第25話 公爵令嬢は皇太子の執務を手伝う
アリスティアはスッキリしていた。
非常に上機嫌でいた。ただし、皇太子の腕の中でグッタリしていたが。
魔力枯渇寸前まで撃ちまくっていたのだから、グッタリするのも当然だった。
結局、アリスティアが撃った広範囲隕石落としは十五発。途中から笑いながら次々と撃つ姿を見て、皇太子はアリスティアが相当鬱屈していた事を理解した。
次からは、アリスティアのストレスが溜まりすぎる前に、発散させないと、と決意する。
アリスティアが魔力枯渇寸前まで行ったせいで、帰城用の魔力が足りなくなった。泊まる選択が無く、どうしようか迷っていたら、アリスティアが皇太子に、転移魔術を教えると言い出した。皇太子の魔力量なら、複数人の転移に耐えられる、と言う。それなら、と皇太子が了承したところ、アリスティアは彼の頬にキスをした。
それを見てショックを受けたのは妹至上主義の双子の兄二人で、もの凄く騒いだが、アリスティアが一喝すると大人しくなった。
皇太子の方は頬にキスを受けた瞬間、アリスティアからイメージと術式が流れ込んで来て、顔を赤くする暇も感動する暇も無かった。
イメージはともかく、術式の複雑さはすぐには無理そうだと彼には思えたからだが。
それを伝えると、アリスティアはあっさり言った。
「術式を送ったつもりはありませんが、その術式が難しいのならイメージだけで強く"願え"ばいいのですわ」
イメージ。確かにアリスティアは今までイメージだけで魔術を発動してきた節がある。それなら大丈夫かもしれない、と皇太子は頷いた。
とりあえず皆に皇太子の周囲に集まる様に言い、皇太子執務室を思い浮かべ、転移で五人が執務室のソファー脇に立っているイメージで、転移を宣言してみた。
あっさりと転移がなされ、皇太子は呆然としてしまった。
転移の間とか、術式とか、魔力量とか、人数とか。色々と考えなければならないが、考えるだけ無駄な気がした。アリスティアが、皇太子の魔力量なら複数人の転移に耐えられる、と言ったのだからそういう事なんだろう、と思う事にした。
「色々と言いたい事はあるが、とりあえず仕事を終わらせるぞ。エルナード、クリストファー。ティアを休ませたかったら死にものぐるいで頑張るがよい」
「殿下の鬼畜!」
「アリスを人質に取るなんて、それでも人間か!」
「人聞きの悪い事を言うな。ティアがグッタリし過ぎているから、ソファに寝かせられないだけだぞ。接触で多少は魔力譲渡されると水の精霊王が仰っていたではないか。それに私とティアの魔力の相性がいい、とも」
「アリスと魔力の相性がいいなんて羨ましい!」
「おのれ! そのうちに潰してやる!」
「お前たち、文句を言うのは構わないが、ちゃんと仕事しろ」
「兄様たち、煩いですわよ。口より頭と手を動かしなさいませ」
アリスティアが皇太子の胸にグッタリともたれ掛かりながら、兄たちに宣告すると、不承不承ながらも仕事に集中し始めた。
数日後。
フェザー辺境伯から連絡が届いた。
密偵からの報告では、ハルクト王国の王宮に多数の魔物が現れ、王を始めとした過激派の高位貴族が軒並み魔物に殺され、ハルクト王国は今、上を下への大騒ぎになっているという。
そのため、王位継承権を持つ穏健派のファネル公爵が王位に就く見込みだという。穏健派だから、他国への侵略は、ファネル王朝になれば今後は考慮に入れなくても良いだろう、との事だった。
「これで数十年は皇国は安泰になりますわね」
話を聞いたアリスティアのセリフに、皇太子はなんとも言えない顔をした。
「ティア、まさか」
「ルーク兄様、結果論ですわよ? ハルクト王国の近衛騎士団と王宮魔術師たちが、王族全滅になるまで手も足も出ない程弱いと思いませんでしたもの」
皇太子は、相変わらずティアは辛辣だ、と思いつつ。
確かに、たかが魔物二千匹程度で壊滅するとは弱すぎるな、とも考えた。
「ともかく、これで暫くはハルクト王国側の国境は静かになりますわね。次に問題になるのは、ルオー王国辺りでしょうかしら?」
アリスティアの的確な読みに、内心舌を巻く。
「そうだな。最近、ルオー王国との国境線が騒がしい。税が高くなって民が苦しんでいるらしいのだが、その為、逃散が進んでいるという話だ。その逃げた民が我が国に来ているのだが」
「着の身着のままだから、貧民街に集まって、国境沿いの各街の治安が低下しているのですわね?」
アリスティアが話を引き継ぐ。
「力もない民が、命がけで逃げて来ているのだ。力尽くで解決できる問題でもないからな。何かしらの対策は必要なのだが、対症療法では予算が尽きてしまう」
「殿下。公共事業を起こし、貧民街の住人でやる気のある者を募集してはどうでしょうか?」
「街道整備などの大型事業もさる事ながら、公園の整備や街の清掃などの日常整備などは、時期を選ばず貧民街の住人によろしいかと」
「エルナード、クリストファー。とりあえず、その案は検討する価値がある。その案の具体的な内容を書類に纏めて提出せよ」
「「御意」」
「殿下、長期計画になりますが。逃げて来た難民の技能を調査し、各職種に就かせるなり、親方衆に預けて技能を育てるなりして、我が国の技能の底上げとするのはいかがでしょう?」
「ふむ。確かに技能持ちもいるだろうな。ティア、その計画の詳細を書類に纏めて提出せよ」
「畏まりましたわ」
次々と案が出てきて、対策が練られてゆく。
皇太子も兄二人もごく自然にアリスティアの案を受け入れていたが、通常は五歳児が案を出す事も、況してやそれを書類に纏めて提出させる事もしないのだ。
皇太子の懐が広過ぎる、と宰相府に提出された書類を読んだ宰相補佐官たちの意見が一致したのだった。
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