束の間の休息?
2話からの間がかなり空いちゃった……
“ガーゴイル”との戦闘も終わり、アロイの死を見送った後の話。
俺こと“烏丸 武人”は、何とか日が沈む前に森を脱出し、アロイが言っていた“イアリス城”の前まで着いた。“とりまる”と呼んだ奴出てこい。
辺りは日が沈みかけ、もう少し出るのが遅ければ真っ暗になっていた森を彷徨う羽目になりかけたが、何とかそうなる前に脱出でき、少しの安堵感を覚える。
何せ、“ガーゴイル”との戦いで、俺のHPはあと3ぐらいしか残っていない。
雑魚の攻撃でも一撃で死ぬほどの死中に、やっと活を見出すことが出来たんだ。
これも、アロイがある程度案内してくれたおかげでもある。
とりあえず、俺はその城下町まで歩き、中に入っていく。
そして、アロイとの約束を果たす……前に、今はもう遅い。近場の宿で一泊してから向かうとしよう。
それに、俺だってそんな休みなしに歩き続けりゃ疲れる。今も、歩いているだけで結構怠い。
……予想は付いていたけど、やっぱり周りの服装は民族衣装のような服装だった。
そのため、今着用しているのが制服だと目立ってしまう。ボロボロなので尚更だ。おかげさまで視線がグサグサ刺さってくる。あのクソ鳥、あの世に逝っても恨んでやる。
とりあえず、装備を購入することも考えて、この町でやるべきスケジュールを構成しておく。
そこらの防具屋とかに行けば、この場にいても自然と馴染めるような服も用意されてるだろう。この視線の雨から脱出したい。
でも、その前に宿屋だ。疲れた。
それに、今の時間に訪れちゃ迷惑だろう。
だから、今日はとりあえず休もう。
「ねぇ、君」
「?」
今後のスケジュールを頭の中で構想していると、不意に後ろから声を掛けられた。
そこには、赤い羽根付きの帽子が特徴のセミロングの女。身長から見て、こっちの世界じゃ中学生くらいかな。
こんな奴知らないんだけど、一応話だけは聞いておく。
「見ない服装だね~。どこの人?」
「それ、今世紀一番困る質問だからやめて」
「あっ、そっか……ごめんね?」
逆ナンかと期待してたら、まったく別の質問だった。ぐぎぎ。
こちとら素直に“別の世界からここに来た”って言いてぇんだよ。
でも言ったとしてもどうせ変な目で見られる未来が見えてるから言えねぇだけであって……
しかもそれをいちいち一から十まで説明するのもめんどいし。(本音)
「じゃあさ、何かお困りかな? さっきの質問の詫びとしてなら、何でも相談聞いちゃうよ?」
「さっきの質問程困ることはない」
「いや、そういうんじゃなくて……」
「宿屋がどこかわかりませぬ。案内してくだしあ」
「切り替え早っ!? や、宿屋だね……うん、わかった」
俺のペースに、若干引き気味の奇抜女。
俺を相手に自分のペースで持っていこうとするなんざ、一億年と二千年ぐらい早いわ。ゴー、アク○リオン。
「じゃあ、この私についてきて!」
「おう。行く先が宿屋じゃなかったら、わかってんだろうな?」
「ちゃんと案内するから!」
人に優しくする奴なんて信じない!
お前の過去に何があったんだと自分でも言いたくなる。別に信じてもなければ、不信ってわけでもないけど……
でもまぁ、何が起こるか分かんないんだし、どんな相手でも警戒しておいて損はないと思う。
「ところで、貴方の名前は?」
「普通、名前を訪ねるときって自分からじゃないんですかね~?」
「あ~、ごめんごめん。私は“アイリス・ルーフス”。御覧の通り、“アーチャー”をやってます!」
「“烏丸 武人”だ。しがない旅人でございます」
“アイリス”と名乗る、“アーチャー”の女性。
道理で弓を持ってるわけだ。服装も、動きやすそうに赤い軽装備で揃えられてるし。
なるほど、判明しないジョブなんてないってか。だったら俺のって何なんだよ。はよ教えてくれよ。
「カラスマ君か~。じゃあ、早速カラスマ君! 行こ?」
「お願いね~」
宿屋までの案内をしてくれる心優しいアーチャーのアイリスさんに、俺は宿屋の案内を頼んだ。
人助けって大事だよね。かの有名な教師だって『人って字は人と人が支え合って出来てる』って言ってたし。いつの人間だよ。
俺はずっと支えられる側の人間でいたい……え?お前も支えろ?無茶言わないでよ。俺の細腕じゃ支えても簡単にポッキリ折れるよ。(※特大剣持ってる人の意見)
「あ……」
「?」
俺は一つ、重大なことに気づく。
「……お金ない」
「えっ!?」
そう。俺はここに来てからお金がないのだ。
鞄はここに来る前からないし、その中に財布入ってるし、そもそもそのお金はこの世界に使えるのか?
どっちにしろ、財布を持っていようがなかろうが結果的には人生的に詰んだってことだ。
「どうしよ……」
「え、えと……私が払おっか?」
「いや、そんな女の金でパチンコに行くダメ人間にはなりたくないから、それは却下で」
「う~ん、例えがわかりやすいようでわからない……」
「女の金でカジノ行くようなもんだよ」
「なるほど! それはダメ人間だね!」
この世界では、やっぱりカジノになるのか。
付近にあれば、そこでボロ儲けするんだけどな……騙し合いとか、結構得意だし。
……って、今はそのことじゃねぇ……宿代をどうするか考えねぇと……
「……!」
そこで、俺は一つ考え付いた。
俺の道具の中には、三つの物がある。
“ショーテル”・“グレートソード”・剥ぎ取った“ガーゴイルの翼”。
……丁度、売れそうなもの二つもあんじゃねぇか。
(この重いやつとクソ鳥の翼うっぱらうか)
セレクト候補の中に“グレートソード”と“ガーゴイルの翼”が入る。
だってこの剣、正直言って重いし使いづらいし……これ売れば、それなりにコンパクトになって帰ってくるだろう。
あとこの翼は、売ればそれなりに高いはず。何せ、“ガーゴイル”だぜ?クソとはいえ、結構手ごわいモンスターの翼なんだし、一泊分の金は出来るだろう。
でもまぁ、今はとりあえず売るのは翼だけで良いか。宿代ぐらいで良いわけだし。この剣も、需要あるかもしれねぇし……
それに、丁度武器屋も宿屋の隣にあるし、移動まで体力を使わない。これで行こう。
「ちょっと、モノ売ってくるわ」
「なるほど……物を売って、お金を手に入れるってわけだね?」
「ご名答。そうすりゃ、一泊分の金は入るだろ」
俺の意図を知り、アイリスは納得する。
危うく、他人の金でパチンコ行くダメ人間に成り下がるところだったぜ。それだけはご勘弁を……
「いらっしゃい! おっ、兄ちゃん、見ない服着てるね!」
武器屋に入ると、如何にも工事現場とかにいそうな感じのバリバリガテン系の男性がいた。
周りには武器が陳列しており、どれも手抜きなく鍛えられている感じが見て取れる。
俺が取ってきた“グレートソード”、結構刃とかボロボロなんだけど……この店の剣は刃毀れしてねぇ……ついつい目が引かれてしまう。
「ちょっと良いか? モノ売りてぇんだけど」
「おっ、売却ね! 何を売るんだ?」
「ちょっとお待ちを……」
メニューパネルを開き、“道具”と表示されているところをタッチ。
そして、“ガーゴイルの翼”をタッチし、それを実体化させてカウンターの前に置く。
「おぉ! “ガーゴイルの翼”だねぇ! なかなか良いの仕入れてるな~……」
「ガーゴイルの!?」
ガーゴイルの翼を出すと、アイリスは驚きの声を上げる。
レアだとは思ってたけど、そこまで驚くものなのか……あのクソ鳥、ちょっとは役に立ったな。
……って言うかこの店員スッゲェうっせぇんだけど。(半ギレ)
「じゃあ、これ一個で千ゴルズになるぞ」
「あざっす」
なるほど、この世界の通貨は“ゴルズ”になるらしい。
差し出された千ゴルズが入った袋を受け取ると、表示されている所持ゴルズが千に増えた。これなら、宿代の足しになんだろ。
……ゴルズって、円で換算すれば一ゴルズ辺りいくらになるんだろ……
「じゃ、行くか」
「あぁ、うん」
「兄ちゃん! 買い物は良いのか?」
「また今度な」
今、ここで装備揃えたら宿に泊まれねぇだろうが。
金に余裕があるなら揃えたほうが良いだろうが、今はとりあえず休ませて。状況も整理したい。
あととっととこの暑苦しい店員から離れたい。
「お前はどうするんだ?」
「私? ん~……今日はやることないし……私も泊って行こうかな」
「そうか。んじゃ、宿代は俺が払うわ」
「えっ? い、いいよ! 悪いし……」
「いや、宿屋まで案内してくれた礼ってことで一つ。今度は俺に頼れ」
丁度、所持金は多分二人分の宿代はあるはず。
一人、五百ゴルズ以上なら詰むけど、“二人分の宿代>ガーゴイル”なんてならんだろ。それはそれで面白そうではあるけど。
「ん~……じゃ、お言葉に甘えよっかな」
「おう」
お言葉に甘え、アイリスも俺のお金で宿に泊まることに。
見た目的にも多分、俺の方が年上だし、俺、男だし。頼るより頼られた方が良いよね。
じゃないと、俺の立場ないし。
「んじゃ、行くか」
「うん!」
・ ・ ・ ・
「うわっ……!」
宿屋に入ると、俺は幻想的な光景に圧倒される。
店内は鎧の騎士や大柄の男……魔導士のような服装の女までいる。
こんなの、アニメとかゲームの世界だけかと思ってたけど……いざこんな光景見てみると、圧倒されるもんなんだな……
「……? どうしたの?」
「……」
「もしも~し……?」
しばらく、俺はこの光景に圧倒されている。
そんな俺にアイリスは話しかけていても、俺の気はすでに今の光景に奪われてしまっている。気づくよしはない。
「いらっしゃい。二名様だね?」
「あっ、えっと……はい。お願いします!」
「えぇ。運がいいね~、二人とも。丁度、空いてる部屋が二つあるわ」
「本当ですか!? よかった~……」
俺が知らない間に、話は勝手に進む。
宿屋の空き部屋は、丁度人数分はあったみたいだ。
まぁ、こんな時間なんだし、泊るってやつも多いんだろう。
寧ろ、この時間で空き部屋が二つあること自体、奇跡と思った方が良いかな?
その場合、最悪野宿を考えたけど……またあの森に戻らねぇと……
「それとも……彼と同室が良かったのかい?」
宿屋の店員は、からかうような表情でアイリスに問う。
それを聞いたアイリスは、頬を少し赤く染めながら首を横に振る。
ちなみに俺はその話を一切聞いておらず、まだ周りの光景に心を奪われていた。
「えっ!? そ、そんなんじゃありませんよ!」
「そうかいそうかい。そっちの男の子はどう思ってるんだい?」
「………えっ?あ、あぁごめん。話聞いてなかった。何?」
「そ、そうかい……」
「あはは……」
やっと我に戻れた俺は、今までの会話を一切聞いていないので適当な返事は出来ず、逆に問い返した。
そんな俺を見て、店主は呆れたのかそれ以上の追及を辞めて、仕事に戻る。
「じゃ、お二人さんで三百ゴルズだよ」
「ウィッス」
よかった。所持金は十分に足りている。
しかも、払ったとしても七百ゴルズ足りている。これなら、ある程度の装備は買えるはず。
余ったゴルズを余さず使って行こう。どうせ敵狩って素材売っぱらえば返ってくるし。セコセコ金稼いでいこうや。
「はい、毎度あり。じゃ、これが部屋の鍵ね」
「おう」
会計を済ませ、部屋の鍵が渡される。
流石に、この時代背景じゃオートロックある方がおかしいか……俺が生きた世界の技術促進が著しいな。
とりあえず、部屋の戸締りはしっかりしといた方が良いか。
「その前に、アンタは風呂に入ってらっしゃい。汚い男は女の子にモテないよ?」
「諦めついてます」
お節介さんだなぁ、この店員……
まぁ、部屋の鍵は貰ったわけだし、一度部屋を見てから風呂に入るか。
「じゃ、行こ?」
「あぁ」
先行するアイリスについていく。
先行するってことは、アイリスの姉御は必然的に階段上る時、俺の上にいるってことになるんだけど……
……穿いてるの、動きやすさ重視の短パンだった。クッソォ……
「それにしても、その怪我……何かあったの?」
「コレか……それがね、近くの森に“ガーゴイル”に会ってさ」
「あの森で“ガーゴイル”に会ったの!?」
「そう。あの森で」
この反応を見る限りじゃ、やっぱりあの森に“ガーゴイル”が現れるのは普通じゃねぇみたいだな。
それと会えた俺ってラッキーボーイ? まぁ、会ったら会ったでここまでボコボコにされたけど。
もう二度と会いたくないです。普通、最初の相手って言ったらス○イムとかゴ○リンとかだろ。
「それは、大変だったね……」
「大変だった。それに……」
「それに……?」
「………いや、何でもねぇ」
「?」
この話は、出来ればこういう時にするもんじゃねぇよな……
一般市民である俺を守るために散っていった騎士の話は……な……
「ところで、姉御はどこからこの城に?」
「姉御って私のこと……? 私は、“ロロイト村”ってところから来たよ。あんまり目立たない、小さな村だけどね……」
「へぇ……」
アイリスは、“ロロイト村”という村から来たらしい。小さい大きい関わらず聞いてもどこだかわかんねぇや。
でもまぁ、いつか訪れることにはなる……と思うし、訪れることなくスルーするかもしれないし……一人で歩き回ることを前提に考えてるし……
「……着いたな」
「うん。じゃあ、カラスマ君。またね」
「おう」
それぞれの部屋に着き、扉を開く。
中は綺麗に整理された部屋だ。日頃から、しっかり泊まる人のことを考えて綺麗にされているのが分かる。
……でも、これだけ広く多い部屋を一人で掃除するのって、結構大変……って言うか無理じゃね? 誰か雇っているのか……?
「……さてと」
一人になったところで、俺は状況を整理する。
とりあえず、メニューパネルを開き、自分のステータスチェック。
――――――――――――――――――――
名前:烏丸 Lv:17
種族:人間 性別:男
JOB:?????
HP :3/78
MP :5
ATT:80
DEF:55
SPE:69
MAG:0
EQUIPMENT
RLARM:グレートソード(両手持)
HERMA:No Slot
ARMOR:No Slot
ACCES:No Slot
――――――――――――――――――――
ガーゴイルとの戦闘で、レベルは一気に上がっていった。
レベル一から十七まで一気に上がるって……どんだけアイツ強かったんだ……
貧乏くじを引いたというべきか、生きてることが不幸中の幸いというべきか……
(それにしても、まだジョブは判明しないか……)
ずっと、“JOB”の表記がまだ出ていない。ずっと疑問符のままだ。
レベルを上げてから判明するタイプじゃないとすると……ストーリーを進行させて判明するタイプってことも考えらえるか……
でも、まだレベルは十代。前者であることも考えられる。とりあえず、さっき述べた二つを念頭において考えねぇとな……
そして、“MAG”……つまり、魔力は一切成長していない。ずっと零のままだ。
これじゃあ、確実にレベルと質量上げて物理で殴る脳筋戦士になるか……そのスタイルか……俺ってそこまで頭悪く見られてるのか……
「あとは……」
ポケットの中に入れている懐中時計を取り出す。
これを、アロイの家族の元に返さなければならない。アロイとそう約束したから……
あのときの借りを返す……借りっぱなしは癪だからな。
「……さってと、そろそろ風呂入るか」
現状の把握も大体終わったところで、俺は汚れた体を洗い流すために風呂場へ向かう。
メニューバーを閉じ、部屋の扉のドアノブに手を掛けて戸を開いて浴室へ……
「あっ……」
「?」
向かう途中に、アイリスの姉御と鉢合わせる。
装備と荷物を置いてきたのか、軽そうな服装のアイリスは、こちらに気づくといつも通りの人当たりの良い笑みを見せる。
「ヤッホー、カラスマ君。今からお風呂?」
「あぁ。汚れたまんまじゃ気持ちワリィしな」
「そうだね~……」
今、俺の身体には土がついてたり血が付いてたりしている。
それが体についてる感覚が今、どうしても気持ち悪いので風呂に入りたい。
さっきの店主だって、風呂入れって言ってたし。
「……私が背中流してあげよっか?」
「マジで? じゃあ頼むわ」
「ごめんなさい、冗談です……」
「そりゃ残念」
悪戯っぽい笑みでからかおうとするアイリスだが、仮にその冗談が本気ならこっちとしてはウェルカムだから別に通じない。
そりゃ、男より女に背中を流されるほうが良いだろうよ。まだ相手は年端も行かなそうな女だけど。
……なぁ? 世の中の紳士諸君。
「それじゃあ、私はこの近辺を散歩してくるからまたね!」
「おう。またな」
といって、アイリスは逆方向へと向かって行った。
俺も、風呂とか入ったらこの辺散歩していくか……装備だって揃えてぇし……
残り七百ゴルズで何が買えるかだけど……まぁ、軽装備ぐらいなら買えるだろ。
「……」
まぁ、まずは………
・ ・ ・ ・
「ふぅ……」
風呂から上がり、私服に着替えたところで自室のベッドにて、髪が乾くまで待機している。
入浴シーンなんてあると思った? 男の入浴とか誰が得するんだよ。見せねぇよ。
そう言うのは、俺以外に期待してください。あのアイリスの姉御もいるでしょ? 犠牲になってくれるよ。多分。
「ドライヤーとかねぇんだな……」
髪を乾かすための機械すらない世界……ここまで不便な物なんだな……
とはいえ、ないものねだりをしても仕方ない。乾くまで待機しとこ。夜中になって、外は肌寒いし。
しかし、機械一つないだけでここまで不便さを感じるとは……時代の促進って怖いね。
「……そういや」
俺は、ここに来る前のことを思い出す。
通り魔が現れたこと。取り残された子供を助けに行ったこと。その通り魔に撲殺されたこと。
そして、死際に見てしまった、生徒会長の顔。
別に生に対する執着はなかったけど、あの顔見るくらいなら、死ななきゃよかったな。俺、あんなだけど会長サマのこと大好きだし。
「……」
会長サマが今、どんな気持ちなのか……それだけが少し心残りだが、もう過ぎた話だ。いつまでも引きずる気はない。
俺は今、別の世界で生きているんだ。そこで与えられた生で、出来る限り生き残ることだけを考えよう。
「……」
ヤベッ……さっきの戦闘の疲れからか、睡魔がドッと押し寄せて来た。
瞼が重く、開いていられない……ベッドの心地よさが、より睡魔を強くさせる。
装備とか取り揃えたかったけど……まぁ、焦ることでもないし、明日に揃えりゃいいか……
「Zzz~……」
結局、俺は睡魔に負けて、目を閉じた。
・ ・ ・ ・
「カラスマ君。まだ起きて……アレ?」
ある程度、街を散歩してから宿に戻り、風呂に入ったアイリスは、烏丸の部屋に入る。
しかし、当の本人の烏丸はベッドの上で睡眠を取っており、すでに就寝していた。
「寝ちゃってたか……健康的だなぁ……」
まだ眠さを感じさせないアイリスは、早く寝る烏丸の姿勢に感心していた。
ただ単に烏丸は疲れによる早めの就寝なのだが、勘違いしているアイリスには知る由はなかった。
(どうしよっかな……)
寝るにはまだ早いと感じているアイリスは、この時間を潰す方法を考える。
烏丸は寝ているため、話し相手はしてくれないだろう。無理に起こすのも、アイリスの人柄上出来ないこと。
ということはつまり、必然的に一人でどうにかするしかないのだが、生憎、一人で暇を潰せるほどの物はない。
「……」
ふと、アイリスは寝ている烏丸の隣に立つ。
(あっ……意外と寝顔可愛い……)
普段の無表情さが穏やかな寝顔に変わっており、アイリスはしばらくその寝顔を眺めていた。
アイリスは息が掛からないまで近づき、普段なら見れないかもしれないであろう寝顔に迫っていく。
だが……
「んっ……」
「!?」
アイリスの気配に気づいてか、烏丸からわずかに寝言が聞こえる。
その寝言が耳に入り、アイリスはバッと後ろに下がった。
「Zzz~……」
(ね、寝返りか~……)
しかし、烏丸はただ寝返りを打っただけだった。
アイリスは起こさなかったことに安堵し、再びいつもの位置(烏丸の隣)に戻る。
「わっ…!?わっぷ……!」
しかし、先ほどのことへの焦りによって足が縺れ、そのまま前のめりに倒れてしまう。
幸い、烏丸は奥の方向に寝返りを打ったことでぶつかることはなかったが、ベッドに大きな衝撃を与えてしまった。
このままでは烏丸が起きる。そう思ったアイリスは慌てて顔を上げるが……
「Zzz~……」
(まだ寝てる!?)
烏丸は、大きな衝撃を与えたにも関わらず、起きる気配なく眠り続けていた。
危機感がないのか、それとも“宿だから”という理由で安心しきっているのか、はたまた疲れが酷かったのか……
「んっ……」
だが、意図しなかったとはいえ烏丸のベッドに入ったアイリスは、そこに残っていた温もりを感じる。
その温もりは程よく、守られているような安心感を感じさせた。烏丸がより近い位置にいるため、その安心感をより感じさせる。
アイリスは、温もりをより感じるためにベッドに入り込み、掛け布団を被った。
(……あっ……コレいいかも……)
アイリス自身、かなり恥ずかしいはずなのだが、その温かさから逃げることが出来なかった。
次第に眠気も感じ始め、しばらくそこにいることでアイリスは……
アイリス「……すー……すー……」
女の子らしい小さな寝息を立て、烏丸の隣で眠りに落ちた。
・ ・ ・ ・
翌朝。
「んっ……ふわぁ~……」
鳥のさえずりが聞こえる。ってことは今、割と早朝の時間か。珍しく俺、起床。
休日なら普段、午後の一時まで爆睡しているのに、今日は何か早く起きれた。まだ日差しが見えず、昼頃よりも少し暗い。
とりあえず、形態を取り出し時間を確認しようとポケットを探ろうとする。
すると不意に……
ムニュ
「んあっ……」
「ムニュ……?」
何か柔らかい感触が右手に伝わる。同時に、なんか艶やかな声も聞こえた気がする。
まだ眠気が覚めない目を左手で擦りながら、その感覚がした方向を見る……前に……
「朝だよ!おき……」
宿屋の婆ちゃんが起こしに来てくれた。
これなら、もうちょい寝てても良かったかもしれねぇな。
「アンタ! お嬢ちゃん部屋に連れ込んでナニする気だい!?」
「は?」
「んんっ……カラスマ君……?」
「あぁ、おはよってなんでおんの!?」
今、無意識におはようって言いかけたけどなんで姉御が隣で寝てんの!?
確か別室で借りたよな? 俺間違ってないよな? モ○タリング張りのドッキリじゃねぇよな? そもそもテレビねぇわ。
朝一でここまでビックリしたの初めてだわ。おかげでさっきまでの眠気が一気に吹き飛んだ。
「えっ……? ………!?」
アイリスは眠そうに目を擦っていたが、眠気が覚めた瞬間に“ボンッ!” って言う効果音がなるほど顔が真っ赤になる。
多分、今なら通常の○倍ぐらいの勢いで逃げ出したい気持ちでいっぱいだろうな。俺も今、この状況から逃げ出したいわ。
……って言うか、俺なんも悪くねぇよな?何この罪を擦りつけられたような感覚。俺は無実だァ!
「あ、ああああああの……これは……その……」
「わかった、落ち着け。トラ○ザムするにはまだ早い」
「と、とら……?」
今、この現状に焦っているのは俺だって同じだ。
でも焦ったところでこの状況は変わらない。見ろ。宿屋の婆ちゃんが怪訝な顔で俺を見てくる。俺なんもしてねぇのに俺が悪いみたいな顔してるから。
「……アンタ、まだ年端もいかない子に手を出すわけかい?」
「いや、なんで俺が襲うみたいになってんの? 俺がんなことするわけ……」
「それがさっきまでその子の胸を触ってた男の言うことかい?」
「触って……たな。うん、触ってた」
「随分と素直だね、アンタ……」
よく見てたなぁ……やっぱり、あの柔らかい感触はアイリスの胸だったか……
確認するよりも前に宿屋の婆ちゃん来たから、まだ実感が湧いてないけど……結構、揉み心地は良かったです。
「さ、触ってたの……?」
「意図的じゃねぇけど……まぁ、触られたくねぇとこ触ったからな。そりゃ悪い」
「い、いや、いいよ! 私の方こそ、ごめんなさい……」
とりあえず、お互いに自分の非を認めて謝罪する。
それにしても、朝からスッゲェ焦ったわ……いつの間にか姉御が隣で寝てるわ、宿屋の婆ちゃんに見られるわ……
あ~、変な汗出た。
「イチャつくのはあとにしな。さ、朝ご飯食べる!」
「あっ、はーい」
ベッドから起き上がり、宿屋の婆ちゃんが作ってくれた飯を食べに一階へ行く。
……よくよく考えたら、昨日何も食ってなかったからかスッゲェ腹減ったな……道理で早く起きられたわけだ。
「……ちょっと……気持ちよかった……かな……?」
部屋に一人残ったアイリスは、小さく呟いた。
先に出た俺には、聞こえるよしはなかった。
・ ・ ・ ・
「ふぃ~、食った食った~……」
「ごちそうさまでした~」
空腹感は綺麗に満たされ、これからの活力になる。
流石に朝からガッツリ食べ過ぎたような感じもするけど、まぁ、俺も食べ盛りの男の子だし? 腹の減りは著しいのです。
ということで、朝から肉という大変ボリューミーな朝食を喰らいつくして、今に至るわけです。ここの飯も、結構うまかった。
と言っても、世界が変わっても食べ物自体は現代とそう変わらず、モンスターの名称言われても正直わからないので別に嫌悪感があるわけでもない。というか、食えればそれでいいや。
「朝から凄い食いっぷりだねぇ。どうだい?私の作った料理は」
「美味かったっす」
「それは良かったわ」
やっぱり、宿屋に勤務して長いからかな。料理の腕はなかなかよかった。
この宿を離れれば、自給自足で食って行かねぇといけねぇんだよな……いや、まぁ宿に泊まれさえいりゃ作ってくれるだろうけども。
ちなみに俺の料理スキルも凄まじいものだ。焼き物作ればダー○マターは出来るよ。焦げ臭い暗黒物質がフライパンの上からこんにちわですよ。だから料理のスキルは期待しないでください。
「さて、そろそろ出発しますか……」
「あっ、もう行くの?」
「おう。別の用件があるからな」
ここに来た目的はまだしっかり覚えている。朝の騒動のせいで忘れそうになってたけど。
だから、その目的を早く完遂させて、ここを出る。そして、いろんなところ歩き回って、別に知りたいわけでもないけどここに来た具体的な経緯とか探せればなと。
あと、この疑問符で埋め尽くされたジョブを判明させたいし……素材集めついでに判明させる手段とか知れればなと……
……やること、というよりやりたいことって結構あるな……
「そっか……それじゃあ、そろそろお別れかな?」
「そうなるな。ま、次会ったときも元気でいてくれや」
「……うん。また……」
アイリスともそろそろ別れ、俺は俺の目的を果たすために宿を後にする。
……だが……
「“帝国軍”の連中が来たぞッ!!」
「「!?」」
町の住民の呼びかける声で、イアリス城は騒然に包まれた。