再会
ちょっとプロローグを書き直しました。
宿屋から出るときに、アリアの母親に出会ったので挨拶をした。
「あらあらご丁寧にどうも。」
と、のほほんと笑っていた奥さんは小柄でかわいらしい人だった。
ついでに長期契約の話をしたら、明日それ用の契約書を作ってくれると言ってくれた。とても親切な対応に人の温かさに飢えていた私はいやされたのであった。
外に出るとこの街に来た時よりもずいぶん人が増えているように見えた。
見るとおかしな格好をしている人も多い。そういう人はたいがい頭の上に名前があったので、プレイヤーということで間違いないと思う。中にはパンツ一丁という猛者もいて、ああ、いるいるこういうやつ…と、思った。
マーキングの反応は、昨日私が彼らと出会った遺跡あたりあたりから、この街に向かう道の途中である。おかげでワープができるが、いきなり押しかけていいものかと少し悩んだ。
昨日気まずい感じで別れちゃったし、逆に気を使わせるかもしれない。
悩んだは悩んだが、結局考えても答えは出ないと思い。思い切って彼女たちの真後ろに跳んだ。
「例の子、いなかったね。」
「別に気にしてないし!」
「素直じゃない。」
「私もあってみたかったわね、その子。」
「もう! マユさんまで…。」
私が彼女たちの後ろに跳ぶと何やら会話している声が聞こえた。
声の発信源に目を向けると、昨日であったみぃとさわやかイケメン、そしてグラマーなおねーさんがが会話をしていた。
「あの~…。」
「うひゃ!」
私が後ろから声をかけると、みぃはかわいらしい声を上げた。
「いきなりなによ!」
「すいません…。」
突然声をかけてしまったせいで、どうやら彼女たちを驚かせてしまったらしい。声までは出さなかったが残りの二人も驚いた顔をしていた。
「そんなすまなそうな声を出さないでよ、私が悪いみたいじゃない。」
相変わらずみぃさんはあたりはきつかったが、本来の彼女はお人よしなんだろう。謝った私を気遣ってくれている。
「みぃ、その人が?」
さわやかイケメンさんが私を指さして言った。どうやら彼女は私のことをほかの仲間にも話したらしい。隣のグラマーさんも、何となく把握しているようだ。
ただいったいどんな紹介をされたかだけが気になる、どこかかわいそうな者を見る顔をしてる気がする。ちなみに今の私はエルフの称号を装備している。
「ええ、トールよ。」
そうみぃいが言うと、二人は私をまじまじと見つめる。いったいなんだというのだろうか。
その状況に私は硬直するほかなかった。そもそもこんなにじっと見られるのはずいぶん久しぶりだったのだ、緊張もしてしまう。
しかし、黙っていても状況は動かないと思った私は、とりあえず自己紹介をすることにした。
「あの、私トールと言います。その、よろしく。」
「よろしく。俺はユーだ。」
「私はマユよ、よろしくね。」
それぞれの頭の上には、【YOU】と【★Mayu】と表示されている。
「それで、なんでこんなところに居んのよ。」
みぃが私を訝し気にみながら聞いてくる。
それもそうか、彼女からしたら昨日会ったばかりの人が、約束もしてないのに突然現れたのだ、怪しむのも当然だ。
「えっと、昨日変なこと言っちゃったみたいだったから、謝ろうと思って。」
「よく私たちの居場所がわかったね。」
マユさんが会話に入ってくる。
「それは、マーキングって言うスキルで…」
「はあ? あんた許可もなく私たちにマーキングしたわけ?」
「ごめんなさい!」
反射的に誤ってしまった。でも仕方ない、要は初対面の人に発信機をつけるようなものだ、怒るのもとうぜんだ。
ぷんすかと怒るみぃをユーがなだめる。
やがて落ち着いて、ユーに何かを言われたみぃは、もう一度私に向き直ると
「そんなことよりあんた、このゲームで一人なの?」
「まあ、はい。昨日話した通りでして。」
そういうとみぃの顔に少し影が差した。普通に考えたら頭のおかしい人だよね。でも真実だし、信じてもらえないんならそれはそれで別にいいかと思う私もいる。それで設定の凝っている中二病だと思われてるならそれでもいいかと思うけど、ちょっと傷ついたりしてたりする。
「それならどうせ、友達一人もいないんでしょ?」
「まあ。はい…」
結構抉ってくるなあ…
前の世界ではそこそこ友達いたし! ちょっと今はコミュしょってるだけだし!
「なら私が友達になるわ。」
「え?」
言われると同時に、目の前に【☆みぃ☆さんからフレンド申請が来てます。承諾しますか?】の文字。
「あんたの本当の事情とかはわかんないけどさ、一人で過ごしてても何にも解決しないよ。私なら多少そういうことに理解もあるほうだし、話相手ぐらいにはなってあげる。」
「みぃさん…」
たぶんみぃさんはいろいろ勘違いしているんだと思うけど、それは仕方のないことなんだと思う。本当の事情とかないし、すべてほんとうのことだ。でも私が嘘を言ってるとしても受け入れると、そう言ってくれている。
あと途中から私の目を避けていくみぃさんは、すごくかわいかった。
「私たちは仲間外れ?」
そう言うと二人も私にフレンド申請をしてくれた。
その時の私の気持ちをどう表せばいいかうまく言葉を見つけられなかったが、胸が温かくなった。
断る理由は何一つない。
「ありがとうございます!」
私は、はいボタンを三回連続で押す。
「ちょっとあんた…」
気づくとみぃが戸惑った顔で私を見ている。
「泣くほどじゃないでしょ。」
「え?」
言われて頬に手を触れると、涙の温かい感触がした。
その時にやっと理解できた。
たぶん私は寂しかったのだ。平気なふりをしていたけれど、寂しくて、苦しくて、そして悲しかった。
自分が死んでいって、転生して、長い時間をかけて、もう大切な人と会うことができない事実を受け入れたつもりだった。けれど、それはただ傷を見えないように隠しただけで、そこにあった。きっとその傷を消すことはできない、しかし埋めることはできる。4年もの間埋まらなかった傷を、もしかしたら彼女が埋めてくれるのかもしれない。
あの時とは違う温かさを持つ涙…その感触は妙にリアルで、自分が死んだあの時を思い出してさらに涙があふれた。
「もしもーし、トール?」
『・・・・・・・・・・・・・・もしもし?みちる?』
私を心配してみぃが話しかけてくれている。その声ははじめて聴くはずなのにどこか懐かしくて。
「ねえ、返事くらいしなよ。聞いてんの?」
『ねえ、・・・返事くらいしなよ。聞いてんの?』
あの日の電話を思い出す。最期に私に与えられたはずのチャンス。それを私は無下にしてしまった。
「聞こえるよ…ごめんね。」
電話越しの妹に伝えたかった言葉。でも伝えることができなかった言葉。
「大好きだよ、ありがとう。」
なぜかその言葉が妹に届いた。
そんな気がしていた。
ペースがああああ!