表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神が創りしこの世界  作者: 小林マコト
辛かった。でも好きでした。
42/45

「ソフィーさん、君さ、本当はもう起きてるんでしょ?」


 ボクがそう呟くように言うと、氷の中で目を閉じていたソフィーがすっと口元に弧を描いた。


「……随分前から、起きてたよ」

「ははっ、嘘はだめって前にボクに言ってたじゃない」


 愁いを帯びたその目をボクに向けソフィーさんは、君も大変だったね、なんて笑いかけた。

 笑いごとじゃないよ、と返したってソフィーは笑う。まるでボクがとても哀れに見えているかのように。哀れなのは、ソフィーさんの方なのに。


 ごほっ、と彼女が咳込み氷の中で彼女が吐き出した空気が上へ浮かんで行った。あれ、氷なのに水の中みたいだ、と思える余裕があったなんて、と笑えた。自分が創った氷なのに。


「……ソフィー、血、出てるよ」

「ああ、ほんとだ。なんか赤いと思ったら。もうこの体にもガタがきてるみたいだ。思ったより短かったけど、ミサイドと関わっていてこれまでもったのが不思議なくらいだし、自然なことだろうね。この体も、もういつ死んだっておかしくない」


 ミサイドは、死神さまだから。

 やっぱり笑ってソフィーさんが言う。そんな、死神だなんて。ミサイドは死神なんかじゃないって言ったのは、ソフィーなのに。今更そうやって、助けてくれた相手を貶すなんて。


「……君は、酷いね」

「そうだよ、私は酷い神だ。私は、これ以上ないほど酷い神だ。だからこうやって生きているんだ。ほら、君にも見えているんだろう? 君の足元の死体がさ」

「……ほんと酷い。見ないように、してたのに」


 足元に目をやると、たくさんの天使と神が息絶えていた。最初から見えていたけれど、見ないように、見えないようにしていたのに。ソフィーさんがそちらに注意を促すから、嫌でも見えてしまう。


 ボクの記憶にあるソフィーは、こうだったっけ。こんなに酷い性格をしていたっけ。他者が嫌がることをわざわざ言うような性格をしていたっけ。


 ……違う。ボクの知ってるソフィーさんは、こんな性格じゃない。こんな神じゃない。


「見ないように、なんて駄目だよ。ちゃんと見ないと。神サマが目をそらしちゃいけない。真正面から受け入れてしまわないといけないんだ。そう教えなかったかな」


 きっとソフィーはボクがこれほど傷付いているのを知っている。知っていて、もっともっと傷付けようとボクの心を探っているんだ。ソフィーさんの言葉で動揺しちゃいけない。わかっていても、どうしても気にしてしまう。


 怖い。痛い。辛い。悲しい。

 こんなの、ソフィーじゃない。


「ああそうか、アレクはヒトになりたかったんだよね。そうかそうか、それなら頷けるよ。望んだとおりヒトになった私は全部理解したけど、アレクはまだ、わからないんだよね」


 ……酷い。

 酷すぎるよ、こんなの。

 こんなの酷すぎて吐きそうだよ、ボクらの神様。


「ソフィーさんはずるいよ、ずるい。ボクだって人間になりたかったのに! ボクだって、ボクだって!」


 そこまで言ってはっと我に返った。こんなこと言っちゃいけない。言っちゃいけないことだ。

 ソフィーを見ると、すごく悲しそうに、すごく苦しそうに顔を歪めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ