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神が創りしこの世界  作者: 小林マコト
例え君が忘れても
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 数日前、ソフィーが倒れた。


 天界でヒトがアストラル体として生活するのにはあまりにも無理があったか、と至って冷静を装いアレクにソフィー魂を預けた。


 いずれこうなるとはわかっていた。

 わかっていたからこそ、対処法は見つけてある。


 すぐさま彼女に電話をかけ、その対処法をする、と告げた。

 彼女は驚き、そしてやはりこうなったかと私に対処法を使う際の注意を再度聞かせた。


「ミサイド、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。アレク、君にも手伝ってもらう」

「うん、ボクはいつでもいいけど……。ミサイド、本当に大丈夫? 一番危ないのは、ミサイドなんだよ?」

「心配しなくていい。必ず成功させるさ」


 アレクが心配そうにこちらを見る。

 大丈夫だ、と言い聞かせるが、はたしてそれはアレクに対して言い聞かせているのだろうか。

 自分に、言い聞かせているのではないか、と思わなくもない。


「急ごう。もう時間がない」

「う、うんっ」


 吹き抜けになった広場の中心に、ソフィーの魂が入った瓶を置く。アレクが小さな体で重そうに抱えていたのだが、どうしても自分が持つと言って聞かなかった。

 広場にはほとんどの神と天使が集まっている。その中にはシャルルやレーデルも見受けられたが、意外にもテュールは来ていないようだ。


「はじめよう、ミサイド」


 ぐっと恐怖を押さえ込んで覚悟を決めた表情で、アレクが言う。いつものまだ幼さの残る少年の姿はどこへやら、真剣なその顔に不覚にも笑ってしまった。

 なんでわらうの!? アレクが恥ずかしそうに怒るが、そのおかげで少しは緊張が解けた。


「ミサイド、大丈夫だよね。きっと、大丈夫だよね」

「ああ。現創造主の君とこの私がチカラを使えば、これくらい簡単だ」

「はは、すごい自信だね。……うん、よかった。キミは、大丈夫みたいで。ああ、こっちの話だよ。なんでもない。気にしないで」


 いくよ、集中しなきゃ。


 ふっと笑って、アレクがチカラを使う瞬間にあわせてソフィーの時を戻した。

 一見何も入っていないように見える瓶が小さく震える。戻れ、戻れとチカラをその一点に集め、ついには瓶がパリンと音を立てて割れた。


「ミサイド集中して! まだだよ!」


 失敗したかと動揺した私にアレクが叫ぶ。その声で急激に冷静になる。まだ、まだ終わっていない。チカラを今まで使ったことがないほどに集める。自分の中にあるすべてのチカラをかき集める。割れた瓶に、放つ。


 するとひとりの神が苦しみだした。心臓をえぐられるようだと叫んでいる。神に心臓はないだろう、と横目に思ったがそれも今は気にしていられない。

 そうしているうちに次々と同じように神も天使も苦しみだした。悶える声が耳障りだ。集中できないだろう。自分とアレクと、そして瓶とソフィーの魂以外の時間を止めた。


 これで静かに集中できる。


 隣に立っていたアレクが、時が止まったのに気付いた。そして明らかに困惑した。


「ちょっと、ミサイド、え、なんで時間止めるの!?」

「集中しろ、アレク。他のことは気にするな」

「気になるよ! 時間止める必要ないじゃん! だめだよミサイド、どうしたの!?」

「アレク!」

「やだよミサイド! 危ないんだよ!? 時間なんて止めたら、どうなるかわかんないよっ」

「他なんて関係ない! 今はソフィーが大切だろう!」

「ミサイド変だよ! そんな、そんなこと言うならボクはやらない! ソフィーがそんなこと望むはずないもん!」


 アレクがチカラを使うのをやめたのがわかった。瓶の反応は薄れ、その瓶にアレクが走り寄る。

 駄目だ、今は触れるな、まだ最後までいっていないんだ、やめろ。


「ミサイドが、ミサイドがこんな状態でソフィーさんを神に戻すなんて無理だよ! やだ、絶対にやだ!」

「やめろアレク!」


 アレクの足元からぶわりと風が吹く。

 空気が、冷たくなった。


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