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二年後。ミチホは就職した。
エーイチとは月に三回ほどしか会えなくなった。
慣れないうちは疲れるし、精神的にも余裕が無くなってくるものである。
このまますれ違っていって、終わりが来るのかもしれない。
あまり会わないでいると、エーイチのことは過去になって存在を忘れてしまうのだろうか。
ミチホの今までからしたら、そうなるのが普通だった。エーイチだとどうなのだろう。
エーイチのことは好きなのだけど、その気持ちがずっと続くのかと自問自答すると、よくわからない。
エーイチとの付き合いも二年半を過ぎ、そろそろ三年。倦怠期がくる時期だ。
もともとミチホは飽きっぽい。こんなに付き合いが長く続くのは珍しいことだった。
ちなみに今までの最長は半年、最短記録は二日である。
言われたまま付き合って、こうすると恋人っぽいかな?という事を試し、飽きて疲れたら終わっていた。
だから、エーイチと付き合い始めて一年経った時でさえ、ミチホは驚いた。
エーイチは大学生活も三年目に入り、少し余裕がある。
ミチホとの最初の約束が終わったあとに、「約束果たしたからもういいよね」と言われそうで、約束が終わる前に二ヶ月間もの猶予をつけて、一緒にいるのが当たり前のように努力した。
二ヶ月が過ぎた後も、こまめに会って終わらせないように頑張ってきた。
最近のミチホは忙しそうで、会える日も減ってきている。
エーイチは現状に焦りを感じていた。
学生と社会人がうまくいかなくなるなんて、よく聞く話である。
土曜に泊まりに来た時、突然エーイチは言った。
「ミチホ、結婚しよ。一緒に暮らしたい。」
まさかいきなり求婚されるとは思っていなかったミチホはうろたえた。
結婚って。エーイチはちゃんと考えているんだろうか。
まあ確かに結婚には勢いが重要だ。しかし、タイミングも大事だ。
「ええっと……、わたししか知らないのに、そんなこと言っちゃって大丈夫? もっと他の人と付き合ってからのがいいんじゃ?」
ミチホなりにエーイチのことを考えたのだろうが、傍から聞くと別れたがってるような言い草である。
しかし、最初に付き合い始める時もこんなふうだった。
「ミチホがいい。」
「わたしなんかと結婚して後悔するよー。もうちょっとゆっくり考えたほうがいいって。」
「大丈夫、結婚しよ。」
付き合い始めた時と同じパターンだ。
エーイチは少し懐かしげで、ミチホがやんわり拒否していても余裕そうだった。
「えーと、そういう事は、エーイチが就職してから言わないとね。」
これもまた、最初と同じだ。条件付きで許してしまう。
結局、ミチホはエーイチに甘いのである。惚れた弱みというヤツか。
「じゃあ、婚約だけでも。」
「就職してからだってば!」
ミチホはエーイチを本当に大事に思うようになっていた。
独占欲で縛るのではなく、エーイチが本当に幸せになれるように願う。
だから、間を置いて本当に考えて欲しいと思う。
そういうのって愛だよね、とミチホは思った。
実際にエーイチが他の女の子と付き合いだしたら、しばらく泣く自信がある。
でも、自分を選んだことを後悔されるのはもっと嫌だった。
一年半後。
ミチホは仕事にもようやく慣れ、わりと平和な日々を送っていた。
ある平日の日、珍しくエーイチは夜にいきなり会いに来た。
そして、すごく嬉しそうにミチホに抱きついた。
「ミチホー、就職決まった!」
「えぇ?! おめでとー!!良かったね!」
ミチホは背中をポンポンと叩いて、自分のことのように喜んだ。
息子をようやく独り立ちさせた気分ってこんなんかな、とか思っていた。
「エーイチはわしが育てた」とかちょっと心の中で言ってみたりした。
「これあげる。」
エーイチはミチホの手に、飴を握らせた。
袋にジュエルリングと書かれている、30円ぐらいの指輪の飴だ。
「ミチホ、愛してる。結婚しよ。」
ついにこの日が来てしまった。
時間をたっぷり空けたのに、エーイチはミチホのことを諦めなかったようだ。
ミチホはどんだけ一途なんだよ、自分には勿体無さすぎると感じた。
ミチホはいちおう覚悟を決めてはいたが、本当にそれでいいのか悩んでいた。
だがしかし、飴とか用意しちゃってカワイイな、エーイチは!とか思ってしまった。
すでに、ミチホはエーイチに惚れてしまっている。
弟のようなかわいい少年をおちょくってるつもりが、しっかり落とされてしまった。
「後悔しないね?」
「するわけないじゃん。」
愛おしげにミチホを見つめる眼差しを、信じられないわけがない。
もう腹を括るしかない。
ミチホは笑顔で頷いて、軽く一つのキスをした。
「わかった。エーイチを絶対に幸せにしてやるよ。」
やたら男前なミチホである。
結婚というのは、お互いがお互いを幸せにしようという意思が無ければ続かない。
誰かに幸せにしてもらおうと思っていると、すぐ破綻してしまうものだ。
エーイチはきっと、これからもミチホのために頑張ってくれるだろう。
ミチホも、エーイチのために頑張りたい。きっとうまくいくはずだ。
エーイチは本当に幸せそうに笑った。
ミチホはそれを見て、幸せなあだと思った。
「本物の指輪は、こんど一緒に見に行こ。」
「婚約指輪はこの飴で十分だよ。結婚指輪は一緒に見に行こうね。」
プロポーズ時に本物の指輪を用意するのは、好みやサイズなどを知るのが難しい上に、
もし断られた時に困るので、エーイチはなかなかに良い判断をしている。
それに、ミチホは装飾品にお金をかけるのが好きではない。
実用品以外は無駄という、かわいげのない性格だ。
エーイチは本当に、ミチホのことをよく見ている。
ミチホは素の自分を愛してくれているエーイチに感動した。
「良かった。ミチホはまた断ってくるかもってちょっと心配だった。」
「あー、断られたら辛いよね、心配させてごめん。」
「でも、本気で嫌がってないってわかってたから。ミチホがいいって言うまで頑張るつもりだったよ。」
「うひゃー。なんでそこまで? そんな価値ないよ。」
「ミチホと一緒だと、自分の素のままでいられるんだよね。それに、頑張ろうって思える。」
エーイチもミチホと同じように感じていたようだ。
シンクロしているようでミチホはたまらなく嬉しかった。
「わたしも。エーイチの前ではそのままの自分でいられるし、エーイチがかわいいと元気が出る。こんなわたしを好きになってくれてありがとう。」
ミチホはエーイチの肩に腕を絡ませて、頬を寄せた。
「エーイチ、愛してる。わたしの初恋はエーイチだよ。」
どちらからともなく口付けし、見つめ合い、一つになる。
ミチホは、こんなに本気で誰かを好きになる日が来るなんて思っていなかった。
その相手がエーイチで良かったと心の底から感じた。
結婚はゴールじゃない、新しいスタートなのだ。
エーイチと一緒なら、最後まで人生を楽しめそうだとミチホは予感した。




