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Low-who who  作者: りうむ
第二章・おじいさんとおばあさんの元を離れて
9/30

6.「雉」は妖しく微笑む

「……姉さん?」

 かぐや姫の声が聞こえたような気がして、桃太郎は足を止めた。

「どうされた、桃太郎どの」

 急に足を止めた桃太郎に信乃が振り向く。

「……いや、何でもないよ」

 そう言いながら苦笑して、

(参ったな……早くもホームシックか?)

桃太郎は頭を掻いた。

「見えてきたよー!」

 揚々と先頭を歩いていた「猿」が叫ぶ。その言葉に従い、桃太郎と信乃は前方に目を凝らした。

 村が見える。それは、「雉」と呼ばれる妖術師がいるという村だった。

「さて、『雉』はどこにいるかな」

 桃太郎が呟いたそのとき、

「こんにちは、旅の方ですか?」

愛想のよい、ほんわかした雰囲気の若い男が歩み寄ってきた。

「ええ、『雉』という人を探しておりまして」

 信乃が答える。

「ふむ……そうでしたか」

 次の瞬間、若い男の体が、突然ドロリと溶けて地面に消えた――と思ったら、そこには少女が立っていた。

「ひぃっ」

 「猿」は息を呑んだ。

「それで、私に何の用かしら?」

 少女は長い黒髪が風に舞うのを押さえながら、何もなかったふうに言う。

桃太郎たちは呆然とするほかになかった。

「えっ、あんたが『雉』?」

 「猿」が指を差しながら言う。

「そうよ。そんなことも言わなきゃわからないおバカさんなの?」

 つまらなそうに答える「雉」、その言葉に「猿」はしょんぼりした。

「……それで、何の用かしら?」

 「雉」が繰り返した。

「あんたの腕を見込んで、鬼退治を手伝って欲しいと頼みに来た」

「へぇ、鬼退治?」

 「雉」は興味を持った様子で、妖しく微笑んだ。

「面白そうね。でもその前に……あなたたちは私を楽しませてくれるのよね?」

 妖しげに笑みを浮かべる「雉」が突然、振り袖の袖を左右に広げた。翼のように広がった袖から様々な色の、空を飛ぶ生き物が十ほど飛び出した。それらはトンボほどの速さで「雉」の周りを飛び回る。

「――やっぱそう来るか」

 殺気を受け、桃太郎も口許に笑みを浮かべる。

「ふふっ」

 「雉」の微笑とともに、その生き物が桃太郎たちに襲いかかってきた。

 突撃してきた生き物をかわしながら、

「……折り鶴?」

「猿」が呟く。

 そう、よく見ればそれは生き物ではなく、様々な色の折り鶴だった。

「いくら速くても……」

 突進してくる折り鶴をかわしながら信乃が呟いた、その時。

「……何か来る!」

 桃太郎が叫ぶと同時、折り鶴のくちばしにあたる部分が光り輝き、折り鶴自身と同色の光線が放たれた。

「なっ……!?」

 桃太郎と「猿」は辛うじてかわすことができたものの、

「ぐあっ!」

信乃は光線の一つをかわし損ねてまともに食らい、その場に倒れ――それと同時に折り鶴が一斉に信乃の方向を向いた。

「マズっ……!」

 桃太郎は信乃に駆け寄り、その身を抱えあげた。

 光線が放たれようとしていたが――間一髪、その場を飛び退いた桃太郎は一斉に放たれた光線をかわした。

「オイオイ……いくらなんでもやりすぎだよ、『雉』さん」

 桃太郎は苦笑するが、そんな暇はないと一瞬で表情を戻し、

「『猿』、今ので鶴の移動パターンは読めたかい」

「猿」に呼びかける。

「バッチリだよ。型を覚えるよりよっぽど楽だ」

 親指を立て、笑顔を見せる「猿」。

「じゃあ任せた!」

 桃太郎が後方に跳び去ると同時、

「合点承知!」

「猿」は「雉」に向かって駆け出した。

 散らばっていた折り鶴たちは一旦「雉」の元へ引き返す。

「ふふっ、さっきはよくかわしたわね。でも全部の折り鶴が貴方に集中したら……どう?」

 「雉」が妖しく笑うが、対する「猿」は不敵に笑う。

「確かにあんたは強いよ。けど、そいつらの動きをオレにじっくり見せすぎたね」

 十羽の折り鶴が「猿」を取り囲み、さまざまな角度から光線を放つが「猿」には当たらない。

「動きのパターンに慣れてしまえば結構簡単なもんだ」

 「猿」は隙を見て折り鶴の一つに蹴りをかまし、地面に叩きつけた。その折り鶴はそのまま動かなくなる。

 「猿」は折り鶴の攻撃をかわしながら「雉」への接近を続けた。

「ほらほら、どうしたの『雉』さん。このままじゃオレがあんたの懐に入っちゃうぞ」

 ひょいひょいと折り鶴の攻撃をかわしながら接近を続ける「猿」。

 しかし「雉」も妖しげな笑みを崩さない。

「ふふふっ」

 それどころか、楽しそうな様子だった。

 「猿」は正面から突っ込んできた折り鶴の一体をさっきまでと同じようにかわそうとした。だが、突然その折り鶴が輝き始める。

「……うわあっ!?」

 嫌な予感がするより早く――その折り鶴が爆発し、爆炎が「猿」の体を覆った。

「あの折り鶴、爆発するのか……便利すぎるよ」

 そう口にする桃太郎の表情に苦笑はない。苦虫を噛み潰したような表情だけだった。

 「猿」の体は爆風に軽々と打ち上げられ、茂みのなかに落ちていった。

「くっ」

 桃太郎は「雉」を睨む。信乃をその場に寝かせると、地面を蹴った。

 七羽の折り鶴が一斉に桃太郎を取り囲むも、桃太郎は足を止めない。

 折り鶴が嘴から光線を放ったと同時、

「――そこだ」

桃太郎はその光線の隙間を縫い、包囲網を突破した。

「……!」

それから一瞬のうち、「雉」の目前に桃太郎が踏み込んだ。「雉」は掌底を桃太郎に放つが、桃太郎は身を屈めてそれをかわし、その手首を掴んで体勢を崩す。

「うっ」

 「雉」は地面に背を打ち付けて倒れた。

「へぇ、面白いじゃない」

 倒れたまま、「雉」は微笑む。背後に折り鶴が迫るのを感じ、桃太郎はその場を跳び退いた。

 折り鶴は「雉」を守るように取り囲み、「雉」はゆっくりと立ち上がった。

「私に土をつけたのも手を使わせたのも、あなたが初めてよ」

 「雉」がまた妖しく微笑んだ。桃太郎は再び身構えながら、

「そりゃ光栄なことで」

口許に笑みを浮かべた――そのとき。

「ちょっと待ったぁ!」

 「猿」が一メートルほどの木の枝を持って、茂みから飛び出した。

「まだオレは負けてない!」

 木の枝を振り回し、「雉」に突進する。桃太郎はそれを見てまた口許に笑みを浮かべ、信乃の元まで下がった。

「オレもあんたのこと見くびってたよ、こっからは本気で行く!」

「ふふっ、そうこなくちゃ」

 「雉」がまた妖しく笑うとともに、折り鶴が再び「猿」に襲いかかる。

「はぁぁぁぁっ!」

 直後、「猿」は右へ左へ、前へ後ろへと俊敏に跳びながら枝を振り回し、折り鶴の攻撃をかわしては折り鶴を叩き落とし、確実に折り鶴の数を減らしていた。

「やっぱやるなぁ、あいつ。

 信乃、お前は変に意固地になるから悪いんだ。必要なときにはちゃんと刀を抜け」

「す……すまない……」

 弱々しく言う信乃に、桃太郎は苦笑した。

「はぁっ!」

 「猿」の振り上げた棒が最後の一羽を叩き潰す。

そのまま棒を一回転させて構え直し、再び「雉」に突進した。

 もう折り鶴はいない。

「これで終わりだ……ぜやあぁっ!」

 「猿」が振り下ろした枝は「雉」の脳天を直撃していた――はずだった。

 だが、

「へぇ……あなたも私に手を使わせるなんてね」

「雉」は顔の前に手をかざしていた。その手は光りに覆われている。

 枝はその手に触れた瞬間、まるで脆くなっていたかのように、いとも簡単に折れてしまった。

「ありがとう、面白かったわ」

 「雉」がそう言って手を下ろす。手を覆っていた光が消えた。

 「猿」はいまだに何が起こったか理解できず、しかしもう相手から殺気も感じなかったためにどうすることもできないまま呆然と立ち尽くしていた。

 「雉」はそんな「猿」の横を悠々と通り抜け、落ちた折り鶴を拾い集めながら、

「じゃあ私も連れていってもらおうかしら」

妖しく微笑む。桃太郎も口許に笑みを浮かべた。



「へぇ、さっきのビームに殺傷力はないんだ?」

 桃太郎が言う。

「その気になったらできるけどね、全部当たっても気絶する程度まで威力は落としてあるの。んっ、この団子美味しい」

 きび団子をつまみながら「雉」が答えた。

「不思議な能力だな……本当だ、美味しい」

 信乃もきび団子をひとつ口にした。

「なんだよ、『犬』さん。オレに勝っといてあっさり負けるなよー」

 きび団子をぱくぱくと食べる「猿」の一言に、

「め、面目ない……」

信乃は項垂れた。

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