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第27話 公爵令嬢は攫われる

 今日は下衆な内容なので、苦手な方は回避してください。


 



 お茶会が終わる頃には、アリスティアの精神はすっかり疲れ果てていた。


 質問攻めにあったのだ。皇太子との関わり方や、筆頭魔術師のスカウトの話、魔術の発動方法など、あらゆる事を質問された。

 二度とお茶会に参加したくないと決心するほど、ひどかった。

 だから、お茶会が終わった時に母親から、ストバリエ侯爵夫人とまだ話があるから先に帰っている様に、と言われて即座に了承したアリスティアは悪くないはずだ。






 馬車に乗る。

 侍女に扮した近衛騎士二人が一緒で、いささか心強い。


 「今日は護衛を引き受けてくださりありがとう存じますわ」


 アリスティアが謝意を述べると、二人ともにっこりと笑い、


 「勿体無いお言葉ですわ。しかしまだ油断なさいますな。帰路が始まって間もないゆえに」


 と言われてしまった。

 馬車は皇都の郊外の道を進む。

 カタカタと単調な音は、幾ら乗り心地最高の公爵家の馬車とは言え振動を伝えるもので、その振動は精神的に疲労していたアリスティアに苛々を(もたら)していた。


 「馬車を止めて!」


 苛々が最高潮に達し、更には体調も悪くなって来たため、つい言ってしまった。しかし今回限りの護衛とは言え、さすが近衛騎士である。


 「アリスティア様、なりません。ここで止めるのは襲撃してくださいと言っている様なものです」


 「だって馬車の揺れが」


 気持ち悪い、と言おうとしたのに。


 「だっても何もありませんわ。──馬車を出してください」


 とピシャリと言われて馬車の発車を促されてしまった。





 「う。吐きそう」


 限界が近い。

 苛々する。そして気持ち悪い。

 吐きそう、と零したら、流石に慌てて馬車を止めてくれた。


 ダリアに手を取られて馬車から降り、道端の草むらに移動してこみ上げて来たものを吐き出す。

 三度吐けば、衝動は収まった。


「ありがとう、ダリア姉様」


「お礼には及びませんわ。アリスティア様が体調を悪くしていらっしゃるのに、それに気が付かなかった私達の落ち度ですもの」


 ですが、と続けられる。


 「いつまでもここに留まるのも、流石に危険が大きい。アリスティア様、もう少し我慢できますか? もうすぐ第三城郭に着きます。それを越えたら少しだけでしたら休憩を取っていただく事も可能です」


 皇都の城郭は、第一が皇宮とそれを取り巻く離宮、騎士団本部、軍本部などを取り囲む。


 第ニ城郭は、貴族街を取り囲む。


 第三城郭は、平民街と商業区を、第四城郭は農村と畑や工業区を取り囲む。


 今は第四城郭内で、畑と所々に林があり、少々危ないのだ。


 「わかったわ。もう少し我慢します」


 顔を蒼くしつつ、そう了承の意を伝える。


 草むらから出て馬車に行こうとした時だった。

 真っ黒な霧に覆われたと思ったら、全身がしびれ始めた。

 隣からドサリと倒れる音がした。次いで、眠気が襲ってきた。


 具合が悪いせいで反応が遅れた。馬車の方から何か声が聞こえた気がしたが、それだけだった。

 アリスティアの意識が闇に飲まれる瞬間。


 (助けて、ルーク兄様!)


 そう心の中で悲鳴を上げた。





☆☆☆☆



 頭痛がする。

 吐き気もする。

 なぜこんなにも気持ち悪いのか。


 ぼんやりと思う。

 体が重い。

 頭に靄がかかったみたいにスッキリしない。

 何が起こったのか。どうしたのか。


 ゆっくりと目を開ける。

 薄暗い部屋だ。

 ベッドに寝かされている?


 慌てて起き上がろうとして、体を戒められている事に気がついた。

 それだけではない。

 後ろ手に縛られている腕と、足首、首から嫌な気配がしていた。口には猿轡が噛まされており、詠唱ができない様になっている。


 足を見てみたら、両足首にはアンクレットがそれぞれ五本、つけられていた。ただのアンクレットではないようで、魔力が練りにくくなっている。


 周りを注意深く見てみると、窓はなく、調度品はベッドの他にはテーブルと椅子が一つあるだけで殺風景だった。壁にはドアが二つ。その向こう側を探ろうにも、最終宣言ワードを口にできなければ魔術の発動ができない為、探れなかった。


 (ここはどこかしら?)


 窓が無い事を考えると、話に聞く貴人牢に思えるが、見た事がないから断定はできない。アリスティアは攫われたようだった。


 (殿下や兄様たちが暴走してなければいいのだけど)


 そうは思うが、容易に暴走してる姿が思い描ける。

 今頃、あらゆる手を使ってアリスティアの居場所を探っているはずだ。

 皇太子と兄たちが助けに来てくれる事は疑ってはいない。絶対に助けてくれると信じられる。


 だが、それが間に合うかどうかは別問題だ。

 最悪、間に合わないかもしれない、と覚悟を決める。


 間に合わなかったら?

 簡単だ。自決するだけだ。

 体を汚されて生きて行けるほど、自分の誇りは安くない。もちろん、抵抗はするつもりだが、子供の力と大人のそれとでは比べるまでもない。


 間に合って欲しいけれど、間に合わなかったら皇太子たちが来る前に自決してしまおう、と密かに決意した。





✩✩✩✩✩



 暫くしたら、ドアの一つが開き、女性が一人と男性が二人、入ってきた。

 話しだしたのは、年配の男。


「さて、お嬢さん。手荒にご招待して済まなかったね。だが、どうしても君に来て欲しかったのだよ。君は非常に価値が高いからね」


 アリスティアの目を見つめて言う。


(私に価値がある?)


「君は、フォルスター皇国の皇太子の"お気に入り"だそうだね。それだけでも価値は高いが、更に、素晴らしい魔術の才能があるのだから、その利用価値は計り知れないのだよ」


(フォルスター皇国、と言うって事は、外国勢だわ。どこの国なの? 情報が足りない)


 アリスティアは、目に疑問の色を浮かべてみた。引っかかって、と思いながら。


「ふむ。まだわからないようだね。さしずめ、ここがフォルスター皇国の国内かどうかかな?」


(引っかかった!)


「残念だが、ここはフォルスター皇国ではないよ。ふふふ。皇国からは遥か遠い地、ナイジェル帝国だよ。君は我が皇帝陛下に捧げられる」


 ガン、と頭を殴られた様な気がした。

 ナイジェル帝国は、フォルスター皇国より国三つは隔てたところにある国で、フォルスター皇国とは国交が無かったはずだ。

 なぜ? という疑問が目に出てしまったようで、男は嬉しそうに言う。


「神秘の国、フォルスター皇国を手に入れられそうな機会を、みすみす逃す訳はないだろう? 君は、我が陛下に可愛がられていれば良い。その間に終わらせる」


 いっそ残忍なほどの、その自信はどこから来るのか。


「一度他の男に抱かれたものを、フォルスターの皇太子は許すかねぇ?」


 ここまであからさまに言うとは。

 あまりの事に目を瞠る。


「助けは来ない。期待するだけ無駄だよ、アリスティア・クラリス・セル・バークランド公爵令嬢? 我が皇帝陛下のお渡りは今夜だ」


(助けは来ない? いいえ、絶対に助けに来てくれる。兄様たちも、ルーク兄様──ルーカス殿下も、絶対に私を助けてくれるわ。間に合わないかもしれないけれど)


 余りにも下衆な内容に、頭痛がする。

 皇太子(ルーカス)の優しい笑顔が思い浮かび、もしかしたら間に合わないかもしれないと思ったら、自然と涙が浮かんできた。


「君の世話はこの侍女がする。ああ、魔術は危険だからね。発動できない様に、魔力封じの魔道具(デバイス)をつけさせてもらったよ。それと、君をここに招待してから三日経ってるよ」


 移動は転移だろうか。

 攫われてから三日。

 魔力封じの魔道具(デバイス)が、両足首にそれぞれ五つ。多分、手首にも、首にも嵌っているのだろう。足首はアンクレット。手首は恐らくブレスレット。首は? ネックレスではなくチョーカーか。


「魔力封じの魔道具(デバイス)を外そうとしても無駄だよ。ふふふ、ソレは魔力を喰らう様にできてるからね。魔力が大きければ大きいほど、喰らいつく」


 最悪だ。

 絶望しかかるが、まだ希望は捨ててはいけない。

 目に力を込めて睨む。


「気が強いようだね。ふふふ。陛下好みだ、これは拾いものだね。アンヌ、今夜に備えてこの令嬢をきれいに準備しておけ」


「かしこまりました、旦那様」


「戒めは外していい。どうせ逃げられないからね」


「はい、旦那様」


「テセウス。魔術での戒めを強化しろ」


「了解した」


(魔術での戒め?)


月夜のルーナム・ノクティス・鳥籠アヴェム・デ・カーヴェア


 その声が聞こえた途端、体が更に重くなった。


(詠唱破棄での最終宣言ワード! この人も実力者だわ。まずすぎる。精霊王は多分、助けてくれないだろうし)


 自分を取り巻く状況の拙さに、アリスティアはようやく事態を悟り、顔を青褪めさせた。

 その様子を見た年配の男は、満足そうにすると、テセウスと呼ばれた男と一緒に出ていった。残されたのは、アンヌと言う侍女だけで、彼女はアリスティアの味方ではない。再度、絶望しそうになるが、懸命に心を強く保った。

 

ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m

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