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第99話 新年の祝賀パーティー④

いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます。

とても助かります!(*^^*)


 


 


 皇太子(ルーカス)に冷たくあしらわれた令嬢たちが意気消沈して立ち去ったあと、今度は年若い、まだ成人したてだろうと思えるくらいの青年貴族たちが周りに集まって来た。

 なんだろう、と訝しんでいたら、驚くことにアリスティアに向かって挨拶をしてくる。


「バークランド公爵令嬢、私はギレム伯爵家次男のアレクス・ダニエルと申します。お見知り置きを。今宵、私と一曲踊って」

「今すぐ立ち去れ。私のティアを他の男に触れさせる気はない。ティアと踊っていいのは私だけだ」


 アレクスの言葉を途中で遮り、ルーカスは絶対零度の視線で彼の目を射抜いた。

 その直後、皇太子(ルーカス)威圧(プレッシャー)をかけた。

 アレクスが震え上がる。いや、アレクスだけではなく、アレクスのあとにダンスを申し込もうと思い様子を窺っていた年若い青年たちも、威圧を受けて震え上がり、顔色が青くなっていた。 


 話を聞いていたアリスティアは驚いて目を見開いた。

 そこへ、双子の兄達が参戦した。


「そうそう。私達の妹のアリスを、皇太子殿下以外にお任せするつもりはないのですよ。皇太子殿下は悔しいけど、私達より余程アリスの事に心を砕いてくださっている」

「悔しいが、俺達の妹のアリスの安全を任せられるのは皇太子殿下だけだからな。そこら辺の有象無象に任せる気は一切ないね。皇宮の警備レベル以上に警備厳重にできる自信があって、アリスの為に近衛騎士団第一連隊独立第三中隊というアリス専属警護部隊を創設し、アリスの警護を厳重に固める皇太子殿下に君らが敵うとでも思ってるの?」


 エルナードとクリストファーが追い打ちをかける。

 とそこへ、なぜかエルンストやクロノスまでも参戦して来た。


「お前たちは兄上がどれだけアリス嬢を大事にして、どれだけ愛してどれだけ執着しているか知らないみたいだな。知ってたらそんな命知らずな真似はできん」

「皇太子殿下はアリスティア様に他の男が絡むと殺気立ちますからね。ホント、溺愛ぶりが酷くて、私達はいつも()てられてますよ。アリスティア様に危害が加えられそうな状況になると女性相手でも転移して来て相手を威嚇するし、騎士コースで剣術を習いたいとアリスティア様が言えば私とエルンスト殿下に一緒に騎士コースを受けて警護しろと脅すし、竜族から近衛師団長を教官として連れてくるし、隙あらばアリスティア様を抱っこしてしまうし、アリスティア様以外に向ける視線は絶対零度だし、」

「クロノス様! 貴方、わたくしに何か恨みでもありますの⁉」


 アリスティアは並べられる内容に羞恥心が溢れ、とうとう我慢できなくなってツッコミを入れてしまった。

 しかし、ふと、同じ様なせりふを言った事を思い出した途端、あ、と声が漏れた。


「恨みですか? ありますよ。主にアリスティア様の無自覚のせいで何度死にかけたか」

「く、クロノス様?」

「アリスティア様、竜王様の半身なんだから、自覚を持ってくださいね。竜族は執着が酷くて、独占欲が強くて、愛情深い種族だそうです。ですよね、皇太子殿下?」


 クロノスが皇太子に話を振ると、彼はアリスティアの肩を抱き、彼女の頭に口付けを落としてから肯定した。


「クロノスの言うとおりだ。我ら竜族は、独占欲がかなり強く、愛情深い。半身には酷く執着するし、囲い込んで他の男には半身の姿を見せない者も多い」


 皇太子の言葉に、周囲が騒めく。ただ、騒めきの内容を聞くと、皇太子の言葉の内容よりも、皇太子が竜族と言った事に対する戸惑いが多いようだった。

 ルーカスはその冷たい金色の瞳を周囲にいる成人したばかりらしい青年たちに向け、はっきりと宣言した。


(ワレ)は竜王ぞ。アリスティアは我が半身である。他の男に触れさせるつもりはないから早々に立ち去れ」




☆☆☆☆



 青年たちがアリスティアにダンスの申込みをするのを諦めて立ち去ったあと、今度は貴族たちの挨拶が始まった。

 貴族たちは、順に整然と皇太子に挨拶してくる。アリスティアにも挨拶する貴族もいたので、皇太子と一緒に挨拶を交わしていたが、決してアリスティアに触れようとはしなかった。

 それは先程の皇太子の言葉「他の男には触れさせない」を聞いていたからに他ならない。

 また、エルナードとクリストファー、エルンスト、クロノスの発した内容も関係していた。特にクロノスの「死にかけた」発言は貴族たちには重要だった。


 クロノスは皇太子補佐官として認識されている。つまり側近の一人だ。その側近すらも死にかけるほどの独占欲を皇太子が発揮したということになる。それも、この婚約者の無自覚のせいらしい。

 となれば、触らず近づかず、適切な距離を空けて接した方が利口だ、となる。

 隣に皇太子がいるのだから、慇懃無礼とならない様に気をつけなければ。

 そんな考えで、貴族たちは皇太子とその婚約者に挨拶をしていた。


 貴族たちの挨拶を受け、ルーカスも皇太子らしく返答をする。卒なくこなすルーカスは、アリスティアにはとても格好良く見えている。恥ずかしいから言わないが。

 それにしても、今日は色々あった、と思い返す。

 ダンス中に目を逸らしたらお仕置きされて、皇太子(ルーカス)を狙う令嬢たちから無視されて、若い男性たちからアリスティアがダンスの申込みをされかけたらルーカスが他の男に触れさせる気はないと言って、妹至上主義(シスコン)の兄たちが皇太子(ルーカス)の事を認めていて、エルンストが皇太子がどれだけ自分(アリスティア)を愛しているのかと言って(ここで迂闊にも顔が赤らんでしまった)、クロノスが色々言って。

 あり過ぎの様な気がする。


 懸命に深呼吸を繰り返し、赤らんだ顔を元に戻そうとしていたが、そんな彼女の考えなどお見通しとばかりに皇太子(ルーカス)はアリスティアの頭に口付けを一つ落とし、しっかりと肩を抱いたのだった。




☆☆☆☆



「ティア、疲れただろう? 皇族専用の休憩室へ案内(あない)しよう」


 暫く貴族たちからの挨拶を受け続けていた皇太子とアリスティアだったが、そろそろくたびれて来たと思ったところでそんな提案をされたら断りきれるものではない。

 ありがたく好意を受ける事にして、アリスティアはルーカスに伴われて皇族専用の休憩室に入った。


 室内は、さすが皇族専用だけあり、天井には煌びやかな、この世界で信じられている天界の様子を描いた絵があり、壁にはどこかの国から贈られたと思われる細長い、美女と天馬の絵が描かれたタペストリーがかかっており、床はふかふかの毛足の長い絨毯が敷かれ、そこに巨大なローテーブルとソファが置かれていた。

 そしてローテーブルの上には冷めても美味しい料理が並んでいた。


 鴨肉のロースト、鹿肉のワイン煮、テリーヌ、チーズ数種類、フォアグラ、淡水エビのマリネ、きのこのマリネ、ハムサンド、野菜サンド、ピクルス数種類。

 チョコケーキ、フルーツケーキ、チョコムース、フルーツタルト、クッキー、チョコレート数種類。

 果実水、ハーブ水、ワイン、ブランデー、ウィスキー。


 目移りする程載っていて、とても美味しそうに見える。

 きらきらと目を輝かせ始めたアリスティアを見て、皇太子は柔らかく目を細めた。


「ここで暫く休むと良い。テーブルの上にあるものも食べて良いぞ。私はまだやらねばならぬ事がある故、ティアはゆっくりと休め」


 頭を撫でられて告げられると、アリスティアには文句が言えない。いや、最初から言うつもりもないが。

 ただ、ルーカスに頭を撫でられると、すごく安心するし、なぜか言うことを聞く気になるのだ。それはもう、幼い頃からの習性とでも言うべきやり取りで、彼女は疑う事なく頷いた。


 皇太子が休憩室から去ると、アリスティアは早速空腹を慰めるためにお皿を取り、料理を載せていく。

 鴨肉のロースト、テリーヌ、チーズ数種類、淡水エビのマリネ、野菜サンド、ピクルス。

 料理を載せたお皿をテーブルに置いて、ハーブ水も水差しからグラスに注ぐ。

 カトラリーはテーブルの真ん中に置いてあるラタンのカトラリーボックスに並べて入っていた。そこからナイフとフォークを取り出して、早速鴨肉のローストを切って口に運ぶ。


 いつも朝食と晩餐はルーカスに給餌されているので、晩餐を自力で食べるのはかなり久しぶりだった。

 ちまちまと食べると、すぐにお腹がいっぱいになってくる。元々少食のアリスティアだったから、お皿に種類多くは載せたが量はそんなに多くはない。なので食べきったくらいでちょうど良かった。

 ただ、デザートまで食べてしまうとこの後のラストダンスが苦しくなりそうだったので、デザートのケーキは泣く泣く諦めるしかなかった。




☆☆☆☆



 皇太子(ルーカス)が迎えに来た。

 いつの間にやらそれなりの時間が過ぎていたらしい。ハーブ水で喉を潤し、立ち上がってルーカスに歩み寄る。


「ティア、軽食は食べたのか?」

「はい。美味しくいただきましたわ。でもデザートを食べたらダンスがキツくなりそうで、諦めましたの」

「デザートが食べてみたいのなら、エルゼ宮の料理人に作らせよう」

「ありがとう存じます、ルーカス様」


 嬉しくなってにこりと微笑んで見上げれば、優しい金色の瞳と視線が交わった。

 ドキリとしてすぐに前を向く。

 たまにあるのだ、こんな時が。

 ルーカスを見ると、胸が痛くなる。でもなんだか言い表せない気持ちにもなる。モヤモヤしたような、足を踏み鳴らしたくなるような。

 これが何なのか、アリスティアにはまだわからなかった。


 やがて大ホールに入ると、楽団の奏でる柔らかい音楽が聞こえて来た。

 煌びやかなシャンデリア、華々しいドレスの波、騒めく大ホールの中で、アリスティアはこの夜会が終わりに近い事を感じ取った。


「ティア、次の曲がラスト・ダンスだ。いくぞ」


 ルーカスにそう言われ、ちょうど終わった曲の合間にホール中央に進む。

 向かい合ってルーカスの顔を見ると、柔らかく微笑んでアリスティアを見ていた。

 顔が熱くなる。

 目を逸らそうと思ったが、「お仕置き」を思い出して血の気が引き、ぐっと堪えてルーカスの瞳を見つめ続けていた。


 曲が始まり、皇太子のリードに合わせてステップを踏み出す。

 踊りながら、やはりダンスは楽しい、としみじみ思った。

 アリスティアは気がついていなかったが、皇太子が令嬢たちの誘いを断り、更にアリスティアへのダンスの誘いも追い返した事で、二人は貴族たちから注目されていた。


 ルーカスは勿論知っており、さり気なく好奇の視線を自分の体で遮ってアリスティアを守っていた。だがダンス中はそれもできず、好奇の視線はアリスティアを無遠慮に舐め回す。腹立たしいが今は仕方ない。本当は視線で射殺したい程だが、それは今ではない、と皇太子はそっと、アリスティアに注がれる視線の持ち主を確認し始めた。




 ダンスは終わった。

 夜会も終わりになる。

 これで新年の祝賀パーティーも終わりで、公務とも言えそうな行事を乗り切ったアリスティアは、やっと肩から力を抜いた。


「ティア、大儀だったな」


 ルーカスが労ってくれたので、アリスティアは嬉しくなった。

 夜会はまずまずの成功でアリスティアは安心したが、数日後に出回った噂を聞きつけて頭を抱える事になる。


───皇太子殿下は、婚約者のバークランド公爵令嬢を溺愛していて、独占欲がとても強い。


 社交界って怖い。

 アリスティアがそう思ってしまっても仕方ないだろう。


 

ここまで読んで下さりありがとうございます!


 

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