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第105話 社会科見学!③

いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。

とても助かります!(*^^*)


 

 

 アリスティアは羞恥に耐えていた。

 顔を隠してしまいたくても、皇太子(ルーカス)が「アリスティア皇太子補佐官であり、私の婚約者だ」と先手を打って紹介するのだ。顔を背ける事もできない。

 そもそもこんな状態になる前に、兄達に少し抗議したのだが、兄達は揃って顔を引き攣らせながらも、首を横に振る人形となり、


「アリス、この状態の皇太子殿下に逆らわない方がいいのは、アリスだって良く知ってるだろ」


とクリストファーに言われてしまい、エルナードからも、


「今回、アリスが宰相府のレーベンブルク補佐官と話している時から皇太子殿下は見てましたからね。すぐ転移するかと思いきや、転移せずに様子を見るだけだったから変に拗らせたようです。諦めて皇太子殿下の言うことを聞いておきなさい」


と遠い目をして窘められた。




 同じ学年の下位貴族クラスである三年二組はまだ良かった。同じ貴族だから、驚きつつも何も言わないでくれたし、同じ騎士コースの受講生もいたから、耐性があったのだろう。

 だが、三年三組の平民クラスは姦しかった。

 やれ「モエル」だの「素敵」だの、果ては「ごちそうさま」だの。

 エルナードとクリストファーがブチ切れて殺気を発するくらいにはアリスティアも苛立った。だいたい、ごちそうさまって何だ。自分(アリスティア)は食べ物ではない。


「三年三組は、躾をされていない犬ですか。ここを何処だと心得るのです?」

「お前らいいかげんにしろ! ここは皇太子執務室だ! アリスは皇太子の婚約者だって紹介されただろ。つまりは準皇族だ。皇位継承権も持っている。不敬罪で処罰されたくなかったらすぐに大人しくしろ! ここは学園とは違う! 不敬罪もあるし皇族の権力も生きている場所だぞ!」


 エルナードが窘め、クリストファーがぶち切れて、漸く口を閉ざしたのだった。



 二年生も貴族の反応はまあまあだったが、やはり三組の平民クラスはざわついていた。

 そのため、クロノスはもう一つ付け足す事にした。


「アリスティア様は皇太子殿下の婚約者である事で、準皇族扱いとなっています。下手な事を口走ると、不敬罪として処罰できます。ここは学園内ではなく、皇宮です。学園内では抑制されている権力も、ここでは抑制されませんからね」


 これで牽制になるだろうと見回すと、二年生の三組(平民クラス)の面々は、不敬罪の言葉に黙り込んだ。




 一年生が来る前に、財務省の補佐官が書類を持って来た。

 膝抱きされているアリスティアを見て目を瞠り、次いで生温かい視線を彼女に向けて来た。


「皇太子殿下、財務省からの書類です。緊急のものを一番上に置いておきますので、早急にお目をお通しください」

「相わかった。そこの未処理案件の箱に入れておけ」


 皇太子(ルーカス)はその財務大臣補佐官を見もせずに告げる。目は書類に、手は羽根ペンを持って動かしている。

 さっきからもの凄い速度で書類が決裁されていた。

 そんな様子を見せられたら、アリスティアだって仕事をしなければ、という気になる。だが、おそらくルーカスは、今日は絶対に許可しないだろう、という事はわかってしまう。

 知らず、ため息が出た。

 それに敏感に反応したルーカスは、その金色の瞳をアリスティアに向け、じっと見つめて来た。


「何をため息が出るほど悩んでいる?」


 悩んでいる訳ではない。

 仕事をしなければ、と思っているだけである。だが、それをルーカスが理解してくれるかどうかだ。

 じっとルーカスを見つめるが、理解して貰えなさそうで、またため息が漏れた。




 アリスティアの様子を窺っていたルーカスは、そのため息に眉を顰める。


「私には言いたくないのか?」

「……正直に言っても、理解して貰えないと思いますから」


 アリスティアが目を伏せ、俯いた。

 ルーカスにはそれが、彼女からの拒絶に思えて心が冷えて行くのを感じた。


「ティア」


 羽根ペンを置いて、アリスティアを掻き抱く。


「なぜ私には教えてくれぬ? 私が信じられぬのか?」


 アリスティアは弾かれた様に顔を上げ、驚きで目を見開いていた。


「違います! 言わないのは……ルーカス様には理解して貰えない事だと分かっているからです。実は……ルーカス様が仕事をしているのを見て、私も仕事をした方がいいかな、と思って……」


 でも理解できませんわよね、とアリスティアは呟いた。

 ルーカスは僅かな時間だけ考えて、すぐに答えを口にした。


「ティアが仕事をしたいと言うのならして貰うが、今日はダメだ。これはティアへのお仕置きなのだから」


 ぐ、とアリスティアの喉から小さな音がして、何とも言えない微妙な顔をした彼女が少し目を潤ませているのを見てしまったルーカスが、苦しそうな表情で口を引き結んだ。

 その直後、衝動のままに、アリスティアの頬に、額に、(まなじり)にと口付ける。アリスティアは驚愕で固まっていた。それを良い事に、首筋にも口付けたところで、不自然な咳払いが聞こえた。


「皇太子殿下? そういう事は二人きりの時にお願いします。今は見学の時間です!」


 声が聞こえた方に首を向けると、エルナードとクリストファーが青筋を立てつつ笑顔を向けているし、バツが悪そうな顔をして目を逸らすエルンストがいるし、クロノスは呆れた様にこちらを据わった眼で見ているしで、今の声がクロノスだと気が付いた。更にその後ろには、驚愕した一年生の集団がいた。


「構うまい? ティアは私の婚約者で、どこで愛でようと問題なかろう?」

「問題ありまくりじゃねーか、この馬鹿皇太子! アリスはまだ未成年だぞ! というかまだ子供だぞ! てめえの欲をぶつけていい年齢じゃねえよ!」


 クリストファーがぶち切れて罵る。

 だが、ルーカスはその言葉に反論しておこうと思った。


「私は欲など持ちようがないのだが?」

「ふっざけんな! アリスに口付けておいてあれが欲じゃないと言うのか!」

「皇太子殿下、クリストファー補佐官! 子供の前で、なんて事を口走るんですか! もっと節度のある言葉を使ってください!」


 クロノスに窘められて、少し自分の発言を顧みてみたら、確かに子供の前で言っていい言葉ではなかった、と反省する。


「可愛くて口付けるのがダメならば、相当に我慢せねばなるまいな。何せティアはこの様に可愛すぎるからな」


 ルーカスは事実を述べたのだが、周りが途端に呆れやら諦念やら居たたまれなさやらな雰囲気を出したものだから、どういう事だ、と内心首を傾げた。




「──兄上、無自覚に惚気けて煽るのはやめてください!」


 エルンストの言葉に、周囲が一斉に頷いた。


「惚気けているつもりも、煽っているつもりもないのだがな」

「ルーカス様、わたくしも恥ずかしくて死にそうですわ」

「ティアは諦めろ。これはそなたに対するお仕置きなのだから」

「ルーカス様の意地悪!」

「意地悪で結構。ティアのいくつもの可愛い顔が見られるのなら、いくらでも意地悪をしてしまいそうだ」

「だからルーカス殿下! そういうのは二人っきりの時にしろって言ってんだよ! ダダ甘な空気作ってんじゃねーよ! 見学者置き去りにしてなに二人の世界作ってんだよ! 社会科見学を許可したのはお前だろうが! 魔術で覗いて嫉妬するくらいなら、最初からついて歩けよ! 面倒なやつだな、ちくしょう!」


 クリストファーは怒りで言いたい事をポンポン言っていたが、補佐官たち以外の、見学者と教師には不敬罪の文字が頭に浮かび、青くなってクリストファーを見ていた。


「ふむ。クリストファー。これが嫉妬と言うものなのか?」

「は? なに? 今まで知らずに同じ様な行動をとってたわけ?」

「嫉妬という感情がよく分からなくてな。そうか、これが嫉妬か」


 イヤに機嫌よくなった皇太子に、周囲が唖然とする。


「と言う事で、ティア。私が嫉妬する様な行動はとってくれるなよ?」


 蕩けた目で婚約者(アリスティア)を見つめる皇太子に彼女は何も言えず、壊れた人形の様にコクコクと縦に首を振るしか出来なかった。




☆☆☆☆



 一年一組のあとに、今度は宰相府の補佐官が書類を届けに来て、アリスティアの状態を見て驚愕し、次いで納得した様子で憐れむような目で見られ、そそくさと帰って行った。

 宰相府で報告されるんだろうな、とアリスティアは遠い目で思った。


 一年二組が入って来た時、例のフランツとかいう少年(でもアリスティアよりは年上だが)がいて、明らかにギョッとしていた。

 もっとも、その少年だけではなく全員がギョッとしたのだが。


「皇太子執務室へようこそ。我らが皇太子殿下は、婚約者のアリスティア皇太子補佐官を愛でている最中だが、気にしないで欲しい」


 クロノスの紹介にも度肝を抜かれる。

 婚約者を愛でている!?皇太子が!?

 という驚愕は、貴族として育っている彼らには当然のものである。

 人前で感情を露わにするなかれ、というのは、貴族としての教育の基本なのだから。


 そして続いた説明では、この様に婚約者を愛でるのは皇太子にはよくある事で、今は嫉妬心から婚約者を離せない状態だと言われ、乾いた笑いしか出なかった。

 そして皇太子執務室の仕事内容を説明されたのだが、皇王の仕事の何割かを引き受けているのだと聞き、補佐官はそれを、決裁は皇太子でなければならない案件と、そうではない、決裁は補佐官でもいい内容のものに仕分けるのだという。

 そしてその決裁速度を聞いて、度肝を抜かれた。

 皇太子は書類を読んで内容を理解して決裁するのに、通常は三分、やる気を出すと一分だという。

 更に驚くのは、筆頭補佐官と同じ顔をした補佐官の二人も皇太子の通常時の決裁速度と同等の速度で決裁できるのだと言うし、自分たちより年齢が下の婚約者という三年生の主席の女の子までその決裁速度は同じだと言われ、宰相一族はどれだけの能力を有しているのかという怖れと、宰相職が世襲制になっている疑問への答えを貰った様な気がした。

 それでも、目の前で繰り広げられている皇太子による婚約者への過剰な接触行為は、目のやり場に困るからやめて欲しいと思った。








 皇太子は、フランツが入って来たのに気がついていた。だから、殊更ベタベタとアリスティアを撫でたり髪の毛を梳いたりしていた。

 見せつける為にやっていたが、恥ずかしがるアリスティアが可愛くてか途中から本気で可愛がっていた。

 クリストファーから怒られたのは、ルーカスには通常運行だった。

 平民クラスは、皇太子に直接会える事に興奮していた様だが、面倒だから威圧したら大人しくなった。

 その後はまたアリスティアを愛でる事に注力した。





 皇太子補佐官たちの心労とともに、漸く彼らの社会科見学は終わったのである。


「近衛騎士団舎の見学に行き損ねましたわ!」


 アリスティアのこの叫びとともに。


 

社会科見学、というタイトル詐欺に近い内容になった気がします^^;

でも少しだけ甘い雰囲気を出したかった(^.^;

そろそろ甘さ不足で心が乾きそうでしたので^^;

反省は──しません!w



ここまで読んで下さりありがとうございます!


 

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