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第28話 皇太子殿下の焦燥と覚醒

2019年9月17日、改稿。

後半で加筆しました。

今までより状況が良く見えて来ると思います。


 



 (助けて、ルーク兄様!)


 アリスティアの、そんな切羽詰まった声が聞こえた気がして、皇太子はバッと頭を上げ虚空を睨んだ。

 まさか、と考える。

 今頃、アリスティアは帰路にある筈だ。






☆☆☆☆




───アリスティアが攫われた。




 その一報が皇太子執務室に(もたら)された瞬間、室内には一気に殺気が膨れ上がった。

 一報を届けた侍女に扮した護衛騎士によると、アリスティアは帰路、具合が悪くなって馬車を止め、降りて専属護衛のダリアと共に草むらに入って行ったという。

 だが、戻る時に、いきなり黒い(もや)にアリスティアとダリアが包まれ、ダリアが倒れ、アリスティアはその場にいきなり現れた男に抱えられ、転移して連れ去られたとの事だった。

 場所は、第四城郭内の、あと少しで工業地区に差し掛かる位置。


 報告を聞いた皇太子は、殺気を溢れさせながら即座に側近二人にアリスティアの捜索隊の結成を指示、自らも動き始めた。

 側近たちは、精霊たちに手伝って貰い、情報を集めるという。

 近衛第一連隊第二大隊という女性要人護衛部隊に所属しながら、護衛対象を攫われてしまった彼女たちも、捜索に参加させて欲しいと願い、それは聞き届けられた。





 だが、五日経っても遅々として情報は集まらなかった。

 現場には筆頭魔術師が赴き、魔力の残滓を読み、どうやら外国からの侵入らしい事は突き止めたのだが。

 その外国がどこなのか、さっぱり掴めなかった。

 皇太子も側近のエルナードとクリストファーも五日前からずっと殺気立っている。

 国内の怪しいところは軒並み手を入れ、探し尽くした。五日で探し尽くさせた、と言った方がいい。近衛騎士団も、皇都騎士団も、皇国騎士団も、軍も、魔術師団も、皇太子の権力で動かせるものはすべて動かしたのだ。

 物々しい捜索に、皇都は一気に綺麗になった。いや、皇都だけではない。皇国内の街や村、すべての治安が良くなった。

 それだけ、捜索隊が殺気立っており、小悪党ですら命の危険を感じたほどだった。

 それでも手がかりが掴めない。

 皇太子は焦る。


(ティア、無事でいてくれ!)


 ジリジリと焦燥が募る。胸の内に、どうしようもない思いが積み重なっていく。

 それは、焦がれるほどの想い。そして感じる、胸にぽっかりと穴が空いた様な感覚と大きな喪失感。感情が乾いていく。


「ティア、どこにいる! 私を呼んでくれ!」


 何かが、心のうちから湧き上がって来る。

 パキン、と音がした。


「国内は探し尽くした! 国外へ、密偵を! 友好国には外交官を送れ!」


 またパキン、と音がした。


「宮廷魔術師団をこき使って、ティアの気配を探らせろ!」

「殿下、今もやっています!」


 エルナードが(たしな)める。しかし、皇太子の殺気は収まらない。


「今こうしているうちにも、ティアは恐ろしい思いをしている。魔術の天才のティアが、五日経っても戻らないのだ。何か異変があったに違いない。ティアを手放すなんて考えられない!」


 皇太子の押し殺した声には、焦燥と喪失の悲哀が籠もっていた。


(殿下はそこまでアリスに執着していたのか)


 クリストファーは内心、ため息を吐く。

 皇太子は目に見えて憔悴していた。しかし、アリスティア捜索の陣頭指揮からは降りる気配はなかった。


「貴方が皇太子ルーカス?」


 いきなり聞こえた声に、その場の誰もがぎょっとした。

 皇太子執務室に、ダリア以外の女性はいなかったはずなのに。


「……いかにも。私がこの国の皇太子、ルーカス・ネイザー・ヴァルナー・セル・フォルスター。──でもある」


 皇太子は、自己紹介したあとに不思議そうな顔をした。

 自分が何を言ったのか、理解できない、という顔だ。


「皇太子ルーカス。貴方、自分で封印しているわね? でもその封印には(ひび)が入っている。いいわ、今から封印を解きましょう」


 女性は、金髪に虹色の瞳をした美人だった。

 そして、皇太子に近づくと、その繊細な指を額に当てる。


封印(アンティクアエ・)解除(ラウディス)


 美女がそう言うと、皇太子の気配がいきなり変わった。

 覇気が急激に膨れ上がり、誰もが跪かずには居られない。覇者、という言葉が相応しい。周囲をいるだけで従わせる、唯一絶対の王者。そんな気配だった。


「ティアを見つけた。行ってくる」


 そう言うと。

 皇太子は窓に足をかけ、外に飛び出し──慌てて窓に駆け寄った側近たちが見たときには、皇太子は何処にもおらず、大きな羽ばたきの音と共に黒竜が東の方角へと飛び去った。




 部屋に取り残された側近二人と護衛騎士は、呆然と皇太子(ルーカス)が飛び出した窓外を見つめていた。

 その背後から声が聞こえた。


「まさか皇太子ルーカスが竜王陛下の転生体だとは、ウンディーネ達は思わなかったのでしょうね。気配が全く違うもの。でも自己封印をしていたのなら気配が違っても仕方がないわね。

────そこの人間たちに言っておくわ。わたくしは光の精霊王シルフィード。皇太子ルーカスは竜王陛下の転生体よ。そして、アリスティア様は竜王陛下の半身。だから今、竜王陛下は竜体に変化して助け出すために飛んで行ったわ。事情説明はこれでいいわね? わたくしはもう帰るわ」


 美女は言うだけ言うと、突如として姿を消した。

 残された三人は顔を見合わせる。

 

「……殿下が竜王陛下の転生体だって」

「……エルナード。光の精霊王も現れたぞ」

「……アリスティア様は竜王陛下の半身だそうですわ」


 呆然として三者三様の事を呟いたが、自失している場合ではない、と三人とも意識を今後の事に向けた。


「そういえばクリストファー。殿下が外に飛び出したあとに見た黒竜。あれが殿下、じゃなく竜王陛下の竜体とかいうものかな?」

「そうだと思う、エルナード。殿下の姿が何処にも見当たらなかったし」

「殿下がアリスティア様を見つけたと仰られていたので、捜索は終了でしょうか」


 ダリアの疑問に、エルナードが答える。


「そうだね。捜索は終了だ。クリストファー、手分けして近衛騎士団と皇都騎士団と皇国騎士団、及び皇国軍と魔術師団に捜索終了の連絡をしに行くぞ」

「でしたらエルナード様、近衛騎士団にはわたくしが参ります。わたくしは近衛騎士団第一連隊第二大隊所属ですから」


 ダリアの提案に、エルナードは頷く。


「では近衛への連絡はダリアに任せよう。僕は皇都騎士団と皇国騎士団の本部へ連絡に行く。クリストファーは宮廷魔術師団と皇国軍への連絡を頼む。指示書は今書くから、二人とも少しだけ待ってくれ」


 エルナードは部屋の中の、己の執務机に座り、数枚の指示書を書き上げ、皇太子の御璽を()した。

 内容は、アリスティアの居場所がわかった事、その為捜索終了とする事、捜索隊の解散、定期的な街道や街村の警戒への指示だった。魔術師団には、侵入防止結界の構築も指示に入れた。

 一枚をダリアに、二枚をクリストファーに渡し、自分も二枚持ってそれぞれの目的地へと向かう。

 一時間後、それぞれの場所から多くの伝令が飛び出し、皇国内各所に散って行った。

 皇国内での『アリスティア・クラリス・セラ・バークランド公爵令嬢誘拐事件』はこうして幕を閉じたのである。





✩✩✩✩✩



 美女に封印を解除された途端、ルーカスの頭の中が明確になった。

 まるで入れ替わった様な気になる。

 だが竜王(ルーカス)は知っていた。

 竜王としての意識とルーカスとしての意識が混じり合い、竜王として、竜族としての意識が人間のルーカスとしての意識を取り込んだ事を。


 己は竜王。

 そして、アリスティアは自分の"半身"だ。誰にも渡してはならぬ、自分だけの愛する者。

 竜王の半身。

 竜王に弓引いた国は滅ぼさねばならぬ。


 「グオオオオオォォォォォォォーン!」


 飛びながら吠える。

 空気が激しく震える。

 下にいる人間たちが騒いでいるが、関係ない。

 目指すは、愛する半身が囚われているナイジェル帝国だ。

 

ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

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