表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジー的世界観でサクッと読むヒューマンドラマのすゝめ

チートは痛覚消滅!?俺に愛しい痛みを下さい!!

作者: 絹ごし春雨

 俺は無敵だった。


 交通事故に遭い、真っ白になった意識の中、神にチートという素晴らしい能力を与えられた。それが何なのか、俺に知ることは出来なかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


気づいた時、俺は湖のほとりに倒れていた。ここは、まさか異世界?俺は転生したのか?なんとか生きなければならない。そう、思った。なぜなら、前世で死んだばかりだからだ。また、あんなぽっくりと死にたくはなかった。


それから、俺の異世界での冒険が始まった。ギルドに登録し、襲われていた金髪美少女を助けてあげたり、一緒に魔物を撃退したりした。ズバッとなぎ倒すと消えていく魔物は、まるでゲームみたいで爽快だった。自分は無敵だ。そう思っていた。


どんどん有名になっていく俺。金髪美少女シャリーヌは俺にすっかり惚れてるし、気分はサイコーだった。


けれど、ある日気づいてしまったんだ。

その日は、人型の魔物を討伐に行って、そいつは鋭利な剣を持っていた。それが、俺の腕をかすったのだ。いや、この表現は正しくない。そいつを倒すことに俺は夢中になっていて、シャーリーヌに指摘されるまで、気づかなかった。


「勇者様、お怪我が……」

というセリフで、やっと気づいたんだ。俺は__痛みを感じていなかった。痛覚がなくなっていたんだ。もしかしたら、神の“とっておき”のチートって痛覚消滅なのか?ドクドクと流れ落ちる血に、俺はゾッとした。


だって__切られてもわからないから、いつの間にか死んでたりするんじゃ?


それからは、異世界を楽しむどころじゃなかった。

俺はいつでもビクビクするようになった。すっかり元の弱気な自分に戻ってしまって、シャリーヌにもきっと愛想をつかされたことだろう。


俺は死にたくなかった。


そんな時、俺が倒したあの人型の魔物の仲間が襲って来た。俺はなりふり構わず逃げた。身体能力は落ちていなかったが、やつらはどこまでも追ってくる。逃げて逃げて逃げた。気がつけば、あの俺がはじめに倒れていた湖のほとりまでやってきていた。追い詰められた!


この湖、こんなに大きかったけな?と違和感を感じる。しかし、やつらの長剣が空を切る。俺は身を低く伏せたが、額を切られたみたいだ。流れる血が、目に入り込んでくる。それでも痛みを感じない。


もう絶体絶命だった。

俺は湖に飛び込んだ。

泳ぐんだ!泳いで対岸まで渡って、逃げ切ってやる!


しかし、俺の身体は沈んでいく。ひやりとした塩辛い水が口に入る。まるで重石おもしをつけられているみたいだった。まさか、あの痛覚消滅は泳げなくなる代償を伴うんじゃ?


俺は必死でもがいた。身体の温度がどんどん奪われていく。

冷たい。冷たい!

息が苦しい!!

必死で手を伸ばす。



死にたくない


__死にたくない


____死にたくない!!!




その時だった。俺の手はパシッと誰かに掴まれた。

それは、暖かくて意識を失っていく俺を引き上げるみたいだった。

__もう、大丈夫だ。


俺は、なぜか安心し、そして視界が真っ白に染まった。




次にふっと目覚めると、俺は真っ白な空間にいた。

ここは__











__病院だ。


よく見れば俺の手には点滴が刺さり、テレビで見るみたいな装置に囲まれていた。身体は鈍く、重い。そして、ぐっしょりと汗をかいている。


「目、覚めたんだ」

声をかけられて、そちらを見ると、見慣れた幼馴染の少女が真っ赤な目をこすっている。

「俺は、死んでないのか?」

「ばかっ。死ぬところだったんだよ?」


そうだ。この少女と一緒に下校中、よそ見をして、突っ込んで来た車にはねられたんだった。

俺の手は彼女に握られていた。そして、彼女の、赤くなった瞳は涙をたたえ、ついに決壊した。

「よかったっ。本当に死ななくて、よかった……」

後から後から流れていく雫に、俺は罰が悪くなる。


「悪かったな。まさか、ずっと泣いてたのか?」

「悪かったわね。心配するの当たり前でしょ!?」

そうか__俺が溺れたあの湖は彼女の涙だったのかもしれないな。

そんな馬鹿げた考えが浮かぶ。


彼女はこらえきれないと行った風に、俺に飛びつき、抱きしめて来た。

その拍子に、額と額が当たってゴチンと音を立てる。

おいおい。こっちはけが人だぜ?と思いつつ、俺は嬉しかった。

なぜなら__痛みがあったから。


ああ。今は痛みこそ愛おしい。

__本当に。

その瞬間、理解した。そうか、これこそが神のくれた”とっておき”だ。


俺は愛しい痛みをくれる少女を抱き返した。

主人公が、夢の中で湖が塩辛いと言ったこと、サラッと流して下さい。実際は夢見が悪くて、汗が口に入ったとかそんな感じでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか皮肉めいていて面白かったです。 痛みを感じなければ自分は最強になったと勘違いしがちですが、実はとても脆くなっているというのが真実だと思います。 その点をちゃんと理解している作り…
[良い点] 涼企画に沢山作品を寄せて下さってありがとうございます! タイトルから、短い中でどう展開していくのだろう? と思ったら、思いもしない展開でした! 湖にそんな意味があったなんて……! と…
[一言] 「夏の涼」企画より参りました。 ドMと思わせてからのイイ話でした! (いえ、別にドMの話を待っていたわけではありませんよ) 痛覚消滅って時々見かけますが、確かにスキル保持者が不死とかでな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ