第31話 竜王は君臨する
2019年9月17日、改稿しました。
タイトルを変更しました。
内容を少しだけ修正して加筆しました。
竜王としてのルーカスの性格が良くわかるようにしました。
皇太子がアリスティアの元に戻ると、すぐにアリスティアの魔力封じの魔道具を破壊し、抱き締めた。
アリスティアは安心し、失神した。
慌てたのは双子とダリアだ。
皇太子は部屋替えを指示した。
辺りは兵士の死体があって血生臭いし、壁を力尽くで粉砕した為に少々寒い。
双子とダリアに後宮の中を探させて、アリスティアを寝かせる部屋と、双子が寝る部屋と、ダリアの部屋を確保した。
ちなみに皇太子の部屋も確保したのだが、起きたアリスティアが一人で寝る事に怯え、ダリアが添い寝しようとしても怯え、決して皇太子から離れたがらなかった。双子がむくれようとも、アリスティアの為と思えば引き下がらざるを得なかったのだ。
皇太子は、アリスティアに添い寝した。
✩✩✩✩✩
翌朝。
双子は急いでアリスティアの寝た部屋に赴いた。
そこは、甘さ倍増の皇太子と、安心しきって皇太子の腕に抱かれるアリスティアの姿があり、少々、背後に黒い何かを発生させてしまった。
ダリアが後宮の厨房に行き、食事を五人前調達した。その際、皇太子から、厨房にフォルスター皇国の者だと伝えるように言われた。
この国の人間は昨夜の事を知っており、ダリアがフォルスター皇国の者だと伝えたら、丁寧に五人分の食事を用意してくれた。
その間に竜王は、指を鳴らして昨夜の惨劇の後始末をした。
アリスティアに見せる訳にはいかないし、これから登城して来る貴族たちに余計な反感を持たれても面倒である。
ダリアに手配させた朝食を時間を掛けてゆっくりと食べた。その際、竜王はアリスティアを膝に乗せ、自らの手で食べさせた。
双子が自分たちもやると言い出したが、竜族の雄が半身に食事を食べさせるのは特権で、他の雄にその役目は譲らないのだと威圧しながら説明すると、渋々ながらもそれを受け入れた。
その後、アリスティアに着替えを施し、竜王はアリスティアを抱き上げて左腕に座らせ、玉座の間に向かった。
玉座の間の前で、近衛兵は皇太子に直立不動で挨拶をした。その顔は、極度の緊張で青褪めていた。
そんな近衛兵を横目に、彼らは玉座の間に入る。
そこには、国中から集まった貴族が犇めいていた。
皇太子は気にする事もなく玉座に向かって歩みを進め、そこにどかりと座り、アリスティアを膝に乗せた。
双子の側近とダリアは、玉座の後ろに控える。
「皆のもの、よくぞ集まった。我が竜王である。今生の名前は、ルーカス・ネイザー・ヴァルナー・セル・フォルスター。フォルスター皇国の皇太子である。
この娘が我、竜王の妃。アリスティア・クラリス・セラ・バークランド。フォルスター皇国の公爵家の令嬢だ。後ろにいる双子は、皇太子の側近でアリスティアの兄。後ろに控えている女騎士は、我が妃の専属護衛」
広間が騒めく。この幼女を攫った馬鹿者のせいで、国が滅びる寸前だったのだ。
竜王はそんな貴族達の様子を冷たい目で見回した。
フォルスター皇国の従属国とした経緯は話したが、反感を持っていないとは言い切れない。
アリスティアの為に生かしたが、竜王にとっては人間が生きるも死ぬも、どうでも良かった。
彼の中ではアリスティアが一番で、それ以外は辛うじて、アリスティアが大事にする双子や、アリスティアを大事に扱う者が二番手で、それ以外は捨て置いても構わない存在だった。そして愛しい半身を害する者は、何を置いても滅ぼすべき対象として設定された。
「皇太子殿下からご紹介に預かりました、アリスティア・クラリス・セラ・バークランドでございます。お初にお目にかかります」
アリスティアは竜王の腕の中から、ぺこりと頭を下げた。
「ルーカス皇太子殿下の筆頭補佐官であり、妃・アリスティアの兄、エルナード・フォルト・セル・バークランド」
「同じく皇太子補佐官で、妃・アリスティアの兄のクリストファー・ティノ・セル・バークランド。私達の父は、フォルスター皇国の宰相である」
「アリスティア様の専属護衛のダリア・スレイシア・セラ・レシオ。近衛騎士です」
一通り自己紹介をする。
「我が妃を害した者は、昨夜処刑した。映像で既に見たであろう。我は我が半身を害する者は絶対に許さないが、害さなければどうでもいい。だが、我が妃はフォルスター皇国でも民の為になる政策を提案するほど慈愛に満ちている。だから、我が妃がこの国の民を許すなら、民に苦労させぬ政策を施そう」
「皇太子殿下。わたくしはこの国の民には害されておりませんわ。民には慈悲をお与えくださいまし」
「ティアがそう言うなら」
アリスティアがこの国の民に赦しを与えた。
竜王の中の認識が、今そう書き換えられた。
冷たい光をたたえていた金色の瞳が、腕の中の幼子を見ると甘さをたたえた。
その変化に貴族達は驚く。
そして、聞き逃しそうになったが、今竜王はなんと言ったのか。
「民の為になる政策を提案」と言ったようだが、確か竜王の妃は八歳と言ってなかったか。
そんな疑問に答える様に、竜王の言葉が玉座の間に広がる。
「我が妃は、五歳でハルクト王国の陰謀を阻止した上に、ルオー王国からの難民にいた技術者を就業させたりギルドに登録して親方衆に弟子入りさせたりした。更には七歳で学業所を作るよう提案したのだ。我が国の宝でもある。それを」
竜王はそこで一旦切る。
覇気を増大させ、全体を睥睨した。
「この国が攫い、我が妃に無体を働こうとしたのだ。それを皇帝の処刑だけで赦す寛大さに感謝するが良い。ただし、この国は我が貰い受けた以上は、フォルスター皇国の従属国だ。我は、今生はフォルスター皇国の皇太子だからな。文句は受け付けぬ」
いっそ傲慢なほどの言い様だが、発せられる覇気が、文句を封じる。
「ニ、三日中に管理官を派遣するが、それまでは我が直接統治しよう」
姿は青年になったばかりだと言うのに、その覇気故か、既に安定した統治者の雰囲気を湛えていた。
✩✩✩✩✩
玉座の間から出る。
皇帝の執務室に案内してもらう。
皇帝執務室についたら、まずはアリスティアの診察をすると言われた。
「ティアの体調が心配だからな」
そう言われると、不承不承だけどもアリスティアは診察を受け入れた。だがしかし。
「いやああああぁぁぁぁぁっ‼」
アリスティアは恐慌状態に陥ってしまった。
男性医師を目の前にして、酷い拒絶反応を示した。危うく広範囲殲滅魔術で医師を攻撃するところだったが、それは竜王がアリスティアの魔力を抑え込んだ。
女性医師が呼ばれたが、こちらもだめだった。
医師ではないが、医療知識のある産婆が呼ばれたが、これもだめだった。
竜王も兄二人も頭を抱える。
昨夜の添い寝の件も合わせて考えると、身内認定されてる人は大丈夫で、そうでない者は絶対的に近くに居られない、と言うことだろう。
だがなぜ肉親の兄ではなく皇太子で安心するのかと疑問を言うと、皇太子──竜王は、自分の半身、永遠の伴侶がアリスティアで、彼女の方でも同じように、皇太子を半身、永遠の伴侶であると無意識下で知っているからだろう、と言われた。
面白くない、と双子は眉を顰めた。
誰なら診察を受けるのか。
頭を再度抱えそうになったが、竜王が、自分に心当たりがある、と言い出した。
「竜人──竜族なら拒否反応は無いのでは、と思うてな」
「は? 竜族、ですか?」
「伝説の存在──ああ、竜王がいるなら竜族も存在するのですか」
「ああ。竜の国に行けばな。そこには竜人の他にも、獣人も住んでおる筈だ」
「僕たちの常識を塗り替えるおつもりですか⁉ 獣人までいるとか」
「確かにアリスは人間を拒否している節があるから、竜人や獣人なら大丈夫なのかも知れませんが」
「皇太子殿下、いえ、竜王様。アリスティア様の状態を考えたら、早急に対処なさった方がよろしいかと。このままでは侍女すら拒否しますわ。もし、竜人や獣人の方々がアリスティア様の侍女や、身の周りの世話をしてくださるなら、アリスティア様の今後は安心なのですが」
「ダリアの言う事も尤もだな。竜の国で、侍女や身の周りの世話役を見繕って来る事にしよう」
あとは、当面の統治問題だな、と竜王は言う。
統治は始まったばかりだ。
皇太子が竜王として属国に君臨します。
ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m





