03
A1とのオフ当日。
オフというのは、オフラインミーティングの略のことだ。
会ったらなんて思うかな。
別に男と思ってるだろうから、変に期待されてたり、幻滅はされないだろうけど。
ミチホは自分の顔を中の下くらいと評価しているし、弟に会う感覚なのでめかし込むつもりもない。
というか、男と思われてるのに女らしすぎる格好をしていくのは、むしろ恥ずかしいぐらいだろう。
テキトーなTシャツとユニクロのレギパンを着て、歩きやすいサンダルを履き、化粧もせずに出かけた。
待ち合わせ場所である大学最寄り駅外のベンチに着くと、線の細い高校生らしき人物が座っていた。
柔らかそうな真っ直ぐの黒い髪、シャープな顔立ち。切れ長の目に上唇は薄い。顔は中の上ってとこか。
座っているからよくわからないが、身長は175cmぐらいと予想した。
横を通りつつさりげなくチェックすると、「魔海大戦」をやっている。これは間違いない。
ミチホは立ち止まって声をかけた。
「やっほーエーイチ」
「……え?!えーと、やっほー?」
やはりA1だった。
A1ことエーイチは誰だお前という顔をしている。
そして30秒ほど無言が続いた。
「ミチだけど」
「……はあぁ!?」
エーイチは目を見開いて大声で驚いた。
そしてミチホを上から下まで眺めて、静止した。
そうだよ、その顔が見たかったのだよ。と、ミチホはかなり満足したのだった。
「ほ、本当に、ミチさん?!」
「フフフ、そーだとも。」
ミチホはニヤニヤしながらエーイチを眺める。
「男だと……思ってた。」
うん、知ってる。と心の中でミチホはつぶやく。
「男だとは、言ってないね。」
「うわあ~マジか、やられたわ……。」
「ハッハッハッ、やられただろ。ピュアな奴め。」
してやったりとテンション上がりまくりのミチホ。
恋愛対象としては二、三歳ほど年上が好みだが、年下の男子をおちょくるというのは面白いものだ。
「どーも、ミチこと岩佐ミチホでーす」
「あ、どうも、武井永一です」
サプライズも終わったので自己紹介をすると、エーイチも落ち着いたようだ。
武井永一、17歳の高校三年生。
「若いっていいね!かわいいねー。」
素直な気持ちから出た言葉だが、かわいいというのは男性が言われて嬉しい言葉ではない。
どちらかというと嫌なほうに入るだろう。
「……やめて。」
エーイチは恥ずかしいような、微妙な顔をした。
本当にかわいいし面白すぎる、とミチホは感じたのでやめなかった。イジる気満々である。
「いやーマジでかわいいよ。食っちゃおうかな!うはははは!」
顔を真っ赤にするエーイチを見て、ああ、そういえば童貞だったなとミチホは思った。
こんなにおちょくるのが楽しいとは。ミチホは自分の中に少しSっぽい所があるんだと自覚した。
なかなかニヤニヤが収まらない。
エーイチは爽やかそうだし顔もまあまあ、そこそこイケていると言っていいと思う。
彼女がいないということは、思春期らしく意識しすぎて、
普通の女の子とはまともな会話ができないのであろうと容易に想像がつく。
挨拶してくれる、喋ってくれる、親切にしてくれるなど
ある程度のやり取りがあり、好意があると感じられなければ、告白してくれる人は少ない。
だからって、やたらしつこく付きまとったり、メールしまくったりするのも良くないが。
男だ女だと意識せず、普通に会話できる人ほど、彼氏彼女を作るのは容易い。
エーイチは、ミチホのことを男と思って散々バカなチャットをして喋っていたため、
ミチホがいつものノリで話しかければ、普段と同じように会話ができ、大学まで楽しく歩けた。
これが初対面だったら、きっとエーイチはほとんど無言だったろう。
「大学っていくつ受けんの?」
「いちおう三つ」
「うちの大学はアタマ悪いから楽勝だよ多分」
「受かっててほしいけど、どうかな」
「エーイチ頭良さそうじゃん」
「そんなことないよ」
「まぁ、わたしでも受かったし余裕だって」
「あー、それなら楽勝かも」
「なんだとっ」
差し障りの無い会話をしながら大学を案内し、学食奢って帰った。
何事もなく終わり、ミチホは楽しめて良かったと思っていた。
しかし、この日がミチホにどれだけの影響を与えていくのか、この時のミチホには何も気付く事ができなかった。