題。皇帝を殺したから、後宮の女性たちは解放するのが妥当なんですがね。何をトチ狂ったのか、竜王陛下の寵愛を受けられると勘違いした女性が多数いて、解放すると言っても居残ってます。お陰で、莫大な予算が未だに使われてます」
エルナードが書類を手に持ち、説明した。
実際、後宮の女官を通して解放を伝達したのだが、後宮から出たのは数人程度だと言う。
「迷惑な。我は竜ゆえに、半身しか伴侶にせぬ」
「この居座った女たちをどうするかが、今のところの喫緊の問題の一つ」
「まだ問題はあるだろう。申せ」
「クロノスをナイジェル公爵に叙爵した弊害ですが。国と同じ名前の爵位だとやはり誤解があるのですよ」
「と言うことは、ナイジェルではなく、別の名前の公爵位を用意せねばならなかったか」
「あるいは、属国なのに帝国と名乗るのもおかしいので、国名を変えるかですね」
「面倒な」
「竜王陛下がこの国をフォルスター皇国の属国になさったんですから、面倒とか言わない!」
「エルナード。お前とクリストファーくらいだぞ、竜王を怖れないのは」
「その顔と何年過ごしたと思ってるんですか。今更ですよ」
「アリス愛で隊のメンバーでしたからね」
「ちょっと、兄様たち! 何それ聞いてませんわ!」
「言ってなかったからね」
「そんなの、解散ですわ!」
「だが断る!」
「兄様、ちゃんと仕事なさいませ!」
「はーい」
「男がそんな返事しても可愛くないですわ!」
「可愛かったら嫌だね」
「じゃなくて! ちゃんと仕事なさいませ!!」
「わかった」
「茶番は終わったか? 終わったなら次を申せ」
「三つ目。皇帝がいなくなった事からの問題です。皇后と寵妃の処遇ですね。さすがに、他の後宮の女性たちの様に実家に帰すと言うわけにも行かなくて」
「帰してもいいだろう?」
「発言力が大きすぎるんですよ」
「面倒な」
「だから、竜王陛下が属国にしたせいですからね!?」
「わかったわかった」
「あともう一つ」
「後宮を解体した場合、後宮の寵姫候補たちの世話をする為の女官や使用人たちの雇用問題ですね。大量に解雇されますから」
「頭の痛い問題ばかりだな」
一つ一つ問題を潰していかなければならないのだが、とりあえずは今日はナイジェル帝国の宮殿に客間を用意させ、休む事になった。
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