04
その夜、チャットにログインすると、いつものメンバーが揃っていた。
セルリア : A1とオフしたんでしょー。どんなだった?
チャットのログでも見たのだろうか、
メンバーにはA1と会うことはそれとなく広まっていた。
ミチ : おうよ
ミチ : いまどきの高校生だったわーしかし細かった
ミチ : セブンティーンとかアイスかよwwとか思ってないよ
かわいかったとか童貞っぽかったとか言ったらさすがに可哀想と思い、
テキトーに回答したら、今まで様子を見ていたエーイチが、爆弾発言をした。
A1 : ミチさん…女だった
言うなよ、とは言わなかったけど、言われてしまった。
空気読めよ……。
無理か。
チャットが動かない。微妙な間。
エーイチにバラした時のように、みんな固まっているのだろう。
ミチ : うはwwwバラされたwwww
ミチホは嘘をついたり逃げたりするのもアレだと思い、とりあえず肯定してみた。
バレると面倒なことになるかな。まあいいや。
ミチホの楽観主義とテキトーさはいつでも遺憾なく発揮されるのだ。
時が動き出したかのようにみんながチャットをはじめる。
セルリア : え、ホントに?
よっしー : そんなバカなw信じられんw
銀河 : こんな女いないってww
森の爺 : 見てみたいw
玉子炒飯 : ちょっとみんなで集まろうぜー
アルフェウス : ミチを見物する会やろう
なんだかんだ、集まることになってしまった。
遠方の人もいるため、全員とはいかなかったが、ミチホとエーイチを入れた5人で集まることになった。
未成年がいる上に、集まる面子の中で女がミチホだけということもあり、
昼にドリンクバーのあるファミレスでオフすることにした。
オフには、ミチホとエーイチ以外には、アルフェウス、玉子炒飯、森の爺が来た。
アルフェウスは二十代前半、ちょっと太め。
髪はボサボサでちょっとダサめの服を着ている。
玉子炒飯は二十五歳ぐらいか?茶髪のさわやかイケメンである。
香水とタバコの香りがしており、ミチホは「これは女食いまくってるな」と直感で感じた。
森の爺は学校の教師のような、熱血っぽい普通の人。三十近くと思われる。
二枚目ではなく三枚目というのが相応しい様子だ。
顔写真を見たり、オフしてわかるのは、なぜか変な名前をつけてる人ほどイケメンのことが多い。
かっこいい名前をつけている人ほど、なぜか中身は残念なことが多い。
かっこいい名前をつけてかっこいいキャラのロールプレイをしていたりすると、現実とのギャップが余計に差が開くだけなのかもしれない。
「ウソじゃなかったのか。」
「本当に女だ。」
「普通に女じゃん。」
みんなに笑いながら言われた。エンターテイナーのミチホとしては、楽しんでいただけてなによりである。
エーイチは大人しかった。みんな年上だから話しにくかろうとミチホは思った。
連絡先をみんなで交換しあって、テキトーにゲームの話をして帰宅。
その夜のチャットのこと。
アルフェウス : ミチさん本当に女だったww
玉子炒飯 : 意外すぎるww
森の爺 : すっげーかわいかった!
森の爺 : あれならイケるわー
ネタにされた。
そのうち収束するだろうけど、かわいいとか言われると、他の人からの期待値が上がってしまうと困る。
中の下の顔でガッカリされたらさすがに心が痛むのだ。
ミチ : 社交辞令あざーっすwww
森の爺 : いやマジでかわいいって!!w
ミチ : 気を使わんでよしww
そして女好きイケメン玉子炒飯からPMが。
玉子炒飯 : ミチ、今度はこっちに遊びにおいでよ
ミチホが男と思われていた時、玉子炒飯はさほどミチに話しかけることはなかった。
女とわかった途端、今までとはあきらかに違う態度になったのだ。
ミチホは思わず舌打ちした。チッ、めんどくせぇ。
ミチ : また今度なー
日本人的な遠回しのお断りである。
玉子炒飯 : いつにする?
ミチホは困惑した。今まで仲良くしてた分、はっきり断るのは言いづらいものだ。
遠回しのお断りで引いて欲しかった。
ミチ : タマチャーんち遠いし、お金ないから無理
玉子炒飯は県外在住のため、行くのはお金もかかるし時間もかかるし面倒くさい。
断る口実にはもってこいだと思った。
玉子炒飯 : 交通費出すからおいでよ
そこまでするか。
ミチホはガックリとうなだれた。
さすが女好きイケメンなだけあって押しが強い。
他にもっといっぱい良い女がいるだろうに、なぜ私なのか。
ミチホは驚愕した。どんだけヤリたいんだ。穴あいてりゃなんでもOKか。
イケメンが嫌いなわけではないが、いかにもヤリまくってますという男はいくらなんでも勘弁だった。
しかも会いに来いというのが駄目だ。
ミチホの経験上、女に自分から会いにこない男というのは、女を完全に見下している。
関わりあうだけ損になること間違いなし。
ミチホはPMをはずして、普通会話で返答した。
ミチ : タマチャー、援交する気か…w
玉子炒飯 : ちょww何言ってんのww
もうこの会話はオシマイだ。全面的にお断りする。
一発ヤリたいだけなら、ヤリたいほうが動けばいいのに、そういう努力もせずにヤレちゃうイケメンには困ったもんだ。
だいたい、イケメンは嫌いじゃないが、タバコ臭い男はイヤだ。ちなみに香水も好きではない。
柔軟剤やら制汗剤ならギリギリ許してやってもいいが、強い香りは気持ち悪くなる。
玉子炒飯に対して、ミチホは残念な気持ちになった。
断りたい理由がたくさん出てくる。
短いやりとりで、ミチホは多大なストレスを与えられたような気がした。
森の爺からはメールが来た。
「今日はおつかれー。またラーメン行こうよ。」
ミチホはいまフリーなので、別にどうなってもいいっちゃいいのだけど
今まで男同士の友情を楽しんできたのが無くなってしまうのは残念だった。
「おつかれー。またみんなで行こうぜぇ」
二人きりでのお誘いとわかっていながら、わからないフリをして返信した。
時にはバカになりきることも重要だ。
ちなみに、これで二人きりと思うのは自意識過剰、と判断してしまう人は天然である。
みんなに言ってるなら「みんな」という言葉と、メールアドレスにCCが入っているものだ。
なんか、むなしい。
エーイチをいびってウサを晴らすか。ミチホはメールをした。
「エーイチがバラしたから色々と面倒なことになった件について」
エーイチからすぐ返信があった。
「ごめん、次は俺がメシおごるから許して」
ミチホのほうの事情はわからないだろうに、なぜか反省しているようだ。
いや、知らない時に男同士で何か会話があったのかもしれない。
深く詮索すると、余計に孤独感が募りそうだとミチホは思った。
だいたい、バラしたのは自分自身とも言える。
エーイチに会うと決めたのはミチホなのだから。
年下の弟のような存在に八つ当たりとは……。まあ、弟相手ならよくあることだね。
ミチホはいつだってテキトーであった。