雪の降る街
作:愛莉
詩的物語です。
君と過ごした季節は
語りつくせないほどの記憶
振り返るときは
笑顔でいられるように
ずっと そう思っていた
けれど私は
どこまでも弱虫で
街に雪が舞い降りるたび
涙を流してしまう――
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彼の海外赴任が決まったのは
突然のことだった
「一緒に来てくれないか」
ドラマでありがちな
プロポーズ同然の言葉を
心のどこかで期待していた
でも彼は
「ごめんな」
とだけ言った
彼は私じゃなくて
自分の夢を選んだ
凍えるほど寒い雪の日だったのに
帰ろうと思えなかった
彼の方も
「帰ろう」と言いださない
凍てつく風
身にしみる雪
かじかんだ指を
自分の手で温める
もう 彼の手は感じられない
寒空の下
やがてやってくる結末
恋の終わりを宣告したのは
街のイルミネーション
一斉に消灯された瞬間
彼の顔が暗闇に溶けた――
+++++
この街の中
多くの人とすれ違うけれど
君だけは
どこを捜しても見当たらない
こんなに遠く
離れてしまう日が来るなんて
思ってもみなかった
この街の中
どんな人と出会ったとしても
君じゃなきゃ
寂しくて満たされない
「一緒に行きたい」
そう言えなかった自分を
ホントは責めていたんだ
夜空を見上げた途端
舞い降りた雪が
瞳の中へ飛び込んできた
それは自然と
涙となって消えた
お読みいただきありがとうございました。
次話、狂風師さんの作品です★