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毛玉戦隊セリアンズ! 草葉の陰からドンジャラホイ  作者: Ryo
すべては愛の名のもとに
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三種の大砲

「ここはどこかなー?」

「ウム、砲術部隊《 アーティレリチーム》だ」


 ガジュは獣天界のお城の、ちょうど裏にあたる場所にカーラを連れてきました。

 どこまでも続く雲の庭です。といっても、先ほど獣天界に到着した二人がお城まで歩いたときの風景と、そう変わるものではありません。ただ、庭一面に黒や銀の大きな金属のかたまりが並んでいるのが、異様といえば異様です。もっと変なのは、大勢の獣天使が金属の間を忙しく駆け抜けてはそのうちの一つに飛び込み、ドカンという音を響かせていることでした。

 中央には一つだけ、真っ白な大砲が上を向いて設置されていました。左右の砲耳部分に、翼を模した飾りまでついていて、ちょっとステキです。


「向かって右側の黒い大砲群が、降臨砲。左の銀色のが、転生砲だ」

「え、あれって大砲なのー?」

「ソウダ。砲口は雲を突き抜けて下を向いているから見えない。コッチ側から見えているのは大砲のケツだ。獣天使を砲弾にして、地上に撃ち出すんだ」


 結構恐ろしいことを相変わらずの笑顔で言うので、見てください、カーラは完全に怖じ気づいてしまっています。ゴールデンレトリバーの姿であれば、飾り毛の見事なしっぽが、後ろ足の間にはさまっているに違いありません。


「あたし、入るのいやだなー……」


 そう言う後輩を、一人で先へ歩いていってしまった先輩が振り返ります。


「何を言っているノダ、入らないとフィリアが稼げないし、ソウルマスターの所へ行けないゾ」

「ううー、でも、こわいよー」


 ずらりと大砲の並ぶ間を、ガジュは何かを探すようにして駆けました。大砲には、一つ一つ番号の書かれたプレートがかかっています。だいたい五十メートル間隔で看板が立っていて、付近の大砲の大まかな番号を知らせているようでした。


「ねー。あの白い大砲は何か特別なのー?」

「あれは、天空砲だ。ソウルマスターが善人だった場合、死後に天界に行く。ココじゃないゾ。マジもののミツカイがいる、天国だ。死ぬ間際に生前飼っていたおれたちのコトを覚えていれば、テンチョーに連絡が入って、天空砲を使うかどうか決められる」

「テンチョー?」

「獣天使長。ココで一番エラい人だ。唯一天界とやり取りができる」

「ふーん。あ、ごめんね、天空砲の話の続き、教えてー」


 もちろん、話の腰を折られたくらいでヘソを曲げるガジュではありません。脱線した話をすぐに戻し、続けます。


「ウム。獣天使本人が天空砲の使用を希望した場合、あの大砲で天界に行けるんだ。そこで、ソウルマスターが昇天してくるのを待てるらしい」

「それから……どうなるの?」

「正確なコトはわからない。天界から戻ってくるヤツはいないからナ。でもきっと、天界でソウルマスターと幸せに暮らせるんだろうと言われているゾ」


 ガジュの説明を聞きながら、何となく幸せな気分になったカーラは、今まさに天空砲に入っていこうとする馬の姿の獣天使がいるのに気がつきました。馬なのに――そう、人間を乗せて走るあの大きな馬なのに、自分たちと同じ大きななのが不思議ですね。


「でも、一個でたりるのかなー? 降臨用と転生用のは、みんながしょっちゅう使うから、こんなにたくさんあるんだよね?」

「そうだ。でも、天空砲は一門で充分ナノダ。あまり使う機会がないからナ」

「なんでー? みんな、ソウルマスターと天国で暮らしたくないの?」

「いや、テンチョーからのお呼びがかかれば、誰でもウンと言うだろう。天国に行けて、なおかつおれたちのコトを覚えている人間となると、そうそういるものじゃないらしい。不思議だネ。獣天使は、ほとんど例外なく獣天界に行けるのにナ」


 ガジュは一つの大砲の前で足を止めました。プレートには、「第一一〇七番降臨砲」とあります。すぐに奥から獣天使が走ってきました。大きな丸眼鏡をかけ、ふっくらした頬のかわいい女の子です。


「こんにちはー! 千百番代担当の砲術士、カモ族シロアヒルのアンジェラでーす。見てのとおり、大砲は超いっぱいあるので、次にお会いするときは忘れ去られているかもですが、よろしくでーす!」

「おー! ヨロシクねー!」

「よ、よろしくお願いしますー」


 アンジェラは、おっとりした外見とは違い、とっても元気な女の子でしたね。ガジュはつられていっそう元気になり、カーラは圧倒されています。


「あっ、見学の人ですねーっ!」アンジェラはカーラを見て小さく微笑みました。「えーと、口で説明するほどのものでもないので、教導官を参考にすれば大丈夫ですよ。とっても簡単なんです!」


 そんなことを言っているそばから、ガジュは大砲のお尻に頭を突っ込み、そのまま奥へ進んで見えなくなりました。狭くて暗い所が大好きなイタチ族ですから、ノリノリで入っていくのも当然です。でも、だからといって、通称「G」の黒い奴と一緒にされると、ちょっと傷つきます。


「あらー? 初心者さんがいるのに、頭からいくんですかーっ。あんまりお勧めできませんねーっ」


 すると、肉厚の黒い金属の中から、くぐもった声が聞こえてきました。


「このほうがスピードがでるからナ。でも、着地をミスすると、アタマが地面にめり込むから気をつけろヨ。はじめのうちは、足から入ったほうがイイかもナ。木と木の隙間が見えるくらいになったら翼をバーッと開いてガーッと止まるんだゾ」

「えっ、えっ? 木って?」


 初心者相手にしては、なんとも大ざっぱな説明ですね。でも、任務は待ってはくれません。そしてそれ以上に、アンジェラは問答無用でした。一人で百門の大砲を管理しているのですから、しかたがありませんよね。


「はい、じゃー……いってらっしゃーい!」


 大砲から延びた紐に、アンジェラが腰から下がっていた小さなランプで火をつけます。火は紐を焼きながらじりじりと大砲に迫っていき──飛び上がるほどの爆発音を轟かせました。音と共に大砲は上にスライドして砲身の一部を雲の上へさらし、また元通りになりました。アヒル族の砲術士が閉鎖機を開けると、あら不思議、入っていったはずのガジュがいません。


「さあ、ええと……カーラ、どうぞーっ!」


 これほど反射的に「結構です」と断りたくなる「どうぞ」を、カーラは今まで聞いたことがありません。でも、そんなことをいおうものなら、真っ暗な大砲の中へ、頭からぶち込まれそうな気配を感じ取りました。ためらっている暇はありません。


「は、はーい……」


 飼い主には従順だけれどヤンチャな面もあるのがゴールデンレトリバー。でも、この場合は初対面のアヒルに対しても従順でした。大砲の前で一瞬考え、足から先に入っていきます。地上へ頭から真っ逆様なんて、とんでもない!

 そしてふたが閉められ、真っ暗になりました。頭の上に一本飛び出た髪が挟まれていないか心配になったのですが、それを確かめるより早く、カーラは光の中へ放り出されます。音は、身構えていたほど大きくはありませんでした。


「わああぁぁ……」

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