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インターネット上において、若い女の子というのは多種多様に狙われる。
女というだけで、とりあえず本名、年齢、連絡先などを詮索しはじめ、つきまとう輩の多いこと。
健全な男性からしたら、若い女性がいたら下心の一つやニつ出るのも当然のことだし、
顔の見えないインターネット上では、現実よりもずっと声をかけやすい。
無知で好奇心いっぱいの未成年女性を釣るのは、ゴカイでハゼを釣るより簡単だ。
問われたら答えなくてはいけないと思い込んでいる子供に付け入り、若さゆえの過ちを犯させる。
後悔している子供に対して、頭が悪いとけなし、危機意識が足りないとなじる。
そのような浅ましく下劣な価値観の人間も多い。恐ろしい世の中である。
岩佐ミチホは、20歳の女子大生。
そこまで無知でもない上に面倒くさがりのミチホは、ネット上では男言葉で会話し、男らしく振る舞っていた。
モテないクソ男にいちいち絡まれていたくなかったし、男あさりするほど困ってない。
むしろ、男同士の友情ってヤツを感じたいと思っていた。
女同士の友情というのは、ベタベタと粘着質で、陰惨なことも多い。
男同士なら軽口や冗談を言いまくってもなんとかなるので、素で会話できて楽しかった。
ミチホは、携帯のソーシャルゲーム 「魔海大戦」 を、この夏休みから始めていた。
魔海大戦とは、小島を割り当てられ、開発したり、魔獣から島を守ったりするゲームだ。
近くの他の小島と親しくなったり、制圧したりもできる。
始まったばかりなので、同じぐらいのレベルの人たちが和気あいあいと遊んでいて、
ヒマを持て余した大学生のミチホは、次々とクエストを攻略していった。
そんな中で、ゲーム上の知り合いもできた。
近所の小島でプレイしている人と何人か親しくなったのだ。
別のサイトでチャットを借りて、集まってしゃべり倒す。
ミチホは、こういうオンラインのゲームというのは、仲間としゃべってナンボだと思っている。
気の合う仲間同士チャットでしゃべりまくるというのは、興奮と幸福感に包まれる至福の時だ。
ゲーム自体を楽しみたいのなら、オフラインゲームのほうがよっぽど面白い。
オンラインゲームを廃人プレイした先にあるのは、無駄な時間を過ごした後悔と、
精神的な疲弊であると数年前に実感していた。
ミチホが廃人プレイをしていた時は、寝る時間も削ってやっていたけど、
今はヒマなので適度にゲームをする。
節制といっても、友達や家族といる時はしないとか、ごはんを食べながらはしないとか、そういう今さら感もある常識的な部分だけだ。
もう徹夜を続けられるほど若くもないように感じていた。
寝ないでいると無性にイライラし、性格も不安定になりやすく
ミチホの中の冷静な部分が 「あ、このままだとヤバイな」 と感じて
以前やっていたMMOオンラインRPGゲームは引退した。
数日は落ち着かなかったが、1週間後には 「何やってたんだろ」 という感覚になった。
そんなに長い期間やっていたわけではないけど、
四六時中ゲームしていたのは完全に病気だったと思う。
無駄なような経験だったが、ミチホは無駄とわかって良かったと思う。
いまだネットに依存して、チャットはやめられない。
その辺は、他にやることもないし楽しいからいいかな?とミチホは思っている。
楽しくいられるのは、短い期間だけだ。
どれだけ盛り上がっていて、この時間が永遠に続けばいいと思っても、
人は年をとって変わっていく。そして話題は続かない。いつか終わりがくる。
ミチホは、それまではテキトーに楽しんでおけばいいと思っている。