少年の闇
2話
11月9日
その日も少年は、いつもと変わらぬ朝を迎えた。
少年の生活の流れは、日の出ともに始まる。
11月といったら、もう冬に差し掛かっている。
そこは北の大地にある村だからか雪はまだだが、例外なく朝は冷え込み霧で10m先が霞んで見える。
だが、そんな寒さなど慣れたもので、ベットの温もりに名残惜しさを感じながらもタオルを持ち部屋を後にする。
起きて最初にやることは木剣で素振りを100回、朝食の前に行う。
本当はあの子に会いに行きたいのだが、我慢してその気持ちを静めるかにように木剣を無心になって振る。
素振りが終わる頃には額に汗を浮かべ、息を切らし肩を上下させていた。
体が冷えて風邪を引かぬうちにタオルで汗をぬぐい家に入る。
家に入り玄関に木剣を立て掛けていると、奥の部屋からいい匂いが漂ってくる。
どうやら、朝食はすでに出来上がっているようだ。
居間に入ると、30代とは思えない若々しい母が椅子に座り待っていた。
「ツヴァイ、ご飯できるわよ。」
母が柔らかな口調でそう言った。
「わかったよ母さん。」
返事を返して少年は椅子に座る。
今日の朝食は、ベーコンエッグとスープと黒パンと温めたミルクだ。
父は現役の傭兵で、今は戦乱の真っただ中で稼ぎに戦場を駆け巡っているはずだ。
だから、約ひと月前から母と2人で暮らしている。
もう戦が終わり戻ってくるはずだ。
このときの少年には、自分は戦などまだどこか遠い場所での出来事だと思っていた-----。
「今日あたりから雪が降るそうよ。父さんももう直戻ってくると思うから、あまり吹雪が強くならないうちに気をつけて帰って
きなさい。」
「わかったよ母さん。日が暮れないうちに帰ってくるよ。」
そう言って朝食を取り終えた少年は食器を運び、本を持って家を飛び出して行った。
「行ってきまーす!!」
「気をつけて行ってくるのよ。それと迷惑かけないようにね。」
母の声も最後のほうになるとだんだん小さくなっていった。
俺は少し離れたあの子の家へと向かう、その足取りは飛ぶように軽い。
女の子の家は、村の外れにあり少年の家から走って5分位のところにある。
「アリサー遊びに来たよ!」
「あ!ツヴァイいらっしゃい!」
少年の声に反応してアリサが窓から顔を出す。
そして歓迎の挨拶と共にアリサは少年と目が合い微笑む。
少年は刹那の間、少女の瞳に意識が吸い込まれ呼吸が止まる。
アリサの容姿は腰まで伸ばした雪を思わせるような綺麗な銀髪に形のいい真っ直ぐな鼻、大きくて少し濡れたように光る真紅の
瞳、控えめでかわいらしいピンク色の唇、背は俺が1m55cmくらいなのおそらくは1m40cmくらいだろう。
少年はその容姿と優しい性格に恋をしていた。
アリサの家はお父さんを二年前に戦で亡くしており、お母さんとアリサの二人で暮らしている。
そのため、雪搔きや薪割りなどを少年はできる限りの手伝いをしている。
その日は、少年の持ってきた少し厚めの本を2人で読んだ。
昼食には大きな黒パンを2人で分けて食べた。
そしてふと気がつくと外は日が暮れ、吹雪になっていた。
2人とも本に夢中で、日が暮れたことに気がつかなかった。
そして朝、母に雪が降ると言われたことを思い出していた、ちょうどその時アリサの母親に声を掛けられた。
「今日はこんな吹雪だから泊まっていきなさい。夜食もちょうど出来たし、冷めないうちに食べちゃいましょう!」
帰れないものは仕方がない。
少年は帰ることを諦め、夜食をいただくため、アリサと共に居間へ向かう。
夜食を食べ終わり、少年とアリサは満腹から眠気が襲ってきて今日は寝ることにした。
だが、2人は大きな音と共に目を覚ました。
扉を少しだけ開き居間の様子を窺うと、3人の男たちが声を荒げていた。
「おい女!酒はねーのかっ!酒はっ!」
そう言い剣を振り上げた。
男たちは服装からして盗賊で、顔は真っ赤で酔っているようだ。
そこへアリサが飛び出して行ってしまった。
少年もアリサの後を追い飛び出す。
そして母親を庇うように剣と母親の間に飛び込む。
少年は手を伸ばす――ゆっくりと時が流れる。
必死で伸ばす手はアリサへ届かず、剣は着実とアリサとの距離を詰めている。
それを、少年は永遠と思える時間の中で眺めていることしかできない。
それは、死よりも辛いまるで、生き地獄のようだった。
そして、剣がアリサへ触れ血飛沫を立て進んでいく。
最後にアリサの口は何かを呟いた。
少年の意識は、もう1人の男の手によって刈り取られた-----。
目を覚ますとそこは、どうやらベットの上らしい。
まだ意識ははっきりとはしないが、少し硬めのベットが生きていることを教えてくれる。
体はまったくと言っていいほど、いうことをきかない。
それに、動かそうとするたびに痛みが襲ってくる。
眼だけ動かし体を状態を確かめると、全身に包帯が巻かれ、赤黒い血がいくつものシミを作っていた。
窓へ視線を向けると外は、真っ白な雪景色。
そして一瞬、脳裏を血に沈む少女の姿がよぎる。
「-――--―っ!---―――-っ!」
少年は少女の名を懸命に呼ぶが声はかすれ、血の味がするだけ。
そんなことを繰り返していると、少年の両親がが部屋に入ってきた。
そして意識は、またも暗闇へ沈んでいった。
明日は投稿できないかもしれません。