ツンデレラとヤンデレラ
むかひむかし、或るところにツンデレラとヤンデレラという、それは美しい二人のお姫様がいました。
二人は実に仲の良い姉妹で、二人はいつも一緒にいました。食事のときも、買い物に行く時も、寝るときも、どこに行くにも一緒です。ツンデレラがトイレに行こうとすると、ヤンデレラはそれにすらついて行くような状態でした。
それくらい二人の絆は深いものでした。
夏の風が吹く、よく晴れたある日のこと。二人は、今日の夜に行く舞踏会のための衣装を選んでいました。
「お姉様、今日の舞踏会にエドワード王子が来るそうよ」
ヤンデレラが言いました。
「本当に?それじゃあ一番綺麗なドレスを着て行くわ。楽しみね」
ツンデレラは屈託のない笑みを浮かべて言いました。そのとき、自分のドレスを選ぶフリをしていたヤンデレラの表情に、冷酷な笑みが張り付いているのには気づきませんでした。
その晩、二人は凛々しい白馬が引く馬車に乗って隣町の舞踏会にやって来ました。
たくさんの人が踊っている中、ツンデレラはエドワード王子を探します。ヤンデレラはその姉の姿を、遠くからずっと眺めていました。まばたきもせず、ずっと、眺めていました。
ふと声をかけられ、ヤンデレラの血走った目にいつもの輝きが戻りました。
「ヤンデレラ姫、こんばんは。今日も見目麗しい」
それは端整な顔立ちの、エドワードでした。
「そんなことありませんわ。エドワード様ったら、もう。お世辞が上手ですのね」
ヤンデレラは照れたように微笑み、言いました。
エドワードはそれが演技だとは夢にも思いません。
「本当のことを言ったまでですよ、ヤンデレラ姫。今日は、お一人で?」
「あそこにお姉様がいますわ。ほらあそこ」
ヤンデレラが指差すと、ツンデレラもそれに気づき、二人のもとへ駆け寄りました。
「あら、エドワード様!べ、べつに私は、あ、あなたを探していたわけではないんですからね!」
ツンデレラは頬を赤らめ早口で言いました。
そのときエドワードが小さく舌打ちしたことにも、ツンデレラはおそらく気づいていません。
「ツンデレラ姫、ごきげんよう。ヤンデレラ姫、私と一曲踊ってはくれませんか」
素っ気ない態度にツンデレラは落ち込むことなく、嫉妬の眼差しをヤンデレラに向けます。
「私は今日は見ているだけでいいの。お姉様と踊ってください」
エドワードの表情が一瞬固まりましたが、無理やりの作り笑いで、ツンデレラに手を差し出しました。
「まぁ嬉し…くなんか、ないんですからね!私と踊れるなんてエドワード様は幸せ者ね!」
ツンデレラは幸せそうに踊り始めます。エドワードは殺意を押し殺し、無表情で踊ります。ヤンデレラは右手の中指を立て、エドワードの背中に向かって突き出しました。
運良く、誰もそれを見ていませんでした。
夜も更け、舞踏会は終わりました。
ヤンデレラは尿意をもよおし、トイレに向かいます。その姿をエドワードは横目で見ていました。
「ツンデレラ姫、今日は楽しい時間が過ごせました。ありがとうございます。では」
エドワードは足早にトイレへ向かいました。
「なんてクールなお方なの…」
ツンデレラはエドワードが視界から消えるまで眺め続けました。
ツンデレラに見えないように人混みに紛れ、さりげなく女子トイレに入ったエドワードは、ほっと胸をなでおろしました。
「よかった…他には誰もいないな」
一つだけ閉まっている個室に近づいたその時、中からヤンデレラが出てきました。
「エドワ…!」
エドワードに口を塞がれ、ヤンデレラは無理やり個室に押し込まれました。
「ヤンデレラ姫、騒がないでください!どうか、私と結婚してほしい…」
エドワードは興奮状態でヤンデレラの唇に自分の唇を押し付けました。両手を抑えられ、ヤンデレラは抵抗できません。
「エドワード…様…わ、私のことが、好きなのですか?」
ヤンデレラはエドワードの唇の隙間から途切れ途切れに言いました。
するとエドワードは唇を離し、激しく抱きしめて答えました。
「好きです。好きでは足りない。愛しています。あなたのためならなんでもします。私は死んでもあなたを守ります」
「本当に…?私の願い事ならなんでも聞けるかしら…」
「はい!もちろん」
エドワードが言った瞬間、ヤンデレラは王子を押し退け、ドレスの胸元から果物ナイフを取り出すと王子の頚動脈を掻き切りました。
「な、なんで…」
エドワードの口から赤黒い血が大量に噴き出します。
「あなたの血を飲ませて。あなたの肉を食べさせて。愛する人に食べられるのは本望でしょう?」
ヤンデレラはエドワードの首筋に吸い付きます。徐々に薄れゆく意識の中、右手の親指が切り落とされる感覚をエドワードはうっすらと感じていました。
ヤンデレラはエドワードの血をすべて飲み干すと、今度は指をすべて切り落とし、ぐちゃぐちゃに切り刻むと、飲むようにしてそれを平らげました。トイレの床に爪の破片や噛み砕けなかった骨が散らばりました。その近くの血溜まりに苦悶の表情を浮かべたエドワードの無残な亡骸が、静かに横たわっています。
「ぜんぶ食べたいところだけど…時間がないわね」
ヤンデレラはエドワードの脳天にナイフを刺しこみました。
「メーンディッシュだけいただきましょ」
ナイフで器用に頭を割ると、頭蓋骨の隙間から脳みそが見えました。ヤンデレラは手で脳みそを掴み、口に入れます。夢中でそれを何回も繰り返します。不快な音をたてながら最後まで綺麗に舐め取り、激しい悪臭を放つトイレの個室でヤンデレラは満面の笑みを見せました。
ヤンデレラは思い出したようにエドワードのズボンを脱がし、ペニスを切り取り、胸元にナイフと一緒にしまいました。
個室に鍵をかけてドアを乗り越え、水道で口をゆすぎ、トイレから出ました。
ほとんどの人は帰ったようで、ツンデレラだけが一人ボーッと突っ立ってヤンデレラを待っていました。
「遅かったわね。大丈夫?」
「ええ大丈夫。さぁお姉様、帰りましょ」
帰りの馬車の中、ヤンデレラとツンデレラは終始笑顔でした。
城に着くとヤンデレラは、今日の夕食は自分が作ると言い出し、召し使いの手も借りずに一人でハンバーグを作りました。
「どう?お姉様、おしいくできてる?」
ヤンデレラは恐る恐る尋ねます。
「とてもおいしいわ!こんなの食べたことない」
そう言いながらツンデレラは一気に平らげました。
「良かったわ。ところでお姉様、まだエドワード王子のことを愛していらっしゃる?」
「ええ、もちろん。いきなりどうしたの?」
ヤンデレラは紅茶を一口飲み、言います。
「実はエドワード王子を殺してしまったの。お姉様を奪われてしまいそうで恐くて…でもお姉様のためにエドワード王子の一番大切な部分をハンバーグに混ぜたのよ。おいしかったでしょう?」
ツンデレラは話を理解できず、しばらく固まっていましたが、やがて言葉の意味を理解したのか顔を真っ赤にして叫びました。
「べ、べつにエドワード様の…なんておいしくなかったんだからね!」
ツンデレラは恥ずかしそうに言葉を濁し、やがて微笑みました。つられてヤンデレラも笑顔になりました。
エドワードの局部入りハンバーグはツンデレラの胃袋にずっしりと溜まっています。ヤンデレラはふつうのハンバーグを食べ、恥ずかしそうに言いました。
「私が死んだら、私のカラダも食べてくださいね、お姉様」
それから二人は同じベッドで仲良く眠りました。
その後、ヤンデレラとツンデレラは二人仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし、と言いたいところですが、ヤンデレラはエドワード王子殺人事件の犯人として捕まり、火あぶりの刑を受けて死にました。
ツンデレラは灰となったヤンデレラの遺体を水に溶かしてすべて飲み干したという噂です。
めでたしめでたし。