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11.普段吹かない俺がホルンの音の出し方を指南するそうですよ?(1)

昨年度までは、日曜朝の女児アニメが終わった後のクラシック番組を気分次第で数分視聴するくらいしか交響楽団に縁がなかったにも関わらず、中学に上がってすぐに吹奏楽部への入部を決めた俺。


そのきっかけとなったのが、部活動紹介で鮮烈に記憶に焼き付いた豪奢で煌びやかな楽器達だった。


大小様々な威容から発せられる旋律と、それらを巧みに紡ぎ合わせる先輩方の勇姿。その二つの根幹を成すものにもっと近付きたいと思ったから、俺はこのハジけた日常に足を踏み入れたのである。


一方、転勤生活に振り回されてきたらしい御雪は、部活というものに全く馴染みがないという。ならば、他所で遠くから演奏を聴くことはあっても、間近で楽器を見たり触ったりした経験は少ないはずだ。


その機会を提供すれば、きっと御雪にとって貴重な思い出となる。ここのところ外してばかりな俺の推測は、嬉しいことに今回はちゃんと的中してくれたようだった。


「わぁ……!」


音楽室に入るやいなや、ケース入りの楽器や練習で使う楽譜などが詰め込まれた棚に駆け寄る御雪。


楽器準備室という贅沢なものも無いうちの学校では、ここに来さえすれば誰でも吹部の活動内容を断片的に伺い知ることができる。


「ふっふっふ。どーですか、所狭しと陳列されたこの昂然たる楽器達! リコーダーなんぞガキのオモチャとは比べ物にならない、一つ一つが放つ圧倒的な迫力と重量感!」


「楽器、少ない」


でしょうね。十一人しかいないド田舎の小編成楽団な上に功績もゼロときてますから。


「……でも、こんなに近くで見たのは、初めて」


「それは結構。せっかくだし、何か触りたい楽器とかあるか? 木管……えっと 、フルートとかクラリネットみたいに細いのじゃなければ、よく遊びで吹かせてもらってるから一通りレクチャーできるぞ」


「……ミユキは、どれを吹くの?」


「ホルンっていうアンモナイトみたいな形の楽器だ。ほら、ちょうど御雪の正面にあるやつ」


「これ……? ……なら、私もホルン、ちょっと吹いてみたい。……いい?」


「了解。すぐ準備するから、その辺から椅子出して座っててくれ」


「ん」


御雪と入れ替わるように棚の前に立ち、いつも使っているホルンのケースを取り出す。


他にも余っているホルンは三つあるが、この学校で誰も使っていない楽器となると数年単位で放置された状態の物が多く、メンテナンスが面倒なのだ。


(まずは小手調べ、かな……)


ケースを床に置いて開き、二つ入っているマウスピース(本体から分離する吹き口)のうちあまり使わない方を手に取る。


そして、息の出口に大きな凹みが無いことを確認してから音楽室の隅に備え付けてある蛇口で内側を洗い、用意させた椅子にちょこんと座る御雪に渡した。


「じゃあ、楽器の前の準備運動ってことで、そのマウスピースを吹いてみましょう」


「……?」


「軽く口に当てて、輪っかの中の唇をブブブって震わせるなが息を吹き込む。上手くいけば音が出るぞ」


「う……? よく、判らない……」


「イメージとしては、ハチの羽音を再現するみたいた感じかな。だから《バズィング(buzzing)》っても言うんだけど……ちょっと待ってな、手本見せるから」


説明だけではピンと来ないようだったので、新たに自分用のマウスピースを取り出して実演してみた。


音に強弱を付けたり、音程を上下させてみたり。手本としてはお粗末なクオリティだったかもしれないが、静かに目を輝かせる御雪を前にしては、得々たる胸の高揚を抑えることはできなかった。


「っと、成功すればこんな感じの音が出る。ニュアンスは大体掴めたか?」


「ん、なんとなく。じゃあ、私も……」


手にしたマウスピースを真剣な眼差しで見据え、恐る恐る口に当てる御雪。合図を求めるように上目遣いで俺を見やり、首を傾げる。


それに応えて頷いてやると、御雪は小さく息を吸い————と思ったら本人にとっては全力だったようで、きゅっと目を瞑ってほっぺを膨らましながらマウスピースに息を吹き込み始めた。


だが。


「ん……っ……? ふぅ……っ!」


その意気込みに反して、俺が手本で出したような音は一向に鳴る兆しを見せない。


声をかけるのも躊躇われるその狼狽っぷりを見るに二~三回もやれば成功するとでも思っていたのだろうが、口の位置をずらしてもより強く吹き込んでも、「ひゅこー、ひゅこー」と息がストレートに筒を通過するだけ。


その様子をしばらく黙って見守っていると、やがて御雪はピタリと動きを止め、マウスピースをそっと口から離して不服そうな目で俺を見やり、


「……ミユキ、いじわる……」


俺のせいかよ。

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