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???の日常その1

一日3000文字前後を目標にしてます。

それくらいがちょうどいいって誰かが言ってた!

「ふう。」


頭につけていたVRとマイクを外して私は息をついた。

手元のココアを手に取り、口に入れる。


「なによあいつ。」


考えるのは先ほどネクストワールドの中で知り合った【トール】のこと。

トールは、突然私たちたちの前に現れたかと思ったら、苦労して誘導してきたモンスターを横取りしていった、マナーの悪いプレイヤーである。


私がやっているこのネクストワールドは、今爆発的人気がある、VRのオンラインゲームである。

そもそも私はあまりゲームをするほうではないのだが、私を心配した友人が一緒にやろうと誘ってきて、そんな友人に心配をかけさせている罪悪感から仕方なく始めたゲームだった。

しかし友人とともに遊んでいるうちにいつの間にか夢中になり、今では完全に日常になっている。


しかしこのゲーム、最近少し問題になっている。

というのも、このゲームが発売されてから【ゲーム病】というものが流行り始めたのだ。

ゲーム病とは、簡単に言えばゲームと現実の見分けがつかなくなる病である。噂では行方不明者もいるという話だが、ただの噂である。


まあつまりは何が言いたいかというと___


「初めて本物と会ったわ。」


今日出会ったトール、彼女はどうやらこのゲーム病の患者らしいということだ。

思えば初めから様子がおかしかった。


平気でほかプレイヤーの獲物を倒すし。

すでに消えているエアウルフの近くに行くと、なにやら切る動作をして突き出してくるし。


なんで本当にアイテムが出てきたかはわからないけど、とにかくおかしいやつだった。そのすべてがゲーム病の症状だとしたら、なるほど恐ろしい病である。


しかもそのあと、これはゲームなのかと聞いてきた。

彼女いわく、4年前にこの世界に来て今まで一人で生きてきたという。

私のVRは旧式なうえ、どこかのフ○イナルフ○ンタジーみたいに綺麗なグラフィックでもないためわからないが、彼女は真剣な表情をしているように私には思えた。


「本当に自分がゲームの住人だって信じてるんだ...」


バカだなあと思う。でもそうなるだけの理由が彼女にあるのかもしれないと思うと、少しだけ、本当に少しだけかわいそうだなあと思う。

受け入れたくない現実が彼女をそうさせたのだろうか...


彼女がその話をしたあと、その場は微妙な空気になって、結局彼女を避けるように帰ってしまった私たちだけれども、悪いことをしてしまったかもしれない。


十織(とおる )、まだ起きてるの?」


私が自分の思考に夢中になっていると後ろから声がかかった。


「お母さん。」

「ごめんね、ノックしたんだけど。」


どうやら思った以上に夢中になってたみたいだ。


「もう遅いし早く寝なさい。夜更かしは女の子の敵なんだから。」

「うん、わかった。」


私は部屋の明かりを消すと、そのまま深い眠りについた。










それが夢だとわかっていてみる夢を、明晰夢というらしい。

私の目の前にある光景はまさにそれだった。


「とおるちゃん、大丈夫?」


目の前に2人の少女がいる。歳は小学生くらいだろうか。

一人はうずくまって泣いている。もう一人はその子の前で膝を曲げて、彼女を心配するように見つめていた。


(ああ、懐かしいなあ)


その日は運動会で、スポーツには自信のあった私の晴れ舞台だったのに、私は最初のかけっこで転んでビリになってしまったのだった。

私はそれが悔しくて、同じチームのみんなに申し訳なくて、こっそり校舎の陰で泣いていた。


「とおるちゃん泣かないで。大丈夫だよ。」


女の子は私を抱きしめると、いい子いい子をするように私の背中を摩る。


この後私は彼女を突き飛ばして随分酷い言葉を投げかけたことを今でも覚えている。


しかし思い出通りに夢は続かなかった。


「え?」


気がつくと私がその泣いている少女になっていた。

しかしさっきまでとは違い、背中をさすっていた温もりがあるのに彼女自身がどこにもいない。

代わりに目の前にあったのは携帯。

画面には通話中の文字、しかし向こう側から声が聞こえることはなかった。




ピピピピピピピピ!

ばん!




私は目覚ましを止めると気だるげに体をあげた。

窓にかかっているカーテンの陰から、陽の光が差していた。


「...起きよ。」


私は素早く制服に着替えると、机の上にある携帯を2つ(・・)手に取るとリビングに降りる。


「おはよう十織、もうちょっとでできるから。」

「うん」


香ばしいベーコンの香りがする。今日はおそらくエッグベーコンだな。


「お父さん、もう7時だよ。」

「お、もうこんな時間か。」


そう言って父は立ち上がる。


「いってらっしゃいあなた。」

「いってらっしゃい。」

「いってくる。」


これがいつもの我が家の光景、やっと最近慣れてきた私たちの日常だ。


朝食を食べながらニュースに目を向ける。

そこには有名な司会者が、何かの専門家らしきおじさんたちに、後ろのパネルを見せながら何やら問いかけているシーンだった。


「このように、近年増加しているゲーム病について、問題視する専門家も多く、これに対してセカンドワールド側の対応に注目が集まっています。これについて皆さんのご意見をお聞かせいただきたいですね。」

「私は問題ないと思うんですけどねえ、要はこれってゲームに限った話じゃないでしょ?」


司会者の質問に、有名歌手の女が答えた。


「小説でもゲームでも、夢中になりすぎる人っていると思うんですよ。それをいちいち作った側に責任を押し付けるのも変な話だと思うんですよね。作品を見て、それから自分がどうするかを決めるのは自分でしょ?」


彼女はたしか結構なゲームオタクで有名だったはずだ。もしかしたら彼女もセカンドワールドで遊んでいるのかもしれない。


「だとしても、事実ゲーム病という形で実害が出ているのだ! 何かしらの対策をするべきだ。」


そんな彼女に随分と突っかかっているのは、お笑いで最近伸び始めてきた男。どうやら毒舌キャラで自分を売っていきたいらしく、最近過激な発言が多いのが印象的だった。


「そもそも、現実逃避をしたくなるような社会を作ってしまったことに問題があるのではないか?」


それを言っちゃおしまいだよね、そう言った大御所の俳優は周りに随分と責められていた。


「十織、そろそろ時間でしょ。」


お母さんに言われて時計を見ると、もう家を出る時間だった。


「ほんとだ、ありがとうお母さん。」

「忘れ物しないようにね。」


私はカバンを肩にかけると急いで玄関に向かう。


「行ってきます。」

「はい、行ってらっしゃい。」


ドアを開けて友人との待ち合わせ場所に私は駆けて行った。

今回は現実世界のお話でした。


こんな感じの話も入ってきますです。

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