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「ねえ、ミサイド。いつまでそうやってるの?」
「……」
「答えてよ、ミサイド。ボクが悪いよ、でも、答えてよ。お願いだから」
「……うるさい黙れ」
びくり、とアレクの肩がはねる。恐怖と絶望が隠しきれていないその顔は、今にも泣きそうだった。
「ごめん、ごめんミサイド。でも、そうするしかなかったんだ。キミは、失いたくなかった。だってソフィーが悲しむもん。ミサイドがいなくなったら、ボクも、ソフィーも、シャルルもレーデルも、テュールだって悲しむもん。失いたく、なかったんだ」
「だからといってソフィーを失うわけにはいかないだろう。たとえ私が消えても、ソフィーがいれば世界は終わらない。ソフィーがこの世界にいれば、私はどうなってかまわない」
広場に高くそびえる大きな氷。
その中に、体を取り戻したソフィーが眠っている。
あのとき、ソフィーは体を取り戻し、生き返る寸前までいった。
しかしアレクのチカラによって、こうやって氷に封印されてしまっている。
あのまま進めていれば、きっと。
「きっとなんてないよ。それはキミが一番わかってるはずでしょ。キミは何度も何度も時間を操って、ソフィーを助けようとした。けど一度もそれは成功しなかった。気付いてた? ボクね、キミが世界に介入できるようにしていたんだよ。おんなじ場面を何度も見るキミを見ているのがつらくて、それで本来のルールを捻じ曲げたんだ。でも、それでも一度も助けられなかったでしょ? 世界は優しくなんか、ないんだよ」
わかっている。
それくらい、わかっている。
これは初めから決まっていたことなんだろう。
二度地上に堕ちたソフィーは、一度は助かっても、二度は助からなかった。
決まってしまっていた、ことなんだろう。
それでも諦めきれないのは私だ。
ただ私が諦めきれないだけなんだ。
「ソフィー……」
天界の誰よりもソフィーの帰りを待っていたのは私だった。
地上でソフィーを見つけたときにはこれ以上ないほど嬉しく、ソフィーと会話した日々がとても幸せだった。
「約束したのにな、ソフィー」
最後に遠い昔の話をしよう、ソフィー。
私が君に初めて会ったのは、君に創られた日ではないんだよ。
そのずっと前、君がこの世界を創る前にいた世界で、私は君に出会った。
神はどこから現れるのか、というのはつまりはそういうことだよ。
神は他の世界から来た。ただそれだけだ。
その世界で私は君に出会い、君は私をこの世界を創るときに一番に創りだしてくれた。
私と共に世界を創らないか、と誘ってくれたときは信じられなかったが、創られたときにすぐ現実だと気付いたよ。
ただ、君はすぐにいなくなってしまったけれど。
ついに君は神だった頃の記憶を取り戻さなかった。
けれど私は覚えているよ。
死んでも、絶対に忘れたりはしない。
例え君が忘れても 完
(ミサイド? え、うそでしょう? なんで、なんで動かないの?)
(やっ……やだっ! やだよそんなの!)




