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12.普段吹かない俺がホルンの音の出し方を指南するそうですよ?(2)

「いや、ちょーっと今の発言は看過できんのだけど。そりゃ俺の教え方も悪かったんだろうけど、最初から上手くできたら俺だって立つ瀬ないし」


「そうじゃない……。ミユキ、私が吹けないとこ見て……すごく、ニコニコしてた……んぅ」


「えっ?! あ、違っ!それは別に馬鹿にしてた訳じゃなくって……ただその、俺にもこんな時代があったなーって懐かしかったから、うん」


「……そう? なら、いい……」


いかんいかん。確かに、上手くいかなくてムキになる御雪の様は見ていてやたら微笑ましかったが、まさか顔に出ていたとは。


「ええと……じゃあ、さっきの吹き方を少しずつ改善してこうか。まず息圧が弱くなっちゃうから、吹く時に頬はなるべく膨らませない方がいいな」


「う……でも、息溜めないと、すぐに途切れる……」


「息は口の中じゃなくて腹に溜めるもんだぞ。腹式呼吸……は、まだいいか。とりあえず今は、息の量を多くするより一点に向けることを意識してみな」


「ん」


マウスピースを添え直し、教え通りにリトライする御雪。相変わらず音は出ないが、闇雲に吹いていた先程よりもブレスが強くなったのが分かる。


「……さっきと……ちょっと違う。手応え、あり?」


「だな。そしたら次は唇の形だ。口閉じたまま、ニーッて笑うみたいに唇の端を横に引いてみて。あ、でも変に強張らせないでな? 難しいとは思うけど、唇も含めて体はリラックスした状態で」


「笑うみたいに、でもリラックス……ん、こぅ?」


「そぅ。で、そのまま断続的に息を吹けば、唇がスイカの種飛ばすみたいにプップッって……あぁ、そんな感じ。それにマウスピース添えてやればいいから」


「判った、やってみる……」


期待と不安が入り混じった表情で再度挑戦。すると所々掠れたブレスの後に、ようやくマウスピースから「ぴぅー」と弱々しい振動音が鳴った。


「おっ、おめでとう。これで関門はクリアできたな」


「……あまり、上手くない」


「音が出るなら上々だって。 まぁこれで感じは掴めただろうから、次は本体も付けて吹いてみようか」


「……できる、かな……? 吹き口だけでも、精一杯なのに……」


「平気平気。本体付きなら息がすぐ抜けてかないから、多分今よりも楽に吹けるぞ。第一、所詮遊びなんだからあまり気張らないで楽にいこう。な?」


開けたまま放置していた楽器ケースの側に戻り、愛用のホルンを取り出して遠くから御雪にお披露目。金色のボディに乱反射する感嘆の眼差しを受けながら、各部の調整を行う。


レバーの動き、よし。バルブもスムーズに動く。菅の中に水は……少し溜まってるな、水道に捨てとこ。


それから……む、持ち手がややベタ付いている。汚いと思われたら事だ、拭き直さねば。


やや、ベルの縁の指紋が取れてない。拭き直さねば。


なんと、メッキが剥げた箇所に青サビが発生している。ここにも、そこにも、あんなとこまで————


————いいや、もう。キリが無い。


「ヘイ楽器パス」


「ざ、雑……」


まぁパスとは言ったが流石に放り投げてはいない。御雪のマウスピースをセットし、ちゃんと持ち方を実演してから持たせてやった。


「うん、中々様になってるな。で、どうだ? 実際に持ってみた感想は」


「ん……ちょっと怖い……かも。落としそうで……」


「そうか? ちゃんとすっぽり収まってると思うけど」


「でも、重いから……。ミユキ、お願い……吹いてる間だけ……近くでホルン、支えててほしい」


「あ、あぁ。いいけど……」


椅子の側に膝をついて、ちょうどいいポジションを模索する。


だが、楽器自体の形状が丸っこい上に体と垂直にならないので、側面から安定して支えるとなるとどうしても無理な体勢になってしまう。


「ぐ……っ。べ、別に、俺が支えなくても大丈夫だって」


「だめ……もしもの時、責任取れない……。……横からは、無理そう? じゃあ、前からなら……」


「いや……それだと逆に御雪の方が危ない。もし俺が前から力入れすぎたら、マウスピースの圧力で唇痛めるか、もっと悪いと前歯持ってかれる」


「そう……なら、ううん……でも……」


と、煮え切らない様子で視線を泳がせる御雪だったが、ふと何か思いついたように「あっ……」と呟くと、改めて俺にこんな提案をしてきた。


「ミユキ……後ろからなら、支えられる……?」

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