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第24話 公爵令嬢はストレス発散をする

 


 砦に戻ると、昼を過ぎていた。

 昼食を一緒に、というヒューベリオンの誘いを皇太子は断り、五人で皇太子執務室へと転移で移動して来た。

 そして皇宮の女官に言いつけ、昼食を運ばせる。

 簡単な昼食を終え、お茶を飲み終わると、アリスティアが立ち上がった。


「ルーク兄様、いい加減、ストレス発散させてくださいませ! 広範囲隕石落としステラリット・メテオリテ撃ち放題を希望しますわ!」


「許可は出したが、今日はやめておいた方がいいのではないのか? かなり魔力を使ったであろう?」


「あの程度、まだまだ余裕ですわよ? 五分の一程度しか魔力を使ってませんもの」


「相変わらずティアの魔力量は底なしだな」


 皇太子が苦笑する。


「そろそろ真面目にストレス発散しませんと、発狂しそうですわ。話の通じない変態のせいで、かなりストレスが溜まってしまいましたもの!」


 アリスティアが眉間に皺を寄せて不満を吐き出す。

 今にも飛び出しそうな気配を感じ、皇太子は「少し待とうか」とアリスティアを宥めた。


「魔力残量に問題はないなら、仕方ない、今日これからストレス発散を許可しなくてはな。本当は昨日から今日に掛けての執務を片付けなければならないのだが、ティアのストレス発散が終わってからにしよう」


「殿下ぁ……今日は残業ですか!?」


「アリス成分を補給させてください、殿下!」


 双子の側近が情けない声を出すのを、皇太子は無視した。


「本当ですの、ルーク兄様!」


 喜色満面のアリスティアに、皇太子は苦笑する。よほど「話の通じない変態(ヒューベリオン)」がストレスになったらしい。「話の通じない変態」と烙印を押されたヒューベリオンを憐れと思いつつも、ライバルに躍り出た次期辺境伯への優越感はどうしようもなく皇太子の胸中を満たした。


「早速、海辺に転移しますわ! ルーク兄様、エル兄様、クリス兄様、ダリア姉様。周りに集まってくださいませ!」


 アリスティアの言葉に、一同は彼女の周囲に集まる。皇太子は自然にアリスティアを抱き上げたが、抵抗はされなかった。


「行きますわ。転移術ウッ・トゥランシートゥス!」


 詠唱破棄後の最終宣言ワードにより、即座に海岸に出現する。海岸は、以前来たヘーゲル伯爵領の港町オーサだった。


位相結界(オービシェ・テンプス)展開! 直径十キロメートル」


 アリスティアの宣言で沖に乳白色の半透明の壁が出現する。


「直径十キロメートルの円筒形の結界ですわ。結界は海底まで届いていますから、漏れる事は万が一にもあり得ませんのでご安心くださいまし。あの中に広範囲隕石落としステラリット・メテオリテを撃ちますわ! 憧れの撃ち放題ですわ!」


 アリスティアの語る内容の前半は、筆頭魔術師が泣き出すレベルだ。

 そして最後は魔王もかくやという内容である。


「メテオリテ! メテオリテ! メテオリテ! 三段撃ちですわ!」


 凄く楽しそうに広範囲隕石落としステラリット・メテオリテを連発するアリスティアを、兄二人は笑顔で見ており、皇太子は多少困惑が窺えるものの、やはり笑顔で腕の中の存在を愛でている。

 それを少し離れたところで見ている女騎士ダリアは、内心苦笑しつつ、自分の護衛対象であるアリスティアの才能に感嘆していた。





 沖の海上に、多数の隕石落下により水柱が立ちまくっているのが見える。そこから、結界の壁に水の壁が当たって砕けているのも見えた。あれが津波なのだろう。


 「我が愛し子アリスティア。なんだか楽しそうな事をやっているわね」


 「我が愛し子アリスティア。そなたはいつも楽しそうだな。重畳だ」


 「我が愛し子アリスティア。位相結界をサラッと構築するでない。我らの出番がなくなるではないかの」


 「我が愛し子アリスティア。完璧に津波被害を抑えているね。流石だよ」


 またしても精霊王たちの顕現である。


 「水の精霊王、火の精霊王、土の精霊王、風の精霊王。ご機嫌麗しゅう」


 「皇太子ルーカス。相変わらず堅いわね」


 「礼儀は弁えているつもりです」


 「うむ。礼儀は大事である。皇太子ルーカス、そなたは我の機嫌を取るのが上手い」


 「ご機嫌を取るつもりはございません。礼儀を失さぬよう気をつけるのみ」


 「それができる者は少ないであろう?」


 「御意」


 「皇太子ルーカス。次回からはワシへの挨拶は不用じゃ。愛し子を気遣う事にのみ集中すると良い」


 「ありがたき幸せ」


 「皇太子ルーカス。僕も挨拶は不用。僕たちの間では今更だしね」


 「風の精霊王、勿体無きお言葉、然と承りましてございます」


 「ほら、そんな堅苦しくしなくていいよ」


 「では少し砕ける事をお許しください」


 「いいよ。というか、風の素養を引き出して上げるのを忘れてたね」


 そう言うと、皇太子の額にその優美な人差し指を当て、口の中で何かをぶつぶつ呟く。

 やがて皇太子の額、風の精霊王が触れてる部分が暖かくなったかと思うと、体の内から力が湧き上がるのが感じられた。


 「いいよ、これで君も風の眷属だ。力はうまく使いなよ」


 「エアリエル。珍しいわね、貴方が直接力を引き出すなんて?」


 「ウンディーネ。たまたま彼に風の素養があるのが見えたからね。それに愛し子アリスティアの──だしね」


 「そうね。彼は──だものね」


 「ふーむ。火の素養は少なそうである」


 「土の素養はないの」


 「あなた達、対抗しなくていいのに」


 呆れた様に水の精霊王が言うも、他の精霊王は残念そうではなかった。ただ単に事実を述べただけの様だ。


 「メテオリテ! メテオリテ! メテオリテ! 三段撃ち二回目ですわ!」


 アリスティアが実に楽しそうに最終宣言ワードを連発すると、沖の結界の中に、再度地獄が出現した。

 無数の隕石落下により、海が泡立つ。

 津波が結界の壁に当たって砕ける。

 それなのに、結界の外の海はどこまでも凪いでいて、異変すら感じさせない。


 「愛し子アリスティア。貴女の才能が少し怖いわ」


 「ウンディーネ様、ありがとうございます」


 「貴女の才能を支えている想像力は、前の人生で得たものだものね」


 「そうですわ。でもここにはマンガもアニメもラノベもないから退屈でつい勉強してしまいますのよ」


 皇太子は腕の中のアリスティアの"前の人生"が気になった。"まんが"とはなんだろう? "あにめ"とはなんだろう? "らのべ"とはなんだろう? アリスティアが言うのを聞くと、とても楽しいものの様だ。しかし、退屈だからつい勉強するとか、勉強が退屈しのぎの辺り働き過ぎの素養が垣間見える。

 定期的にストレス発散をさせないと、アリスティアが倒れそうだ、と皇太子は思った。

 

ここまでお読みくださり、ありがとうございますm(_ _)m

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